30人いる!

241 名前:30人いる! その152 sage 投稿日:2007/11/04(日) 15:58:11 ID:???
第10章 笹原恵子の初陣

9月初頭の朝、椎応大学の最寄の駅から数駅離れた駅に、20人の若者が降り立った。
駅を出た若者たちは、駅から徒歩で十数分ばかり先にある、高級住宅街を目指して歩き出した。
若者たちは殆どの者が見た目20歳前後だが、中には小学生か中学生ぐらいにしか見えない者も数人居た。
一行はいろんな意味で道行く人々の目を引いた。
総勢20人という人数、内14人が女性であること、その女性陣が巨乳美人からロリ顔美少女まであらゆるタイプが揃ってること等々。
中でも目立つ大きな要因が3つあった。
1つ目は、手ぶらの者も少数居るが、全体的には大荷物なことだ。
多くの者が大きなリュックを背負ったり、大きなショルダーバッグを持っている。
中には小さな脚立を担いでいる者や、小脇に新聞紙で包んだ大きな板状の物を抱えている者も居る
2つ目は、眼鏡の青年とやや太目の女性の2人が、一行を前後からビデオカメラで撮影しつつ歩いていることだ。
そして3つ目は、一行の最後尾を歩いている、2人の巨乳の女性の服装だ。
他の面々が比較的ラフな服装なのに比べ、1人は就職活動用のようなカッチリとしたスーツ姿で、もう1人は私立の女子高の制服のようなブレザー姿だった。
いや正確には、上着を着ていたのは駅前に居た、ほんの数分の間だけだった。
9月になったとは言え、まだまだ朝から暑いので、2人はすぐに上着を脱いで片手に持ち、上半身はカッターシャツ1枚になった。
だがそれでも暑いので、歩き続ける内に汗まみれになり、シャツが透けて下のブラが丸見え状態になった。
絵的にかなりエロいものになってしまったことには2人も気付いていたが、背に腹は代えられぬとばかりに透けブラをユサユサさせつつ歩き続けた。



242 名前:30人いる! その153 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:00:00 ID:???
一行は皆、愛想良く道行く人々に挨拶するが、多くの人が怪訝な顔で立ち去る。
やがて一行の前方を自転車に乗った警官が立ちふさがった。
どうやら付近住民の誰かが通報したらしい。
一行の先頭を歩いていたのは、髪を頭のてっぺんで筆のように束ねた小柄で童顔な女性と、長身痩躯で馬面の青年だった。
職務質問に対し、小柄な女性こと荻上会長は少しも高ぶること無く、落ち着いた口調で答えた。
「私たち椎応大学の現代視覚文化研究会の者なんですが、今度の大学祭で上映する映画の撮影の為に、今からロケに協力して下さるお宅を訪ねるところなんです」
警官「どちらのお宅まで?」
「それはそこの先のですねえ…」
馬面の青年ことクッチーが話に割り込み、行く先を説明した。
警官「ああ、あそこのお宅ですか」
行く先を聞いて納得した表情の警官。
警官「でも何で、道端でビデオカメラを?」
眼鏡の青年こと浅田が答えた。
「カメラテストを兼ねて、メイキングビデオを撮影しているんですよ。まあ言ってみれば、記念のスナップ写真みたいなもんです」
やや太目の女性こと藪崎さんが付け加える。
「あと私はビデオカメラの初心者なんで、練習の代わりですわ」
納得した警官、立ち去り際にひと言付け加えた。
「それからそちらのカッターシャツのお2人さん、暑いのは分かるんだけど、その…(赤面し)その格好はさすがにアレだから、自重して下さい」
「(上着を羽織りつつ赤面し)すいません…」
巨乳の2人こと大野さんと巴は頭を下げた。



243 名前:30人いる! その154 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:02:06 ID:???
「皆の衆、着きましたぞ」
クッチーの宣言で、現視研一行は立ち止まった。
荻上「ここ、ですか?」
荻上会長を始め、会員一同は怪訝な顔をした。
一行が止まったのは、古めかしい土塀に囲まれた、古めかしい木造の門の前だった。
塀の中に見える建物も、これまた古めかしい屋敷だった。
おそらく戦前から建ってたであろう由緒正しきお屋敷、そんな第一印象だった。
その古い日本式の家屋の中に、とても冬樹の部屋のロケに使えそうな洋室の部屋があるとは思えなかった。
恵子「何か山寺みてえな家だけど、ほんとにここにあの部屋があるのか?」
朽木「こちら側からは見えませんが、この奥に増築された離れがございまして、そこに目的の部屋があるのです」
恵子「わーった。とりあえず中の人呼べや」
朽木「かしこまりました」
古めかしい門には不似合いな、警備会社のロゴの入ったインターホンのスイッチをクッチーは押した。
朽木「おはようございます!朽木であります!」
インターホンの上の方に見える、監視カメラらしきレンズの付いた部分に向かってクッチーは叫んだ。


244 名前:30人いる! その155 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:04:04 ID:???
愛想良くて、なおかつ上品で落ち着いた声がインターホンから返ってきた。
「まあいらっしゃい、今開けますからね」
声の主は家の奥に居たらしく、2分近く経って門が開いた。
現視研一行を迎えたのは、藍色の地味な着物を着た、眼鏡の女性だった。
物腰に品があり、和服を着慣れたような着こなしだった。
実は会員の大半はこの女性と面識があったが、見慣れない姿に戸惑っていた。
年齢は推定20代半ばぐらいのはずだが、その女性にはそれよりもっと上と言われても納得してしまうような、落ち着いた雰囲気があった。
朽木「お久しぶりです、お師匠様!」
荻上「おはようございます」
一同「(復唱するようなタイミングで)おはようございます!」
恵子「ども始めまして、今回監督やる笹原恵子です。今日はよろしくお願いします」
初対面のせいか、この手のタイプには不慣れなせいか、やや硬い挨拶だ。
「お久しぶりね、朽木君。そして皆さんもいらっしゃい。(恵子に)まああなたが笹原君の妹さん?よろしくね、可愛らしい監督さん」
和服の女性、児童文学研究会会長(以下児会長)は愛想良く応えた。


245 名前:30人いる! その156 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:06:10 ID:???
児会長に案内されて屋敷に入った現視研一行は、クッチーを除く全員が児会長宅の広さに驚き圧倒された。
会員たちは、ちょっとした旅館の宴会場並みの広さのある大広間に通された。
まるで旅館に着いた観光客のように荷物を部屋の隅に置き、しばしくつろぐ一同。
大野「やっぱりスーツ、後で着替えた方が良かったですね」
巴「最初から着て来たのは失敗でしたね。有吉君みたいに荷物として持って来るか、部室に置いとくべきでしたね」
現視研一行はこの後、児会長の部屋で2シーン撮影し、午後からは大学に戻って2シーン撮影する予定だ。
大学でのシーンは、冬樹と夏美が大学入学の際に秋と記念撮影というシーンなので、2人はあらかじめ入学式風の服装ということで前述の格好をして来たのだ。
ちなみに巴は夏美役なので、髪を茶髪に染めてツインテールにしていた。

そんな中、大広間にクッチーと児会長が入ってきた。
クッチーは両手に麦茶の入ったクーラーポットを持っていた。
左右それぞれの手に3本ずつ取っ手を束ね、ビヤガーデンのボーイがジョッキ生を運ぶかのように6本ものクーラーポットを持っている。
一方児会長は、大きなお盆にグラスを20個並べ、そのお盆を両手で持って来た。
児会長「暑い中ご苦労様。粗茶ですがどうぞ」
体育会的なノリで一斉に「いただきます!」と声を発し、出された麦茶を飲み干した会員たち、殆どみんな一気飲みだ。
荻上「すいません、こんな大勢で押しかけちゃって」
児会長「構いませんわよ。お客様は大勢いらした方が賑やかで楽しいですから」
恐縮する一同。


246 名前:30人いる! その157 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:08:39 ID:???
児会長「それに正式に部室に来られる前に、1度皆さんの人となりをしっかり見ておきたかったですから。お会いするのは入学以来という方もいらっしゃるし」
スーとアンジェラを除いた、1年生たちが一斉に赤面する。
彼らは全員ドッキリの洗礼を受け、その際に児会長を紹介されて会っていた。
ただ、腐女子四天王の4人は堂々とヤオイ同人誌を広げて平然としていたので、ドッキリとしてはある意味失敗であったが。
逆にイレギュラーながら大成功だったのが神田だった。
入学当時、神田は隠れオタだった。
中学でオタ趣味がバレて恥ずかしい思いをしたのに懲りて、高校ではオタであることを隠し通し、大学でも普通のサークルで普通の女子大生として大学生活を送るつもりだった。
だが部室がたまたま無人になった時に、オタスメルに引き寄せられてフラフラと侵入してしまい、ついつい同人誌を読み耽ってしまった。
それをたまたま児文研の部室に居た荻上会長が発見し、見慣れぬ人の姿に新入生かなと戻ってみたところ鉢合わせになり、神田はパニクった。
「違います!私オタクじゃありません!コーディネイターが遺伝子操作された新人類だなんて、全く知りません!」
訊かれもしないのに勝手にオタ知識を披露して自爆する神田に、荻上会長はある意味かつての自分に近いものを感じた。
そしてその直感は正しかった。
ドアの前に荻上会長が立っているのを見て逃げ道が無いと悟ると、神田は窓へと走った。
荻上会長も走り、神田に飛びついて叫んだ。
「ここは3階だ!」
ちょうど部室に戻って来た他の会員たちに押さえ込まれ、神田のダイブは未遂に終わった。
そして自身の体験談をまじえての荻上会長の説得により、神田は大学では自分を偽ること無くオタクとして生きて行こうと決意し、現視研に入会した。


247 名前:30人いる! その158 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:11:04 ID:???
話を映画撮影に戻そう。
はっきり言って、今回の撮影にはこんなに大人数は必要無かった。
監督の恵子、助監督の伊藤、撮影の浅田・岸野・加藤さん・藪崎さん、照明の豪田、録音の沢田、出演する有吉とスー、記録の神田、実際に撮影に関わるのはこの程度だ。
(音声は基本アフレコだが、実際に台詞を喋って時間を計る必要があるし、自然の雑音を録ることで音声に臨場感を付ける意味もあった)
あとはせいぜい、スーツの着付けの国松、今回のロケ地使用の仲介人であり道案内のクッチー、それに総責任者の荻上会長ぐらいだ。
これとて通常の映研に比べれば、かなりの大所帯だ。
これが通常の(と言っては失礼か)映研の撮影ならば、カメラと記録兼任の監督、照明兼任の助監督、そして出演者だけで済ませるところだ。
(この場合は録音機能のあるカメラで同時録音するか、音声はアフレコのみにする)
単純に撮影の機能面だけで言えば、午後から椎応大学正門前での撮影に出演する大野さんと巴は大学で待っていても構わなかったし、他のメンバーは休みでも良かった。
それでも一同が集結したのは、せっかくのクランクイン初日なのでという気持ちの問題と、
児会長の要望からだった。
児会長は現視研に自室を撮影場所として提供する条件として、名前だけでいいから児文研に1年生たちが入会することを頼んだ。
古くから児文研と現視研には、会の存続が危うい時には会員の籍を貸し借りする習わしがあった。
弱小サークルに有りがちな生活の知恵である。
(この辺の詳しい経緯は、リレーSS参照)


248 名前:30人いる! その159 sage 投稿日:2007/11/04(日) 16:14:05 ID:???
去年までの児文研の陣容は、児会長と、訳あって掛け持ちで入会した3年生のクッチーと、2年生の女の子が1人の合計3名という、お寒い状況だった。
(この辺の事情は、リレーSSと「あやしい2人」参照)
今年、児会長は卒業して大学院に上がり、会長職を3年生になった唯一の現役会員の女の子に譲った。
(だから厳密には児会長という名称は変なのだが、便宜上この作品ではそう呼称し、ややこしいが現在の児文研会長は現会長と呼称する)
新会員が1人だけ入り、掛け持ちで入会していたクッチーが4年生になって半ば引退状態になったので、児文研の現役会員は2人きりとなった。
児会長は現会長に、古くからの習わしについて説明して現視研に助けを求めることをアドバイスしたが、潔癖で生真面目な現会長はそれを断った。
だが会の予算が大幅に削減される現実に直面し、遂に現会長が折れた。
後はいつ現視研に言いに行くかというタイミングの問題だけになった矢先に、クッチーからロケ地のオファーがあり、それに児会長が乗ったという次第だ。

事情を聞いた現視研1年生たちは、児会長のお願いを快諾した。
しかも伊藤、沢田、国松、豪田の4人は、正式に掛け持ちで入会した。
特に脚本家志望の伊藤と、元々は小説を書いていて将来は小説家志望の沢田は、2人共通の信念として、「物書きは読書家でなければならない」と考えていたので積極的だった。
国松は将来特撮の監督になりたい一方で脚本も書きたいと思っており、その為の勉強の一環として童話をたくさん読んでいたので、児童文学にも興味があった。
(元々特撮の世界には、童話をモチーフにした話が多数ある)
豪田は本来の作風が王子様とお姫様の古典的少女漫画なので童話についても博識で、児童文学にも興味を示した。


251 名前:30人いる! その160 sage 投稿日:2007/11/04(日) 19:56:06 ID:???
人心地ついたところで、恵子が宣言する。
「ほんじゃあ野朗ども、ぼちぼちおっぱじめるぞ!」
一同「はいっ!」
恵子「そんじゃあ会長さん、よろしくお願いします」
児会長「ではこちらへ」
児会長を先頭に、会員一同はゾロゾロと移動を開始した。

児会長の自室のある離れには2つの部屋があり、ひとつが自室で、もうひとつは自室に入り切らない本の書庫代わりになっていた。
どちらの部屋も八畳ほどあったが、書庫部屋の方は蔵書で3分の1ぐらいは埋まっていた。
先ずは児会長と一緒に、恵子、浅田、岸野、豪田、伊藤が児会長部屋に入り、他の会員たちは隣の書庫部屋や、離れへの通路になっている廊下で待機する。
恵子「こりゃ驚いたな。まんまミッチーが描いた冬樹の部屋だよ」
児会長「実は昨夜朽木君に来てもらって、ロケ地として不都合そうな本や荷物を移してもらいました」
恵子「あったんすか、そんなもんが?『て言うかこの人、クッチーとどういう関係なんだ?』」
児会長「カラフルな表紙の絵本とか、映画やドラマの脚本とか、ヤオイ同人誌とか、まあそんなところです」
ブッとなる一同。
恵子「ヤオイって…そんなもん持ってたんすか?」
児会長「前に朽木君にプレゼントされましてね、なかなか興味深い内容でしたので、少しだけ集めてみました。まあ殆どのは、お買い物の付き添いの朽木君の推薦ですけどね」
一同『そんなもんプレゼントするクッチー(先輩)もクッチー(先輩)だけど、その影響で集めるこの人っていったい…』


252 名前:30人いる! その161 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:03:29 ID:???
浅田と岸野が児会長の机の周囲であちこち位置を変えつつ、両手の人差し指と親指で作った四角形をカメラ代わりに構える。
実際に撮影する真似をしながら机周辺を見ることで、撮影時に必要な人員の配置をシュミレーションしているのだ。
その作業をひと通り終えると、ひとつひとつ児会長に承認を得つつ、豪田と伊藤が中心になって机周辺の邪魔な物を動かす。
今回ここで撮影するのは2シーンで、その内の1つが冬樹が机に向かうシーンなのだが、
基本的に冬樹役の有吉を至近距離からバストアップ(胸から上のアップ)で撮る。
その為、カメラマン4人と照明係、それに監督が机の間近で囲む形になる。
だからそれに必要なスペースを確保していた訳だ。
さらに豪田と伊藤は、児会長の許可を得て机を壁から1メートルほど離した。
冬樹の正面からのカットを撮る際のカメラマンのスペースと、横から撮る場合の照明係の
スペースを得る為だ。
(ただし真後ろからのカットを撮る時は、一旦元の位置に戻した)
場所が出来ると、いよいよカメラとライトを取り出してカメラテストにかかった。
先ずは伊藤が机の前に座る。
今メイク中(と言っても頭のてっぺんのアホ毛を作ってるだけだが)の有吉の代わりだ。
その伊藤を豪田がライトで照らし、浅田と岸野がカメラを構える。
実際に被写体にライトを当てた状態で、今度はカメラの目を通して見てみようという訳だ。



253 名前:30人いる! その162 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:10:24 ID:???
一般にライトが1つの場合、照明係がカメラ側に位置して被写体の正面から照らすか、被写体の斜め45度(高さも45度)の位置から照らす。
両方の照明のパターンを見比べている撮影担当コンビに、恵子が声をかけた。
「どうだ?」
岸野「どっちも一長一短ありますね。正面からじゃ陰影が無くて画がノッペリし過ぎだし、かと言って斜めからじゃ影がどぎつ過ぎますし。ご覧になりますか?」
恵子「どれどれ」
言いながら2人のカメラを覗く。
それに合わせて、豪田が照明の位置を交互に変える。
恵子「まあ確かに岸野の言う通りかもな。何か方法あるか?」
浅田「(自分のリュックの中をゴソゴソし)こんなこともあろうかと一応用意してきました」
リュックの中から、浅田はライトを取り出した。
恵子「もう1つ用意してたのかよ、ライト。で、そいつでどうするんだ?」
浅田はライトの電源をつなぎ、左45度に位置する豪田と反対側の右45度の位置に動く。
浅田「豪田さん、ライト点けて」
豪田がライトを点灯し、同時に浅田も点灯する。
浅田「監督、これでもう一度カメラ見てください。影が薄くなってるはずです」
恵子「(カメラを覗きながら)なるほど、確かに。で、問題は誰がそっちのライトを持つかだな」



254 名前:30人いる! その163 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:15:42 ID:???
伊藤「僕が持ちましょうかニャー?」
恵子「いや、お前はカチンコ使うから無理だろ」
伊藤「あっ…」
カチンコとは、映画撮影の際に監督の「用意スタート!」の号令に合わせて鳴らす、小さなボードの付いた拍子木のような道具のことだ。
一般的には、ボード部分にシーンb書き、それをシーンの最初に映すことでフィルム側に記録を残すことを目的にしているとされている。
だが実はカチンコの本来の用途は、同時録音した音にカチンという音を残すことで、編集作業で映像と合わせる際の目安にすることなのだ。
それはさておき、伊藤は昨日、豪田からカチンコをもらった。
セットを作る際に余った木材を再利用して作ったお手製だ。
ボード部分はベニヤ板に白いペンキとニスを塗ったものなので、ホワイトボード用のマーカーで書き込めるようになっていた。
岸野「えーとそうなると、神田さんは記録でストップウォッチ握ってるし、沢田さんはマイク持って録音だし…」
「私やります!」
部屋の外で話を聞いていた巴が割り込んだ。
伊藤「なるほど、今回の話は屋内のシーンでは夏美の出番無いから、屋内の照明係なら固定で行けるニャー」
恵子も許可し、屋内撮影での照明係は豪田と巴の2人体制となった。


255 名前:30人いる! その164 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:21:49 ID:???
恵子は隣の部屋に声をかけた。
「おーい、冬樹の用意は出来てるか?」
荻上「出来てますよ」
そう、有吉のアホ毛メイク担当は、アホ毛のスペシャリスト(?)荻上会長だった。
恵子「おお、確かに冬樹だ」
冬樹役の有吉の頭のてっぺんには、見事なアホ毛が立っていた。
普段は初期型斑目に似たおかっぱ風の髪も、冬樹風に少し乱してある。
ただ顔がやや引きつり、目を細めている。
恵子「よっしゃ有吉、出番だ!」
有吉「はははい」
恵子「何だお前、あがってるのか?」
有吉「そそそうですね、映画出るのなんて、ははは初めてだし」
沢田「(録音機材を用意しつつ)とりあえず手のひらに人という字を書いて飲んでみたら?」
台場「いや、この場合はそれ、微妙に間違ってる気が」
アンジェラ「よし、私がひと肌脱ぐあるね」
言うなり有吉の顔を胸元で圧迫するようにハグする。
固まる一同。
最大出力で赤面する有吉。
恵子「(アンジェラを引き剥がしながら)こらこら、こいつら相手にいきなりは体に良くねえから。ん?大丈夫か有吉?」
大丈夫では無かった。
恵子「あーあ、やっぱ気絶してるわ」
アンジェラ「よし、ここはひとつ私が人工呼吸を…」
一同「もういいから!」



256 名前:30人いる! その165 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:33:00 ID:???
その後、何故か活の心得のある加藤さんが有吉を復活させ、いよいよ撮影開始となった。
撮影に直接関係無い会員たちも、ゾロゾロと児会長の部屋に集まる。
岸野「まるで昔の映画の入浴シーンの撮影みたいだな」
恵子「何だそりゃ?」
岸野「まだヌードシーンとかベッドシーンとかが無かった時代の映画にとって、入浴シーンが最大のお色気シーンだったんです」
恵子「それで?」
岸野「だからスター女優の入浴シーンともなると、その日に限って臨時助監督が10人居たり、撮影助手が5人居たりみたいな状況だったらしいです」
恵子「それアリなのか?」
岸野「まあ本来は無しですけど、武士の情けで監督も黙認してたみたいですね」
恵子「しゃあねえなあ男って。まあこいつらは単にファーストシーン撮影に関わりたいだけだから、またちょっと事情が違うけどな。あれっ?クッチーと児会長は?」
日垣「何かすぐ戻るからとか仰って、どっか行かれましたよ」
恵子「2人っきりでか?」
1年女子会員一同「前々から怪しいと思ってたけど…」
荻上「怪しくない怪しくない『とも言い切れないんだけどね』」
恵子「しゃあねえな、ほっといて始めるか」

「ああそや監督、ちょっと待っとくなはれ」
そう言って藪崎さんは隣の書庫部屋から自分の荷物を持ってきた。
一同「?」
しばらく荷物をゴソゴソする藪崎さん。
「監督、これ使いなはれ」
藪崎さんはメガホンを差し出した。



257 名前:30人いる! その166 sage 投稿日:2007/11/04(日) 20:36:43 ID:???
恵子「これは?」
藪崎「やっぱ映画の監督ちゅーたらメガホンでっしゃろ」
一同『いやそれはちょっと違うだろ…』
藪崎さんの差し出した物は確かにメガホンであったが、通常のタイプの物では無かった。
バットを太く短くしたような形で、縞模様と虎の顔のマークが入っていた。
一同『さすが藪さん、関西人だな…』
だが恵子は別に不審に思うことも無く受け取った。
恵子「わーった、あんがと」
一同『監督って野球あんまし見ないんだな…』
まあそれを言い出したら、現視研で野球を熱心に見ていそうなのは、巴ぐらいだが。

メガホンを持ってさらに監督らしくなった(そうか?)恵子、いよいよ撮影にかかる。
ファーストカットは、机に向かう冬樹を後から撮るカットだ。
先ず眼鏡を外した有吉が机の前に座る。
その背後の左右斜め45度の位置に、照明の豪田と巴がライトを構える。
有吉の真後ろには、浅田・岸野・藪崎さん・加藤さんの4人がカメラを構える。
浅田と岸野が並んで立ち、その前に藪崎さんと加藤さんが膝を付いて座る。
同一アングルで水平位置からのショットと、ややあおり気味のショットを撮る為と、まだ手持ちでの撮影に不慣れな女性2人がカメラを固定しやすくする為だ。
更に背後には、メガホンを構えた恵子と、ストップウォッチを構えた神田が配置に付く。
カメラマンの左側にはガンマイク(本来は遠距離用の、文字通り銃みたいな形のマイク)を持った沢田が、右側にはカチンコを持った伊藤が配置に付く。
伊藤「それではシーン15-A冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」
カチンコが鳴った。


309 名前:30人いる! その167 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:15:26 ID:???
結局のところ現視研のクランクイン初日は、冬樹が机に向かうシーンの撮影だけで昼過ぎまでの時間を費やした。
準備に思った以上に時間がかかった為だ。
撮影したカットは、机に向かう冬樹を(1)真後ろから(2)真上から(3)右横から(4)左横から(5)正面からの5つの方向からのカットだった。
しかも撮影した時間は全部でわずか2分かそこらしか無い上、その大半はカットされる予定の捨てカット、いわゆるリカバリーショットというやつだ。
このシーンでの冬樹の動きはあまり無い。
タイムカプセルと共に発見された古いノートを見つつ、時々英和辞典を引いたり、自分のノートにメモしたりするだけだ。
(注、プロットの段階では、クルルに万能翻訳機を借りる予定だったが、その後シナリオをシンプルにまとめる為に、冬樹が独力で英和辞典片手に翻訳するように変更した)
ちなみに古いノートは、以下のような手順で作られた、わずかな出番にしては手間のかかった逸品だ。
1)小道具担当の日垣が、紙に古ぼけた感じの色を付けて束ねる
2)錬金術に関する文章(伊藤原案)をスーが英語に直して、筆記体で書き込む
3)有吉がそれらしいイラストを描き込む
4)最後に日垣が適当に折ったり皺をつけたりして、さらに古ぼけた感じを出す


310 名前:30人いる! その168 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:17:41 ID:???
恵子「さてと、遅くなったけど飯にするか」
荻上「この近くって、コンビニとかレストランとか無いわね」
日垣「俺とあと何人か、駅前まで買出しに走りましょうか?」
落ち着いた上品な声が、昼飯をどうしよう会議を遮った。
「さあさ皆さん、お食事の用意が出来ましたよ」

せっかく用意して下さったのなら頂かないのも却って悪いかと、児会長のお言葉に甘えてご馳走になることにした現視研一同、先程の大広間に戻って驚いた。
テーブル上には、大鍋の乗ったガスコンロが5つ用意され、その周囲には人数分の割り箸や小皿等が置かれていた。
一同「何故この暑いのに鍋?」
サンドイッチとかおにぎりみたいな軽食系のメニューを予想していたので、面食らう一同。
「お待たせしました!」
会員たちが声に振り返ると、板前のような格好のクッチーが、数枚の大皿を載せたワゴンを押して来た。

コンロ1台につき2枚ずつ大皿が置かれた。
1枚は白菜やねぎやえのき茸等、野菜が中心だった。
もう1枚は豆腐に春雨に鶏肉、そして1人10個はありそうな大量のツミレだった。
一同「ちゃんこ鍋?」
神田「凄い!これ全部クッチー先輩が作ったんですか?」
朽木「作るというほどのことはしてないにょー。野菜その他を切っただけだし。僕チンよりもお師匠様の方が大変だったにょー」



311 名前:30人いる! その169 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:20:03 ID:???
神田「会長さんが?」
朽木「そのツミレはお師匠様の手作りの逸品だにょー」
豪田「これ全部会長さんが?」
一同「凄っ!」
有吉「しかもこのツミレ、いわし団子じゃないですか!」
荻上「有吉君、知ってるの?」
有吉「昔、保永昇男ってプロレスラー(現在レフリー)が居たんですけど、彼が新弟子時代にしばしば作ってたそうなんです。なかなか仲間内では好評だったらしいですよ」
沢田「そう言えば有吉君って、何気にプロレスに詳しいわね」
有吉「昔はまってた時期があったんだよ」
豪田「何でプロレスラーがちゃんこ作るの?」
有吉「日本でプロレスを始めた力道山が元相撲取りだから、プロレスラーの新弟子の合宿所の食事の基本メニューはちゃんこなんだよ」
巴「もしかしてお相撲さんと同じように、プロレスラーも新弟子が交代でちゃんこ作るの?」
有吉「その通り。で、保永さん得意のメニューが、このいわし団子のちゃんこだったんだけど、毎回毎回という訳には行かなかったみたい」
恵子「何で?」
有吉「凄い手間で時間かかるからですよ。いわし1匹1匹の骨取ってすり潰して、片栗粉とかと混ぜて味付けして団子にする。これをプロレスラー数十人分ですからね」
豪田「確かに手間そうね…」



312 名前:30人いる! その170 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:22:56 ID:???
「でもいいんですか、こんな豪勢なお食事…」
せっかく用意して頂いたんだから、食べないのは却って迷惑になると先程までは思っていた荻上会長だったが、豪快な食事内容につい遠慮してしまった。
児会長「遠慮なさらなくていいですよ。一見凄そうに見えるかも知れないけど、材料費案外かかってないですから」
荻上「でも…」
児会長「ならばこういたしましょう。映画完成の際には、スポンサーというか協力というか、そういう内容の字幕スーパーで児童文学研究会を紹介して下さいな」
台場「なるほど!スポンサー契約という訳ですね!」
恵子「出たなプロデューサー」
児会長「まあ私の場合は、制作費の代わりにロケ地とお食事を提供するということで、どうかしら?」
アンジェラ「てゆーか現物支給?」
台場「よしその契約乗った!いいですよね、会長?」
荻上「まあ、それなら…いいかな。(児会長に)そんじゃあすんません、改めてご馳走になります」
児会長「どうぞどうぞ」
一同「いただきます!」


313 名前:30人いる! その171 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:25:56 ID:???
みんなが鍋の準備にかかる中、台場は自分の鞄からファイルを取り出して児会長に近付く。
台場「(ファイルから契約書を取り出し)えーと金額のとこに今日の昼食とロケ地提供、
サラサラサラ(契約書に書き込む)と。そんじゃあ会長さん、ここにサインか印鑑を」
児会長「はいはい」
豪田「うわあ晴海、すっかり顔が商人(あきんど)になってる…」
沢田「まさに必殺商売人ね」

「うわあもうダメ、入らない」
「もうお腹パンパン」
「また体重増えちゃったかも」
「みんなすっかりケロン人体型ね」
1時間後、現視研の面々は大広間のあちこちでボテ腹を抱えて動けなくなった。
結局のところ、彼らはちゃんこ鍋と共に、丼飯を1人当たり平均3杯ずつも平らげた。
比較的少食で普段の昼御飯ではお茶碗1杯がせいぜいの、ケロン人役の小柄女子たちですら2杯ずつ食べた。
ちなみにその中で唯一の例外は体育会系体質の国松で、その小さな体のどこに入るのか4杯も食べていた。
ましてや元々大食いの豪田や巴や日垣や藪崎さんやアンジェラ、それにクッチーに至っては1人5杯ずつを平らげた上に、具の無くなった鍋にうどんを入れて食べていた。
みんながここまで大食いした主な理由は2つあった。
1つは児会長作のいわし団子が美味しかった為に、みんなの食が進んだこと。
もう1つは、クッチーが調子に乗って、みんなの丼が空くたびにわんこ蕎麦のような勢いで飯を盛ったことだ。
しかもクッチーが食べてる間は、先に昼御飯を済ませていた児会長が、クッチー同様に飯を盛り続けた。


314 名前:30人いる! その172 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:28:16 ID:???
恵子「しゃあねえな、しばらく食休みだ」
荻上「それはいいけど、みんなせめて後片付けぐらい手伝いなさい」
会員たちは満腹にフウフウ言いつつも、鍋の後片付けを始めた。
児会長の誘導で、各自鍋や食器を台所まで運ぶ。

台所に着いた現視研一同、しばし呆然とする。
児会長宅の台所は異様に広く、しかも調理器具や設備も充実していた。
ちょっとした料亭やホテルの調理場並みのレベルであった。
台場「まるで美食倶楽部の調理場ね」
「いやまたちょっと違うよ」
そう言いながら有吉が指差した先には、業務用のような巨大な炊飯器や鍋等、大量に調理することを前提にしたような調理器具が多数あった。
日垣「どっちかと言えば、小学校の給食の調理室に似てるな」
アンジェラ「てゆーか大量調理?」
巴「何かアンジェラ、すっかりモアちゃん語が日常化しつつあるわね」
国松「あの、もしかして会長さんのお家の仕事って、相撲部屋か何かですか?」
一同『確かに。ちゃんこ鍋作るの手馴れ過ぎてるし』
児会長「(微笑んで)まさか。ちょっとした事業をやっているだけですよ。ただ、お客様がたくさんいらっしゃる機会が多いんで、自然とこういうお台所になっただけです」
荻上「(改めて台所を見渡し)ちょっとした事業ねえ…」

結局後片付けは、今回は出番の無い日垣、アンジェラ、台場、ニャー子、そしてクッチーが児会長の指揮の下に行なうことになった。
いかに広い台所とは言え、会員全員プラス児会長で後片付けをやるには狭いからだ。



315 名前:30人いる! その173 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:30:22 ID:???
後片付けの面々以外の会員たちは、児会長の部屋や書庫部屋とその周辺で、しばしの食休みに入った。
豪田や藪崎さん、それに大野さんは仮眠している。
巴「ちゃんこ鍋のお昼の次はお昼寝、まんまお相撲さんの生活パターンね」
仮眠してたはずの3人がいっせいに目を覚まして噛み付く。
「誰がお相撲さんじゃゴラア!」
巴「…起きてたんですか?」
再び眠りに付く3人。

「おおおおお、こっ、これは…ニャニャニャニャニャ!」
書庫部屋では、伊藤が興奮していた。
沢田「どうしたの?」
伊藤「ここここれ見てよ沢田さん、会長さんの台本の蔵書、凄いニャー!」
沢田「どれどれ(蔵書の山を見て)ほほう、こりゃ凄いわね」
伊藤「でしょでしょ?ニャニャニャニャニャ!」
神田「そんなに凄いの?」
伊藤「だって見てよ!『仁義なき戦い』のオリジナルの撮影台本だニャー!こっちは『七人の侍』でこっちは中川信夫版『東海道四谷怪談』でこっちは『野生の証明』だニャー!」
言いながら台本を次々差し出す伊藤。
沢田「アニメのもあるわね。『風の谷のナウシカ』に『空飛ぶゆうれい船』に『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』か」
神田「何か統一感の無いラインナップね」
「会長さんは脚本の執筆もなさっていて、その勉強用に脚本集めてるそうよ」
荻上会長が口を挟む。
一同「(尊敬の念を込めて)へえー」


316 名前:30人いる! その174 sage 投稿日:2007/11/18(日) 20:32:10 ID:???
大騒ぎの伊藤と対照的なのは、廊下で台本を見ながらブツブツ言ってる有吉である。
恵子「何だ、まだ台詞覚えてないのか?」
有吉「覚えてはいるんですが、言い回しが難しくてトチリそうなんで…」
この後撮影のシーンで、有吉扮する冬樹が錬金術とホムンクルスについて説明するのだ。
有吉「何しろ普段使わない言葉を多用しますから」
恵子「お前ら、この手のネタは見慣れてるだろ?」
有吉「普段声に出して読んでる訳じゃないですから」
恵子「それもそうだな。ま、がんばれ」
恵子は有吉から離れ、伊藤たちの方へ近付く。
恵子「おい伊藤、千里とスー知らねえか?」
伊藤「2人なら、奥の部屋を借りてクルルスーツの着付けをやってますニャー」
そこへ台所組が戻って来た。
台場「ただ今戻りました」
荻上「ご苦労様、あれっ?朽木先輩は?」
日垣「何か夕食の仕込みがあるとかで、台所に残っておられます」
荻上「何であの人がやってるの?」
ニャー子「何かクッチー先輩、妙に板場の仕事が様になってましたニャー」
アンジェラ「そう言えばミスタークッチー、食器とか道具とかの定位置、全部頭に入ってたみたいあるよ」


319 名前:30人いる! その175 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:23:17 ID:???
児会長が事情を説明した。
「朽木君ね、何度か私が手料理ご馳走してあげたら、私にもご馳走したいから自分でも何か作りたいって、うちのお抱えの料理人にいろいろ習ってたみたいですよ」
恵子「そう言えば、いわし団子以外の具って、全部クッチーが切ったって言ってたよな」
日垣「何でも今じゃ、かつら剥きが出来るって仰ってましたよ」
一同「凄っ!」
荻上「朽木先輩、もし警官の試験落ちても、調理師か何かで食べて行けそうね」

そこへ国松と、クルルスーツ姿のスーが戻って来た。
2人並んでみると、頭の分クルルの方が15センチぐらい高い。
スーは早くも右手をクルル顔の口元に持って来て、例の「クークックックッ」のポーズをしている。
国松「あっ会長さん、お部屋ありがとうございました。まあまた後でお借りしますけど」
スー「(子安武人そっくりの声で)クークックックッ」
国松「あっ、スーちゃんもありがとうって言ってます」
児会長「(にこやかに)はいはい」

「おーい起きろー!」
恵子が寝ていた3人を起こす。
恵子「伊藤、ボチボチ撮影始めんぞ」
伊藤「ちょっちょっとだけ待って下さいニャー、今寅さんの脚本読んでるんですけど、最後まで読み切っちゃいますから」
速読の心得があるのか、伊藤の読むペースは異様に速かった。



320 名前:30人いる! その176 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:28:03 ID:???
荻上「全部あるの、寅さんの脚本?」
伊藤「全作揃ってますニャー」
恵子「で、今どの辺なんだ?」
伊藤「今マドンナの佐藤オリエが出て来たとこですニャー」
恵子「…なあスー、その佐藤さんが出てたのって、何作目だ?」
スー「(子安武人そっくりの声で)3作目だぜ〜クークックックッ」
恵子「寅さんって、何本あったっけ?」
スー「(子安武人そっくりの声で)48作だぜ〜クークックックッ」
児会長の部屋でカメラの調整を終え、隣の書庫部屋の様子を見に来た浅田と岸野がツッコむ。
浅田「て言うかスーちゃん、何で寅さんについてそこまで詳しいんだ?」
岸野「それに監督、そういう前提でスーちゃんに訊いてるし」
恵子は伊藤に近付き、耳を引っ張った。
伊藤「痛たたたたたた…」
恵子「んなに待てるか!撮影に戻るぞ!」
伊藤「ニャー(涙)」
児会長「まあまあ伊藤君、何なら今日の帰りに借りてお行きなさい」
伊藤「ほんとですかニャー?ありがとうございますニャー」
ようやく納得して伊藤は撮影に戻った。


321 名前:30人いる! その177 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:40:12 ID:???
結局昼食から2時間近く経って、撮影は再開された。
午後からの撮影は、クルルと冬樹がお互いの調査結果を報告し合うというシーンだ。
先ずはツーショットのカットからだ。
冬樹役の有吉が机の前に立ち、クルル役のスーは床に直に座り、互いに向かい合う。
正面から2人を見ると、右手に有吉、左手にスーという位置関係になる。
有吉が立っているのは、2人の高低差を作ることにより、身長差があまり無いことをカバーする為だ。
向き合う2人の手前にカメラマン4人が横一列に並び、その両サイドに照明係が付く。
その背後に、またも台詞無しだが録音係の沢田、記録の神田、そして監督の恵子が並ぶ。
他のみんなは例によってそのまた背後から見学だ。
カメラマンと役者2人の間に、カチンコを持った伊藤が割り込む。
伊藤「それではシーン17-A冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」

ツーショットのカットが無事撮り終わり、次に2人のそれぞれのバストショット(被写体の人物の胸から上のショット)の撮影に移る。
有吉とスー、それに沢田、神田、恵子は先ほどと同じ配置だが、カメラマンと照明係は2組に分かれ、それぞれ有吉とスーの斜め後ろに移る。
スーの左斜め後ろには浅田と加藤さん、それに豪田が配置される。
豪田は壁際に位置するので、ちょっと窮屈そうだ。
そして有吉の左斜め後ろには、岸野と藪崎さん、そして巴が配置される。



322 名前:30人いる! その178 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:42:11 ID:???
スーの左斜め後ろの班は、画面右手にスーの体の左端を手前に置いた形で、有吉のバストショットを撮影する。
ちなみにクルルの主観に近い目線での映像なので、浅田と加藤さんは数人分の荷物をマット代わりに敷いて、腹這いの体勢での撮影だ。
座るだけだとスーが小さ過ぎて画面の端に入れづらく、かと言って床に直に腹這いだと低過ぎるからだ。
一方有吉の左斜め後ろの班はその逆で、画面右手に有吉の体の左端を手前に置いた形で、スーのバストショット(と言っても床に座っているので、ほぼ全身に近いが)を撮影する。
こちらは冬樹の主観に近い目線だと俯瞰撮影に近い角度になるので、膝を付いて座り正面からに近い角度からの撮影だ。
(2組のカメラマンと照明は、お互いに死角に入る)
この態勢で、冬樹とクルルの会話シーンを撮影するのだ。
伊藤「それじゃあシーン17-B冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」

15分後、現視研映画撮影班は早くも休憩に入った。
NGを連発した有吉が焦って余計に泥沼にはまっていく様子を見て、恵子が少し間を置いた方がいいと判断したのだ。
有吉「すんません、監督」
恵子「まあいいから、とりあえず落ち着けや」
有吉は台詞を覚えていない訳では無かった。
普段言い慣れない言い回しの上に、ことさら流暢に喋ろうと意識し過ぎてる為に、何度もかんでしまうのだ。


323 名前:30人いる! その179 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:47:16 ID:???
(注)ここからの2レスはシナリオの抜粋なので、ケロロに興味の無い方は飛ばして頂いても、SSの進行上差し支えありません。

ちなみにこのシーンの台詞は、こんな感じだった。
冬樹「辞書と僕の翻訳能力とだけじゃ完全な翻訳は無理だったけど、どうもこのノートの持ち主って、科学者と言うより錬金術師らしいんだ」
クルル「錬金術と言うと、物質を混ぜ合わせることで金を作ろうっていう、ペコポンの大昔のトンデモ科学のことかい?クークックックッ」
冬樹「トンデモとも言い切れないよ。錬金術の実験が、現代の化学の基礎になったんだから。それとこのノートの錬金術、どうもホムンクルスの製法らしいんだ」
クルル「何だいそりゃ〜?」
冬樹「錬金術で作られた人造人間のことだよ」
クルル「何か眉唾な話だな〜」
冬樹「でもこのノート、人間の組成成分がちゃんと書かれていたよ」
クルル「水とか鉄とか炭素とかリンとかマグネシウムとかかい?」
冬樹「そう。だから実際に出来るかどうかはともかく、本格的だと思うよ」
クルル「それで分かったぜ〜カプセルの方も」
冬樹「そう言えばクルル、カプセルの方はどうだったの?」


324 名前:30人いる! その180 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:49:21 ID:???
クルル「先ず中身だが、どうやらある種の生物の細胞を圧縮して収納してあるらしいぜ〜」
冬樹「細胞?」
クルル「そしてカプセルに刻まれた文字だが、どうも古いケロン文字の一種らしいぜ〜」
冬樹「古いケロン文字?」
クルル「そしてその内容なんだが、部分的にだがケロボールの物質生成機能の公式に似ていたんだ。冬樹、こりゃひょっとしたらひょっとするぜ〜」
(注)ケロボールとはケロロが持って来た万能アイテムで、現在では日向家に没収され、冬木の机の引き出しに保管されている。
データがあれば塵やほこりから何でも作れる機能があり、度々破壊されている日向家の修復は、これによって行なわれていると推測される。

冬樹「つまり、昔地球に来たケロン人が錬金術師と接触してケロン星の科学技術を伝え、それと錬金術とが組み合わさってホムンクルスを作ったってこと?」
クルル「多分な」
冬樹「(目を輝かせ)じゃああの中身って本物のホムンクルス?!」
クルル「おいっ、まさかカプセル開けろとか言わねえだろうな」
冬樹「えっ開けちゃダメかな?」
クルル「やめた方がいいな。圧縮された濃度から計算して、ひとつ間違えたら最悪巨大化するかもよ」
(ここでシナリオ上では、巨大ベムが町中に出現の図のイメージ画像)
冬樹「それは…まずいね。前の軍曹なら『これは侵略に使えそうであります!』とか言いそうだね」
クルル「でも今は隊長、家事最優先だからな。適当に侵略やってるように誤魔化すこっちは大変だぜ〜クークックックッ」


325 名前:30人いる! その181 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:53:25 ID:???
国松「スーちゃん、1回着ぐるみ脱ご」
スー「押忍!」
スーはクルルの頭を脱ぎ、国松はスーの背中のファスナーを降ろそうとする。
荻上「ちょっ、ちょっとここで脱ぐのは…」
国松「大丈夫ですよ会長。人前で脱げる格好してますから」
「ぬぎっ」という擬音が聞こえそうな脱ぎっぷりの良さで、スーはクルルスーツを脱いだ。
「ぶっ!」となる一同。
スーが身に付けていたのは、真っ赤なビキニだった。
国松「本来なら下着だけが1番いいんですけど、それだと人前で脱げないんで、いろいろ考えた末に水着にしたんです。幸いスーちゃん、ビキニ持ってたし」
荻上「普通の水着じゃダメなの?」
国松「それだとタンクトップにショートパンツみたいなのと、暑さあまり変わんないですし」
ふと嫌な予感を覚える荻上会長。
荻上「まさか国松さん、私たちにもその格好させるつもりじゃ?」
国松「今日の撮影終わったら、一緒に買いに行きましょう、会長。私もビキニ持ってないし」
沢田「もしかして、それって私も?」
国松「当然!」
荻上・沢田「当然っすか…」


326 名前:30人いる! その182 sage 投稿日:2007/11/18(日) 21:58:16 ID:???
「私は持ってるから買わなくてもいいニャー」
ニャー子が口を挟んだ。
荻上「ニャー子さん、ビキニなんか持ってたの?」
ニャー子「この間、伊藤君とプールに行ったんで、それ用に買いましたニャー」
一同「何ですと〜!」
荻上「まあまあ、夏コミから2人つき合ってたんだし、そんな驚かないの」
巴「でも伊藤君って、泳げないんじゃなかったっけ?」
伊藤「ニャー子さんも泳げないんで、ずっと浅いとこで水浴びしてましたニャー」
赤面する伊藤とニャー子。
藪崎「くそう猫同士じゃれよって、勝ったと思うな!」
伊藤・ニャー子「意味分かりませんニャー」

ビキニ騒動でみんなが騒ぐ中、有吉は何度も台詞を繰り返し暗唱していた。
そこへトコトコとスーが近付く。
有吉の様子を見ていたスーの頭の中で、ピンッという音が鳴った。
スー「(児会長に)押忍、何か書く物はありませんか?」
児会長「メモみたいなものでよろしいかしら?」
スー「お願いします、押忍!」
児会長は机の引き出しから、切った紙をクリップで束ねた物とペンを出してきた。
児会長「これでよろしいかしら?」
スー「ありがとうございます、押忍!」
スーは自分の台本を取り出し、何やら紙に写し始める。



329 名前:30人いる! その183 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:42:01 ID:???
よく見るとその紙には、裏に何やら印刷されていた。
荻上「あの紙は?」
児会長「チラシの裏ですよ」
一同「チラシの裏?」
児会長「だって捨てるのももったいないでしょ?うちではメモはみんなチラシの裏ですよ」
藪崎「さすが金残しはるお家の方はちゃうね」

そうこうする内に、スーは書き写し終わった。
どうやら台詞を書き写していたらしい。
一同「カンニングペーパー?」
スーはその台詞のメモを、有吉が使う小道具のノートにセロテープで貼り付け、高らかに宣言した。
「これぞ秘技三木のり平!」
浅田「だから何で三木のり平なんて知ってる?」
荻上「三木のり平って、桃屋のCMのアニメの中の人やってた人でしょ?」
スー「押忍!失礼ですがセンセイ荻上、それは大変な認識不足であります!」
荻上「どゆこと?」
スー「押忍!三木のり平は元々は喜劇俳優であります!50〜60年代には社長シリーズとか駅前シリーズとかによく出てたであります!」
荻上「『生まれてないって!』…で、何でそれが秘技三木のり平なの?」
スー「押忍!三木のり平は台詞覚えるのが苦手で、セットのあちこちに台詞のカンニングペーパーを貼っていたことで有名なのであります!」


330 名前:30人いる! その184 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:44:15 ID:???
有吉「うーん気持ちはありがたいんだけどスーちゃん、僕は台詞覚えてないんじゃなくて、言い回しが難しくて上手く言えないだけなんだけど…」
スー「押忍!僭越ながら、この場合は上手く言おうと意識しない方がいいと思うであります!」
有吉「と言うと?」
スー「押忍!この場合の冬樹の台詞は説明台詞なのだから、むしろあからさまに台本を朗読してるぐらいの方が感じが出ると思うであります!」
恵子「あたしもスーの意見に賛成だな。冬樹って理屈っぽいキャラだから、その方が感じ出そうな気がするよ」
有吉「…分かりました、それでやってみます。(スーの方に向き直り)ありがとう、スーちゃん」

再び本番開始となったが、問題が発生した。
有吉「すんません、眼鏡無しだとこの距離でもカンペ見えないんですけど…」
再び中断。
一同「うーむ…」
豪田「ああもう、少々とちってもいいから、そのまま撮っちゃいましょうよ」
沢田「いやそれはまずいわよ。アフレコした時にタイミング合わないから」
台場「確かにうちらは素人なんだから、画面上の口の動きは完璧にしておいた方が無難ね」



331 名前:30人いる! その185 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:46:37 ID:???
恵子が口を開いた。
「なあお前らってさあ、眼鏡かけてるの有吉と浅田と晴海だけだけど、あとの奴らは目悪くないのか?」
唐突な質問に少しとまどう一同。
豪田「えーと確か彩とミッチーと、それにヤブさんと日垣君もコンタクトだったと思います。あと私もです」
恵子「やっぱオタクって目悪い率高いな」
巴「それが何か?」
恵子「冬樹ってさあ、本ばっか読んでるオタなんだから、大学生になったら眼鏡かけてても不思議じゃないんじゃねえか?秋ママだって婆ちゃんだって眼鏡かけてんだし」
ハッとなる一同。
恵子「どうよ?」
荻上「うーん…でも有吉君の眼鏡って普通のやつだから、秋ママのとか大野さんのとかとちょっとイメージが合わないような…」
その時有吉は、部屋の隅に置いてあった自分の荷物をゴソゴソし出した。
一同「?」
やがて有吉は眼鏡ケースを取り出した。
有吉「虫の知らせってやつかなあ、予備でこの眼鏡用意して来たんですよ」
ケースから取り出した眼鏡をかける有吉。
一同「これは?」
有吉のかけた眼鏡は、いつもの普通の眼鏡ではなく、漫画キャラ風の丸い眼鏡だった。



332 名前:30人いる! その186 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:48:49 ID:???
豪田「行ける!」
巴「確かに」
神田「これなら大学生版冬樹にはピッタリね」
沢田「でも有吉君、よくそんな眼鏡持ってたわね」
有吉「中学の時使ってたやつだよ。度は変わってないんで、予備として残しといたんだ」
恵子「どう姉さん?」
荻上「行けそうね。これで行きましょ」

こうして無事に撮影は終了した。
ホッとする一同。
だがそんなみんなの安堵感を神田のひと言が引っくり返した。
「でも監督、さっきの冬樹のシーンって、眼鏡無しで撮りましたよね?」
一同「あっ…」
恵子の決断は早かった。
「しゃあねえなあ。撮り直しだ」
一同「(残念そうに)えー」
恵子「しゃあねえだろ。それに実はあたし午前中撮った分、ちょっと引っかかってたんだ」
国松「何がですか?」
恵子「有吉ってさあ、眼鏡取るとけっこう目付き悪いんだよね」
豪田「そう言えばそうですね」
恵子「だろ?だからちょうどいいじゃねえか?」
こうして午前中に撮った分は撮り直しとなった。
だが1度同じシーンを撮っているだけに、撮影はサクサクと進んだ。



333 名前:30人いる! その187 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:53:35 ID:???
ようやく児会長邸での撮影が終了し、現視研一行は撤収準備にかかった。
そんな中、窓際で大野さんと巴は呆然としていた。
大野「日が落ちちゃいますね…」
巴「もうじき落ちちゃいますね…」
恵子「こりゃ学校での撮影は、今日は中止だな」
大野・巴「しょぼーん」

「さてと引き上げるか」
大広間に再び集合した一同に、恵子は宣言した。
荻上「それじゃあ会長さんにご挨拶して帰りましょう」
そこへ児会長がやって来た。
「さあさ皆さん、夕食にしましょうか」
一同「えっ?」
児会長「ちょっとカレー作り過ぎちゃったんで、食べて行って下さいな」
巨大な鍋を載せたワゴンを押して、クッチーが大広間に入ってきた。
一同「いやそれ、ちょっと作り過ぎってレベルじゃないし…」
結局現視研の一行は、児会長邸で夕食もご馳走になることになった。
しかもクッチーが調子に乗っておかわりを盛るので、またもやたらふく食う破目になった。
2時間後、現視研一行はボテ腹を抱えて児会長邸を後にした。
豪田「ああ食った食った。今日1日で体重3キロは増えそう」
神田「あれっ?クッチー先輩は?」
日垣「何か明日の朝食の仕込みと鍋磨きと包丁砥ぎやるから、先に帰っててって仰ってたよ」
巴「すっかり板場の見習い状態ね」


334 名前:30人いる! その188 sage 投稿日:2007/11/18(日) 23:57:40 ID:???
そんな帰り道の道中、有吉が恵子に声をかけてきた。
「あの監督、今日はすいませんでした」
恵子「ん?」
伊藤「僕もすいませんニャー」
恵子「どしたんだよ、2人とも?」
有吉「僕がいろいろやらかしたばっかりに、撮影が遅れちゃいましたんで。みんなもごめん(頭を下げる)」
伊藤「僕も脚本読むのに夢中になって撮影遅らしたんで、ごめんなさいニャー(頭を下げる)」
恵子「まあまあ、もういいじゃねえか、済んだことだし。頭上げろよ。それに怪我の功名ってやつで、却っていい画が撮れたし」
有吉・伊藤「監督…」
恵子「それに今回撮影が延びた1番の被害者の、大野さんとマリアだってもう怒ってないし。(大野さんと巴に)だろ?」
大野「そっ、そうですよ。また明日撮ればいいだけのことですし」
巴「まあ失敗は誰にでもあるから、もう気にしないで」
国松が口を挟んだ。
「それにこれって、名作の兆しじゃない!」
スー「(西川のりお似の声で)兆シヤ〜」
恵子「どゆことだよ?」
国松「古今東西、名作と言われる作品には、最初に撮ったフィルムが没になった実例がたくさんあるんです」
一同「そうなの?」



335 名前:30人いる! その189 sage 投稿日:2007/11/19(月) 00:01:17 ID:???
国松「例えば『帰ってきたウルトラマン』の第1話なんて、特撮班も本編班も両方とも撮り直しですし」
恵子「何で?」
国松「本編班の方は単にフィルムに傷が付いちゃったアクシデントなんですけど、特撮班の方は撮り終わってからウルトラマンのデザインが変更になっちゃったんです」
「帰ってきたウルトラマン」の当初のデザインは、初代ウルトラマンの赤ラインの外側に細い赤ラインを加えただけのものだった。
だがそれが版権その他の理由でNGになり、さらに細かい所が違うデザイン(首が赤くない、膝の赤ラインが太い、パンツ部分が小さい等)に変更され、撮り直しとなったのだ。
沢田「それ単に、現場がグダグダだっただけじゃないの?」
国松「とにかく!初日の撮り直しは縁起がいいんです!」
恵子「まあそういうことにしとこうか」
恵子は2人に近付いて、両腕で2人の肩をスクラムを組むように抱いた。
「よし、そんじゃ今からあたしとホテル行こ!」
一同「何ですと〜!」
恵子「いやお前ら元気無いからさあ、景気付けにあたしが2人のチェリー頂いちゃおうと思ってな」
最大出力で赤面しつつ、恵子から離れる伊藤と有吉。
有吉「いや、お気持ちはありがたいんですけど、遠慮します!」
伊藤「僕も遠慮しますニャー!」
恵子「何だあたしじゃ不服か?それかなり傷付くぞ」
有吉「いやそういうことじゃなくて…」
「伊藤君の童貞は、私のものですニャー」
ニャー子が割って入り、伊藤の腕を取った。
固まる一同。


336 名前:30人いる! その190 sage 投稿日:2007/11/19(月) 00:05:11 ID:???
伊藤「ニャニャ、そんなニャー子さん、大声で宣言しなくても…」
ニャー子「私じゃ不服かニャ?」
伊藤「いっいや、喜んで!」
再び固まる一同。
恵子「わーった、猫同士好きにやんな。さて残るは有吉だけど…」
「監督、有吉君は疲れてるから、今日はこのまま帰りましょう!」
今度は豪田が割って入り、有吉の手を引っ張って先をズンズン歩き出す。
恵子「(豪田の気持ちを悟り)まあ今日は、この辺にしといてやるか」

国松「さすがに今日はビキニ買いに行くのは無しですね。遅くなりましたし」
沢田「それにお腹出過ぎだもんね」
ちょっぴりホッとする荻上会長。
台場「ところでヤブさんと加藤さん、何でカメラマン引き受けたんですか?」
藪崎「これや」
藪崎さんは一枚の紙片を取り出した。
加藤さんも同様の紙片を取り出す。
そこには「斑目と1日デート券 有効期限無期限」と手書きで書かれていた。
しかもそれは何かのチラシの裏のようだった。
台場「そんなもんで釣られたんすか?て言うかいいのかな、シゲさんに断りも無しに勝手にそんなもん配って?」
恵子「あとさあ、1番頑張ったやつには斑目さんの童貞券やるから」
斑目さんを男にする会実動部隊一同「マジっすか?!」
荻上「やめなさい!」
こうして撮影初日は無事に(そうか?)終わった。



337 名前:30人いる! 次回予告 sage 投稿日:2007/11/19(月) 00:14:17 ID:???
以上です。

すいませんすいませんすいません!
予告と書いたのは実はハッタリで、次回どうするか全く考えてません!
(まああらすじとネタと映画のシーン割りは考えてるのですが)
出たとこ勝負になっちゃいますが、とりあえず屋内撮影編がまだ続く予定です。
あと30人の残りは、屋外撮影編以降に登場します。
ではまた来々週お逢い…出来たらいいなあ。
(正直自信ありません)



逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan