30人いる!

352 名前:30人いる! その191 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:07:27 ID:???
第11章 笹原恵子の疾走

9月もそろそろ半ばに入ろうかという、クランクインから10日目の夜。
現視研の1年生13人は、椎応大学からほど近い居酒屋に集まっていた。
毎年新歓コンパや追い出しコンパに使っている、いつもの居酒屋だ。
有吉「えーでは、第1回G作品制作反省会議かっこ1年生限定かっこ閉じを始めます!」
スー「(拍手しつつ棒読みっぽく)ワーパチパチパチ」
豪田「そう言えばまだ映画のサブタイトル決めてなかったわね」
伊藤「監督がまだいいの思い付かないから、後にしろとのことですニャー」
沢田「それにしても、またちゃんこ鍋?」
1年生たちが囲むテーブルには、またもや鍋が用意されていた。
日垣「今日のはキムチちゃんこだね」
浅田「この暑いのに…」
巴「何言ってるのよ。暑い時こそ熱い物食べるのが、体にはいいのよ」
アンジェラ「てゆうか健康第一?」
有吉「まあまあ、会議と銘打ってはいますが、ここまでの撮影で気付いたこと思ったこと等、みなさんの忌憚の無い意見をお願いしますよ」
国松「そうそう飲み食いしつつマッタリとね」
日垣「いやちょっと国松さん、マッタリどころかしっかり飲み食いしてるし」
そう、国松はしっかり飲み食いしていた。
ようやく煮えたかどうかのタイミングで早くも鍋をつつき、ジョッキ生の1杯目も乾杯後一気に空け、早くも5杯目を頼んでいた。
神田「ちょっと大丈夫、千里?」
国松「大丈夫大丈夫(右手の親指を鼻の穴に当てながら手のひらを前に向け)だいじょうぶ!」



353 名前:30人いる! その192 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:09:22 ID:???
凍結する一同。
台場「今の、何?」
日垣「昔『仮面の忍者赤影』っていう特撮時代劇で、青影っていう少年忍者がやってたギャグだよ」
台場「それ、何時の作品?」
日垣「確か昭和40年代前半だったと思うよ」
国松「昭和42年!いい加減覚えなさいよ日垣君!」
日垣「無茶言わないでよ。国松さんみたいに放送年月日まで丸暗記は無理だよ」
台場「『生まれてないっつーの!』そんな古いギャグやられても対応に困るから」
神田「それに千里あなた可愛いんだから、そういうお下品系ギャグは不許可!」
国松「それじゃあえーと…合点合点承〜(体を右に捻って反動をつけて正面に戻し)知!」
再び凍結する一同。
台場「今の、何?」
日垣「これも赤影で、青影がやってたギャグだよ」
スー「青影サンダイッ!(コミカルでアップテンポな音楽を口で演奏)ぴっぴこぴこぴこぴこぴこぴこ〜ぴここぴこぴこぴ〜ぱんぱんぱん♪〜」
台場「スーちゃんまで乗らないの!」
スーがやったのは、赤影の定番シーンのひとつで、青影が敵の下忍(いわゆる戦闘員)とコミカルなバトルを演じる際の、決まり文句とBGMである。



354 名前:30人いる! その193 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:11:19 ID:???
その流れは、毎回大体こういう感じである。
1)敵の下忍に取り囲まれ、青影が「小僧」とか言われる
2)「青影さんだいっ!」という台詞と共に、スーが口真似したBGMが流れ戦闘開始
3)青影下忍たちの間をチョコマカと逃げ回り(カメラ早回し)なかなか捕まらない
4)下忍たち青影を見失い、並んでキョロキョロ
5)下忍たちの後ろに青影現れ、下忍の頭どついて気絶させ、青影得意気にニッコリ

国松「(林家三平風に)どうもすいません、ヒック」
浅田「また古いギャグを…」
沢田「て言うか千里、すっかり出来上がってない?」
アンジェラ「てゆうか護身完成?」
豪田「真面目な話、あんまし飲み過ぎないでよ、私ら法的には未成年なんだから」
国松「こんなもん飲んだ内に入んないわよ。私中学ん時から時々飲んでたし」
沢田「千里って意外と不良なんだ…」
国松「そんなんじゃないわよ。うちが酒屋だからお酒いっぱいあるってだけの話」
浅田「売りもんに手を出すなよ」
国松「そん代わり夏休みとか歳末は店手伝ってたわよ」
巴「何その無銭飲食のお詫びに皿洗いして帰るみたいな論法…」
アンジェラ「てゆうか勤労奉仕?」



355 名前:30人いる! その194 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:13:00 ID:???
有吉「さてと、本題に戻りましょうか。先ずは神田さん、スケジュール管理の立場から、何か意見無い?」
神田「私的には問題無いと思うわ。遅れたのは初日と今日ぐらいで、あとは順調だし」
浅田「スケジュール組み替えが上手く行ったからね」
神田「そう、初日で懲りて全部スケジュール組み替えて、同一撮影日同一ロケ地を大原則にしたからね。移動するとしてもせいぜい大学の中程度の範囲だし」
2日目以降、昨日までの進行状況は以下の通りであった。
2日目 椎応大学構内の、正門前、中庭、図書室の3ヵ所で撮影
3日目 椎応大学構内の、ウェイトトレーニング場、部室の屋根の上の2ヶ所で撮影
4日目 椎応大学のグラウンドで撮影
5日目 セットの仕上げの為撮休
6日目 部室にセットを組んで撮影
7日目 部室にセットを組んで撮影
8日目 部室にセットを組んで撮影
9日目 撮休
神田「そして今日が私んちで撮影と、ここまでは順調に行ってると思うわ。まあ今日の撮影はちょっと延びちゃって、明日続きやるけどね」
巴「確かにここまでは割と順調ね」
国松「そう、全て順調!笹原恵子監督ばんざーい!(両手を挙げる)」
スー「(碇司令似の声とポーズで)問題無イ、全テハしなりお通リダ」


356 名前:30人いる! その195 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:17:00 ID:???
浅田「記念撮影のシーンの撮影が延びたのは、却って良かったよ。初日だと日差し強過ぎて、春の入学シーズンを再現するの難しかったかも」
岸野「2日目は朝の内は少し雲ってたからね」
沢田「まあ確かに、2日目はサクサク進んだわよね。全部大学構内とは言え、3ヵ所での撮影滞り無く終わったし」
豪田「その代わり、荻様大変だったけどね」

2日目、最初に撮影したのは、夏美と冬樹の大学入学という設定を説明する為の、秋との正門前での記念撮影というシーンで、次の様な段取りで行なわれた。
先ず正門の表札のすぐ横に、秋と夏美(または冬樹)が並び、その正面にカメラマン4人が並ぶ。
今回は屋外での撮影なので、豪田はライトの代わりにレフ板を持って、カメラマンたちの左手に付く。
椎応大学の正門は南向きで撮影が午前中なので、正門付近は右手から太陽光線が当たるからだ。
レフ板というと一見被写体を照らすのが目的に見えるかも知れないが、それはライトのように明るくすることよりも、むしろ太陽光線を抑える役割を負っている。
(もちろん太陽の死角になる所では、被写体を照らす為に使われるが)
太陽光線はカメラの照明用としては光量が大き過ぎるのだ。
そこで反対の角度からレフ板で太陽光線を反射させて当てることで、被写体に当たる太陽光線を中和する訳だ。
屋内の撮影で、ライト2つで照らすのと同じ理屈である。
あとのメンバーは、例によって録音の沢田、記録の神田、助監督の伊藤、そして監督の恵子がカメラマンと被写体の役者2人を取り囲む。



357 名前:30人いる! その196 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:20:04 ID:???
そして残りのメンバーは、正門の両サイドの道路で通行規制をやっていた。
幸い正門前の道は一方通行なので楽だった。
車が途切れた瞬間を狙って、道路を封鎖して恵子に合図を送り、恵子はその合図で撮影開始し、恵子の「カット!」に合わせて封鎖を解くという手順だ。
通勤通学の時間帯より少し後の時間だし、所要時間数十秒なので、殆どの車は大して文句も言わず待ってくれた。
歩行者の方は、反対側の歩道→正門の前→道路横断して正門通過という道順で誘導する。
フレームに入るのは正門の表札の横の塀の一角のエリアなので、これなら迂回してもらえば正門を普通に出入り出来る。

撮影はサクサクと進んだ。
先ず秋ママ役の大野さんと夏美役の巴が記念撮影風に並んだところを撮影する。
続いて巴が冬樹役の有吉と交代して、同様に撮影する。
両シーン共、8ミリとビデオで撮影すると同時に、クッチーがデジカメで写真も撮る。
8ミリとビデオの素材だけで、上手く記念撮影の感じが作れない時の為の保険だ。
止め画の撮影には、引き伸ばして現像した写真を改めて8ミリやビデオで撮影し直すのがベストなのだ。


358 名前:30人いる! その197 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:22:57 ID:???
ひと通り撮影が終わり、現視研一行が次の撮影場所へ移動すべく撤収にかかろうとしたその時、恵子がそれを止めた。
「ちょっと待て、今のシーンだけど、ちょっと追加しないか?」
一同「追加?」
恵子「ほらっ、アニメとか漫画だと、こういう記念撮影の時、乱入とかあるだろ?」
浅田「ああ、よくありますね」
恵子「でさあ、ケロロ乱入させちゃあどうだろ?」
この明るいのに、伊藤の猫目が輝いた。
「なるほど、つまりこういう感じですニャー。夏美の記念撮影の時に、シャッター押す瞬間にケロロが割り込んで、夏美キレてケロロどつくと」
沢田「で、ついでに写真撮影担当の冬樹が苦笑いとか」
伊藤「そうそう、そういう感じだニャー。どうですか監督?」
恵子「それで行こう。千里、姉さん、ケロロの準備よろしく!」
荻上「ちょっ、ちょっと待って!今日普通の下着しか着てないし!」
恵子「何か問題ある?」
国松「ここだとカット直後に着ぐるみ脱げませんよ」
着ぐるみでの撮影は、スーツアクターにとって過酷な作業だ。
特撮の撮影時には、ワンカットごとに助監督が着ぐるみのファスナーを降ろして上半身だけ脱がせる。
着たまま次のシーン撮影の準備を待っていては、スーツアクターの身が持たないからだ。



359 名前:30人いる! その198 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:50:45 ID:???
恵子「撮影済んですぐに部室帰って脱ぎゃいいんじゃねえか?」
国松「ケロロスーツでサークル棟の屋上までは持ちませんよ」
恵子「そんじゃあさあ…そうだ日垣、午後からの撮影で使うギロロのテント、今すぐ用意してくれ」
日垣「テントっすか?」
この日のあとの予定は、図書館にて大学入学後の冬樹の様子を説明する為のカットと、中庭にてギロロの近況を説明する為のカットを撮影する予定だ。
中庭でのシーンではギロロのテントを実際に張り、その前でギロロが例によって武器を磨いているところを撮影する。
本当は日向家のロケ地である神田宅で撮りたかったのだが、神田宅の庭は芝生の面積が狭かったので、芝生の豊富な大学の中庭をロケ地に選んだのだ。
小道具係の日垣は、浅田のテントを借りてギロロテント風の目玉を描き込んでいた。
巴「なるほど、ギロロテントを更衣室に使おうという訳ですね」
恵子「そういうことだ」
国松「中庭までなら歩いて1分もかからないから、何とかなりますね」
恵子「つう訳で、姉さんよろしく」
荻上「…分かりました」
急遽決まった初陣に、ちょっと緊張する荻上会長だった。
日垣「そんじゃあテント張って来ます」
国松「そんじゃ私、部室へケロロのスーツ取りに行ってます」



360 名前:30人いる! その199 sage 投稿日:2007/12/09(日) 23:52:22 ID:???
テントを張る間、大野さんと荻上会長と巴でリハーサルを行なう。
それをみんなで見つつ意見を出し合って調整して行く。
豪田「シャッター押す瞬間に、マリアの後ろから荻様がヒョコッと顔出す感じでいいんじゃない?」
伊藤「そうそう、そんで夏美が『どっから湧いて出た、このボケガエル〜!』って感じでケロロ追っかけると」
神田「で、冬樹がハハハと苦笑いと」
藪崎「それやったら、夏美がケロロ蹴ろうとするぐらいやらんと」
荻上「…そうね」
一同「会長?!」
荻上「(ニヤリと笑い)どうせやるなら、それぐらいはやらないとね」
藪崎「おうオギー、遂に芸人魂に目覚めたな」
荻上「そんなんじゃないわよ。やるからには徹底的にやりたいだけよ」
スー「イヤコノ場合、テッテ的トイウノガ正シイ文法ダ」
神田「スーちゃんってほんと、つげ義春好きね…」

やがてテントが張り終わり、撮影が再開された。
荻上会長の着替えの間に、冬樹がカメラを持って苦笑いするシーンを撮る。
有吉はブレザーの上着を脱いでカッターシャツ1枚になった。
自分の入学式と同じ格好では変だからだ。
そしてクッチーの使っていたカメラを持ち、先程まで撮影スタッフが居た方でスタンバる。
一方撮影スタッフたちは、大学の塀側の先程まで大野さんたちが居た方から撮影する。
今度は逆光気味になるので、レフ板担当の豪田が太陽光線を反射させて有吉に当てる。
急遽決まったシーンだったが、芸達者なとこを見せて、有吉のハハハ(汗)な苦笑いは1発でオッケーとなった。



361 名前:30人いる! その200 sage 投稿日:2007/12/10(月) 00:06:33 ID:???
国松「どうですか会長、動けそうですか?」
荻上「何とかね。それにしても、やっぱり外でこの格好は暑いわね」
ギロロテントの中での着替えは、思った以上にやりにくかった。
当初国松と荻上会長の2人で入って、国松が着付けを手伝おうとした。
だが2人で入るだけなら問題なかったギロロテントも、着ぐるみの着付けに使うとなると狭かった。
そこで一旦国松が外へ出て、荻上会長1人で途中まで着込んでテントの入り口前で背中を向け、国松が外からファスナーを上げるという手順で着込んだ。
ちなみにこの間、日垣とクッチーは門番のようにテント前で見張っていた。
国松の誘導で荻上会長は正門へと向かい、クッチーもそれに続く。
着ぐるみは視界が悪いので、慣れない内は歩くことすら困難なのだ。
日垣はそのままテント前に残った。
テントそのものと、テント内に残った荻上会長の私服を見張る為だ。

ケロロスーツ姿の荻上会長は、正門までの道のりでも、正門を出て撮影場所に戻ってからも、周囲の注目を集めた。
特に正門を出てからは、親子連れが通り掛ると子供が「あっケロロだ!」と指差して叫んだりする。
大野「大人気ですね、荻上さんのケロロ」
国松「着ぐるみの視界悪いのが幸いしましたね。これで周囲しっかり見えてたら、会長恥ずかしがり屋さんだから、大変だったろうな」



362 名前:30人いる! その201 sage 投稿日:2007/12/10(月) 00:08:36 ID:???
台場「そうでもないかもよ、見て」
一同が見ると、ケロロスーツの荻上会長はノリにノッていた。
道行く人々に、手を振ったり敬礼したりしつつ、「我輩ケロロ軍曹であります!」などと挨拶したり、歩いたりラジオ体操みたいな動きをしたりしている。
大野「コスプレ精神ですね。すっかりキャラになり切ってますね」
朽木「いやあ着ぐるみの魔力ですな。わたくしも初めて着た時には頑張ってしまいましたからなあ」
浅田「いやあれは朽木先輩が特別なんだと思いますよ」
伊藤「仮面劇特有のなり切り感だと思いますニャー」
恵子「おおい、んなことより撮影始めんぞ。でねえと姉さんまいっちまうし」

こうして問題のケロロ乱入シーンの撮影が始まった。
大野さんと巴が先程同様塀際に並び、その後ろからヒョコッとケロロスーツの荻上会長が顔を出す。
そして巴がそれに気付いて怒った顔をし、逃げるケロロを蹴ろうとするという流れだ。
このシーンもまた、同時にクッチーが写真を撮る。
次の3カットの止め画の連続の方が面白いかも知れないということで、その素材用にだ。
1)記念撮影の瞬間にケロロ顔出す
2)それに気付いて驚く夏美
3)逃げるケロロを蹴ろうとする夏美



363 名前:30人いる! その202 sage 投稿日:2007/12/10(月) 00:10:08 ID:???
撮影は奇跡的に1発オッケーとなった。
どうやら荻上会長、動き回っている内に、着ぐるみ特有の視界や距離感やバランス感を体得したようだ。
ヒョコッと夏美の後ろから顔を出して、トンズラ〜という感じで逃げ去る動きをコミカルに演じた。
(この時荻上会長は、体を前屈みにして腰を少し落として走ることで、ケロロの方が夏美と秋よりも小さく見えるようにすることを忘れなかった)
巴はそれに対し、ややオーバーアクション気味にケロロに驚き、ヤクザキック風に足を振り上げて蹴ろうとする。
ついでに言うと、大野さんはそれを見て「おやおや、しょうがないわね」といった感じの表情をする小芝居をしていた。

荻上会長は着替えにかかるべく、急いでギロロテントに向かい、着付け係の国松も続く。
そして先程同様、テントの入口で背中のファスナーを下ろしてもらい、一気にケロロスーツを脱いだ。
国松「大丈夫ですか会長?」
テントに入って国松が尋ねる。
荻上「ああ暑い〜!やっぱり着ぐるみで炎天下で動くのって、10分か15分ぐらいが限度ね」
テントの中では、荻上会長は下着姿になってタオルで汗を拭いていた。
国松はその傍らで、下敷きでパタパタと扇いであげる。
荻上「悪いけど日垣君、しばらく前で見張ってて。着替える前にちょっとだけ涼むから」
日垣「了解です」



364 名前:30人いる! その203 sage 投稿日:2007/12/10(月) 00:11:58 ID:???
そこへ少し早い昼飯を持った斑目が通りかかった。
日垣「あっ斑目さん、こんにちは」
斑目「よう。うわっこれギロロのテントじゃないの。よく出来てるなあ。中やっぱり武器とかあるの?」
そう言うなり斑目、テントにスッと近付いた。
何時になく素早い動きに、日垣は斑目が入り口をヒョイと開けるのを止め損ねた。
間の悪いことに、ちょうどその時荻上会長は、汗で濡れたブラを前に引っ張って、微乳を露わにしたところだった。
「き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!」
荻上会長の悲鳴が大学構内に轟いた。

再び居酒屋。
日垣「あん時は大変だったなあ。会長には悪いことしたよ、止めるの遅れちゃって」
巴「シゲさんも大変だったわよ」
豪田「また気絶しちゃったもんね。そんで加藤さんに活入れてもらって」
国松「まあでもおかげで、撮影終わってから私と彩と会長と3人でビキニ買いに行く計画、スムーズに進んだから、結果オーライよ」
有吉「『鬼だよ国松さん…』会長の払った犠牲は大きかったけどね」
急にクスクスと笑い出す国松。
豪田「どした?笑い上戸?」
国松「あん時の会長、悲鳴がケロロになってたわね」
日垣「なってたね、確かに」
台場「確かに正門前からでも聞こえたわね、『きーやー!』って」
「きーやー!」とはケロロ特有の「きゃー!」という悲鳴の表現で、アニメでもそのまんまの叫び方をしている。


365 名前:30人いる! その204 sage 投稿日:2007/12/10(月) 00:13:44 ID:???
結局2日目の撮影は、荻上会長の「きーやー!」騒動以降は、順調にサクサクと進んだ。
先にテントを張ってしまったので、急遽前倒しでギロロがテント前で武器を磨くシーンを先に撮り、昼食を挟んで図書室で冬樹が本を積み上げて調べものをするシーンを撮った。
共に動きが少ないシーンのせいもあって、1発オッケーとなった。

再び居酒屋。
浅田「あの日の遅れは追加カット分だけで、あとは順番が変わっただけだったし、まあ順調な方だったね」
巴「千里も初の出番だったのに、よく1発オッケーだったわね」
国松「まあ動き少ないし、台詞も無かったからね」
アンジェラ「その代わり会長さんにはきつい1日だったあるね」
台場「まあね。シゲさんに裸見られるわ、図書室での撮影が届けてた時間より遅れたせいで自治会には怒られるわ、散々だったもんね」

「何よそんくらい、ヒック、私に比べりゃどってことないわよ」
唐突な声に一同が目を向けると、何時の間にか空の一升瓶を抱え、スッカリ出来上がっている沢田が居た。
目が据わっている。
一同「ひっ?」
沢田「私なんかね、ヒック、危うく死ぬかと、ヒック、思ったわよ、撮影中にね」
スー「死ンダラドウスル!」
台場「まあ確かに、3日目は彩大変だったもんね」
有吉「ニャー子先輩もね」
伊藤「そして僕も、えらい目に遭いましたニャー」
豪田「そうそう、ほんと3日目は3人の厄日だったわよね」



391 名前:30人いる! その205 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:42:40 ID:???
クランクインから3日目の朝。
現視研一行は、椎応大学構内のウェイトトレーニング場(以下ウェトレ場)に居た。
椎応大学のウェトレ場の大きな特徴は、ウェイトトレーニング(以下ウェトレ)の為の設備の他に、ボクシング等の打撃格闘技のジムとしての設備も充実していることだ。
サンドバッグが大小2つずつ、パンチングボールがシングルとダブル各1つずつ、縄跳びやシャドウ用の姿見付きの壁際のスペース、そしてリングまである。
もちろんウェトレの設備も充実している。
バーベルやダンベルや鉄アレイは各種揃っているし、ベンチプレス用のベンチ等補助的な器具もひと通り揃っている。
油圧で重量を調整するタイプのマシンも数種類ある。
(筆者注)多少誇張してあるが、筆者の母校の大学のウェトレ場はこういう感じだった。

この日、ウェトレ場が2時間も借りられたことは奇跡に近かった。。
最近はメジャーなスポーツの殆どが、練習メニューにウェトレを取り入れているので、比較的人数の少ない2〜3のクラブが、同時間帯に合同で使ってることも珍しくない。
その上打撃格闘技系ではボクシング部を筆頭に、キックボクシング部、シュートボクシング同好会、ムエタイ研究会等が、入り乱れてジム系の練習に励んでいる。
さらに最近ではその流れに、空手部や日本拳法部までも参入して来ている。
この大学の空手部は基本伝統派(いわゆる寸止め)なのだが、彼らは同時に空手オタの集団でもあるので、あらゆるルールの大会に参加している。
その為グラブをはめてリングで戦う練習にも熱心だった。
(そういうルールの大会が実在する)
日本拳法部も、リングで戦うルールの試合もある(最近の大会は空手同様マット上で行なわれることが多いが)ので、時折ここで練習している。



392 名前:30人いる! その206 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:45:51 ID:???
この場所を借りられたのは、プロデューサーの台場の奮闘によるところが大きかった。
体育会本部に何度も足を運び、粘り強く説得を続け、遂にこの時間帯の使用許可を勝ち得たのだ。
まあもっとも、決定打になったのはエロパロ系同人誌進呈という、いささかワイロじみた力技であった。
最近は体育会にもオタク系の部員が多く、アニメや漫画がきっかけでその部のスポーツを始めたという者も多い。
その為体育会各部には、それぞれその部のスポーツを題材にしたアニメや漫画のファンも多く、その作品を題材にした同人誌を進呈することで説得工作はスムーズに進んだ。
ちょうどいいことに現視研には、通常の同人ショップやイベントでは手に入らない、マニアックでマイナーで普通あり得ない、あらゆる種類の同人誌の在庫が山ほどあった。
父も母も兄も同人誌作る側のオタである神田が、夏コミの際に家族の知り合いのサークルからもらってきた、別名神田ボックスと呼ばれる品々だ。
(この辺の詳しい経緯は「26人いる!」の夏コミ初日の話を参照)
その為、椎応大学の殆どの体育会系クラブやサークルに対し、そのクラブやサークルのスポーツをテーマにした漫画やアニメのエロパロ本を進呈することが出来た。
(ちなみに神田ボックスにすら在庫の無いマイナー種目のクラブには、ジャンル関係無しで部員の好きなアニメや漫画を題材にしたエロパロ同人誌を進呈した)



393 名前:30人いる! その207 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:49:47 ID:???
この日、午前中はここウェトレ場でタママの近況を説明するシーンを撮影し、午後からは部室の屋根の上でドロロの近況を説明するシーンを撮影する。
格闘家でもあるタママは、日々居候先の西澤家のトレーニングルームで鍛錬に励んでいるので、ここをロケ地に選んだのだ。
タママのシーンの撮影は、先ずマシンの重量メーターをアップで撮影し、続いてタママがマシンでウェトレに励むシーンを撮影するという手順で行なわれる。
最初に最大値に設定してあるメーターの針が上下するところを見せて、次にタママが実際にウェトレをするところを見せることで、猛特訓に励んでるという画を作ろうという訳だ。
(注釈)
油圧式のウェトレマシンは、最初に設定した重量と実際に挙げる重量が異なる。
この種のマシンは、レバー等を持ち上げたり引いたりすることで重量が次第にアップするので、動作後の重量を見て調節する。
例えば100キロ挙げようとすれば、70キロから80キロに設定するという具合だ。
(この数値は適当で、種目や機種やメーカーや使う人の体格により異なる)

タママ役のニャー子が着替えるまでの間に、先にメーターのアップの撮影をする。
先ずベンチプレス用のマシンのメーターを最大に上げる。
そしてそれを日垣とクッチーが2人ががりで持ち上げ、それによって針が上下するメーターを浅田と岸野が至近距離で撮影する。
さらにその後方3メートルほどの所に立った加藤さんと藪崎さんが、浅田と岸野が左右に退くと同時にズームでメーターを撮影する。
一緒に並んで撮ってもよかったのだが、ズーム撮影の練習を兼ねての措置だ。
日垣とクッチーが2人がかりで持ち上げたのは、マシンの最大重量が200キロだからだ。
さすがに怪力揃いの今の現視研にも、単独で200キロをベンチプレスで挙げられる者は居なかった。



394 名前:30人いる! その208 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:52:07 ID:???
メーターのアップの撮影が行なわれている間、ウェトレ場の隅っこではニャー子のタママスーツの着付けを国松が手伝っていた。
組み立て式の簡易更衣室を使ってだ。
かつて春日部さんがコスプレの際に使用し、卒業後現視研に寄贈した品だ。
2日目の騒動で懲りた荻上会長が、以前に寄贈されたことを思い出し、急遽用意したのだ。
これなら着替える場所を選ばずに済むし、高さがあるのでテントよりは着替えやすい。

「お待たせですぅ」
ちょうどメーターの撮影が終わった頃、タママスーツ姿のニャー子が現れた。
伊藤「あらま、すっかりタママ口調になってますニャー」
大野「コスプレ精神ですね」
加藤「なかなか似合うじゃない」
ニャー子「どうもですぅ」
藪崎「ほんまなり切っとるな」
国松「それじゃあニャー子さん、目と口変えますから、ちょっとじっとしてて下さい」
ニャー子「了解ですぅ」
一同「目と口?」
ベリッという音と共に、国松はタママの目と口を剥がした。
「き〜〜〜〜や〜〜〜〜!!!」
のっぺらタママに悲鳴を上げる一同。


395 名前:30人いる! その209 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:55:06 ID:???
国松「慌てないでよ」
スー「慌テルンジャネエ、どさんぴん!」
国松は片手に持っていたポシェットを開き、先ほど剥がした目と口を仕舞い込み、別の目と口を出してのっぺらタママに貼り付けた。
一同「おー!」
タママの表情が変わった。
先ほどまではクリッとした目と可愛らしい口だったが、今は血走った目と歯を剥いた口に変わっている。
嫉妬に狂った時や鍛錬中の時等に見せる顔だ。
国松「ケロン人スーツの目と口は裏がマジックテープになってて、自由に脱着出来るのよ」
言いながらポシェットから数種類の目や口を出す。
涙目や釣り目などが見える。
荻上「なるほど、これでケロロたちの表情を作ろうという訳ね」
国松「そういうことです」
浅田「目と口は飾りでありますってことだね」
豪田「中の人の本物の目はどこにあるの?」
国松「(タママの目と鼻の間の辺りを指差し)この辺になるわ」
豪田「(国松が指差した所に目を近づけ)あっほんとだ」
国松「そこだけスポンジ薄くして、メッシュ地で仕上げてあるのよ」
豪田「これなら中の人の目、外からじゃかなり分かりにくいわね」
有吉「獣神サンダーライガーとかストロングマシーンのマスクみたいなもんだね」
(注釈)
有吉が名前を挙げたのは、いずれも覆面レスラー。
マスクがメッシュ地で出来ていて、従来の覆面レスラーのように中の人の目が外からは見えない。


396 名前:30人いる! その210 sage 投稿日:2007/12/24(月) 17:58:44 ID:???
いよいよベンチプレスのマシンでトレーニングをするシーンの撮影に入る。
タママスーツのニャー子がマシンのベンチに寝て、レバーを握る。
マシンのウェイトは最低まで下げてあるので油圧による負荷は無く、機械本体のレバーやパイプ等の部品そのものの、最小限の分の負荷しか掛からない。
加藤さんと藪崎さんは、タママの脚の方からカメラを構える。
そして浅田と岸野は、マシンを挟むように配置された、2つの大型の脚立の間に渡された、細長い金属板の足場の上からカメラを構える。
ベンチプレスをするタママを真上から撮ろうという訳だ。
ちなみにこの脚立と足場の板は、サークル自治会から借りた。
学祭等のイベントの際の、飾り付け等の作業用に持っていたのだ。
伊藤「ではシーン9、西澤家トレーニングルームの本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意スタート!」

10分後、ニャー子はへばっていた。
ストレッチ用にマットの敷かれたスペースで、着ぐるみを脱いで寝そべっていた。
その傍らでは、伊藤が下敷きであおいであげていた。
ニャー子はビキニ姿だった。
しかも黒のビキニだ。
淫靡な大人の下着を連想させる黒のビキニ姿に、男子会員たちはドギマギしつつもチラチラ見ていた。


397 名前:30人いる! その211 sage 投稿日:2007/12/24(月) 18:00:16 ID:???
撮影は1発オッケーだったが、その間ニャー子は5回レバーを押し上げた。
全身を震わせながら、思い切り「ふんぬ〜〜〜!!!」と気合いを入れ、なかなかの名演技であった。
藪崎「何や、えらいへばっとんな。たかが5回やそこら挙げたぐらいで」
ニャー子「何か凄く重かったですニャー、あのマシンのレバー」
藪崎「またまた、男の前やからって、そないか弱いふりせんでもええやろ」
巴「着ぐるみのせいじゃないですか。ニャー子さん、今日が着ぐるみでの演技初めてだし」
その時、クッチーが奇声を上げた。
「にょっ?!」
一同が見ると、先程までニャー子が寝ていたベンチプレスのマシンに、クッチーが寝てレバーを挙げていた。
神田「どしたんですか、クッチー先輩?」
朽木「いやね、えらくニャー子ちゃんが重そうに挙げてたんで、試しに挙げてみたらけっこうあったのよ、ウェイトが」
日垣「どれどれ」
傍らに立っていた日垣がレバーを持ち上げてみる。
日垣「あれっ?確かに重いですね」
今度は岸野が近付き、レバーを上げる。
何か考えてるような表情で、数回上げ下げする。



401 名前:30人いる! その212 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:09:54 ID:???
岸野「分かった。錆びてるよ、このマシン」
一同「えっ?」
岸野「多分このマシン、長いこと油差してないね。マシンのきしむ音で分かった」
朽木「なるほど、それでこの重さなのか」
日垣「どれぐらいありそうですか?」
朽木「正確には分からんけど、多分少なくとも30キロぐらいはありそうだのう」
一同「30キロ?!」
ニャー子「道理で重い訳ですニャー」
伊藤「えらい災難だったね、ニャー子ちゃん」
国松「まあおかげでいい画が撮れたんだし、怪我の功名ね」
一同『鬼だよ国松さん(千里)…』
国松「ですよね、監督?」
それには応えず、恵子は何やら考え込んでいた。
国松「監督?」
恵子「いやさあ、せっかくこれだけの設備が整ってるんだし、まだ時間が余ってるし、何かやらないともったいないかなと思ってさ」
国松「何か?」
沢田「ひょっとして監督、トレーニングシーンをもうちょっと撮り足したいと?」
恵子「それでどういうのがいいかなと思ってさ」
巴「マシンはあと5種類ありますから、それ順にやってけばどうです?」
浅田「でもそれだと画的には単調になりそうだね」
豪田「かと言って、バーベルやダンベルだと、ニャー子さん使える重量だと迫力無いし」



402 名前:30人いる! その213 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:11:23 ID:???
その時国松の頭の中でピンッという音が鳴った。
国松「日垣君、ちょっとサンドバッグ殴ってみてくれる?」
日垣「俺?」
不審に思いつつも応じる日垣。
国松は日垣の左側に回り、その様子を両手の親指と人差し指で作った四角越しに凝視する。
日垣は最近クッチーから空手を習い始めていた。
撮影の後半のクライマックスである、ベムとアルの肉弾戦の為の基礎を作って置こうという訳だ。
その成果があってか、日垣が殴るサンドバッグはそれなりの音を立てて揺れた。
国松「ストップ。そんじゃあ次はそこから10センチか20センチぐらい、パンチが当たらない距離で打ってみて」
言われた通りにする日垣。
今度はパンチが当たらない距離をとったから、当然サンドバッグは動かない。
国松はそれを真剣な顔で見つめる。
国松「ストップ。クッチー先輩」
朽木「にょっ?」
国松「お手数ですが、日垣君の右斜め前45度の辺りに立って頂けますか?」
朽木「(言われた通りにして)ここでいいかのう」
国松「そこから左フックを打ってみて下さい」
朽木「?こうかな?」
言われた通りに左フックを打つクッチー。
日垣の方が体格と筋力はあるが、そこは一日の長でクッチーのフックの方が威力があり、先程よりも大きくサンドバッグが揺れる。
またも国松はそれを真剣な顔で見つめる。



403 名前:30人いる! その214 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:13:09 ID:???
恵子「何やってるんだ、千里?」
国松「監督がお望みの画が撮れるかも知れませんよ」
恵子「どうやるんだ?」
国松「ニャー子さんにパンチが届かず、しかもパンチの手元の見えない距離で、サンドバッグに向かってパンチを打ってもらうんです」
有吉「分かった!その横でカメラに入らない角度から朽木先輩にサンドバッグ殴ってもらって、タママがサンドバッグ殴って揺らしてる画を撮ろうって訳だね」
国松「そういうこと」
巴「でもニャー子さん、パンチ打てるの?」
ニャー子「私ボクシングや空手はやったことないですニャー」
国松「そこでクッチー先輩、今からニャー子さんにパンチの打ち方を教えてあげて下さい。基本のワンツーだけで構わないですから」
朽木「それはいいけど、今からだと形だけは何とか様にはなっても、スピードまでは無理だにょー」
国松「形だけ何とかして頂ければそれでいいです。カメラの回転を低速で撮影すれば、標準で再生した時には高速パンチになりますから。いいですか、監督?」
恵子「わーった、それで行こう。クッチー、それで頼む」
朽木「アイアイサー!」

こうしてジムの片隅で、クッチーとニャー子の空手特訓が始まった。
ひょろ長い馬面の男が黒いビキニの猫顔美少女(厳密には2年生だから今年推定20歳だが)に左ジャブからの右ストレートという基本のワンツーを教える。
そんな奇妙な光景が十数分続き、ニャー子は形だけは何とかそれらしくパンチを打てるようになった。
恵子「よーし、そんじゃあ本番行ってみようか」


404 名前:30人いる! その215 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:15:19 ID:???
それから約30分後、再びニャー子はへばっていた。
先程よりへばり方がひどい。
左右交互に10発ストレートを打つ、結局ニャー子はそれを10回繰り返す破目になった。
最初の3回はNGだった。
クッチーのパンチとタイミングがずれたり、クッチーがパンチを強く打ち過ぎた為にサンドバッグが揺れ過ぎて、クッチーが映ってしまったりした為だ。
4回目でようやくベストな画が撮れた。
だがそこで恵子が新たな提案をした。
「なあクッチー、ちょっとローキック蹴ってみてくれない?」
朽木「こうですかのう?」
クッチーはローキックを放った。
サンドバッグがくの字に曲がり、先程までのパンチよりも大きく揺れた。
恵子「よし、もう1回撮ろう」
一同「えっ?」
恵子「ニャー子さん、わりいけどもう1回頼むわ。そんで最後の1発打つ時、大振りでいいから思い切り打ってくれや」
ニャー子「分かりましたニャー」
朽木「なるほど、それに合わせてローを放って、タママのラストパンチでサンドバッグ大揺れという画を作ろうという訳ですな」
恵子「そういうことだ」



405 名前:30人いる! その216 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:17:43 ID:???
ここで再び3回NGとなった。
最後の1発の際、クッチー(正確にはその蹴り足)がどうしても映ってしまうからだ。
考え込む一同。
そこで有吉がアイディアを出した。
「朽木先輩、左の回し蹴りを出しながら右へ跳ぶように出来ますか?」
朽木「(しばし考え)こういう感じかのう?」
クッチーは右横へ横っ飛びしつつ、左足で回し蹴りを放った。
形はなかなか様になっているが、今ひとつ蹴り足に体重が乗りにくいらしく、サンドバッグの揺れは先程よりも小さい。
有吉はストレッチ用のマットをクッチーの右側に持ってきた。
有吉「このマットに向かって飛び込むみたいな感じで、もう1回お願いします」
朽木「こうかな?」
サッカーのゴールキーパーのように横っ飛びしつつ、クッチーは左の蹴りを放った。
今度は普通に回し蹴りを放った時と同様にサンドバッグが大きく揺れ、しかもクッチーの姿はちゃんとカメラの死角に入った。
感心する一同。
豪田「今クッチー先輩にやってもらったのって、もしかしてプロレス技なの?」
有吉「昔木村健吾ってプロレスラーが使ってた、稲妻レッグラリアートって技だよ」
恵子「よし、それで行こう!」
こうして再び撮影が始まった。
ニャー子がパンチ10連発し、最後の1発に合わせてクッチーがレッグラリアートでサンドバッグを大きく揺らすという手順だ。
結局これも最初の2回はタイミングが合わず、3回目でようやくオッケーとなった。


406 名前:30人いる! その217 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:19:49 ID:???
こうして都合10回にも及ぶパンチ10連発で、すっかりニャー子はまいっていた。
伊藤「大丈夫、ニャー子ちゃん?」
ニャー子「(息を乱し)呼吸が…苦しいニャー」
アンジェラ「HEYイトー、そういう時は酸素を直接送り込めばいいあるよ」
伊藤「(赤面し)そっ、それってもしや?」
アンジェラ「てゆうか人工呼吸?」
浅田「この場合はあんまし関係無いと思うけど」
藪崎「言わしといたり。もはやあれアンジェラの持ちネタやから」
だがニャー子はマジ顔で答えた。
「人工呼吸がファーストキスは嫌ですニャー」
恵子「何だお前ら、まだしてなかったのか?」
赤面する猫カップル。
恵子「よっしゃいい機会だ。伊藤、この際ニャー子さんに初めてのチューやったれ!」
一同「え〜〜〜!!!!!!!!」
見つめ合う猫カップル。
伊藤「いい?」
ニャー子「先にちゃんと告ってニャー」
言いながら四つん這いの体勢で、上目使いに伊藤を見つめるニャー子。
その萌え表情と萌えポーズ、それに黒ビキニと汗のにおいが伊藤の獣性に火を点けた。
「大好きだよニャー子ちゃん!」
そう叫ぶや伊藤、ニャー子を押し倒して情熱的なキスをした。



407 名前:30人いる! その218 sage 投稿日:2007/12/24(月) 19:22:01 ID:???
現視研一同はそれを見て、赤面で固まっていた。
キス未経験の1年生たちはもちろん、経験者の大野さんや荻上会長までもが固まっていた。
アンジェラだけはニコニコしていた。
いつもなら「勝ったと思うな!」とかツッコむ藪崎さんも、今回ばかりは声も出ない。
豪田「伊藤君って、案外情熱的なのね…」
巴「いやもうあれ、完全にさかってない?」
巴の言う通り、伊藤のニャー子を抱いた手や下半身は、妖しい動きを見せ始めていた。
そんな中、意外と早く立ち直ったのは荻上会長だった。
2人に近付くと、伊藤の首根っこをつまんで引っ張り上げる。
細腕に似合わず、荻上会長には意外と握力があり、中でもピンチ力(親指と人差し指でつまむ力)はずば抜けていた。
(「26人いる!」の2日目の話参照)
その荻上会長に首根っこをつままれてはひとたまりも無い。
伊藤「痛たたたたたたた!」
荻上「気持ちは分かるけど、その先は2人っきりになってからにしなさい!」
伊藤「ごめんなさいニャー」
ニャー子「あのう、私はこのまま続きしてくれてもいいですニャー」
赤面する一同。
荻上「(赤面し)絶対ダメです!」



410 名前:30人いる! その219 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:09:59 ID:???
その時一同は、背後に異様な気配を感じて振り向いた。
そこには黒いオーラを放つタママの姿があった。
一同「タママ?」
浅田「誰?」
周囲を見渡して、ケロロ小隊役の小柄女子5人を確認する一同。
荻上会長、ニャー子、国松、沢田、残るはただ1人だ。
一同「スーちゃん?」
国松「確かにスーちゃんだわ、見て」
タママの足元を指差す国松。
その指先には、先程までスーが着ていた服が脱ぎ散らかしてあった。
スー「(ダークサイド版の小桜エツ子似の声で)イイナア、ウラヤマシイナア、伊藤君ダケズルイデスゥ、僕モシタイデスゥ」
スーの放つ黒い電波は、普段大人しい男子会員たちの心の奥底に嫉妬の炎を灯した。
有吉「確かに伊藤君ばっかずるいよねえ」
浅田「だよね」
岸野「俺たちだってキスしたいよねえ」
日垣「でもニャー子さんにする訳にも行かないしねえ」
豪田「うわあ男の子たちからも黒いオーラが…」
止めようと荻上会長が駆け寄ろうとしたその時、クッチーがトンデモ提案をした。
「ここはひとつ穏便に、伊藤君に幸せをお裾分けしてもらいましょう」
日垣「でもどうやってですか?」
朽木「今伊藤君にキスしたら、ニャー子ちゃんと間接キスしたことになるにょー」
一同「え〜〜〜?!!!」



411 名前:30人いる! その220 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:14:04 ID:???
男子会員たちの目の色が変わった。
有吉「いいですね、それ」
浅田「まあ次善の策ってやつですね」
一斉に妖しい目を向けて、伊藤に迫る男子一同。
伊藤「ひっ?」
必死で逃げつつ、伊藤は女子会員たちに救いを求めようとした。
だがそれは無駄だった。
女子たちは全員赤面しつつ、心ここにあらずの状態だった。
伊藤「全員ワープしてるニャー!」
元々腐女子だった者はもちろん、国松や神田までもがワープしている。
ふと振り返ると、ニャー子までもがワープしていた。
伊藤「ニャー子ちゃんまで…そうだ!腐女子以前にオタクですらない監督なら!」
恵子を目で探した伊藤、ステンと派手にずっこけた。
今や半分浅田の愛機と化している、ビデオカメラDVX100を恵子が構えていたからだ。
伊藤「何撮ってるんすか、監督?!」
恵子「あっこれか?この前浅田にカメラの使い方教えてもらってさあ」
伊藤「いや、そうじゃなくて…」
恵子「安心しろ。お前とニャー子さんのキスはちゃんと撮ってやったから。後は男子とのチューも撮ったらメイキング映像の方は完璧だ」
呆然としたところで、伊藤は男子たちに取り押さえられた。
四肢を浅田と岸野と日垣とクッチーにガッチリと捕らえられ、そこへ有吉が迫る。



412 名前:30人いる! その221 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:15:59 ID:???
伊藤「待って!有吉君!落ち着いて!」
スータママの毒電波にプラスして、女子たちのワープ電波をも受信してか、有吉は妖しげな台詞を吐いた。
「さあおとなしく観念なさい。僕の子猫ちゃん」
妖しい目をした有吉の唇が、伊藤の唇に迫った。
伊藤「いやあああああああ!!!!!!!!!」

そこへ闖入者があった。
「おおい、やっとるかあ?社長からの差し入れ持って来てやったぞ!」
両手に大きなレジ袋をぶら下げた斑目である。
その声に殆どの者が我に返り、ウェトレ場の時間が数秒間停止した。
(荻上会長だけは意識が銀河を離れてイスカンダルを通過してしまっていたので、結局この騒動が収束するまで帰還出来なかった)
斑目「(思わず両手のレジ袋から手を離して赤面し)アッ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
1年男子一同「(赤面し斑目に呼応するように)アッ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
有吉「って、違う!違いますよ斑目さん!」
伊藤「そうですニャー、誤解ですニャー!」
斑目「前々から怪しいと思ってたけど…」
こける女子一同。
大野「怪しいと思ってたんだ、斑目さん…」
豪田「すっかりシゲさん、うちらの電波にやられたみたいですね」
朽木「いやだから斑目さん、これには深い事情が…」
斑目「くっ来るな!いやあああああああ!!!!!!!!」
斑目はウェトレ場から猛烈なスピードで走り去った。



413 名前:30人いる! その222 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:19:43 ID:???
再び居酒屋。
巴「まあ結局、私ら女子がシゲさん追いかけて、何とか事情説明して分かってもらえたけど…」
岸野「でも斑目先輩、あれから俺ら男子に対して、何か腰が引けてるんだよな」
浅田「確かに。男子と2人きりになったら急いで弁当食べて帰っちゃうもんな」
伊藤「あれは多分、まだ疑ってますニャー」
日垣「それにしてもスーちゃんの毒電波は凄かったよな。今思えば何でああいうことになったのか、自分でも説明出来ないし」
台場「そう言えばスーちゃん、みんなが伊藤君とニャー子さんに注目してたせいとは言え、よく簡易更衣室にも行かずに着替えられたわね」
豪田「ほんと、全然気付かなかったわ」
国松「まあ背中のチャックは開いてたけど、確かに物凄い早業の着替えだったわね。ダメよスーちゃん、普通の下着しか着てない日に人前で着替えちゃ」
スーは自分の荷物から、クルルのスーツを取り出した。
国松「スーちゃん?」
スー「(政宗一成似の声で)すざんぬ・ほぷきんすガけろん人すーつヲ蒸着スルたいむハ、ワズカ0,05秒ニ過ギナイ!デハ蒸着ぷろせすヲモウ1度見テミヨウ!」
言いながら脱ぎかけるスー。
一同「やらんでいい!」



414 名前:30人いる! その223 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:22:18 ID:???
3日目の午後は、ドロロの近況を説明するシーンの撮影だ。
忍者キャラで単独行動の多いドロロは、1人で屋根の上に居ることが多い。
今回はそれを再現して、ドロロは相変わらずであることを示そうという訳だ。
ロケ地は部室の屋根の上である。
屋上は殆ど現視研の敷地も同然だから長居出来る。
それに部室のプレハブは高さ3メートルかそこいらしかないし、屋根が平べったく通常の日本家屋のように傾いていないので安全だ。

とは言え、当初さすがに沢田はこの撮影を渋った。
屋根の上が好きな女の子なんて少数派だろうから無理も無い。
そこで粘り強い説得をしたのは国松だった。
プロットの段階から国松は、ドロロ絡みでこういうシーンの撮影を予想していた。
そこでドロロのスーツだけは、特別なギミックを仕込んだ。
ラペリング(ロープで降下するテクニックのこと)用のベルトをスーツに仕込み、スーツのあちこちにD字金具(ラペリング用のロープを通す金具)を接続出来るようにした。
ここにロープやピアノ線を繋いで命綱にしようという訳だ。
そういったギミックに加えて、部室のプレハブの周囲には、陸上部から借りたハイジャン用のマット等、様々なマット状の物が置かれた。
豪田作の野外ロケ用の岩型のクッション、その材料用にあちこちから集めた古い布団やクッション、それにみんなの部屋から持ち寄った布団だ。
これらの事実を並べ立てることで、ようやく沢田はドロロスーツで屋根の上に立つ決心をした。


415 名前:30人いる! その224 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:26:24 ID:???
現視研一行は本格的に撮影準備にかかった。
先ずドロロスーツ姿の沢田が部室の屋根のど真ん中に立ち、その足元に命綱代わりのピアノ線を張り巡らしていく。
ちなみにピアノ線には、屋根と似た色のペンキが塗られていた。
幸いプレハブの屋根には、四方に突き出た金具があった。
その金具と、ドロロの腰の後の刀の下に突き出たD字金具、それに足首からアンクレットのように突き出た小型のD字金具をピアノ線で繋ぐのだ。
結果ドロロスーツの沢田は、十数本のピアノ線で四方から絡め取られ、まるで蜘蛛の巣のど真ん中に落ちた虫のような格好になった。

一方撮影スタッフは、部室の前に先程ウェトレ場で使った足場をセッティングしていた。
先ず近くの工場から借りて来たパレット(フォークリフトで積み下ろしをする為に荷物を置く台)を数枚積んで、ロープでずれないように固定する。
そしてその上に脚立を置いて同様に固定し、2つの脚立の間に足場用の細長い金属板を渡す。
脚立だけでは高さが足りないから、パレットを土台に底上げしようという訳だ。
藪崎さんと加藤さんは下からあおりの画を撮影し、足場の上からは浅田と岸野が水平位置で撮影する。
足場は狭いので、足首と足場を短いロープで繋ぐ。
これなら最悪落ちても逆さ吊りで済む。
さらに少し離れた位置には、同様にパレットで作った足場に別の脚立を置き、こちらにはレフ板を持った豪田が登る。
ちなみに今回の録音は台場が務めた。
足場が足りないので、ガンマイクを竿の先に付けて屋根の上に向ける。
ある程度遠距離での録音は可能だが、屋根の上だと角度が有り過ぎるので、念の為の措置だ。


416 名前:30人いる! その225 sage 投稿日:2007/12/24(月) 20:29:38 ID:???
残ったスタッフの内、特に体力に秀でたクッチー、日垣、アンジェラ、巴の4人は、2人1組でハンモックを持ち、部室の周囲で待機する。
万が一沢田が落ちた時、クッションに直に落ちるのではなく、ハンモックで受け止めることで衝撃を和らげる為だ。
ハンモックは浅田と岸野の私物だ。
共に約200キロの重量に耐えられる代物なので、体重40キロかそこらの沢田なら、落下の衝撃を考慮しても何とか受け止められるはずだ。

撮影はセッティングだけで意外と時間がかかった。
その為セッティング待ちの間、沢田は2回もドロロスーツを屋根の上で脱いで休憩する破目になった。
ドロロのキャラに合わせてか沢田のビキニの色は青で、黒ビキニのニャー子に比べれば控えめな印象だった。
午後からの撮影なので、屋根の上はかなり暑い。
比較的身軽な国松やスーや荻上会長が、梯子で登って来て飲み物を運んだり、下敷きで扇いでくれる。
沢田は日傘を差して、それらのサービスを受けながら出番を待った。

「それではシーン10、屋根の上の本番を始めますニャー」
また別の脚立を使って、撮影用の足場の前に立ってカチンコを構えた伊藤が宣言する。
恵子「3、2、1、用意スタート!」
これだけの手間隙をかけたにも関わらず、このシーンでのドロロの演技は、屋根の真ん中で両手で印を結んで立つ、ただそれだけだった。
(ちなみに目は、瞑想中を思わせるまぶたを閉じたバージョンの物だ)



419 名前:30人いる! その226 sage 投稿日:2007/12/24(月) 21:44:53 ID:???
撮影自体は1発オッケーで終わった。
撮影前に危惧していた屋上を取り囲む金網も、ドロロに焦点を合わせることで見えにくくなっていた。
(ビデオ撮りの分で撮影後確認した)
念の為に8ミリの方は、水平位置から撮る際になるべく空をカメラの枠から外して、屋根とドロロしか映らないようにも撮ってあるから大丈夫だろう。
だがまた別の脚立に登って、てっぺんをディレクターズチェア代わりにしていた恵子は、何か不満そうだった。
国松「あのう監督、撤収していいですか?」
恵子「うーん…ちょっと待て、そのまま待機だ。屋根の上の彩もそのまま休憩させとけ」

数分後、恵子は答えを出した。
「彩、糸付いたまんま歩けるか?」
沢田「えーと(そろそろと歩き)1メートルぐらいなら」
恵子「うーん…千里、彩に付いてる糸、カメラの居る方だけ外せ」
国松「えっ?」
沢田「え〜?!」
恵子「それからさあ、その分切ったり繋いだりしてさあ、彩がこっちがわの屋根の縁まで来れるようにしてくれや」
沢田「え〜?!」



420 名前:30人いる! その227 sage 投稿日:2007/12/24(月) 21:47:31 ID:???
国松「監督、ドロロを屋根の縁ギリギリで撮影するお積りですか?」
恵子「いやあ、さっき浅田のカメラで再生してもらって見てみたんだけど、屋根が平たいせいか、何か忍者が屋根の上に居るっていう感じしないんだよな」
加藤「つまり緊張感と言うか、迫力と言うか、ハラハラ感と言うか、そういうのが画に欲しい訳ね」
珍しく加藤さんが恵子の心情を代弁した。
恵子「そういうことです」
沢田「そんな〜監督〜無理ですよ〜!!!」
恵子「心配すんな、安全対策はバッチリだから。おーい網係、こっちの屋根の下に集まれ!手の空いたもんはクッションの類い、全部こっちの下に集めろ!」

再び20分ほどの時間をかけて、ピアノ線が張り直された。
撮影用の足場も少し離される。
部室のプレハブの上から2分の1程度をドロロと共にカメラの枠に入れる為だ。
加藤さんと藪崎さんは、先程同様屋上の床からあおりのアングルで撮影する。
元々はドロロの立つ位置の高さの演出の為だったが、今度はそれがかなり活きそうだ。
そして遂に、部室の屋根の縁ギリギリの位置にドロロが立ち、再び撮影開始となった。


421 名前:30人いる! その228 sage 投稿日:2007/12/24(月) 21:49:54 ID:???
カメラが回り出して数秒後、アクシデントが発生した。
何度も水分を取り、ビキニ姿で汗を拭いたり風を浴びたりしたにも関わらず、長いこと屋根の上で待機していたせいで軽い目眩が起こり、沢田は足を滑らせた。
一同「落ちた〜〜〜〜!!!!!!!」
走るハンモック組。
他の者も駆け寄る。
幸い沢田はピアノ線の命綱により落下は免れたが、屋根の縁から逆さ吊りになった。
沢田「ひええええええ!!!!!!助けてええええええ!!!!!!」
ジタバタと動く沢田。
それを恵子の一喝が止めた。
「動くな彩!(カメラマンたちに)このままカメラ回せ」
言うなり沢田に駆け寄る。
藪崎「ええんかいな、このまま撮り続けて。ひっ?」
ふと見ると浅田と岸野の目が輝き、加藤さんも妖しいオーラを放っていた。
加藤「どうやら恵子さん、カメラマンとしての彼らの本能に火を点けてしまってみたいね」
藪崎「どういうことです?」
加藤「アクシデントの際に『このままカメラ回せ』、こう言われて燃えないならカメラマン失格よ」
言い終わると加藤さん、既にカメラを構えてる浅田と岸野に続いてカメラを構えた。
藪崎「そういう問題やないと思うんですけど…」
言いつつ藪崎さんもカメラを構えた。



422 名前:30人いる! その229 sage 投稿日:2007/12/24(月) 21:53:17 ID:???
逆さ吊りの沢田に近付いた恵子、テキパキと指示を出した。
「とにかく彩、動くな。動いたら糸切れちまうし、助け上げることも出来ん。(沢田の足元を見上げ)先ずは足の裏を屋根の縁にくっつけて、体揺らさないようにしろ」
沢田「こっ、こうですか?」
言われた通りに、沢田は足の裏を屋根の縁の軒下の部分にくっつけた。
結果沢田のドロロは、蝙蝠のように軒下に逆さまにぶら下がった形になった。
恵子「よし両足くっけて揃えろ。そんで両手をこう(両手の人差し指を立てて、右手で左手の人差し指を握り)…何だ…何て言ったっけ、さっきやってたの?」
国松「印を結ぶ、ですか?」
恵子「そう、それだ。彩それやれ」
沢田「どうしてですか?」
恵子「精神統一した方が落ち着くだろ。(沢田が印を結ぶのを確認して)加藤さんとヤブさんは彩のすぐ下、浅田と岸野はそこから遠い目と近い目と両方撮ってくれ」
つまり浅田と岸野には、ロングショットとズームの両方で撮影しろと命じたのだ。
カメラを回したまま、4人は言われた通りの位置に移動した。
沢田「え〜〜〜???!!!」
恵子「大丈夫、すぐ終わるから!」

約3分後、恵子はカットの宣言をした。
この間カメラマンは、遠くからのロングショットや脚立に乗っての至近距離からの撮影やあおり等、あらゆるアングルから撮影した。
スタッフはようやく沢田の救出作業にかかる。
ハンモック組4人で沢田を抱えつつ、上から国松が1本ずつ慎重にピアノ線を切っていく。
そして降ろしてドロロスーツを脱がせてみると、沢田は気絶していた。



423 名前:30人いる! その230 sage 投稿日:2007/12/24(月) 21:57:01 ID:???
再び居酒屋。
国松「で、結局加藤さんに活入れてもらって復活したのよね」
神田「そんで起きた時の第一声が…」
スー「(草尾毅似の涙声で)ヒドイヨ〜!」
沢田「やめてよ、もう」
自分から振った話題にも関わらず、照れから沢田は逃げにかかる。
豪田「でもあの後の監督のフォロー、なかなか良かったんじゃない?」
有吉「そうそう、沢田さん泣きやむまで抱っこしてくれてたもんね」
沢田「(赤面して)やめてったら、恥ずかしい!」
巴「そんなに照れないの!」
言いつつ沢田をハグする。
豪田「私もまぜて〜」
2人にサンドイッチでハグされた沢田がウググ状態になったこともあり、話は続いた。
浅田「まあ何と言うか恵子監督、役者に無茶やらすけどキッチリ借金は返す、そういう人になりつつあるね」
日垣「それ何かの引用っぽいね」
浅田「杉作J太郎って漫画家が、井上梅次って映画監督について書いたコメントの引用だよ」
国松「どんな人なの、その井上さんって監督さん?」
浅田「例えば役者に変な芝居させるかわりに死に方はかっこよく撮るみたいな、そういう人だったらしいよ」



424 名前:30人いる! その231 sage 投稿日:2007/12/24(月) 22:00:10 ID:???
国松「それってまさに、あの時の監督じゃない!」
一同「えっ?」
国松「だって不可抗力とは言え、彩逆さ吊りにして無茶したけど、その代わりにかっこいい画が撮れたし、ちゃんと精神的にフォローもしてるし」
台場「それにそれがそのまま、ドロロの役作りにもなったしね」
一同「役作り?」
台場「だってドロロだって、ケロロにひどい目に遭わされて、その怪我の功名でアサシン(ケロン軍精鋭部隊)入れたんだし、『友だち』のひと言でひどい目チャラにしちゃうし」
神田「確かにあの日の彩の体験って、まんまドロロの生き様そのものね」
ようやくハグを解いた巴と豪田も沢田を諭す。
豪田「という訳で、この間のあれは結果オーライということで」
巴「でなきゃあんなベストショット、なかなか撮れるもんじゃないわよ」
沢田「そっ、そうかな」
まんざらでもない顔で納得する沢田。
国松「よっしゃそれじゃ飲み直しだ!彩、乾杯しよ!」
言いながら国松はボトルを2本持って来て、1本を沢田に渡した。
ボトルの中身は、アルコール濃度50パーセントを越えるバーボンウィスキー、ワイルドターキーだった。
「グラップラー刃牙」の劇中で、身長2メートル近い巨漢の喧嘩やくざ花山薫が、喧嘩の直前直後に一気飲みしてることで有名な酒だ。
日垣「ちょっ、国松さんそれって…」
国松「そんじゃあ乾杯ね」
そう言ってボトルを持ち上げる。
一同「やめれ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
さすがに止める一同だった。



439 名前:30人いる! その232 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:10:22 ID:???
居酒屋での現視研1年生たちの撮影10日目総括会議(と言うか飲み会)は続いた。
ちなみに沢田は飲み過ぎでダウンして寝ていた。
神田「こうして振り返ってみると、わずか3日だけでもいろいろあったわね」
岸野「でもその割には、その後の今日までも含めて、撮影あまり進んでないような」
浅田「確かに。本編に使う分より、捨てカットの分の方が多い気がするよ」
台場「そこはそれ、メイキング映像に使えるし」
岸野「今んとこ、本編よりメイキングの方がフィルムの尺取ってるんだけど」
豪田「マジ?」
国松「大丈夫よ。まだ10日目じゃない。これからよ」
スー「(西川のりお似の声で)コレカラジャ〜!」
アンジェラ「まあまあ。無駄なカットが多いのは、いい映画を作る必要最低条件あるよ」
巴「そういう問題じゃないと思うけど」
神田「でも言えてるかも。昔「まんが道」で読んだんだけど、手塚治虫先生の『来るべき世界』って、単行本は400ページだけど実際に描いた原稿は1000ページあったそうよ」
(注)ウィキペディアによれば、単行本が300ページ、原稿が700ページとなっている。

固まる一同。
神田「漫画の神様が400ページの為に1000ページ描いてるんだから、私たちが少々無駄に撮影するぐらいは当然じゃない」
豪田「こりゃまたえらい古典を出してきたわね」
台場「そうよ、みんなリアクションに困ってるじゃない」
スー「押忍!80年に24時間テレビの特別企画でアニメ化されたとは言え、51年発行の漫画はちょっと例として出すには古過ぎるであります!」
浅田「だから何でスーちゃんが知ってるの?」


440 名前:30人いる! その233 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:12:07 ID:???
巴「でも無駄と言えば1番無駄だったのは4日目ね」
国松「あらマリア、自分が主役のシーンの撮影を無駄と仰いますか?」
巴「そりゃそれは嬉しいけど、完成したら多分わずか1分足らずぐらいになりそうなカットに、ほぼ丸1日費やすってのは…」
一同「うーん…」
国松「これは私の推測なんだけど」
豪田「何?」
国松「監督が4日目に本当にやりたかったことって、実は映画本編の撮影じゃないんじゃないかな?」
有吉「どういうこと?」
国松「みんなちょっと4日目の様子、思い出してみて」

4日目の撮影は、椎応大学のグラウンドで行なわれた。
今回撮影するのは、夏美の近況を説明するシーンだ。
大学に入った夏美は、ケロロが家事全般を引き受けたこともあり、様々な運動部を助っ人として渡り歩いている(中学時代でも一試合のみの助っ人はしてたが)という設定なのだ。
当初はいろんな種目を巴がやっているところを数秒ずつ撮影する予定だったが、撮影スケジュールその他の理由で種目を絞ることになった。
ソフトボール部出身の巴だが、命じられれば何の種目でもやるつもりだった。
夏美ほどではないが巴もスポーツ万能で、ソフトボールから足を洗った今でもトレーニングは欠かしていない。
やれと言われれば、大概のことはやれる自信はあった。



441 名前:30人いる! その234 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:14:45 ID:???
クランクイン前日のミーティングでは、なるべく人数や場所等の制約の少ない、個人種目を中心にピックアップして議論された。
(つまり本編で書かれていた前日のミーティングには、まだ続きがあったのだ)
そんな中、強硬にソフトボールを主張したのが恵子だった。
有吉「でも監督、ソフトだとかなり人数要りますよ」
恵子「人数が要るからいいんだよ」
一同「?」
恵子「みんなで映れるだろ、人数が要るんなら」
豪田「みんなで、ですか?」
恵子「うちは女子多いから、選手9人ぐらいは揃えられるだろ」
神田「えーと、1年生女子はマリア入れて8人、女子は後は会長か」
恵子「じゃあ全員使おう」
一同「えっ?」
恵子「マリアをバッターにして、1年の女子7人と姉さんとニャー子さんの9人で敵チーム
やればいい。あと男子は、カメラ以外の3人とクッチーの4人で審判やればいいさ」
岸野「それだと画的に長打が欲しいですね。巴さんって打順は?」
巴「4番よ」
一同「(感嘆)おうー!」
岸野「やっぱりそうか。打率や打点も凄いんだろうな」
巴「打率は3割ぐらいかな。うちの高校の上位打線弱かったから、打点は大したことないけど」
岸野「殆どソロホームランで点取ってたってことか」
巴「(照れて)まあ、そういうこと」
恵子「よっしゃ、本番でも頼むぜホームラン」
巴「まかせて下さい!」



442 名前:30人いる! その235 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:17:40 ID:???
伊藤「でもカチンコはどうしますかニャー?」
恵子「あたしがやるさ」
沢田「録音はどうします?」
恵子「あたしがマイク持つさ」
神田「ストップウォッチと記録はどうします?」
恵子「それもあたしがやるよ」
豪田「あとレフ板はどうします?」
恵子「えーと…大野さんに持ってもらう」
大野「えー私ですかー」
露骨に嫌そうな顔をする大野さんに向かって、突如恵子は手を合わせた。
大野「恵子さん?」
恵子「ごめん、今回だけは我慢して。人手足んないし、今回は現役の会員で揃えたいんだよ、このシーンは」
大野「…分かりました。やりますよレフ板」
何時に無くマジ顔の恵子に何か感じ取ったのか、大野さんは承諾した。
恵子「あとさあ岸野、今使ってるカメラの三脚ってあるか?」
岸野「うちに帰れば、多分使えそうなのがあると思いますよ。どのカメラの分です?」
恵子「4台全部だ」
岸野「全部ですか?!」
恵子「無いのか?」
岸野「いえ、何とかします。浅田も持ってるし、それでも足りなきゃ高校の写真部や映研に当たってみますし」
恵子「頼む」



443 名前:30人いる! その236 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:19:52 ID:???
浅田「でも何で三脚なんて?」
恵子「ほら、よく高校野球のスカウトとか偵察とかで撮影してる奴のカメラってさあ、何かいつも三脚使ってるイメージ無いか?」
浅田「まあいつもかどうかはともかく、そういうイメージはありますね」
恵子「だろ?そんで1塁側と3塁側に2人ずつカメラ配置すんだよ」
一同「えっ?」
恵子の意図にピンと来た国松が質問する。
「あの監督、ひょっとしてカメラの人も映そうとされてるんですか?」
恵子「ああ。お互いにカメラに入るようにしようと思うんだ。将来有望な夏美を見に来てるスカウト、または敵チームの偵察みたいな感じでさ」
意外な提案に戸惑う一同。
さらに恵子は独り言のように付け加えた。
「三脚使えば時々カメラから目離しても大丈夫だろうから、カメラのみんなも一瞬ぐらいは顔映るだろし」

アンジェラ「私はどうするあるか?」
有吉「そう言えば僕もですね」
2人はそれぞれモア役と冬樹役で映画に出るので、そのことを言ってるのだ。
恵子「そっか、モロに顔出しはまずいな。うーんと…アンジェラがマスク被ってキャッチャー、有吉はマスク被って審判、それで大丈夫だろう」
国松「当初の目的とはちょっと違うみたいですけど、それなら行けますね」
恵子「アンジェラ、キャチャー出来るか?」
アンジェラ「ハイスクールの時、フットサルでキーパーやってたから、何とかなるあるね」



444 名前:30人いる! その237 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:21:36 ID:???
恵子「ミッチー、ちょっとボードにみんなの名前書いてくれ」
言われた通りに神田は会員たちの名前を書いた。
さらにとりあえず決定したポジションを名前の横に書き込む。
それをしばらく見つめ、恵子は口を開いた。
恵子「誰かソフトでピッチャー出来るやつ居るか?」
台場が挙手し、意外な過去を明かした。
「私、高校の時の校内球技大会で、3年連続ピッチャーやってました」
一同「3年連続?」
恵子「で、成績はどうよ?」
台場「(右腕でガッツポーズをしつつ)3年連続優勝しました!」
一同「おー!」
巴「晴海その話、初めて聞くわね」
巴と台場、そして豪田と沢田は、元々は荻上会長の崇拝スレの住人で、オフ会を通じて知り合った。
(注釈)
荻上会長は春夏秋冬賞という漫画コンクールで特別賞を受賞し、その作品が月刊デイアフターに掲載されたことがきっかけで、2ちゃんねるに崇拝スレが出来た。
詳しいことは「11人いる!」参照。

知り合ったのは高校3年の時なので、高校が同じ伊藤・有吉コンビや浅田・岸野コンビに次いで付き合いが古い。
それで初耳の、台場の高校時代のエピソードに注目したのだ。
台場「現役でソフトやってた、マリア相手に自慢することでもないかなと思ったんでね。それにわざわざ言う機会も無かったし」



445 名前:30人いる! その238 sage 投稿日:2008/01/03(木) 21:23:26 ID:???
神田「それにしても、素人の大会とは言え3年連続優勝投手ってのは凄いわね」
台場「いやあ、くじ運が良かっただけよ」
沢田「私と同じゼミに、晴海の高校の同級生が居るんだけど、晴海って意外に運動出来るらしいよ」
一同「(台場に注目し)えっ?」
台場「ちょっ、ちょっと彩よしてよ」
日垣「どれぐらい出来るの?」
沢田「その同級生の人の話だと、100メートル12秒台で走れるし、ボールの遠投で70メートル投げられるらしいよ」
一同「凄っ!」
巴「まあこういう趣味のせいだとは思うけど、何で運動部入んなかったの?」
台場「(照れくさそうに笑って)私ランニング嫌いだから」
巴「あっそれ分かる。運動部入ってすぐやめちゃう子って、最初のランニングで嫌になってやめちゃうのよね」
豪田「それはそうと、何で私らにまで隠してたの?」
台場「特に言う必要無いと思ってただけよ。マリアの前でこういう言い方すると誤解招きそうだけど、少なくとも私はオタクが運動能力競ってもしょうがないと思ってるから」
巴「いや、それもけっこう分かる。私だっていっそソフト下手なら、もっと早くからオタク道に専念出来たのにって考えることあるし」
沢田「マリアでもそういうこと考えるんだ」
巴「そりゃ考えるわよ。オタクに1番必要なのは時間なんだから」



448 名前:30人いる! その239 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:41:12 ID:???
こうして巴扮する夏美の対戦チームのポジションが決まった。
ピッチャー  台場
キャッチャー アンジェラ
ファースト  豪田
セカンド   スー
サード    荻上
ショート   国松
レフト    ニャー子
センター   神田
ライト    沢田
さらに審判は次の通りだった。
主審     有吉
一塁塁審   伊藤
二塁塁審   日垣
三塁塁審   クッチー

「そんじゃあ監督、ソフト同好会と交渉して来ます!(ロッカーを開け)あと会長、これ1冊もらいますね」
台場が言うこれとは、荻上会長がかつて作った同人誌「あなたのとなりに」だった。
他所のサークル等への挨拶用に残した物で、荻上会長のサイン付きの逸品だ。
荻上「まあそれはいいけど、今から交渉に行くの?」
台場「大丈夫ですよ。15分もしたら戻りますから」



449 名前:30人いる! その240 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:44:12 ID:???
その後、ほぼ15分後に台場は戻って来た。
体育会の部室棟は徒歩で往復に5分はかかるから、実質10分足らずで交渉をまとめた
ことになる。
結論から言うと、台場はほぼ殆どの条件をクリアした。
グラウンドの使用許可だけでなく、ユニフォームや道具一式までも借りることに成功した。
荻上「でもよくこんな短い時間で話まとめて来たわね」
台場「会長の本を進呈したら、快くオッケーしてくれましよ」
豪田「それってまさか…」
台場「同類なのよ彼女たち、私たちと」

椎応大学ソフトボール同好会は、体育会系の中では弱小の部類に入る。
元々歴史が浅い上に、そもそもやる気が無い。
その殆どの会員が高校か大学に入ってからソフトを始めた彼女たちは、実は隠れ腐女子の集団であり、ソフトは隠れ蓑に過ぎなかった。
一応練習はしているが、それにしてもその殆どの時間を「おお振り」ごっこに費やしている有様であった。
(9分割の的当てとか、角材の上でバランス取るとか、キャッチャーフライのノックとか)
その殆どが高校の時に「おお振り」等からその道に入った彼女たちは、腐女子として中途半端なポジションに居た。
リアル高校球児(案外DQNが多い)に幻滅してマネージャーを断念し、かと言って絵心も無いので漫研にも入れず、それ以外のオタサークルだと濃過ぎて引いてしまう。
そんなライトでぬるい腐女子たちが最終的に選んだのが、ソフトボール同好会だった。



450 名前:30人いる! その241 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:46:09 ID:???
台場「ただですねえ監督、ひとつだけ条件がありまして…」
恵子「何だ?」
台場「ソフト同好会の人たちも、映画に出たいって言ってるんですよ」
一同「えっ?」
だが恵子はあっさり快諾した。
「いいよ。ちょうどいいや」
台場「ちょうどいいと仰いますと?」
恵子「いやあ、夏美が助っ人に入ったチームの連中も映ってないと、画的に寂しいかなと思ってさ。でもそれならソフト同好会の人にベンチに座ってもらえばいいじゃん」
納得する一同。
台場「でもどっちかと言うと彼女たち、自分たちがプレイするとこ映して欲しいみたいな感じでしたけど…」
恵子「わーった。そんじゃあ夏美のチームが守備やってるとこも撮ろうや」
一同「えっ?」
恵子「マリア、ポジションどこだ?」
巴「ピッチャーです」
一同「(感嘆)おう!」
日垣「エースで4番か。さぞかし強豪校だっただろうな。巴さんのチーム」
巴「そうでもないわよ。私以外が点取ってくれないから得点力無かったし、私も球速いけどコントロールに難があったから、けっこう四死球多かったし」
豪田「確か前に、県大会の準々決勝まで行けたのが最高だったって言ってたわね」
巴「そういうこと」
恵子「まあともかく、ピッチャーなら画的にちょうどいいや。頼んだぞ、マリア」
巴「はいっ!」


451 名前:30人いる! その242 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:48:23 ID:???
そしていよいよクランクインから4日目。
椎応大学第1グラウンドは人だかりとなった。
現視研女子会員対ソフトボール同好会のスペシャルマッチという噂が学内を駆け巡ったからだ。
映画の撮影と知って、2割ぐらいの観客は引き上げたが、一種のコスプレイベントと割り切ったか8割は残った。

グラウンドでは、ユニフォーム姿の現視研女子たちがポジションに付き、キャッチボールをしていた。
リハーサル代わりのウォーミングアップだ。
現視研女子が身に着けているのは、ソフト同好会のアウェイ用のユニフォームに軽く改造を施し、適当なチーム名(GENSHIとなっている)を入れた物だ。

続いて台場と巴の投球練習だ。
台場の投球をアンジェラが受ける。
1年近く投げてないとは思えない、そしてソフトボールとは思えない速球が決まる。
ネット裏でスピードガンを構えていたソフト同好会の会員が叫んだ。
「105キロ?!」
その叫びが観客たちにも聞こえたらしく、どよめきが上がる。
だが次に巴が投げると、観客は声も上げられなかった。
台場の2割増しぐらいの、考えられないスピードの剛速球がうなりを上げ、ソフト同好会のキャッチャーは捕り損ね、ボールは轟音を上げて金網に激突した。
今度はスピードガン担当のソフト同好会会員は、声も出せなかった。
別の会員が駆け寄ってスピードガンを見て、初めて声を上げた。
「125キロ?!」


452 名前:30人いる! その243 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:51:44 ID:???
グラウンドの外で、その様子を見ていた恵子が浅田に尋ねた。
「なあ、ソフトであのスピードって、どんなもんなんだ?」
浅田「かなり速いですよ。オリンピック選手並みです」
恵子「あいつら才能無駄使いしてねえか?まあオタクってやつは、そういうもんなんだろうけどな」

そしていよいよバッター夏美と現視研チームとの対決シーンの撮影となった。
審判の服装の男子会員たちも配置に付き、グラウンド外に残るのはカメラマン4人とレフ板を持った大野さん、そして恵子だけとなった。
カメラと一緒に浅田はマイク、岸野はストップウォッチと記録帳を持った。
三脚で手が空くので兼任でも大丈夫と考え、2人から恵子に進言し、恵子も承諾したのだ。
その結果、恵子はカチンコとメガホンだけを持つことになった。
恵子「よっしゃ、シーン2椎応大学グラウンドの本番、始めるぞ〜!」
一同「おう!」
恵子「と言いたいとこだけど、今回は適当に撮りまくるからな。8ミリの方、フィルム無くなりかけたらタイムって言えよ!」
(注釈)
ビデオの方はデジタルなので、殆ど残量を気にする必要が無い。

岸野・加藤「了解!」
恵子「そんじゃあ一応やるか、3、2、1、用意スタート!」



453 名前:30人いる! その244 sage 投稿日:2008/01/03(木) 22:54:36 ID:???
轟音と共に、ボールは一直線に場外へと消えた。
巴以外の現視研女子一同で構成された敵チームナインは、皆呆然とそれを見送った。
巴が場外ホームランを打ったのだ。
撮影用の投球なのだが、台場はガックリと崩れた。
巴には敵わないとは分かっていたが、もう少し互角の勝負が出来るんじゃないかと、秘かに思っていたからだ。
恵子「よーしカット!」
ほっとする一同。
だがただ1人、陽炎のようなオーラを放つ者が居た。
「監督、もう1回やらせて下さい!」
声の方を向いた皆の視線の先には、目を闘気で輝かせた台場が居た。
豪田「ちょっと晴海、何ムキになってるのよ?」
台場「分かってる。マリアとガチでやって勝てるとは思ってないわよ。でもね、今の1球だけじゃ納得出来ない!」
沢田「うわあ、晴海が何か熱血してる…」
恵子はあっさり承諾した。
「いいよ。もうちっとみんなのリアクション欲しい気もするし、ソフト部の皆さんも、すぐに終わっちゃって困ってるみたいだし。いいな、マリア」
巴「分かりました。(台場に)全力で行くわよ」
台場「望むところよ」



456 名前:30人いる! その245 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:20:32 ID:???
再び居酒屋。
巴「で、結局私、撮影用にホームラン10本連続で打つ破目になったのよね」
台場「まあおかげで納得出来たけどね」
沢田「晴海は納得出来てよかったかも知れないけど、炎天下でそれに付き合った私らは大変だったわよ」
台場「それにしても見事に全部持ってかれたわね」
巴「晴海の球、速い代わりに球筋が素直だから、腕力さえあれば打ち返せるのよ」
台場「それ褒めてんの?」
巴「褒めてるつもりよ。変化球1つか2つ覚えて、いいキャッチャーと組んで、ちゃんと打者に合わせて球種とコース選べば、オリンピッククラスのピッチャーになれると思うわ」
「なんで君ら、現視研なんかに居るの?」
野暮な質問は百も承知で、つい訊いてしまう浅田だった。

「攻守交替した後も凄かったわよね」
何時の間にか復活した沢田が呟いた。
巴「結局30球近く投げたもんね」
国松「監督が一応全員相手にして投げてみろって仰ったからね」
豪田「結局マリアの球にバット当てられたの、晴海ぐらいだったんじゃないかな」
台場「私だってかすっただけよ」
神田「監督は派手に空振りしろって指示してたけど、当てるつもりだったとしても無理よ、あの球は」


457 名前:30人いる! その246 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:22:02 ID:???
有吉「そう言えばソフト部のキャッチャーの人、何とか捕ってたけど手痛めちゃって、撮影終わった後はテーピングで左手グルグル巻きだったね」
アンジェラ「私もメイキング限定って条件で打席立たせてもらったけど、やっぱり打てなかったあるね」
スー「当タラナケレバ、ドウトイウコトハ無イ!」
浅田「いやこの場合それ、使い方おかしいし。そう言えば、撮影終わってから、男子も試しに打ってみたんだよな、巴さんの球」
伊藤「僕と有吉君と朽木先輩はダメだったけど、日垣君と浅田君と岸野君は打てましたニャー」
浅田「打ったと言っても、俺のはキャッチャーフライだよ」
岸野「俺はピッチャーフライだし」
日垣「俺はピッチャー強襲のライナーだったけど、見事に巴さんにキャッチされたし。やっぱ巴さん凄いわ」
豪田「元野球部の日垣君はともかく、浅田君と岸野君はよく打てたわね」
浅田「うちの高校の写真部のOBの人が特訓好きだったって話、前にしたっけ?」
豪田「言ってたわね、確か」
浅田「夏場は草野球ばっかやってたからね、うちの写真部」
岸野「そんで打てないと、バッティングセンター行って特訓してたな」
神田「どういう写真部なの、それ?」
浅田「そういう写真部だったんだよ」
巴「でも凄いと思うよ、日垣君たち。ソフトのマウンドって野球より打席に近いから、110キロ以上出たら打者の体感速度は、野球で言えば150キロ近くになるからね」
豪田「マジ?すると私らは、プロ野球のピッチャー相手にバッターやってたってこと?」
日垣「いや、難易度はそれ以上かも知れないよ。ソフトは球が大きくて重くて柔らかいから、バットで当てられたとしても飛ばすのは野球より難しいと思うよ」
一同「(青ざめ)うわあ…」


458 名前:30人いる! その247 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:24:04 ID:???
「でもあの情況で、あの提案受けちゃうんだからねえ、監督」
巴がまたボヤき始めた。
有吉「あれやったって、巴さんにとっては1試合分でしょ?」
巴「まあね。結局1イニング余分に投げただけだし」

午前中で、巴がホームランを打つシーンと、巴がバッターを打ち取るシーンは無事に撮り終わった。
だがここでソフトボール同好会の会長(以下ソ会長)が、意外な提案をして来た。
「せっかく人数揃ってるんだし、うち対現視研で試合やらない?」
一同「試合?」
ソ会長「試合っつーても、まあ打者一巡程度、3回までのミニゲームみたいな感じで…」
荻上「でも…」
一部体育会系が居るとは言え、基本的にインドアオタの集まりである現視研会長として、荻上会長はためらった。
ソ会長「心配要りませんよ、荻上さん。うちら体力はそちらよりあるかも知れないけど腕の方はヘボだから、けっこういい勝負になると思いますよ」
荻上「『自分でいいますか…』まあそれなら」
ソ会長「ただしユニフォーム変える時間もったいないから、巴さんはうちにもらいますけどね」
一同『それって逆ハンディキャップマッチでは…』
ソフト同好会側にも「さすがにそのマッチメイクはまずいのでは」という空気が流れ始めたその時、恵子が決断を下した。
「いっすね、それ。やりましょう」
荻上「恵子さん!」
恵子「(笹原似の笑顔でニカッと笑い)いいじゃん。たまにはこういうお遊びも」



459 名前:30人いる! その248 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:25:33 ID:???
再び居酒屋。
沢田「まあ今思えば、あの笑顔に荻様やられて、あの試合やる破目になったのよね」
豪田「つうても私ら野手はヒマな試合だったけどね」
神田「まあ確かに、私らのしたことと言えば、3回守備位置に付いて、3回バット振っただけだったもんね」
台場「失礼ね。私は7回振ったわよ」
沢田「その内4回はファールだけどね」
台場「しょうがないでしょ。あんな重い球、前に飛ばせる訳無いじゃない」
日垣「いやそれでも大したもんだと思うよ。事前の練習無しであれだけ当てられたら」
国松「そうよ晴海。それにあなただってマリア以外のバッターは全員打ち取ったじゃない」
浅田「まあ結局あの試合、巴さんのソロホームラン以外ヒット無しで、1対0で終わったもんな」
沢田「まあ打ち合いになるよりはよかったんじゃないの?普通に球飛んで来たら、私ら完全にお手上げよ」
巴「あの後が大変だったわね。私も晴海もソフト同好会の人から猛烈な勧誘受けたし」
有吉「おそらく会長さんの狙いは、それだったんだろうな。巴さんの実力を見せつけると同時に会員たちに勝つ喜びを教え、台場さんと対戦させることで彼女の実力を教える」
伊藤「そうすりゃみんな熱心に勧誘するだろう、か…なかなか策士ですニャー、あの会長さん」
台場「こっちは一大事よ。納得してお帰り頂くの大変だったんだから」



460 名前:30人いる! その249 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:26:53 ID:???
岸野「でも結果いい画が撮れたんだから、いいんじゃないかな?」
一同「えっ?」
岸野「あの試合の間、俺ずっとカメラ回してたんだけど、みんないい顔してたよ。自然に動いたり声出したりしてさ」
浅田「ああそれ俺も思った。いい画が多過ぎて、どれ撮ろうか迷うぐらいだったし」
豪田「確かにそうね。ソフト同好会の人もスッカリその気になって、『夏美ファイト〜!』とかアドリブで声援してたし」
沢田「形だけでも試合ともなると、やっぱみんなマジになってたもんね。マリアの球なんて打てる訳無いのに、みんなフルスイングしてたし」
神田「彩だってそうじゃない」
沢田「(照れて)そうだっけ?」
神田「あの試合の間の監督の指示ってどうなってたの?」
岸野「巴さんの投球と打席さえちゃんと映っていれば、後は適当にやれって」
有吉「いい加減だったんだね…」
伊藤「いや、そうでもないニャー。あれこれ指示は出してたみたいだし」
浅田「まあね。あっち撮れこっち撮れって、監督の指示通りに撮るのに忙しかったから、午後からの試合の巴さんの画は、殆ど藪崎先輩と加藤先輩に任してたもんな」
岸野「多分最終的な編集の後、本編に残るのは午前中の分からより、午後の試合の分からの映像の方が多いと思うよ」
国松「全ては恵子監督の計算通り、恵子監督ばんざーい!」
豪田「あららすっかり千里、監督信者ね」
有吉「あの人の場合は計算と言うより、野生のカンみたいなもんだと思うけど」


461 名前:30人いる! その250 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:29:31 ID:???
巴「そう言えば千里、さっきの話はどうなったのよ?」
国松「さっきの話?」
巴「監督が4日目に本当にやりたかったことって話よ」
国松「ああ、あれね」
あっさりと国松は答えた。
「みんなで映ることに監督がこだわったのは、これが監督にとっての卒業写真だからよ」
一同「そつぎょうしゃしん?」
国松「て言うか、4日目に限らず、この映画自体が監督にとっての卒業アルバムみたいなもんじゃないかと思うのよ、私は」
台場「でも何故?」
国松「椎応の学生じゃない監督の足跡は、公式の記録には何も残らないからよ」
ハッとなる一同。
巴「だけど内輪の作品でならそれが出来る、ってことね。でもそれなら、何で監督は一緒に映ろうとしなかったの?」
国松「実は撮影前に私もそれ言ったのよ。監督も一緒に映りましょうって。でも監督はこう仰ったの」
スー「(恵子そっくりの声で)ヨセヤイ、監督ガソレヤッタラ、ソリャおなにーッテモンダロ?」
赤面で固まる一同。
国松「スーちゃん、聞いてたんだ…」
アンジェラ「HEYスー、また芸の幅を広げたあるね」
沢田「そういう問題じゃないと思うけど…」
日垣「まあ使ってる言葉はアレだけど、照れ屋さんなんだね、恵子監督」
浅田「やべっ、何か俺、恵子監督のこと、すげえ可愛く思えてきた」
有吉「僕も」
岸野「きっと乱暴な言動とは裏腹な、可愛い一面とか持ってるんだぜ」
どこかで聞いたような男子の恵子萌え発言と共に、4日目の話題は終わった。



462 名前:30人いる! 次回予告 sage 投稿日:2008/01/04(金) 00:40:42 ID:???
何か今回、原作キャラあんまし活躍してないし、オチも弱いし、ただ長いだけの話になってしまいましたな。
すんません、この後(主に野外での着ぐるみファイト撮影時)原作キャラも活躍させる予定ですんで、今しばらくのご猶予を。

何か屋内撮影中心の予定が、意外と外での撮影が多い現視研映画撮影班。
次回、屋内セットも完成し、いよいよ部室が地球侵略基地と化す!

本日はこれまでです。
失礼しました。



逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan