30人いる!

268 名前:「30人いる!」 その251 sage 投稿日:2009/01/04(日) 20:58:25 ID:???
第12章 笹原恵子の復活

クランクインから10日目の夜、現視研1年生限定の反省会兼飲み会は、なおも続いた。
伊藤「4日目の撮影が済んで、やっと撮休になりましたニャー」
豪田「と言っても、私らセットの仕上げに、5日目も部室来てたけどね」
沢田「それにしても蛇衣子、あのセットは凄かったわね」
豪田「まあみんなも手伝ってくれたしね。どしたのミッチー?笑い上戸?」
何故か神田は、機嫌良さそうにニコニコしていた。
神田「ちょっとね…(ニコリと笑う)」

クランクインから6日目、正午にはまだ1時間以上もある微妙な時間帯に、斑目は例によって部室にやって来た。
そんな時間にも関わらず、弁当を持ってだ。
始業早々会社のパソコンが故障し、修理中手書きの書類を先に片付けていたのだが、それでもまだ修理が終わらないので、早目の昼飯がてら時間潰しをすることにしたのだ。
3日目のアッー!騒動の後遺症からか、若干腰が引けていた。
(注)3日目の撮影の際、いろいろあって1年男子たちが伊藤を押さえ込み、有吉がキスしようとする騒ぎになった。
それを目撃した斑目は、事情は聞いたものの、1年男子にその気があると半分疑ってる。

「まあ何のかんの言っても、時間潰すにゃここが1番だからな、あれっ?」
部室の全ての窓は暗幕で覆われていた。
斑目は携帯を取り出し、ボタンを操作してディスプレイを見る。
「神田さんが送ってくれたメールによれば、今日は部室で撮影か…」
スケジュール管理担当の神田は、日々変更の繰り返しの撮影スケジュールをまめにOBたちに連絡していた。
不意に赤面する斑目。
神田からのメールの最後に付け加えられた、追伸を読んだ為だ。
「○○日(3日後の日付)の日曜は撮休なんですが、一緒にどこか行きませんか?」



269 名前:「30人いる!」 その252 sage 投稿日:2009/01/04(日) 21:00:29 ID:???
「見なかったことにしよう…」
その件について斑目は、とりあえず思考停止し、再び部室に注意を向けた。
「撮影中、かな?(ドアの方を見て)いや、それならあいつらのことだ。『撮影中』の貼り紙なり、ドアの前に見張り立てるなりするだろうし…」
ノックしても反応が無いので、試しにドアを開けてみると、カーテンのように暗幕が張られていた。
「やっぱ入っちゃまずいかな?おーい、入っていいかー?」
返事は無かった。
「誰もいないのかな?」
意を決して、斑目は部室に入ってみることにした。
「うぃーす…のわああああ?!!!!」
斑目が声を上げたのも無理は無かった。
部室内は様々な色の電球が点滅し、あちこちにキーボードやモニターが配置されている。
座席のレイアウトが、宇宙戦艦のブリッジに似ている。
そして室内は異様に広く、奥行きがあった。
「何だこれ?映画用のセット?にしても、うちの部室こんなに広かったっけ?」
その時斑目の背後で、不気味な笑い声が聞こえた。
「(子安武人似の声で)クークックックッ」
「ひっ?!」
思わず振り返る斑目。
そこには不気味なオーラを放つクルルが立っていた。
斑目「クルル?」
それに答えるように、クルルは不気味な子安声で話しかけてきた。
「ペコポン侵略前線基地中央司令室へようこそ、クークックックッ」
「ひっ?!」
中身はおそらくスーだろうが、つい怯えてしまう斑目。



270 名前:「30人いる!」 その253 sage 投稿日:2009/01/04(日) 21:02:29 ID:???
「ダメあるよスー、ミスター斑目を脅かしちゃ」
続いて現れたのは、やや色黒でコギャルっぽい女子高生スタイルのアンジェラと、普段と違う丸眼鏡をかけて、頭のてっぺんにアホ毛を立たせた有吉だった。
有吉「あっ斑目先輩こんちわ」
アンジェラ「ハーイ、ミスター斑目」
斑目「もしや、冬樹とモアちゃん?」
アンジェラ「てゆーか千客万来?」

「すいませんね、こんなとこで食事させちゃって」
先程トイレから戻って来た豪田が、周囲を片付けつつ声をかけた。。
作業着代わりらしき、あちこちにペンキの付いたジャージ姿だ。
「いやまあ、俺の方が邪魔者なんだから、それは構わんけど…」
周囲を見渡す斑目。
部室のテーブルは本来2つだが、1つは外に運び出されている。
(注)新部室は以前の倍以上の広さなので、中央のテーブルは移転時に1つ追加された。
斑目が食事に使っているのは、残ったもう1つのテーブルなのだが、その上は工具や材木の切れ端などが8割近くを占領していた。
豪田「やっぱり落ち着かないですか?」
斑目「しかしよく出来てるね、このセット。とても部室の中に居るとは思えないよ」
豪田「(壁の一角を指して)向こうから先は、完全に書割ですよ。奥行きがあるように見せてますけど」
斑目「上手いもんだね」
豪田「千里からリクエストされたんですよ。『第四惑星の悪夢』のロボット長官の部屋みたいな感じにしてくれって」
斑目「それ通りに出来るんだから大したもんだよ『第四惑星の悪夢って何?』」
(注釈)「第四惑星の悪夢」
「ウルトラセブン」のエピソード。
ロボットが支配する、第四惑星と称する謎の惑星が舞台なのだが、その星を支配するロボット長官の部屋は、廊下の様に細長く奥へと伸びている。
長官の背後の細長く伸びたスペースは、実はそれらしく描いた書割である。



271 名前:「30人いる!」 その254 sage 投稿日:2009/01/04(日) 21:03:56 ID:???
斑目「それにしても、たくさん電球やらモニターやら使ってるね」
豪田「電球の方は、方々からクリスマスツリーの電飾を借りました」
斑目「考えたね。モニターは?」
豪田「会員の中でノートパソコン持ってる子から借りました。ついでに言うと、キーボードはデスクトップタイプのパソコン持ってる子からです」
斑目「なるほどね。ところでみんなは?」
豪田「ちょっと早いけどお昼食べに行ってます。て言うか、私が無理に行ってもらったんです」
斑目「どゆこと?」
豪田「大まかな準備はみんなにも手伝ってもらったんですけど、本番前の最終点検は1人で集中して仕上げたかったんで、我がまま言って撮影まで席外してもらったんです」
斑目「ひょっとして俺もお邪魔だった?」
豪田「ちょうどセッティング完了したとこですから、問題無いですよ」
斑目「あの3人は?」
豪田「この後出番ですから、自主的にメイクやリハーサルの為に先に戻って来たんです」
斑目「そう言やアンジェラ、何か黒かったね」
豪田「夏コミの時に使った、黒人メイク用のファンデーション使ってるんですよ」
その時、外でリハーサルをやっていた3人が、部室に入って来た。
スーは今はクルルスーツを脱ぎ、またもやビキニ姿だった。
(注)ケロン人役の女子5人は、合間に人前で脱げるように、ビキニを着用している。
幼児体形にビキニという、ある意味巨乳美人のビキニ以上に画的に妖しい格好に、思わず昼飯を吹きそうになる斑目。
スーは斑目に近付くと、軽く体を捻りつつ頭の後ろに手をやり、奇妙なポーズを取った。
どうやら本人的には色っぽいポーズのつもりらしい。
一同「?」
スー「(小原乃梨子似の声で)悩マシぽーず、コンナモンデドウカシラ?」
こける一同。
斑目「それにしてもスーちゃん、ゼンダマンとはネタが古いね」
有吉「て言うか、それにツッコめる斑目先輩も凄過ぎる気が…」
アンジェラ「てゆーか温故知新?」


282 名前:30人いる! その255 sage 投稿日:2009/01/06(火) 22:42:02 ID:???
そんな中、昼食に出かけてた会員たちが戻って来た。
ちなみにこの日クッチーと大野さんは、面接の為に居なかった。
クッチーは数日後には警察官の採用試験を受けるが、前に申し込んでいた面接も一応受けるだけ受けるのだ。
荻上「豪田さん、今戻ったわよ。わっ!」
後から続いて入った恵子が声をかける。
「どしたの姉さん?わっ!」
続いて入ってきた会員たちも、同様の反応を見せる。
斑目「みんな何驚いてるの?」
荻上「あっ斑目さん、こんちわ」
他の会員たちも、ようやく今気付いたような顔で斑目に挨拶する。
斑目「それよりみんな、何驚いてるの?」
荻上「そりゃ驚きますよ。だってどう見ても部室の中に見えないでしょ、これ」
豪田「そう言って頂けると光栄です」
斑目「みんなこのセット作る作業には立ち会ってないの?何か初めて見るような顔してるけど」
巴「確かに私と彩中心にみんなで手伝ってましたけど、完成形見るのは初めてなんです」
斑目「なるほどね、それだけ豪田さんの造形が凄いってことか」
巴「そういうことです」
豪田「(照れて)いやあ」

斑目の食事が終わるのを待って、残りの机も運び出され、部室内は中央司令室のセットのみになった。
(厳密には、セットの裏にロッカーや本棚等が隠れているが)
会員たちが撮影機材を運び込み、今回出番の外人コンビと有吉、それに撮影スタッフが準備にかかる。
そして斑目は、先程驚いたセットでいかに撮影するのかが気になる上に、パソコンの修理がまだ済んでないこともあって、撮影の様子を見て行くことにした。



283 名前:30人いる! その256 sage 投稿日:2009/01/06(火) 22:43:30 ID:???
部室内を見渡していた恵子が、ぼそっと声を発した。
「せめえな」
浅田「狭いと仰いますと?」
恵子「いやさ、もし部室ん中にみんな居たら、この部屋ん中全部通しで撮るのに邪魔んなるだろうと思ってさ」
岸野「確かに各シーンは部分的に撮るにしても、基地のスケール感を出す為には、ワンカットは全景入れたいですね」
加藤「でもそれ撮るとなると、この広さだと室内に居られるスタッフの数は限られるわね」
藪崎「そうでんな。広う見えるだけで、実際にはいつもの部室より、むしろ狭いぐらいやし」
中央司令室のセットは、部室のドアから見て右側にケロロ小隊の面々の席、左側に巨大パネルスクリーン、正面には様々な計器類が配置されている。
さらには天井にも、メカニカルなデザインのベニヤ板が貼られ、蛍光灯にもそれらしいカバーが掛けられている。
そして暗幕でカバーされたドアの周辺を除いた、ドアの両サイドの壁にも、メカニカルなデザインで塗装されたベニヤ板で、カバーが施されている。
つまり中央司令室の全景を撮る為には、ドア周辺のエリアを避けて、全体を水平に180度、機銃掃射するようにカメラを動かす(この動作をパンニングと言う)必要がある。
「試しにやってみましょう」
浅田はビデオカメラを取り出し、部室のど真ん中で実際にパンニングの動きで室内を見渡す。
さらに前後左右に動いては、同様の動作を繰り返す。
後の会員たちはドア周辺に集まってそれを見守る。
恵子「どうだ?」
浅田「ど真ん中から1〜2歩ドア寄りの、この辺から撮るしかなさそうですね」
「そっからだとこっちは視界に入るか?」
ドアのすぐ前から岸野が尋ねる。
浅田「ドア周辺だけはセーフだな。でもそっからどっち向きに動いても、3歩も動けばカメラに入っちゃうな」



284 名前:30人いる! その257 sage 投稿日:2009/01/06(火) 22:44:50 ID:???
恵子「つうことは、部屋ん中に居られるのは、カメラと照明ぐらいか」
浅田「この場合は、きれいに撮ることが第一ですから、照明2人で光が上手く重なるようにライト動かして、その光をカメラが追うような感じで撮るといいかも知れません」
岸野「それもこの場合、カメラ4人が同時に撮りながら動くのは、スペース的に無理がありそうですから、カメラは1人ずつ、都合4回撮ることになりそうですね」
恵子「それやれって言われて、すぐやれそうか?」
巴「ちょっとだけ時間もらえますか?練習しますんで」
豪田「そうね、監督お願いします」
恵子「わーった。カメラと照明以外、全員外出ろ!」
こうしてカメラマンの浅田と、照明の豪田と巴を残して、会員たちは部室を出た。

部室を出た一同は驚きの声を上げた。
わずか10分ばかり室内で相談している間に、部室の扉のすぐ外のエリアの上に、野外用の屋根のみのテントが張られていたからだ。
夏コミの少し前にみんなで海に行った際に、浅田・岸野コンビが用意したのと同じ物だ。
傍らでテントの袋を片付けていた日垣に、荻上会長が声をかけた。
「このテントどうしたの?」
日垣「浅田君がまた借りて来てくれたんですよ。今日の撮影は下手すれば外の方が涼しいから、日陰があった方がいいだろうって」
沢田「確かにエアコン動かしたらセット動いちゃうから、今日の部室は閉め切りで冷房無し状態になるわね」
(注)屋上の新部室は冷暖房完備。
一同は自分たちが汗びっしょりなことに改めて気付いた。
先程までは室内のセットと今からの撮影に気を取られて、暑いことすらすっかり忘れていたのだ。
日垣「あとこれ家から持って来ました」
そう言って日垣は、扇風機を出してスイッチを入れ、みんなに風を当ててやる。
涼しさに脱力する一同。



285 名前:30人いる! その258 sage 投稿日:2009/01/06(火) 22:46:24 ID:???
テントの下に1年生たちがパイプ椅子を並べ、運動会の本部テントのようになった。
国松は大きなバスタオルを2枚出し、アンジェラとスーに頭から被せるように掛ける。
「ダメよ2人とも、太陽の下でそんなに体晒しちゃ!」
アンジェラ「センリ、これ暑いあるよ」
スー「押忍、右に同じであります!」
国松「2人とも撮影終了まで日焼け厳禁!アンジェラ日焼けしちゃったら、明日は擬態解除されたモアちゃんやるんだから、肌白いの保ってなきゃ困るでしょ!」
アンジェラ「擬態バージョン用に黒のファンデーション塗ってるから、大丈夫あるよ」
国松「大丈夫じゃありません!黒かったら余計紫外線吸収しちゃうでしょう!」
アンジェラ「(少し怯え)了解しましたある!てゆーか絶対服従?」
スー「あの、自分はいいでありますか?」
国松「スーちゃんもダメ!ただでさえスーツアクターは皮膚呼吸し辛いんだから、日焼けなんかしたら余計辛くなるわよ!所詮日焼けなんて軽度の火傷なんだから!」
スー「(少し怯え、敬礼しつつ)了解であります!」

そんな様子を見ていた斑目、荻上会長に声をかけた。
「あの2人をあそこまで抑えられるとは、国松さんも大したもんだね」
荻上「あの2人も後で見ましたからね、私と大野さんたちが国松さんに怒られてるとこ」
斑目「そうなの?」
荻上会長は斑目に、浅田のノートパソコンに夏コミ当日の映像があり、後日みんなで見たことを説明した。
斑目は、荻上会長たちが夏コミで国松に怒られた話は聞いていたが、その様子を見ていないだけに今ひとつピンと来なかった。
「ご覧になりますか?」
2人の間に、汗びっしょりの浅田が割り込んだ。
荻上「凄い汗ね…」
浅田「いやあ閉め切りで冷房無しの部室は暑いですよ」
斑目「大変だね」
浅田「俺はまだいいですよ、今岸野と交代しましたから。それに引き換え巴さんと豪田さんは、カメラマンあと2人とぶっ通しでリハーサルに付き合いますからね」



286 名前:30人いる! その259 sage 投稿日:2009/01/06(火) 22:48:28 ID:???
「あぢ〜〜〜〜!!!!!!!」
部室から豪田と巴が飛び出して来て、扇風機の前に陣取って涼む。
遅れて岸野も出て来る。
3人とも汗びっしょりだ。
豪田「すんません監督、ちょっ、ちょっとだけ休ませて下さい!」
巴「私も…」
恵子「わーった。ヤブさん、加藤さん、ちょっと待ったげてね」
加藤・藪崎「了解」
神田は傍らに置いてあったクーラーボックスから飲み物を出して、照明コンビから順に配り歩く。
神田「冷蔵庫から移しといて正解だったわね」
豪田「(一気に飲み干して)全くだわ。冷蔵庫ごと外に出しといても良かったぐらいよ」

斑目「そう言えば浅田君、さっきご覧になりますかとか言ってなかったっけ?」
何時の間にか、浅田はノートパソコンを手に持っていた。
斑目「まさかそん中に、国松さんご立腹映像が?」
浅田「(頷いて)よろしかったら、ご覧になりますか?」
サーと血の引く音が、隣に居た荻上会長から聞こえた。
斑目「ちょっと…見たいかな」
浅田「分かりました、それじゃあ…」
パソコンを置いて操作し始める浅田。
だがそこへアンジェラとスーが割り込み、青ざめた必死の形相で懇願した。
「NO!それだけはSTOP!」
荻上「私もやめて欲しいです」
3人の必死の青ざめた顔に、斑目は見ることを断念せざるを得なかった。
浅田「じゃあまた今度…」
斑目「そうだね…『どんだけ怖いんだよ、怒った国松さんって?』」



296 名前:30人いる! その260 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:31:51 ID:???
やがて休憩が終わり、再びリハーサルが始まった。
藪崎さんと加藤さんは、前の2人よりも比較的早目にリハーサルを終えて出て来た。
初心者である2人は、三脚を使ってのパンニングだった為に、楽に照明の光を追うことが出来たからだ。
これに対し浅田と岸野は、2人とも手持ちでのパンニングの練習だったので、少々時間をかけて念入りにリハーサルしたのだ。
藪崎さんと加藤さんがほぼ水平に動かすだけなのに対し、浅田と岸野はやや上へ放物線を描くようにカメラを動かす。
どのみち都合4回撮るのなら、少しアングルを変えた画もあった方がいいと、浅田が恵子に提案した為だった。
この両方の画像を上手く編集して使うのだ。

こうして本番の撮影となった。
今回のスタッフの配置は、変則的なものになった。
先ずセットのオペレーターの席にクルル役のスーとモア役のアンジェラが座り、傍らに冬樹役の有吉が立つ。
次に部屋のど真ん中より1歩ほどドア寄りの位置にカメラの浅田が陣取り、その左右に照明の豪田と巴が付く。
浅田以外の3人のカメラマンは外で待機だ。
照明との位置関係の都合上、カメラは1人ずつしか配置出来ないので、1人ずつ順番に交替で撮るのだ。
つまり基地の全景のシーンは、都合4回繰り返して撮影することになる。
監督の恵子、録音の沢田(全景だから無しでもいいが、臨場感を出す為に一応セット内のノイズを拾うのだ。)、記録の神田はドアの傍に集まる。
そこから1歩でも内側に入ると、室内をパンニングで撮ると映ってしまうからだ。
助監督の伊藤も、カチンコを鳴らし次第、ドア付近に駆け込む段取りになっている。
そして後のメンバーは、部室の外で待機となった。
全員部室に入るとカメラに入ってしまうからだ。
伊藤「それではシーン26-A、中央司令室全景の本番を始めますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」



297 名前:30人いる! その261 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:33:06 ID:???
約20分後、再び撮影スタッフは休憩に入った。
基地全景の撮影は順調に消化し、カメラマン4人全員1発オッケーとなった。
もっとも今回に限っては、恵子は殆どカメラマンと照明に任せていた。
とりあえず役者3人は、真剣な表情と物腰さえしていれば問題無いからだ。
カメラワークとそれに伴なう照明の動きが全てなので、敢えて何も言わなかった。
恵子の掛け声は、このシーンに限っては単なる景気付けに過ぎなかった。

恵子「みんなすまねえな、わざわざ出て来てくれたのに、出番無い上に外に追い出しちゃって」
荻上「いえ、それは構いませんけど…」
恵子「この後はクルルとモアの座ってる方が中心だから、その反対側に集まれば今度はみんな部室に入れるから」
巴「でも今日に限っては、外で待ってた方が正解かも知れませんよ」
沢田「確かに。部室の暑さ半端じゃないもんね」
恵子「まあいいじゃねえか。みんなで暑い思いしようや」
アンジェラ「てゆーか我慢大会?」
皆がワイワイと話す傍らでは、例によってビキニ姿のスーが、脱いだクルルスーツを絞っていた。
濡れ雑巾を絞ったように、大量の汗が絞り出される。
「うわあ、凄い汗ねスーちゃん」
そう言いつつ国松、下敷きでパタパタとスーをあおいであげる。

そんな中斑目は、今日出番の無い日垣やニャー子らと、オタ話も交えつつ映画についていろいろ雑談していた。
話しながら視線を感じた斑目、チラチラとその視線の方を見る。
同じ様にチラチラと、神田がこちらを見ていた。
突如赤面滝汗になる斑目に対し、神田はニコニコしていた。



298 名前:30人いる! その262 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:36:53 ID:???
再び居酒屋。
浅田「あの後は順調だったよね」
神田「(記録ノートを出してページめくりつつ)えーと…あの日はと…シーン26と28と30と32と34と38か」
台場「随分撮ったわね」
岸野「あの日にようやく、本編用に撮った分が捨てカットの分に追いついたんだよ」

中央司令室の全景の撮影の後は、以下のシーンを撮影した。
なお、斑目はシーン30の撮影が終わった所で呼び出しがかかり、仕事に戻った。
26-B クルル時空で苦戦するケロロ小隊に焦るクルル・モア・冬樹
28  小隊の苦戦に、超兵器アル1号の投入を決意するクルル
30  クルル時空に送り込んだアル1号について説明するクルル
32  アル1号と共に冬樹を送り込んだ理由を説明するクルル
(冬樹がうっかりアル1号の操縦機に声紋を登録してしまった為)
34  冬樹に最後の手段を使うように勧めるクルル
38  最後の手段がアルの自爆だったことを明かして笑うクルル

国松「スーちゃんの芝居中心のシーンばっかりだったわね、あの後は」
有吉「確かに僕の台詞少なかったし、アンジェラの台詞も合いの手中心だったね」
アンジェラ「てゆーか以心伝心?」
伊藤「スーちゃん芝居凄く上手かったよニャー」
日垣「ほんとほんと、一瞬本物が飛び出して来たかと思うぐらい、クルルそのものになり切ってたもんな」
スー「(頭をかきながら、矢島晶子似の声で)イヤア、ソレホドデモ」
浅田「この場合のその台詞、正しいような間違ってるような、微妙な使い方だな…」
巴「それに有吉君も慣れて来たせいか、芝居が自然になって来たし、アンジェラもあんましNG無かったし」
アンジェラ「(微笑んで)てゆーか自画自賛?」
傍らでは有吉も赤面で照れていた。



299 名前:30人いる! その263 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:39:31 ID:???
台場「でもあのセットの大きなパネルスクリーンって、どうするの?」
中央司令室のシーンの撮影時、セット中の電球は点滅し、ノートパソコンごとセットされたディスプレイには、それらしい画像を映していた。
だが正面の大きなパネルスクリーンは真っ黒に塗られているだけで、撮影中はそのままであった。
前述のクルルの演技中心の一連のシーンを撮影する際、スタッフと見学者はパネルスクリーン側の壁際に集まって撮影した。
岸野「その点は大丈夫。別のフィルムで、パネルスクリーン側をアップで撮ってあるから」
台場「で、それをどうするの?」
岸野「こっからは国松さんどうぞ」
国松「いいの?」
岸野「どうぞ。だって物凄く説明したそうな顔してるもん」
国松「(ニコリと笑い)分かった。つまりね晴海、二重露光をやるのよ」
台場「二重露光?」
国松「この場合だと、パネルスクリーンだけ撮ったフィルムを1回巻き戻して、野外でケロロ小隊たちの戦闘シーンを撮る時に、そのフィルムで撮影するのよ」
台場「でもそんなことして大丈夫なの?」
国松「だからパネルスクリーンだけは、なるべく光沢の無い黒で塗るように蛇衣子に頼んでおいたのよ。それでスクリーンの部分だけは、撮影されてない状態になるから」
台場「あっ分かった。つまりそのフィルムで戦闘シーンを撮れば、パネルスクリーンの中に戦闘シーンが映ってる画が出来るってこと?」
国松「そういうこと」
沢田「凄いわね、千里。よくそんなこと思い付くわね」
国松「いやこれ、特撮では初歩中の初歩の古典的な手法なのよ」
沢田「そうなんだ…」
台場「でももし失敗したらどうするの?」
伊藤「その点は大丈夫だニャー。パネルスクリーンのアップは予備も撮ってもらってあるから、もし失敗したらそっち使って、アフレコの時に台詞で補完してもらうニャー」
スー「(子安武人似の声で)チッ、錬金術ノ影響デめいんぱねるガ映ラネエゼ」
伊藤「そうそう、そういう感じだニャー」



300 名前:30人いる! その264 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:41:45 ID:???
6日目の撮影は、何回もの休憩を挟んだものの順調に進行し、まだ明るい内に終わった。
撮影後、現視研一同は部室のセットの組み直し作業にかかった。
ベニヤ板の部分をバラして、慎重に電球や配線やディスプレイ等を外していく。
次に外したベニヤ板を外へ運び出し、外に置いてあった別のベニヤ板を運び込む。
こちらも中央司令室同様、メカニカルなデザインが施されているが、司令室と違って電球等を組み込む部分が少なく、全体的に黒い。
7日目に撮影するのが、クルルズラボでのシーンだからだ。
クルルズラボとは、クルルの研究室を兼ねた私室で、中央司令室に比べると狭く暗い。

みんなでベニヤ板の入れ替え作業をやる中、スーがメロディーを口ずさんだ。
「チャチャチャチャチャチャチャチャッチャカチャッチャチャチャチャ〜♪」
藪崎「ちょ待てスー、何であんたがその曲知ってるんや?!」
日垣「何ですか今の曲は?」
藪崎「『8時だョ!全員集合』って知ってるか?」
日垣「ええ、名前ぐらいは」
藪崎「あの番組の前半のコントの後、すぐにゲストの歌に入るんやけど、そん時に舞台セットを180度回転さしてセット入れ替えるんや。今スーがやったのは、そん時のBGMや」
日垣「なるほどね。でも何で藪崎先輩はご存知なんですか?」
藪崎「いや、これぐらい一般常識やろ」
ちなみにこの話の舞台は2006年なので、「8時だョ!全員集合」の放送が終了した1985年当時、まだ登場キャラたちの多くは生まれていない。

大雑把にセットを組み終わると、豪田が宣言する。
「あと私が仕上げとくから、みんな引き上げていいわよ」
恵子「何か手伝おうか?」
豪田「いいですよ。て言うか本当は、引き上げていいと言うより、引き上げて欲しいんです。1人で集中して細かいとこ仕上げたいんで」
恵子「わーった、そんじゃ後頼むな。みんな引き上げろ!」
こうして現視研一行は、豪田を残して引き上げた。



301 名前:30人いる! その265 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:43:27 ID:???
居酒屋での6日目の総括がまとまりかけた中、ふとみんなが気付くと、神田は再び1人ニコニコしながら酒を飲んでいた。
豪田「どしたの、ミッチー?」
神田「ちょっとね…」
巴「何よ、もったいぶって」
アンジェラ「ひょっとしてミッチー、6日目の夜のこと思い出してたあるか?」
神田「ウフフ、当ったりー」
一同「6日目の夜?」

クランクインから6日目の夜、斑目は長々と残業した末に退社した。
もう深夜に近い時間だ。
パソコンの修理に時間がかかった上に、途中で急ぎの工事を手伝わさせられた為に、事務作業の片付けに手間取ったのだ。
「シーゲさん!」
会社を出て10歩も歩かない内に、背後から声をかけられた。
反射的に体をすくめてから振り返る斑目。
声をかけたのは神田だった。
「何だ神田さんか。脅かさないでよ、俺気い弱いんだから。どしたの、こんな夜更けに?」
神田「(小首をかしげ、ちょっと萌えっぽいポーズで)来ちゃった」
斑目「来ちゃったって…」
ラブコメのワンシーンのようなシチュエーションに、赤面滝汗で焦る斑目。
神田「(ニッコリ笑い)な〜んてね。今日うち私だけなんで、外で食べようかなと思って出て来たんです」
斑目「(ほっとして)そう…」
神田「シゲさん、晩御飯まだですよね?」
斑目「ああ、今仕事終わったとこなんでね」
神田「ちょうど偶然お会いしたことですし、よろしかったらご一緒に食事しませんか?」
斑目「(赤面)ええ〜?!」
後輩とは言え、女の子と2人で食事というシチュエーションに、過剰に反応してしまう斑目であった。



302 名前:30人いる! その266 sage 投稿日:2009/01/12(月) 22:45:09 ID:???
『何で俺はここに居る?』
正面に座った神田を見つつ、斑目は心の中で自問自答した。
結局2人は、近くの居酒屋に入った。
カウンター席は満席だったのでテーブルに案内され、結果向かい合って座る形になった。
今テーブルの上には、焼き鳥やししゃも等、数皿の料理が並べられている。
飲み物は2人とも生ビールだ。
落ち着かない顔でチビチビ飲みつつ、少しずつ食べる斑目に対し、神田は旺盛な食欲で飲み食いする。
既に2杯のジョッキを空けていた。
斑目「大丈夫、神田さん?」
神田「大丈夫ですよ、酔い潰れるほどは飲みませんから。厳密には私未成年ですから、潰れたらまずいですし」
斑目「そう言えば1年生だったよね…」
まずいなあという顔をしつつも、止めるほど強気にはなれない斑目。
不意に上目使いで萌えっぽい表情になって、神田が問題発言をする。
「ひょっとしてシゲさん、私酔い潰れた方が好都合ですか?」
さほど飲んでないのに一気に赤面し、危うくビールを吹きそうになる斑目。
さらにたたみ掛ける神田。
「もし潰れたら、シゲさんのお部屋に連れてって下さいね、この近くだし。あっ、近いって言えば、すぐそこにホテルが…」
「わ〜〜〜!!!」
思わず神田の発言を遮る斑目。
神田「(ニッコリ笑って)な〜んてね」
斑目「(ため息を付き)あんまし年配者をからかうもんじゃないよ、もう…」
神田「(再び萌え表情になり)じゃあ真面目だったら、ホテルでひと晩ご一緒して頂けますか?」
今度こそ本当にビールを吹いてしまう斑目であった。



310 名前:「30人いる!」 その267 sage 投稿日:2009/01/17(土) 23:34:09 ID:???
「シゲさんって、かーわいー」
30分後、見事に神田は出来上がっていた。
一方斑目は、未成年の後輩の飲みっぷりに気が気でないので、いつもよりは飲んでいるにも関わらず、まるで酔えない。
斑目「OBに対して可愛いと言いますか…」
神田「だって可愛いんですもん、純真だし」
斑目「(自嘲気味の苦笑をし)そんないいもんじゃないよ、ただのもてないキモオタだよ」
神田「またまた、そんなこと無いですよ。だってシゲさん、うちで1番もてるんだもん」
斑目「えっ?」
神田「現視研にはシゲさん狙ってる女の子、少なくとも5人は居ますよ。先ずアンジェラでしょ、スーちゃんでしょ、ヤブ先輩でしょ、加藤先輩でしょ、後は…」
斑目「(神田の言葉を遮り)いや、それはまた違うんじゃないかな」
神田「と言いますと?」
斑目「この間の夏コミのことだったら、あれは場の空気が作り出したもんだよ」
夏コミで斑目は、2日目にはアンジェラとスーに密着され、藪崎さんにも密着された。
さらに3日目には、加藤さんの前髪を開けてしまったばかりに追い回された。
どうやら斑目、それら一連の出来事を夏コミ会場という場の空気が作り出した、特殊な躁状態と考えているようだ。
神田「きっかけは何でもいいんじゃないですか」
斑目「えっ?」
神田「前に春日部先輩がいらした時に、高坂先輩と付き合い始めた時のこと聞いたんです」
斑目が赤面し、春日部さんという名前に過敏に反応していることに気付いていたが、神田は敢えて押してみることにし、その話の内容を語り始めた。
春日部さんが高坂と付き合い始めた時、斑目は「高坂の上っ面だけに惚れた」と批判した。
それについて春日部さんは「最初はそんなんでもいーじゃん」と反論した。
神田が春日部さんから聞いたのは、その時の話だった。
「私も春日部先輩の仰る通りだと思うんです。最初のきっかけなんて、細かいことに拘らなくてもいいと思いますよ」



311 名前:「30人いる!」 その268 sage 投稿日:2009/01/17(土) 23:35:31 ID:???
ここまでマジ顔で話していた神田、唐突にポン引きモードに入った。
「とりあえずと言っちゃ何ですけど、アンジェラなんてどうです?」
斑目「(赤面し)アンジェラ?」
神田「多分シゲさんになら、すぐさせてくれると思いますよ」
思わずビールを吹く斑目。
神田「バージンに拘るんなら、ヤブ先輩って手もありますし」
再びビールを吹く斑目。
神田「スーちゃんも多分バージンだと思うけど、こういうことには理解あるから多分すぐオッケーしますよ。加藤先輩は前髪開けちゃった時点でチェックメイトだろうし…」
斑目「ちょっ、ちょっと…」
神田「だからこの4人なら、ちょっと押してみれば簡単に出来ると…」
「わ〜〜〜!!!」
思わず神田の言葉を遮る斑目。
キョトンとする神田。
斑目「(少し涙目で)女の子がさせてくれるだのバージンだの出来るだの、軽々しく言っちゃいけません!」
神田「シゲさんって、たわば先輩みたいなこと仰るんですね。まあオタクってそうじゃなきゃいけないのは分かりますけど、女の子に幻想持ち過ぎですよ」
斑目「それにそんな体目当てで付き合うようなこと、相手の人に失礼だよ」
神田「そんなこと仰らずに、とりあえず付き合ってみて、後のことは後で考えてはどうです?せっかくシゲさんにならあげてもいいって女の子、5人も居るんだから。」
再びビールを吹く斑目、ふとあることに気付く。
「あの神田さん、5人って?」
神田「5人目は、わ・た・し(はーと)」
最大出力の赤面滝汗でビールを吹く斑目。
神田「(目をウルウルさせた萌え表情で)私じゃお気に召しませんか?」
斑目「いやそういう問題じゃなくて…」
神田「あと私もバージンですから」
斑目「わ〜〜〜!!!」
久々にテンションの高い斑目であった。



312 名前:「30人いる!」 その269 sage 投稿日:2009/01/17(土) 23:38:00 ID:???
結局居酒屋で2時間近くの間、斑目は神田に振り回され続けた。
勘定は斑目が持った。
正直飲み食い全体の7割ぐらいは神田によるものだったが、かと言って社会人が学生の後
輩に払わせる訳にも行かない。
神田がけっこう酔っているのと、日付の変わりかけた時間ということもあり、斑目は神田を自宅まで送ることにした。
斑目「あの、神田さん、メールのことなんだけど…」
神田「はいっ?」
斑目「申し訳無いけど、今度の日曜日は仕事なんだ」
それを聞いて、急にウルウルとなる神田。
斑目「(慌てて滝汗で)いっ、いやほんとなんだよ!」
必死で事情を説明する斑目。
その説明は次の通りだった。
斑目の会社が衛生保守を行う、水道メーター等の水道関係の機器の多くは、新しいマンションやアパートだと家屋の外にある場合が多い。
だが古い家屋には、メーター等が家屋内にあって、中に入らないと作業の行なえない所も多い。
そういう所は作業の際に、住人に立ち会ってもらわなければならないが、住人が1人暮らしで昼間働いてる人だと、土日しか空いてない場合が多い。
斑目の会社では、月に数回そういう客を対象にした作業を土日返上で行なう。
(その代わりに平日に代休をもらっているが)
外回りの仕事を手伝い始めた関係で、斑目も月に1〜2度そういう土日出勤があるのだ。
(作者注)これはあくまでも、斑目の勤務先の会社独自のやり方であり、現実の水道工事関係の会社の多くは土日休みである。

斑目の説明が終わると、神田はケロッと笑顔になった。
斑目「神田さん?」
神田「なーんてね。分かってますよ、シゲさんこういうことで嘘付けない人だって」
ホッとしつつ脱力する斑目。



313 名前:「30人いる!」 その270 sage 投稿日:2009/01/17(土) 23:39:19 ID:???
斑目「それにしても神田さん、入学の頃と比べて随分キャラ変わったね」
神田「そうですか?」
斑目「最初はもっと引込み思案な子だと思ってたけど、最近は夏コミで可符香コスやったせいか、何か小悪魔っぽくなって来たよ」
神田「(笑って)そんな大袈裟なもんじゃないですよ。私が口にしてる色恋沙汰なんて、所詮耳年増の聞きかじりと、漫画やアニメから得たデータの蓄積ですし」
斑目「そうなの?」
神田「だって私、今まで男の子と付き合ったこと無いですし」
斑目「へー、神田さんならデートの申し込み引く手あまただと思うけど」
神田「まあ誘われたこと無いことも無いんですけど、みんな断っちゃいました」
斑目「好みのタイプじゃ無かったとか?」
神田「(首を横に振り)高校まで私、隠れオタだったから」
斑目「…そうだったね」
しばし沈黙したまま歩く2人。
不意に神田が立ち止まり、それに反応して斑目も止まる。
神田は斑目にマジ顔を向けて見据える。
ちょっとたじろぐ斑目。
神田「私、現視研に入って、本当によかったと思ってます。オタクである私を隠さなくてもいいし、みんなも私を受け止めてくれて、オタクである自分をぶつけてくれるから」
斑目「…」
神田「現視研に入った時、私決心したんです。もう2度と高校の時みたいに、自分に嘘はつかないと。だから今の私は、100パーセント本当の私です」
急に熱弁を振るい始めた神田の真意を掴みかねて、黙って聞き続ける斑目。
神田「その私が断言します!現視研で1番もてる男であり、そして私が1番大好きなのは、今目の前に居る斑目先輩だって!」
マジ顔で告白されてしまい、斑目はしばし固まってしまったが、やがて意を決したように口を開いた。



314 名前:「30人いる!」 その271 sage 投稿日:2009/01/17(土) 23:40:50 ID:???
斑目「あの神田さん、すまないけど俺…」
神田「(斑目の言葉を遮るようにニッコリと微笑み)安心して下さい、返事は急ぎませんから。(少し翳りを見せ)だってシゲさん、まだ吹っ切れてないでしょ?」
斑目「(赤面し)えっ?」
神田「シゲさん最近失恋して、今でもその人のことが忘れられないでいるんでしょ?」
斑目「(最大出力で赤面し)なっ、何でそれを?!」
神田「(ニッコリ微笑み)お・ん・な・の・か・ん(はーと)」
斑目が春日部さんのことを好きだったことは、今では現視研関係者の間で周知の事実となっていたが、神田はさすがにそこまでは言及しなかった。
『だってもしそこまで言ったらシゲさん、「知ったな!」とか叫んで、泣きながら走り去っちゃいそうだもん…』

やがて2人は、神田宅の前に来た。
神田「今日はご馳走様でした」
斑目「いえいえ、どういたまして」
神田「あの、よろしかったら、うち寄って行かれます?」
斑目「またそういうこと言って…ダメだよ大人をからかっちゃ。冗談はさておき、明日も早いんで帰るよ」
赤面しつつも、余裕を持って対応する斑目。
その余裕に小悪魔な面がウズウズしたのか、神田はちょっぴり反撃に出ることにした。
神田「(萌えっぽい顔で)あのシゲさん、ほっぺにおやすみのキスしていいですか?」
斑目「(最大出力赤面で)え〜〜〜〜!!!!」
神田「(笑顔で)な〜んて嘘ですよ、ここで気絶されても私1人じゃ困るし。(マジ顔になり)でも待てよ、いっそ気絶させて家に連れ込んじゃえば…」
斑目「さいなら〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
100メートルで世界新が狙えそうな猛スピードで走り去る斑目。
「あっ逃げた…」
そう言いつつも、神田は微笑みながら1人呟いた。
「でも実は内心、もし寄ってくって言われたら、どうしようかなとも思ってたのよね。まあそれならそれで、作戦変更したけど」



348 名前:「30人いる!」 その272 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:49:42 ID:???
神田の自宅は2階建ての一軒家だった。
10日目には玄関や廊下や居間や台所等をロケ地にする予定だけあって、けっこう広い。
ちなみに外観は日向家とかなり異なるので、日向家全景は近所の他の家に頼んで撮らせてもらう予定だ。
神田が玄関の手前まで入ると、居間から庭へ出られるガラス戸越しに、灯りが点いてるのが見えた。
「まだ起きてたんだ」

神田が居間に入ると、アンジェラ、スー、藪崎さん、加藤さんの4人が深夜アニメを見ていた。
加藤「お帰りなさい」
スー「押忍!お邪魔しております!」
アンジェラ「てゆーか一家団欒?」
藪崎「でや首尾は?」
4人が待っていたのは了承済みだったらしく、神田はまるで驚いた様子も無く答えた。
「まあ今日のとこは、あんなもんでしょ」

神田が家にいるのは自分だけというのは、半分は本当で半分は嘘だった。
家族は全員出払っていた。
父は出張、母は町内会の慰安旅行、兄は友人宅に泊まり込んで、あるイベントに出品する同人誌の原稿を描いていた。
その意味で家が神田1人というのは本当だ。
神田はお誘いの追伸を添えてスケジュールを斑目に送る際に、「斑目先輩を男にする会」の面々に了承を得ていた。
彼女たちの間には、抜け駆け禁止の紳士協定(女の子に紳士と言うのも変だが)、通称「南極条約」が結ばれていたからだ。



349 名前:「30人いる!」 その273 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:51:25 ID:???
今回の斑目へのお誘いを企画したのは神田だった。
「だって少しは接触を試みないと、何時まで経っても進展しませんから」
だがかと言って、夏コミの時のようにみんなで追いかけては、斑目が萎縮してしまう。
そこでとりあえず代表者1人が斑目を誘ってみることになった。
そして代表をくじ引きで決めることになり、神田が当たりくじを引いたのだ。

深夜の神田宅で、神田の報告会を兼ねた飲み会が開かれた。
居酒屋で中ジョッキを数杯空けたにも関わらず、神田もみんなと一緒にビールを飲みつつ、今日の報告をした。
藪崎「ちょとミッチー大丈夫かいな。あんた飲んで来たんやろ?」
神田「これぐらいなら大丈夫ですよ、千里に鍛えられましたから」
藪崎「あの特撮娘にかいな」
神田「新歓コンパの後も何度か一緒に飲みに行ったんですけど、千里けっこうお酒強いんですよ。しかもこっちが飲まないと怒るし」
藪崎「そら性質悪いな…」
アンジェラ「てゆーか酒池肉林?」
藪崎「ほんま微妙に間違ごうてるな、四文字熟語の使い方」
加藤「それよりスーちゃん大丈夫なの?」
スーもみんなと一緒にビールを飲んでいた。
アンジェラ「スーは昔から飲んでたから問題無いあるよ」
加藤「まあそれなら…」
藪崎「いやあきませんて。こんな子供に飲ましたら」
アンジェラ「大丈夫あるよ。ドリュー・バリモアなんか、子役の時から酒飲んでたあるね。(作者注、本当です)それに比べれば問題無いあるよ」
藪崎「ええんかなあ…」
酔って来たせいもあって、藪崎さんは深く考えることをやめた。



350 名前:「30人いる!」 その274 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:53:31 ID:???
加藤「まあ進展らしい進展は無かったみたいだけど、神田さんの話を聞く限りでは、全く脈が無いことも無い感じね」
アンジェラ「てゆーか日進月歩?」
加藤「(苦笑)そんなにハイペースでは進められないわよ。粘り強く少しずつ少しずつ、斑目先輩の心をほぐしていかなきゃ」
神田「まあいっか。私にはまだ時間たっぷりあるし」
スー「押忍!右に同じであります!」
アンジェラ「てゆーか付和雷同?」
「ええのう、あんたら時間ようけあって」
ふと一同が見ると、藪崎さんが真っ赤になりつつ涙ぐんでいた。
「私なんか、あと1年半ぐらいしか斑目さんのそばに居られへん…ううっ」
神田「ヤブ先輩…」
加藤「ヤブは泣き上戸なのよ」
藪崎「そや、加藤さんはあと半年ぐらいで卒業ですやん!よっしゃ、とりあえず加藤さんよりは長いこと大学居れる!」
加藤「私は院に行くから、あと2年半は大学に居るわよ」
一同「えっ?」
藪崎「(涙ぐみ)そしたら私だけかいな、時間無いの。くそう、勝ったと思うな!」
神田「いや、意味分かんないですし…」
加藤「あなたも荻上さんみたいに、プロの漫画家目指したら? 」
藪崎「えっ?」
加藤「そうすれば、当分はこの近くに居られるじゃない。まあ絵だけでは判断出来ないかも知れないけど、私が見た所では荻上さんの絵とヤブの絵に、大きな差は無いわ」
スー「押忍!自分もそう思うであります!」
加藤「あとはどれだけ真剣に漫画に打ち込めるかと、どれだけ漫画が好きか、それぐらいだと思うわ。荻上さんがヤブに勝っていることは」



351 名前:「30人いる!」 その275 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:55:25 ID:???
藪崎さんがマジ顔になった。
「後は気合いと根性の問題っちゅう訳でんな…よっしゃ、分かりました加藤さん。私やってみますわ」
髪の奥から、ニッコリ笑ったらしいオーラを放つ加藤さん。
神田「うわーヤブ先輩も漫画家デビューかあ」
藪崎「まあ先ずは何か賞目指して描いてみるわ」
アンジェラ「てゆーか宣戦布告?」
藪崎「(苦笑)まあそんなとこや。よーし、私ゃやるで!」
スー「(西郷輝彦似の声で)ヨーシ、ヤッタルワーイ!」
藪崎「あんなあスー、私ゃ立売堀(いたちぼり)の機械工具問屋の商人(あきんど)やないねんから」
この場合の藪崎さんの言う立売堀の機械工具問屋の商人とは、ドラマ「どてらい男」の主人公の山下猛造のことである。
スーの台詞は、ドラマのオープニング冒頭で猛造が叫ぶ決め台詞である。
ちなみにこのドラマの放送期間は1973年から1977年まで。
当然当時2人とも生まれていない。
またこのドラマのVTRは既に上書きされていて、現在原版が残っていないと言われている。
(昔はビデオテープが高価な上に、大きくて保存場所を取る為に、かつての人気番組でも原版が残っていない場合がけっこうある)

「これは自分の推測でありますが…」
神田宅での飲み会が始まって1時間ほど後、スーがぽつりと切り出した。
神田「何スーちゃん?」
スー「押忍!ミスター斑目は、ミス春日部への想いを一生抱えて生きて行く為に、彼女以外の生身の女性への恋愛感情や性欲を精神的に封印したのではないでしょうか?」
藪崎「どういうことや?」
スー「押忍!いろいろな人の証言から、ミスター斑目は今のような女性恐怖症気味な反応は、かつては見せていなかったことが判明しています」
アンジェラ「そう言えばミスター斑目、以前私が迫った時は、赤面滝汗だったけど今ほどキョドってなかったあるね」



352 名前:「30人いる!」 その276 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:57:10 ID:???
藪崎「ちょ待てアンジェラ、あんた斑目さんに何したんや?!」
アンジェラ「手を握っただけあるよ」
藪崎「(一瞬絶句)手を握ったやて…何ちゅうふしだらな!」
神田「そんなヤブ先輩、大袈裟ですよ」
藪崎「大袈裟やない!だって斑目さんの手をやな…(ワナワナと震えだす)」
その時藪崎さんの動きが止まり、バッタリと倒れた。
加藤さんが背後から、瞬時にスリーパーホールドで落としたのだ。
加藤「とりあえず話が進まないから眠らせたわ。それよりスーちゃん、後で私からヤブに話しとくから、さっきの話の続きを」
スー「押忍!ミスター斑目が今のように生身の女性に過敏に反応するようになったのは、ミス春日部が卒業してからであります」
加藤「つまりそれをきっかけに、春日部さん以外の現実の女性に対し、性欲や恋愛感情を持たないように、斑目さんが潜在意識レベルで防御に入り、結果気絶してしまうと?」
スー「押忍!あくまでも推測でありますが」
神田「そんなことがあるんですかね?」
加藤「有り得ないとは言い切れないわ。登校拒否児童が本当にお腹が痛くなったりするのと、同じ理屈だと思うわ」
アンジェラ「てゆーか自己暗示?」
神田「となるとやっぱり、時間かけて少しずつシゲさんの心のガードを緩めていくしかないですね」
加藤「(苦笑らしきオーラ)お互い難儀な人を好きになっちゃったものね」
アンジェラ「てゆーか一蓮托生?」
スー「アーユー人タチト関ワリヲ持ッチャッタノガ身ノ不運ダ。最後マデツキアウシカナイヨ」
神田「あのスーちゃん、うちのシゲさん内海さんじゃないんだから…」
その時、加藤さんが新たに缶ビールを出して来た。
加藤「それじゃあ改めて乾杯しましょうか、斑目さんと我々の未来の為に」
乾杯の体勢に入ったその時、勝手にスーが音頭を取った。
「青キ清浄ナル世界ノ為ニ!」
神田「何だかなあ…」


353 名前:「30人いる!」 その277 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:58:27 ID:???
再び居酒屋。
巴「で、結局朝まで5人で飲んでたわけ?あっ、ヤブさんは寝てたか」
神田「ううん、ヤブさんもその後起きて、泣きながら飲んでた」
豪田「何で泣くのよ?」
神田「泣き上戸だから」
国松「難儀な人ね」
神田「あんたが言いますか、それを。酒飲ましたら1番難儀な人が」
国松「誰が難儀な人よ。私は…楽しく飲む人ですから」
日垣「人に正座させて説教しながら飲む人が?」
国松「あれは…コミュニケーションよ。そんなことよりミッチー、結局のとこ5人で朝まで飲んでたの?」
神田「うん」
沢田「一睡もせずに?」
神田「うん。いい加減寝ようかなと思ったら朝になっちゃって、結局そのまま撮影に行った」
台場「それで次の日、みんな前の日とおんなし服だった訳ね」
浅田「でもそんなんでよく撮影やれたね。特にスーちゃんとアンジェラは」
岸野「いや加藤先輩と藪崎先輩と神田さんだって、あの煙ん中で頑張ってたし」
伊藤「そうだニャー。でも中でもアンジェラは凄かったニャー。まだ煙残ってる部室ん中で、マスクも無いのに元気に動いてたし」
アンジェラ「てゆーか獅子奮迅?」
日垣「まるで西鉄ライオンズだね」
一同「にしてつらいおんず?」
日垣「西武ライオンズの昔のチーム名だよ」
豪田「で、何でここでそのチーム名が出て来るの?」
日垣の説明は次の通りであった。
西鉄ライオンズは、かつて日本シリーズで三連覇したこともある強豪球団だった。
パワフルで野生的で個性的な選手が多かった為に、別名「野武士軍団」と呼ばれていた。
日垣がこのチームの名を挙げたのは、彼らの数々の武勇伝の中に、朝まで飲んでてそのまま試合に出て、バカスカ打っていたという伝説があったからだ。



354 名前:「30人いる!」 その278 sage 投稿日:2009/02/01(日) 20:59:49 ID:???
豪田「でもそんな古い話、よく知ってたわね」
日垣「これでも高校入るまでは、真面目にプロ野球行きたいと思うぐらい、野球好きだったからね。野球オタと言っていいぐらいの、プロ野球知識はあるつもりだよ」
神田「高校入ったら、そうじゃなくなったの?」
日垣「いつも地方大会の1回戦か2回戦で、その年の県大会の優勝校に当たってたからね」
巴「そりゃまたくじ運悪いわね」
日垣「まあある意味、くじ運良かったのかも知れないけどね。おかげで甲子園行ったりプロ行ったりする連中と自分との差が、嫌と言うほど分かったから」
国松「そんなに差があったの?」
日垣「いやもう全然次元が違うよ。これでも俺、中学の県大会じゃ優勝したことだってあるんだよ。その俺の球がバカスカ打たれ、逆にこっちはかすりもしなかったよ」
一同「…」
日垣「まあ結果的には、却って良かったと思うよ、今となっては。ダメならダメで、早い内にあきらめが付いた方が、それだけ早く立ち直れるから」
しんみりする一同。
日垣「やだなあ、そんな顔しないでよ。それプラス肩痛めて一線退いたのがきっかけで、オタ趣味に目覚めてみんなにも出会えたんだし」
そんな中、国松はまたもやワイルド・ターキーのボトルを2本持って来た。
日垣「あの、国松さん?」
国松はマジ顔で正面から日垣を見つめながら尋ねた。
「日垣君、悔いは無いわね?」
日垣は迷うこと無く笑顔で答えた。
「無いよ。やれるだけのことは全てやったからね」
「分かった。そんじゃあ乾杯しましょう!」
言いながら国松は、日垣の前にワイルド・ターキーのボトルを突き出す。
一同「やめれ〜!」
女子会員が中心になって国松を止めに掛かっている、混乱のドサクサ紛れのようなタイミングで、有吉が次の話題を切り出した。
「7日目の騒動も凄かったね」



378 名前:「30人いる!」 その279 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:01:36 ID:???
7日目の撮影は、部室の中にクルルズラボ(クルルの研究室を兼ねた私室)のセットを組んでの撮影だった。
昨日同様まずセットの全景を撮影し、次に各シーンの撮影に入った。
この日撮影したのは、以下のシーン(数字はシーンajであった。
8  何やら研究中のクルル(冒頭での近況報告用のシーン)
16 タイムカプセルを調べるクルル
18-A カプセル内で活性化するホムンクルス(人造人間)ベム
18-B ベム復活
22 小隊の面々が駆け付けて、ベムをクルル時空へ引きずり込む

シーン8と16はスーの1人芝居であり、台詞の無かったせいもあってか、両方とも1発オッケーだった。
シーン18-Aも、小道具のタイムカプセル(後述)のアップだけであり、カプセルの仕掛けも無事に作動した為、撮影は1発オッケーだった。
ここまでを午前中に早々に終了し、早目の昼食を挟んで正午過ぎに撮影は再開された。
問題は午後からの、通しで撮影されたシーン18-Bと22であった。
シーン18-Bは、タイムカプセルの蓋が開いて大量の煙が噴き出し、その中から目を光らせつつシルエットのようにベムが現れる、という流れだ。
この煙にはバルサンが使われたのだが、煙の大半はカットの直後に扇風機を使って室外に追い出され、わずかに煙が残った状態で、引き続きシーン22を撮影する。
通しでの撮影にしたのは、後のシーン用に改めてバルサンを少しだけ焚くのが手間な為だ。



379 名前:「30人いる!」 その280 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:03:48 ID:???
撮影用のタイムカプセルは2つあり、2つとも日垣がプラ板で一から作り上げた代物だ。
カプセルの蓋の中心部には透明なプラスチックの覗き窓があり、中身の赤い液体が見える。
もっとも本当に液体が入っているのは片方だけで、もう1つはそれらしく覗き窓を塗ってあるだけだ。
液体が入った方のカプセルは、2重底になっていて、液体の部分は上半分だけだ。
液体の奥のスペースには、電池と電球、それに複数の小型モーターと小型スクリューが仕込まれている。
スイッチを入れると電球が点滅し、液体部に浸かっている小型スクリューが回転する。
これによってカプセルの中の液体が発光しつつ泡立ち、それによって圧縮されたベムの細胞が活性化した様子の画を作ろうという訳である。
もう1つのカプセルには、スイッチで蓋が勢い良く開き、それと同時に煙を噴き出す仕掛けが施されている。
こちらは蓋と本体に電磁石が仕込まれていて、スイッチを入れると2つの電磁石が同極になり、その反発で蓋が開く。
それと同時にカプセル内に仕込まれたバルサンに点火され、煙が噴き出すのだ。
シーン18-Aの撮影では液体の入った方のカプセルを使い、シーン18-Bの撮影には煙の出る方のカプセルを使う。
この2つのシーンを上手く繋げることで、カプセル内で細胞が活性化してベム復活という画を演出しようという訳だ。

本番の前にスタッフは、念入りにリハーサルした。
バルサンを仕掛けた方のカプセルは、本番1発勝負だ。
もし撮り損なったら、中のバルサンを入れ替えて撮り直しということになる。
技術的には可能だが、入れ替えるにはカプセルを分解しなければならないので手間だ。
それに撮影スタッフは、全員袋状のガスマスクを被って撮影するのだが、いくらガスマスクがあるとは言え、この暑いのに長時間煙の中に居たくはない。



380 名前:「30人いる!」 その281 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:05:12 ID:???
このガスマスクが入手出来たのは、全くの偶然だった。
プロデューサー担当で、官庁への数々の手続きも担当している台場が市役所を訪れた際、ちょうど市が備蓄していた防災セットの点検をやっていた。
そして非常食等の防災用品で、賞味期限や使用期限を過ぎた品を処分していて、その中に問題のガスマスクがあった。
そのガスマスクは安価な使い捨てタイプで、15分程度は煙を防ぐことが出来る。
15分と言えば短く聞こえるかも知れないが、火災からの避難の場合、その程度の時間内に安全圏に脱出出来なければ、今度は火にやられるので、値段から考えれば妥当なところだ。
その様子を見ていた台場の頭の中でピンッという音が鳴った。
数日前、部室で現視研の面々が、撮影時の煙にどう対処するか、話し合っていたのを思い出したのだ。
浅田と岸野は、私物の軍用ガスマスクを出そうかと考えていたようだが、数が足りない。
それに軍用ガスマスクのフィルターも、1回開けたら再利用は不可能だし、替えのフィルターは高価だ。
それでどうしたものかと一同悩んでいたのだ。

台場は処分すべく山積みにされていたマスクに近付き、その1つを手に取って見る。
使用期限を過ぎたのは数日前だったので、まだ使って使えなくはない。
台場は捨てようとしていた役人と交渉し、マスクを全部もらって来た。
煙の発生するシーンの撮影に際し、何回リハーサルするか分からなかったので、とりあえず持てるだけもらって帰ることにした。
ガスマスクは段ボール箱10箱分だったので、携帯で他の会員たちに連絡して車を手配した。
もっとも結局迎えに来てくれたのは、たまたま仕事で外に出ていた斑目の軽トラだったが。



381 名前:「30人いる!」 その282 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:06:31 ID:???
撮影スタッフは、リハーサルの段階からガスマスク着用で臨んだ。
クッチーもリハーサル時はガスマスクを着用し、本番では着ぐるみのマスク部分の口元の内側に、ガスマスクのフィルター部を貼り付けて撮影する。
(シーン22のリハーサルも煙の中なので、当然他のスーツアクターも同様だし、アンジェラもリハーサルはガスマスク着用で臨んだ)
なおクッチーは、リハーサルの際には私服でガスマスクを着用し、その上から鉢巻きを巻き、「八つ墓村」のように鉢巻きにL型ライトを2本差していた。
着ぐるみのベムの、電球が入った目の代わりだ。
L型ライトとは、文字通りLの形をした、軍用の懐中電灯である。
普通の懐中電灯と違い、点灯部分が本体と直角に付いている。
リュックサックのスリングやベルトなどに装着して使うことで、手を使わずに前方を照らすことが出来るという利点がある。
今回クッチーが使ったのは、単三電池使用の通常より小型サイズの物で、フィルターを被せてある。
ベムの目と光量を合わせて、煙の中での光の状態を見る為だ。

「千里、こんなもんでどうだ?」
バルサンの煙の中、恵子は傍らの国松に声をかけた。
ギロロ役の国松はこの後出番だが、特技監督(本人は特殊技術と称しているが)でもあるので、特撮パート撮影時には恵子の相談役も務めていた。
2人の前では、L型ライトを点灯させて、両手を上げてモンスターっぽいポーズをしているクッチーに向かい、4人のカメラマンがカメラを構え、2人の照明がライトを当てていた。
背後には、同じくガスマスクを被った一同がリハーサルを見守っていた。
国松「思ったよりバルサンの煙薄いから、照明もうちょっと下げた方がいいですね。マリア、蛇衣子、2歩下がって」
言われた通りに下がる、照明係の巴と豪田。
恵子「カメラ、こんなもんでどうだ?」
岸野「ちょうどいいと思いますよ。これぐらいなら適度に朽木先輩がシルエットになって、ライトの光に映えますから」
残りの3人のカメラマンも同意した。



382 名前:「30人いる!」 その283 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:07:36 ID:???
結局現視研の面々は、リハーサルが済んでは、方々から借りて来た扇風機6台をフル回転させて煙を追い出し、またリハーサルそして扇風機という流れを10数回繰り返した。
空に煙が舞い上がる中、思わず上空を見上げる一同。
都合10数回にも及ぶ念入りなリハーサルのせいで、上空に靄が出来るほどのバルサンを消費していた。
荻上「いくら何でもこれ、大丈夫?」
台場「心配ありませんよ。最寄の消防署や警察署、それにサークル自治会や近隣の町内会にも連絡してありますから」
日垣「近隣の被害は大丈夫かな?」
国松「この暑さで上昇気流が発生して、上手く上空に上がって霧散してるみたいだから、多分大丈夫だと…」
そこまで言いかけた国松の言葉が止まった。
サークル棟の上空に、1機のヘリが近付いて来たからだ。
恵子「おいカメラ!あのヘリ撮っとけ!何かに使えるかも知んねえし」
カメラ一同「了解!」
その様子を見て、目をウルウルとさせる国松。
荻上「どうしたの国松さん?」
国松「昔の東映には、ヘリコが飛んでると撮影させる監督が居たそうなんです」
荻上「どうして?『ヘリコってのは映画業界の言い方かな?』」
国松「借りると高いからですよ、ヘリコ。飛んでるの撮っとけば、いつか何かのシャシンで使えるかも知れませんから」
荻上「なるほどね…『この場合のシャシンってのは、多分映画のことね』」
国松「あの台詞が出るってことは、やっぱり恵子監督、凄い監督ってことですよ!」
荻上「いやあんまし関係無いと思うけど…」
(注)杉作J太郎著「ボンクラ映画魂 三角マークの男優たち」掲載の漫画に登場する、映画制作費節約名人の監督が、前述の恵子と同じことをしている。
一応フィクションとされているが、モデルになった監督が実在すると思われる。
(名前から野田幸男監督ではないかと推察される)



383 名前:「30人いる!」 その284 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:08:42 ID:???
ヘリはしばらく椎応大学上空を旋回していたが、やがて降下して来た。
一同「?」
ヘリは学棟の向こうに姿を消し、しばらくしてローターの音が消えた。
浅田「着陸した…かな?」
伊藤「そのようだニャー」
有吉「何かあったかな?」
恵子「まあうちらにゃ関係ねえだろ。それより本番の準備始めようや。着ぐるみ組さっさと着替えちゃって」
ケロロ役の荻上会長、タママ役のニャー子、ギロロ役の国松、モア役のアンジェラの女子4人は、着替えるべく部室に入る。
クッチーは外に出してあったベムのスーツの入ったショルダーバッグを開けると、その場で脱ごうとする。
どうやらクッチー、何度か国松立会いで着替える内に、すっかり女子の前で脱ぐことに抵抗が無くなったらしい。
台場「ダメですよクッチー先輩、こんなとこで着替えちゃ!」
朽木「大丈夫だよ、僕チン気にしないから」
台場「こっちが気にします!下の階の鉄道研究会の部室借りてありますから、そっち使って下さい!」
朽木「了解であります!」
日垣「俺手伝いますよ」

「こうして並んでると、やっぱ壮観だな」
浅田がポツリと感想をもらした。
着替えが済んだスーツ組がズラリと並んだのだ。
「でも俺たち的には、あっちが今日のハイライトじゃないか?」
岸野の視線の先には、今日出番の俳優陣の中で唯一素顔で芝居する、アンジェラの姿があった。
今日のアンジェラのモアコスは擬態解除バージョン、いわゆるハルマゲドンの時の格好だ。
当然コミフェスのように長物規制も無いので、ルシファースピアも持っている。



384 名前:「30人いる!」 その285 sage 投稿日:2009/02/15(日) 21:10:08 ID:???
台場「プロモーションにも使えそうね。監督、しばらく時間もらって撮影していいですか?」
恵子「姉さんたちが長くは持たないから、手早くな」
台場「了解!浅田君、岸野君、写真の方のカメラは持ってる?」
浅田「あるよ」
台場「じゃあ写真もお願い。(目を輝かせて)こりゃ映画公開時に高く売れるわよ」
一同「またもや狩る者の目になってる…」

「あのうすいません、こちらで何をなさってるんですか?」
現視研の面々の背後から、聞き慣れない女性の声がかかった。
一同が振り返ると、見慣れぬ男女2人組が立っていた。
男は30歳前後、女は20代半ばぐらいに見える。
2人とも半袖のシャツにジーンズという、動きやすそうなラフな服装だった。
男は大きなビデオカメラを構えており、女はハンドマイクを持っていた。
恵子「て言うか、あんたらこそ誰だよ?」
女(以下女子アナ)「ごめんなさい、申し遅れました。私はテレビ奥東京のアナウンサーの○○です。(男を指し)で、こっちがカメラマンの××です」
(注)テレビ奥東京
「ケロロ軍曹」の劇中に登場する、テレビ東京をモデルにしたと思われるテレビ局。

再び居酒屋。
日垣「まあまさか、バルサンが原因でああいう事態になるとは思わなかったよね」
国松「さすがに想定外だったわね。リハーサル10数回ともなると、たかがバルサンと言えども馬鹿にはならないわね」



397 名前:「30人いる!」 その286 sage 投稿日:2009/02/21(土) 23:57:05 ID:???
突如現れたテレビ局の女子アナに、恵子は問いかけた。
「で、そのテレビ局の人が何でこんなとこに?」
女子アナ「実は△△という番組の取材でヘリに乗っていたのですが、その帰りにこちらの大学の上空で、巨大な蜃気楼を発見したんです」
一同「しんきろう?」
女子アナ「それでしばらく観察していたのですが、蜃気楼の真下にこの建物があることに気付いて、何らかの関係があるかも知れないと思って、やって来た次第です」

再び居酒屋
巴「それにしても恵子先輩、よくあんな落ち着いた態度で対応出来たわね」
豪田「そうそう、みんな舞い上がっててアタフタしてたのに」
国松「そこはそれ、監督の自覚ってやつよ」
沢田「それにしても意外だったわよ。前に部室で一緒になった時なんて、テレビに出たことあるって自慢話してらっしゃったのに」
一同「何ですと?」
神田「ああ、そん時私もいた。確かニュースだかワイドショーだかの街頭インタビュー、3回ぐらい受けたことあるって仰ってたっけ」
有吉「やっぱけっこうミーハーなんだな…」
「それは多分、監督が頭の中でまとまったイメージを忘れたくなかったからだと思うよ」
いつの間にか部屋の隅っこで、浅田と一緒にしみじみ飲んでいた岸野が口を開いた。
国松「そうなの?」
岸野「あの後2時間ぐらい、テレビ局のインタビューやら撮影やらで、こっちの撮影が中断してたでしょ?」
豪田「そうだったわね」
岸野「その間監督、自分がインタビュー受けてる時以外は、ずっとブツブツ言いながらカメラ覗いたりセット見たりしてたんだ」
浅田「そう言えばそうだったな」
国松「(目をウルウルさせ)やっぱり監督、やる気満々なんだわ!」
岸野「まあ監督が仰るには、『あたしゃ頭悪いんだから、早いとこ撮影始めないと忘れちまうんだよ』ってことらしいけどね」



398 名前:「30人いる!」 その287 sage 投稿日:2009/02/21(土) 23:58:18 ID:???
伊藤「やる気満々と言えば、そっからは台場さんがやる気満々になってましたニャー」
有吉「確かに。あの後レポーターの人、僕たちの説明で一応納得したら、関心が映画の方に移っちゃって、そっからは台場さんが張り切ってたんだよね」
台場「(苦笑して)張り切るってほどじゃなかったわよ」
一同「(一文字一文字区切るように)いいや、張り切ってた!」

現視研の面々が「ケロロ軍曹」の実写版映画を撮影していることを知ると、自局のアニメが題材ということもあって、女子アナは急遽映画についての取材を申し込んだ。
撮影に集中してるせいかテレビに無関心な恵子や、東北出身者特有のテレビコンプレックスでアタフタしている荻上会長を尻目に、プロデューサーの台場が仕切り出した。
まるで台本でも用意していたかのように、てきぱきと手際良く進めて行く。
先ずは女子アナが着ぐるみに注目しているのを好機と見たのと、この炎天下では着ぐるみ組がまいってしまうことを考慮して、着ぐるみでの撮影会を提案した。
女子アナも話に乗ったので、台場はこの日は出番が無かった沢田と日垣、それに出番の済んだスーまでわざわざ着替えさせた。
そうなると現視研一のお祭り野朗クッチーも黙っていない。
日垣相手にちょっとした殺陣の真似事を披露し、映画ではやる予定の無いフライングニールキックやローリングソバットまでも見せた。
日垣も特訓の成果を見せて、基本的な空手の突き蹴りを見せる。
さらには映画には全く関係の無い、大野さんのコスプレ七変化の撮影会までも催した。
(秋ママ用の眼鏡を着用し、一応秋ママのコスプレ七変化という設定だが)



399 名前:「30人いる!」 その288 sage 投稿日:2009/02/21(土) 23:59:44 ID:???
続いて台場は、現視研の面々とその役割を紹介した。
ちなみにこの時、着ぐるみ組は一旦着替えに行った。
小隊役の女子たちは、ビキニにバスローブやヨットパーカー等を羽織った姿になり、男子2人も海パンとTシャツという格好になった。
モア役のアンジェラも、コスのアンダーの上からパーカーを羽織った格好になった。
こういう状況に備えて、日垣がモアコスを作る際に、コスを二層にして上の装飾部分だけを脱ぐことが出来るようにしたのだ。
ひと通り紹介が終わると、先ずは件の女子アナ、主要なスタッフやキャストが女の子で固められていることに注目した。
女子アナ「なるほど、会長さんが女の子で、監督さんも女の子、スーツアクターも7人中5人は女の子、カメラマンも4人中2人は女の子ですか。女の子大活躍ですね、現視研って」
台場「まあ、女子の方が人数多いから、結果的にそうなっただけですけどね」
女子アナ「それにしても、着ぐるみまで女の子ってのは凄いですよ」
台場「まあ単にケロロ小隊だと小柄じゃなきゃいけないから、自然と女の子での小隊編成になっただけですよ」
女子アナ「そう言えばプロデューサーも女の子でしたね」
台場「(照れて)プロデューサーと言っても、スポンサーから金集めたり、いろいろ届出したり、映画の宣伝やったり、まあ事務員ですよ」
女子アナ「宣伝担当ってことは、さしずめ台場さんは『現視研の女ゲッベルス』ってとこかしら」
それを傍で聞いていて、こける一同。
女子アナ「と言うことは、それで女の子が監督なんだから、さしずめ笹原監督は、『21世紀のリーフェンシュタール』ってとこかな」
今度はキョトンとなる一同。
数少ないこけた会員は、スーとアンジェラの外人コンビ、伊藤、そして浅田と岸野のカメラマンコンビだけであった。
浅田「何であの人、リーフェンシュタールなんて知ってるんだ?まだ見た目30も行ってないと思うけど…」



400 名前:「30人いる!」 その289 sage 投稿日:2009/02/22(日) 00:01:19 ID:???
恵子「なあ浅田、そのリーヘン何とかって誰だ?」
浅田「リーフェンシュタールは、ナチス時代のドイツの女流映画監督ですよ」
恵子「何だかよく分からんが、昔の人なのか?」
浅田「まあ近代史ですけど歴史上の人物ですね。と言っても亡くなったのは、つい最近ですけど(2003年没)」
浅田の説明はなおも続いた。
リーフェンシュタールは、ベルリンオリンピックを題材にした「オリンピア」等の、数々のナチスのプロパガンダ映画を監督した。
実は彼女はナチスの信奉者ではなく、映像の素材として注目していただけだった。
だがメディア戦略に重点を置いていたナチスは、当時は映画が唯一の映像メディアということもあって、彼女を重用した。
ちなみに女子アナが勝手に台場の異名にしたゲッベルスは、そのメディア戦略を担当する官庁である宣伝省の大臣である。
なお余談だが、同じ宣伝担当のライバルのせいか、2人の仲は悪かったそうだ。
豪田「それにしても、何故うちの監督がリーフェンシュタール?」
岸野「ナチス繋がりじゃない?台場さんがゲッベルスだから」
国松「じゃあうちの会長は、さしずめ女ヒトラーってとこかな」
伊藤「やれやれ。我々オタクは、むしろナチスとは正反対の立場なんだがニャー。オタクの好きな作品なんて、ナチスにかかったら全部退廃芸術扱いだニャー」
巴「何その退廃芸術って?」
伊藤「ナチスは当時の近代美術(簡単に言えば、世間一般がピカソの作品と言えば、連想するような絵)をそう呼んで迫害してたんだニャー」
国松「どうして?」
伊藤「ヒトラーの好みが、写真のようにカッチリした、古典的な写実派の美術だったからだニャー」
国松「でもそれだけなら、わざわざ迫害しなくても…」
伊藤「ヒトラーは元々は画家を目指していたんだけど、当時の芸術界の流行りが近代美術だった為に、写実派のヒトラーは芸術大学に入れなかったって因縁があるんだニャー」
日垣「つまりその腹いせで迫害したと?」
伊藤「おそらくそうだニャー」



401 名前:「30人いる!」 その290 sage 投稿日:2009/02/22(日) 00:02:40 ID:???
「誰がコステロや!」
その時、藪崎さんの叫びが轟いた。
現視研の面々が声の方を向くと、藪崎さんが女子アナに詰め寄ろうとするのを、加藤さんが背後から羽交い絞めにして止めていた。
加藤「まあまあ、そんなにマジで怒らなくても」
藪崎「そら加藤さんはアボットやからまだええけど、私なんかコステロでっせ。何ぼ何でも、そらちょっと…」
どうやらサブカメラマンコンビ、女子アナに腐女子版アボット&コステロと命名されてしまい、それで藪崎さんがキレたようだ。
「何なの、アボットとコステロって?」
ようやくインタビューから解放されて戻って来た荻上会長が声をかけた。
スー「押忍!戦前から戦後にかけて活躍した、有名な喜劇俳優コンビであります!」
神田「ガリガリノッポとチビデブという典型的な凸凹コンビだったんで、日本では凸凹コンビと呼ばれることが多かったですね」
荻上「スーちゃんはともかく、何で神田さんが知ってるの?」
神田「『まんが道』の中で、藤子不二雄の両先生が、手塚治虫先生に凸凹コンビそっくりと言われるエピソードがあるんですよ」
荻上「ああ藤子先生の伝記漫画ね」
スー「(高橋和枝似の涙声で)あぼっと〜!」
浅田「だから何で日本語版なんて知ってるんだ?あのアニメ、オリジナルはともかく、日本語版は多分ソフト化されてないと思うけど」
スーがやったのは、60年代に制作された「アボットとコステロ」のアニメ版の、日本で放映された際の吹き替え版の物真似で、コステロの定番の台詞である。
(コステロが事件に巻き込まれて、アボットを呼ぶというストーリー展開が多い)
荻上「それにツッコめる浅田君も大したもんだと思うけど…」



461 名前:30人いる! その291 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:05:03 ID:???
再び居酒屋。
日垣「でももっと分かりにくかったのは、スーちゃんのあれだよな」
豪田「あれは分かりにくかったわね」
巴「さすがにあの時は、みんな凍結しちゃったもんね」
有吉「でもあの女子アナの人、ちゃんとこけてたな。あの人の歳だったら生まれる前か、記憶に無いぐらい幼い頃の話だと思うんだけど…」

元々映画のきっかけがスーのクルルコス希望だったこともあってか、金髪でロリ顔美少女の外見が話題にしやすいと判断したせいか、女子アナの人が最も注目したのはスーだった。
台場からスーがアニメや漫画の台詞の物真似が上手いと聞いて、それを期待してスーにマイクを向けた。
だがスーが放ったのは、こんなひと言だった。
「コンバンワ、らっしゃー木村デス」
反応してこけたのは、テレビ局のコンビと、プロレスにも詳しい有吉だけであった。
有吉「何でスーちゃん、こんばんわ事件なんて知ってるんだ?」
こんばんわ事件とは、1981年の田園コロシアムでの新日本プロレスの興行で、倒産した国際プロレスから参加したラッシャー木村が、リング上で観客に挨拶したことである。
これが観客の失笑を買ってしまった。
当時の新日本プロレスは日本人同士の軍団抗争が盛んで、リング上には殺伐とした空気が蔓延していたからだ。
だからファンは「猪木ぶっ殺すぞ、この野朗」みたいなコメントを期待していた。
これに対し常識人(?)であるラッシャーは、「人様のリングに初めて上がるのだから」と普通に「こんばんわ」と挨拶した。
このミスマッチが失笑を生み、ビートたけしがこれをギャグとして広めてしまったのだ。

結局スーへのインタビューは、台場が間に入って「ケロロ軍曹」のメインキャラ全員の台詞の物真似をやらせることで、何とか体裁を整えた。



462 名前:30人いる! その292 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:06:26 ID:???
再び居酒屋。
有吉「何でスーちゃん、わざわざこんばんわ事件なんてセレクトしたの?」
スー「押忍!テレビを意識して、一般向けのネタをセレクトしたつもりだったのですが、問題あったでありますか?」
浅田「いや今じゃ一般的じゃないよ、80年代のプロレスネタは…」
台場「まあ何はともあれ、みんなのおかげで、映画のプロモーションは大成功だったわね」
浅田「プロモーションって言っても、深夜のニュースでの10分足らずのコーナーだったけどね」
伊藤「しかもテレビ奥東京限定ですニャー」
沢田「2時間近くも撮影中断した代償としては、知れてると思うけど」
台場「ハハハハハハ…(笑って誤魔化す)」

テレビ局の2人が帰った直後、撮影は再開された。
シーン18-Bからシーン22にかけての通しの撮影の段取りは、次の通りだった。
先ずケロン人スーツ着用の荻上会長、ニャー子、国松、そしてハルマゲドンバージョンのモアコスのアンジェラが部室の外で待機してる状態で、シーン18-Bを撮影する。
カプセルが開いて煙が噴射し、煙が出切った所で1度カメラを止める。
そこですかさずカメラの背後で待機していたクッチーがカプセルの向こう側に移動し、煙の中でしゃがみ込んだ所から再びカメラを回す。
そしてクッチーが立ち上がりつつベムの目を点灯させ、両手を上げて威嚇のポーズを決めた所でシーン18-Bは終了となる。
その直後、扇風機をフル回転させて煙の大部分を追い出し、入れ替わりに外で待機していた4人が部室に入る。
そして入り口から見て左手のセットの壁に設置された、クルルズラボのドアの向こう側に、有吉と日垣と共に入る。
この間にクッチーはセット中央に、撮影スタッフはセットの右側に配置を移動し、後はシーン22の撮影にそのまま突入という流れだ。



463 名前:30人いる! その293 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:07:35 ID:???
わざわざこんな通しの撮影にしたのは、何度もバルサンを焚いたり排気したりするのが面倒な為であった。
シーン22は煙無しでもよかったのだが、ベム復活直後に小隊の面々が駆け付けたという状況を強調する為に、敢えて煙を少し残したのだ。
わざわざ排気して煙を減らしたのは、煙の中で複数のスーツアクターが動き回るのが危険なことと、モア役のアンジェラはマスク無しで演技する為であった。
小隊の面々を後から部室に入れたのは、単純にスーツでは暑さと煙の中では長く持たないという理由からだ。
それを言い出したらクッチーはもっと大変なのだが、実は通しの撮影で行くことを主張したのはクッチーだった。
彼は今回の撮影の準備を手伝う過程で、特撮の準備がいかに手間かということを実感した。そこで最も準備の手間が少なく、効率良く撮影出来る、通しの撮影を推したのだ。
「僕チンは男の子だから、少々長くスーツ着てても何とかなるにょー」
以前炎天下で1時間着て動き回った時のことを思えば、わずか数分の撮影など、彼にとって大したものではないと思えたらしい。
有吉と日垣が一緒に入るのは、2人がドアを開ける為だ。
本来クルルズラボの扉は、上に持ち上がるように開くのだが、今回は自動ドアであることを強調する為に、わざと両開きの引き戸の形にした。
それを2人で両側からタイミングを合わせて開くのだ。
この扉の方式を豪田にリクエストしたのは国松だった。
ウルトラシリーズの歴代怪獣攻撃チームの作戦司令室のドアが、この方式だったからだ。
なお余談になるが、昭和天皇は戦後になるまで、世の中のあらゆる扉やドアは自動的に開くものだと思われていたそうだ。
つまり、常にお付きの人が陛下の死角で開けていた訳である。



464 名前:30人いる! その294 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:09:58 ID:???
ちなみにシーン22のシナリオは、次の通りであった。
(注)正式な脚本の書式では読みづらいので、SS風の書式で表記しました。

まだ蘇生時に発生した煙が残る室内に立つ、ホムンクルスのベム1号。
部屋のドアが開き、ケロロ、タママ、ギロロ(銃を持ってる)が入って来る。
ケロロ「何事でありますか!?(ベムを見て)ゲロッ!?」
ギロロ「何なんだ、こいつは?」
クルル(声)「どうやら圧縮されていた細胞が、何らかのショックで蘇ったみたいだな。錬金術による人工生命体1号、さしずめベム1号とでも呼ぶか、ク〜クックックッ」
ケロロ「ベムとは何ゆえでありますか?」
クルル(声)「ペコポンでは昔は宇宙生物をそう呼んだのさ」
タママ「あのう、ショックってどんなショックですかあ?」
クルル(声)「例えば強い光とかな」
ケロロ「強い光…ゲロッ?まさか!」
ケロロの脳内フラッシュバック。(シーン14再現)
ストロボを焚いて、タイムカプセルの写真を撮るケロロ。        
(注)この頃ケロロは写真に凝っていて、フィルム式の一眼レフを愛用していた。
クルル(声)「おそらくそのまさかだろうな、ク〜クックックッ」
ギロロ「(ケロロに)またお前か〜!」
ケロロ「とっ、とにかくやっつけるであります!」
タママ「(身構えて)はいです〜!」
ギロロ「(銃を構え、タママと同時に)おう!」
「待ちな、人の部屋ん中でドンパチやられちゃ困るぜ〜」
ケロロ「ゲロッ?ならどうするでありますか?」
再びドアが開き、擬態解除したモアが入って来る。
そのままベムに向かって走って突進する。 
クルル(声)「クルル時空に叩っ込んでやんな!」
モア「はいっ、ハルマゲドン1億分の1!」
フルスイングでルシファースピアをベムに叩き込むモア。
(注)このシーンの間、様子見の為かベムはおとなしくしていた。



465 名前:30人いる! その295 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:11:18 ID:???
恵子「いいか、とにかく落ち着いて、慌てずにひとつひとつ丁寧に行けよ!」
一同「はいっ!」
伊藤「ではシーン18-Bとシーン22、通しでの撮影の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意、スタート!」
シーン18-Bの撮影は、タイムカプセルを入り口から向かって右側の壁寄りの床に置き、カメラ他撮影スタッフは、全員部室の中央付近に位置して行なわれた。
全員ガスマスクを着用している。
小道具係の日垣が、恵子のスタートの合図に合わせて、タイムカプセルから伸びたコードの先に付いたスイッチをオンにする。
夜光塗料を塗られた、カプセルの蓋の覗き窓が一瞬照明の照り返しで光り、次の瞬間パカットと勢い良く蓋が開き、煙を噴き出した。
やがて煙の噴射が止まり、部屋いっぱいに煙が充満する。
恵子「よしっ、カメラ止めて待機!クッチー、出番だ!」
朽木「了解であります!」
スタッフの背後で待機していたベムスーツ姿のクッチーが、入り口から向かって右側の壁際、つまりスタッフから見てカプセルの向こう側にしゃがみ込む。
恵子「よしっ、撮影再開!」
恵子の合図に合わせてカメラが再び回り、クッチーは合図から三秒置いてゆっくりと立ち上がる。
そして威嚇するかのように両手を挙げ、同時に点灯スイッチ(今回の撮影用に掌の中に移した)をオンにして目を光らせ、「ガア!」と咆哮を上げる。
恵子「よしカット!すぐに換気だ!」
有吉が部室のドアを開けに走り、日垣が扇風機を全機フル回転させ、手の空いた者がうちわや下敷きであおいで煙を追い出しにかかる。
その間伊藤がクッチーの背中のファスナーを開け、コールドスプレーをかけてやる。
それと並行して、台場がベムのマスクの繋ぎ目からストローを差し込んで、クッチーにス
ポーツドリンクを飲ませてやる。



466 名前:30人いる! その296 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:12:25 ID:???
煙と入れ替わるように、小隊役の3人とアンジェラが部室に入って来る。
視界が確保出来る程度には排気が済んだものの、ある程度の煙が残っているのでアンジェラが軽く咳き込む。
恵子「大丈夫か?」
スーツのマスク部にガスマスクのフィルターを貼り付けたスーツアクター組と違い、モア役のアンジェラは素顔のままだ。
アンジェラ「大丈夫あるね。それに咳き込んだ方が、却って煙の中に入ったことが強調出来るあるよ。てゆーか撮影続行?」
恵子「わーった。全員すぐ次のシーンの準備にかかれ!」
ケロロ小隊役の3人とアンジェラ、それに有吉と日垣は、共にクルルズラボのドア(部屋の左側に位置する)の向こう側に入る。
クッチー扮するベムは部屋の中央に移動し、撮影スタッフは部屋の右側に移動する。
伊藤「では撮影を再開し、シーン22の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意スタート!」

再び居酒屋。
沢田「結局何回撮り直したっけ?」
神田「(記録ノートを出し)えーと10回ね」
伊藤「あの時のNG、凄く細かい理由でしたニャー」
有吉「確か1回目は、僕が扉開くのが少し遅れたことだっけ?」
国松「確か2回目は、私が少し出遅れたせいだったわね」
巴「で、3回目はニャー子さんがこけちゃったせいだったわね」
豪田「そこまではまだ良かったんだけど、その後が大変だったのよね」
アンジェラ「そうそう、特にミスタークッチーが1番大変だったあるね。てゆーか七転八倒?」
浅田「今回に限っては正解だね、その四文字熟語の使い方」



467 名前:30人いる! その297 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:13:41 ID:???
3回のリテイクでようやくオッケーとなったが、そこで恵子が爆弾発言をした。
「なあ今のシーンさあ、予定じゃモアがベムをどついたとこまでで終わりだけど、ベムが吹っ飛ぶとこまで撮らないか?」
一瞬一同が呆然とする中、いち早く国松が反応した。
「いいですね、それ!その方が、その後のベムがクルル時空に吸い込まれる特撮シーンとの繋がりも、スムーズになりますし」
荻上「でも、それじゃあ朽木先輩が持たないでしょ?」
その時豪田が、部室の外に出してあった岩型のマットを持ち込んで来た。
豪田「大丈夫ですよ。これに向かって飛び込むようにすれば」
有吉「(アンジェラが持っているルシファースピアをいじりつつ)でもこれで吹っ飛ぶほど殴られたら、朽木先輩だってきついでしょ?」
アンジェラの扮するアンゴル・モアは、ルシファースピアという杖のような道具を、杵(この場合は棍棒状のタイプのやつ)のように使って叩くことで、星を破壊する能力がある。
ルシファースピアは、棒の片方の端に三日月型の刃(と思われるが、実際は単なる飾りかも知れない)、もう片方の端には隕石状の球が付いている。
星を破壊するのに使われるのは、隕石状の球の方である。
小道具係の日垣は、ルシファースピアを作る際、先ず樹脂でベースになる軸を作り、外側を溶かした硬質ゴムで固めて作った。
叩き付けても壊れない丈夫さと、叩かれた方が怪我しないようにとの配慮から、こういう作り方をしたのだが、それでも生身の人間が叩かれれば、けっこう痛い。
朽木「その点ならば大丈夫、僕チン道場ではメディシンボールで鍛えてるから、これぐらいでは堪えないにょー」
(注)メディシンボール
ボクサー等が腹筋の打たれ強さを鍛えるのに使う、中に鉛の入った皮製のボール。



468 名前:30人いる! その298 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:15:25 ID:???
このクッチーの安請け合いが、地獄の撮影を招いた。
「にょ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
岩型のマットのところまで、クッチーは2メートル近く吹き飛んだ。
そしてマットの後ろから支えていた、手の余っている会員たちは、セットとクッチーに挟まれて圧殺される破目になった。
アンジェラの怪力で思い切り突き込まれたルシファースピアは、クッチーの予想以上に破壊力があった。
先程までの、突いたところでカットする形だけの突きと違い、本気のアンジェラの突きは、重量級の空手有段者の突き蹴り以上に重かった。
だが恵子はなかなかオッケーを出さず、結果クッチーは4回吹き飛ぶ破目になった。

さすがにクッチーが堪えたこともあり、しばし小休止となる。
神田「大丈夫ですか、クッチー先輩?」
朽木「(着ぐるみを脱いで寝転び)まあ、何とか…」
国松「監督、今のじゃダメですか?クッチー先輩、けっこう派手に飛んで、画的には十分だと思いますけど」
恵子「うん、クッチーはあれでいいと思うんだけど、アンジェラの方がな…」
アンジェラ「私何か問題あるあるか?」
恵子「問題ってほどのことじゃねえんだけど、その何と言うか…」
しばし考え込む恵子。
沈黙で見守る一同。



469 名前:30人いる! その299 sage 投稿日:2009/03/22(日) 21:16:46 ID:???
恵子「分かったぞ!突くから地味なんだ!」
日垣「いや、十分派手だと思いますけど」
恵子「クッチーのリアクションはな。だがアンジェラのアクションとしては、あれじゃ足りねえよ」
荻上「じゃあどうするんです?」
恵子「バットみたいに振ればいいんだよ、フルスイングで」
固まる一同。
台場「それやると、いくらクッチー先輩でもきついのでは?」
恵子「でーじょーぶだよ、なっクッチー?」
朽木「(上体を起こし)まっ、まあ何とか…」
さすがにやや弱気になるクッチー。
そんなクッチーに恵子は近付き、肩に腕を回す。
ドキリとするクッチー。
恵子「次の撮影からはさあ、腹どつきに来る棒の先の球じゃなくて、アンジェラの方を見てろ」
朽木「アンジェラをでありますか?」
恵子「そうだ。そしてどつきに来る球の方は、鞭か何かだと思い込むんだ」
朽木「鞭でありますか?」
恵子「そうやってよーく考えてみろ。金髪で巨乳の美女に、鞭でしばかれる。そういう状況って、お前さんにとっては、けっこうおいしい状況なんじゃないか?」
しばしの沈黙の後、クッチーの中で大きく脈打つものがあった。
朽木「なるほど確かに、これは凄まじい萌えシチュエーションですな!」
一同「(引いて)そうなのか?…」
恵子「そうだろ?どうだ、元気出たか?」
朽木「イエッサー!」



470 名前:30人いる! その300 sage 投稿日:2009/03/23(月) 00:05:26 ID:???
そして再び撮影は開始されたが、またもやNGが2回連続で出た。
ルシファースピアが長い為に、バットのように振るには思った以上に間合いが必要で、立ち位置を決めないままスタートしたせいもあり、上手く球の部分が当たらなかったのだ。
(注)ルシファースピアはモアの身長ぐらいの長さがあるが、原作の設定によれば、モアの身長は150センチ。

だが結果的に、このことがクッチーの士気を高めた。
2回のNGは棒の部分が当たってしまったのだが、棒の部分にも硬質ゴムが張られていたので、スーツ越しに当たる分には、鞭に近い感触になるのだ。
金髪巨乳美女に鞭でしばかれるという状況に、すっかりクッチーは気を良くし、ハアハアしつつピーもピーな状況になり、先程までのダメージから回復しつつあった。
気を良くしたクッチー、とんでもない提案をする。
「こうなったら女王様、じゃなくて監督、思い切ってわたくしの顔にいただけませんか、愛の鞭を?」
さすがに引く一同。
巴「うわあクッチー先輩、すっかり目的を見失ってる…」
だが恵子はノリノリだ。
「よっしゃよく言ったクッチー!それでこそ男の中の男だ!」
一同「そうなのか?」
恵子「アンジェラ、次は思いっきし顔に行ったれ!」
アンジェラ「てゆーか鉄拳制裁?」

そして10回目のリテイク。
「にょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
顔面にルシファースピアがジャストミートし、クッチーは見事に吹き飛んだ。
吹き飛んだクッチーはマットを飛び越えてセットに直撃し、セットを破壊してさらにその裏にあった部室の窓を突き破り、部室の外まで飛んで行った。
一同「クッチー(朽木)先輩!」
会員たちは、クッチーの後を追って部室の外へと向かった。



471 名前:30人いる! その301 sage 投稿日:2009/03/23(月) 00:07:28 ID:???
一方で恵子は、冷静な判断力でカメラマンたちに問うた。
「お前ら、クッチーが吹っ飛んで、セットぶっ壊したとこまでカメラ回してたか?」
カメラマンたちも冷静だった。
カメラ一同「はいっ!」
浅田「でも今のカット、吹っ飛んだ瞬間はともかく、セットの壊れたとこは、さすがに本編では使えないですね」
その問いに、恵子よりも早く答える声があった。
「大丈夫、メイキング映像の目玉になるから!」
声の主は、冷静な計算と熱い商魂が同居した、鋭い眼光を放つ台場であった。

部室の外へ一同が出てみると、クッチーは痙攣していた。
急いでスーツのマスク部分を脱がせて、問いかける国松。
「大丈夫ですか、クッチー先輩!?」
だがマスクの下にあったのは、恍惚とした表情のクッチーだった。
引いている一同を尻目に、クッチーはすっくと立ち上がり、高らかに宣言した。
「ふっか〜〜〜〜〜〜つ!!!!」
呆然とする一同。
浅田「何で復活するの?」
みんなが忘れかけていた設定を解説するスー。
「(政宗一成似の声で)朽木学ハ女性ニ殴ラレルコトニヨリ、3倍ニぱわーあっぷスルノダ!」
こうしていろいろあった、長い長い7日目の撮影は、ようやく終了した。



486 名前:30人いる! その302 sage 投稿日:2009/03/29(日) 20:40:36 ID:???
「(井端珠里似の声で)駅カラ5分ハ実ハ15分!ソレジャアそるじゃード疲レサン!〜♪」
スーが歌っているのは、ケロロ軍曹の主題歌「ケロッ!とマーチ」である。
何故彼女が歌っているかと言うと、ここはカラオケボックスだからである。
クランクインから10日目に開かれた、現視研1年生たちの飲み会兼反省会は、7日目の反省がまとまった所で居酒屋の閉店時間となった。
あと2日分(9日目は撮休だった)なので続きをやってしまおうということになり、近場のカラオケボックスで2次会と相成った訳である。
そんな次第で、8日目以降の飲み会兼反省会は、アニソンのBGM付きという賑やかな状況になった。
沢田「やれやれ、寝るのは何時になることやら」
豪田「まあ若いんだから、少々睡眠不足でもいいけど、お風呂は入りたいわね」
国松「その点なら大丈夫。近くに健康ランドあるし、少し歩いたら5時から朝風呂やってる銭湯があるわよ」
台場「あんた朝まで居る気か!?て言うか、その手の一升瓶は何だ!?」
アンジェラ「てゆーか用意周到?」
有吉「まあまあ、時間も無いことだし本題に戻るよ。結局7日目は撮影が夜まで延びちゃったから、8日目の準備は当日の朝になっちゃったんだよね」
巴「お疲れ様、蛇衣子」
豪田「まああの日のは大したこと無かったから。壁入れ替えて、カーペット敷いて、家具セッティングするだけだから、手のかかる調整は無かったし」
伊藤「いやそれでも大したもんだと思うニャー。どう見てもセットに見えなかったし」



487 名前:30人いる! その303 sage 投稿日:2009/03/29(日) 20:42:01 ID:???
8日目もまた部室にセットを組んでの撮影が行なわれた。
ケロロの部屋のセットだ。
当初ケロロの部屋は、誰かの部屋でロケする予定だった。
だがケロロの部屋には、一般家屋のオタルームで再現することが困難な特徴が2つあった。
1つは部屋に窓が無いことだった。
ケロロの部屋は地下室で、当然窓が無くドアも1つなので、三方を壁に囲まれている。
ところが一般的な日本家屋の部屋には、大抵窓がある。
和室が隣接してて障子で区切ってある、通り道のような部屋ならば窓が無い場合もあるが、その場合は戸が2つ以上あって、ますますイメージがケロロルームから遠ざかる。
だがそれだけならば、窓を板で塞ぐことで解決出来る。
もう1つ、浅田と岸野があちこちロケハンして気付いた思わぬ盲点は、部屋の広さだった。
ケロロの部屋は意外と広い。
と言っても、実際には四畳半か六畳程度である。
ケロロは地下の基地内に、専用の展示室と保管庫を作って、そこに大量のガンプラコレクションを保管しているので、自室のガンプラの陳列数は意外と少ない。
漫画本やビデオテープ(ケロロは今でもけっこうビデオテープを使っている)やDVDについても同様なので、ケロロの部屋はオタルームとしては物が少ない。
そしてケロロの体は普通の人間の3分の1程度の大きさしかないので、ベッド等も当然小さい。
その為、本来さほど広くない自室が、普通の人間なら考えられないほど広く使えるのだ。
これに対し、会員たちの自室のオタルームは狭い。
大抵元々が三畳か四畳半程度しかない上に、オタグッズとオタメディアで埋もれている。
仮に必死で片付けても(中身を外へ出しても)ケロロの部屋の広々感は再現出来ない。
そこで部室を使って再現することになったのだ。
(まあそれにしても、カメラワークを駆使して誤魔化すことになるが)



488 名前:30人いる! その304 sage 投稿日:2009/03/29(日) 20:43:35 ID:???
この日撮影したのは2シーンだけであった。
6-B 相変わらずガンプラ作りに耽るケロロ
19  ガンプラ製作中にベム復活し、その振動に驚くケロロとタママ
本来はシーン19の前後に、ギロロのリアクションとクルルと冬樹のリアクションを入れる予定だったが、それらのシーンは欠番になった。
話の展開のリズムを早める為と、仮にも主人公であるケロロの出番を強調する為に、リアクションのシーンをケロロに集中させたのだ。

このシーンの撮影に備え、荻上会長はガンプラ作りの特訓を行なった。
先ずは自宅で数個作り、次には部室に田中を招き、プロ級とまでは行かぬまでも初級ぐらいのテクニックを学んだ。
まあもっとも部室でのガンプラ特訓は、結局のところ会員全員でのガンプラ講習会と化してしまったが。

たかが十数秒程度のカットの為にここまでの特訓をしたのは、ケロロのスーツを身に着けてのガンプラ作りが意外と難しいからだ。
ケロロのスーツは、頭部の覗き窓と目との間隔が広いので、慣れないと距離感が掴みにくい。
それに着ぐるみなので、当然手は手袋を着けた状態になる。
ケロロのスーツの手には、軽作業用の薄手の手袋を染料で染めたものを使用している。
軍手ほどはぶ厚くない、細かい作業用に使われるタイプのものだ。
そのタイプのものですら、手袋着用ではケロロのように器用に組み立てることは難しい。
その為荻上会長は、手袋着用でのガンプラ特訓、そして最終的にはケロロのスーツ着用でのガンプラ特訓を実施し、遂には本物のケロロ顔負けの器用さで作れるようになった。



489 名前:30人いる! その305 sage 投稿日:2009/03/29(日) 20:44:57 ID:???
「どういうことなの?!」
撮影開始直前、荻上会長は珍しく大声を上げた。
当初の予定では、この日の撮影用のガンプラは、小道具担当の日垣が途中まで組んだ物を(2シーンの撮影用なので)2種類用意しているはずだった。
だが実際に途中まで組んだ物が用意されたのは1種類(オーソドックスにRX-78-2ガンダム)だけで、もう1つは新品の手付かずのガンプラだった。
しかもその新品とは、先月発売されたばかりのマスターグレードシリーズ、RB-79ボールのシャークマウス仕様だった。
珍しく声を荒げた荻上会長にたじろぎつつ、日垣は事情を説明した。
「実は昨日監督から電話があって、片方は丸々残しとくように指示されたんです」
荻上「恵子さんが?」
日垣「ええ」
荻上「どういうことかしら?…」
この時、他の会員たちは集まっていたが、恵子はまだ来ていなかった。
沢田「それよりガンダムはともかく、何でもうひとつはボールなの?」
有吉「しかもシャークマウス仕様なんて、えらくマニアックなバージョンを…」
シャークマウス仕様のボールは、2004年から2006年にかけて発売された、OVAシリーズの「MS IGLOO」で初登場なので、現視研でも知らない者は多かった。
日垣「それは台場さんの指示なんだよ」
国松「どゆこと、晴海?」
台場「ほら、それこの間発売されたでしょ?著作権のことで角川さんに交渉に行った時に頂いて、頼まれちゃったのよ。これ映画で使ってって」
一同「タイアップかよ!」
アンジェラ「てゆーか商業主義?」



490 名前:30人いる! その306 sage 投稿日:2009/03/29(日) 20:46:28 ID:???
「おう、みんな揃ったか」
そこへ遅れて恵子がやって来た。
荻上「ちょっ、ちょっと恵子さん…」
どういうことかと問い詰めようとする荻上会長を無視して、恵子はテーブルの上に用意されたガンプラに注目した。
恵子「ありゃ?日垣、ガンダムの方作りかけちゃったのか?」
日垣「あれっ、違いましたっけ?」
恵子「あちゃー、ほんとはガンダムの方残しといて欲しかったんだけどな」
日垣「すんません」
恵子「ま、いいや。これはこれでオタっぽくなって、却ってケロロ向けかも知んないし」
荻上「それより恵子さん、どういうことなんです?」
恵子「何が?」
荻上「何でこのガンプラ、丸ごと残したんですか?」
恵子「ああ、それね」
ようやく荻上会長の苛立ちに気付いた恵子、ガンプラの箱を開けてパーツをいじりつつ、説明を始めた。
恵子「前に晴海が言ってただろ?学祭以外にも、いろんなイベントとかコンクールとかに映画出したいから、ビデオと8ミリと両方あった方が都合がいいって」
荻上「そう言えば、そんなこと言ってましたね」
恵子「それで思い付いたんだけど、そんなら映画撮影しながら、もう1本映画でっち上げちゃえないかなと思ってさあ」
一同「もう1本?」



491 名前:30人いる! その307 sage 投稿日:2009/03/29(日) 21:02:16 ID:???
恵子「姉さんがケロロの格好でガンプラ作る練習してるの見てたらさ、何かそれが画的に凄く面白い気がして来てさあ…」
荻上「?」
恵子「ケロロがガンプラ作るとこだけで、1本映画作っちまったら、何かシュールなのが出来そうな気がするんだよ」
思わぬ提案に固まる一同。
恵子「どうよ?」
真っ先に立ち直った台場、壁ぐらい貫通出来そうなほど強烈な眼光を放ちつつ、恵子の手を力強く握って言った。
「やりましょう!」
一同「うわあ晴海、また商人(あきんど)の目に…」

こうして8日目の撮影と同時に、ドキュメンタリー短編映画「ガンプラを作るケロロ軍曹」の撮影が行なわれた。
先ずはシーン19からだ。
床に作りかけのRX-78-2ガンダムのガンプラと工具類が置かれ、それを間に挟んでケロロ役の荻上会長と、タママ役のニャー子が座る。
カメラ側から見て、右奥にタママ、左手前に背中を向けたケロロ、そして2人の間にガンプラその他という配置だ。
伊藤「それではシーン19、ケロロの部屋の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意、スタート!」



492 名前:30人いる! その308 sage 投稿日:2009/03/29(日) 21:05:14 ID:???
カチンコと同時に、ケロロは作りかけのガンダムを左手に持って右手でパーツをはめようとし、タママはその様子を覗き込むようなポーズを取る。
同時に記録係の神田がストップウォッチを動かし、3秒経過したところで叫ぶ。
「スタート!」
その声に合わせて、4人のカメラマンは両手を交互に上下するようにして、手持ちのカメラを揺する。
一方神田は、声を出して秒読みを開始する。
ケロロとタママは、神田のスタートの声に合わせて体を不自然に揺らし、ケロロはややオーバーなアクションで部品をはめ損ねた。
そして揺られながら声を上げた。
ケロロ「ゲロッ?」
タママ「(ケロロとほぼ同時に)タマッ?」

「ゼロッ!」
神田のカウントゼロに合わせて、カメラマン4人は一斉に動きを止めた。
それと同時にケロロは後ろを振り返り、タママも顔を上げた。
ケロロ「(振り返りながら)何事でありますか?!」
つまり最初にカメラを揺らしたことで、地下のクルルズラボでの、ベム復活による振動を表現し、その振動でケロロが部品をはめ損ね、驚いてリアクションという芝居の流れだ。
ちなみにケロロが最初背中を向けているのは、動きを大きくすることで少しでも主役を目立たせようという配慮だ。
(ストーリー展開の都合上、今回の映画ではケロロの出番は割と少ない)
恵子「カット!(少し間を置いて)オッケー!」
何度もリハーサルを繰り返したのが功を奏して、1発でオッケーとなった。
ほっとする一同。
(ちなみに神田の秒読みの声は、当然アフレコ段階で消すので、念の為)



493 名前:30人いる! その309 sage 投稿日:2009/03/29(日) 21:06:44 ID:???
昼食休憩の後、問題のシーン6-B兼短編ドキュメンタリー映画の撮影が再開された。
どのみち音声は物音以外カットするつもりらしく、撮影しながら恵子は次々と指示を出した。
その指示は恵子にしては、えらく細かく具体的だった。

恵子「ダメだよ姉さん、部品切っちゃ。先に色塗る機械で、枝ごと色塗っちゃわないと」
荻上「塗るんですか、これ?マスターグレードって、ちゃんと色塗ってるでしょ?」
恵子「ケロロなら塗るだろ色?あいつが出来合いの色で済ます訳無いし」
荻上「色塗る機械って、エアブラシなんか用意したんですか?」
恵子「その方が、全部筆で塗るよりは簡単だろ?」
マスターグレードシリーズのガンプラは、同じ色のパーツばかり1つのランナーに集めてあり、最初から色が着いている。
その為、ランナーからパーツを切り離す前の状態で、1つの色のパーツをまとめてエアブラシで塗装するという荒技が使える。
もちろんランナーとの連結部分だけ塗り残しが出来るが、それは切り離した後に細筆でレタッチして補う。

恵子「ダメだよ姉さん、ちゃんと接着剤使わないと」
荻上「これスナップフィットだから、接着剤要りませんよ」
恵子「そん代わり簡単に外れるんだろ?ケロロなら絶対接着剤使うし」
マスターグレードシリーズのガンプラは、接着剤無しで組み立てられる。
だが当然分解しやすいので、完成品として仕上げようとするマニアは、やはり接着剤を使用するのだ。
荻上「あちゃー!水転写デカール貼るの失敗した〜!」
恵子「姉さんの絵の腕なら、手描きで描けるだろ?」
荻上「何の為のシャークマウス仕様なんだか…」
シャークマウス仕様には、文字通り開いた鮫の口のようなペインティングが施されている。
マスターグレードシリーズでは、大きな水転写デカール(要は水シールだ)で、これを再現しているが、大きいだけに失敗すると大変なことになるのだ。



494 名前:30人いる! その310 sage 投稿日:2009/03/29(日) 21:08:43 ID:???
恵子は荻上会長だけでなく、スタッフにもあれこれと注文を出した。
「浅田、ケロロの顔アップにして!ヤブさんはガンプラの方をアップ!」
「岸野、頭の上からケロロ撮れ!他のカメラは、その間カメラ止めて待機だ!」
「加藤さん、悪りいけど腹這いになって、下からケロロ撮ってくれ!」
こうして何度かの休憩を挟み、シーン6-B兼短編映画「ガンプラを作るケロロ軍曹」の撮影は終わった。
今回のセットは、部室の半分ほどのスペースを使ってはいるものの、壁2枚と床だけという、簡素な構成であった。
そんな構造の為、今回に限っては部室にセットを組んだにも関わらず、冷房が使えた。
だがそれでも着ぐるみで頑張れるのは、せいぜい30分が限度であった。
最初に全体の大部分に色を塗ってしまう荒技が幸いして、上手く乾かす時間と休憩とをシンクロさせて、時間のロス無く作業は進行した。
ちなみに天井は部室の天井そのままだったが、どこから借りて来たのか、アンティークなデザインのバーなどによくある、羽根剥き出しの回転の遅い扇風機が回っていた。
扇風機はわずかしか映らないが、これによりケロロの部屋の雰囲気を醸し出していた。

撮影終了後、今日は特に出番も無く見学していた、大野さんが不意に言い出した。
「今思い出したんですけど、確か笹原さんって、ガンダム占いだとボールなんですよ」
「えっ!?」
完成したボールを見つつ赤面する荻上会長。
恵子「へえ、そうなんだ」
言いながら恵子は、ボールの砲身を軽く撫でた。
恵子「姉さん、今夜これでしちゃダメだよ」
ブッとなる一同。
荻上「(最大出力赤面滝汗で)しません!」



507 名前:「30人いる!」 その311 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:00:13 ID:???
再びカラオケボックス。
ちなみにBGMは、有吉が歌う「哀 戦士」であった。
日垣「結局あの日の監督の頑張り様って、何だったんだろ?」
国松「どうも監督、映像感覚的な『何か』が目覚めつつあるみたいな気がするんだけど」
浅田「と言うか、いろいろ試したかったみたいだな、監督」
一同「試す?」
浅田「せっかく短いのを1本撮っちゃうんだから、ついでにカメラアングルとか照明とかで、こうすればどうなるってのを改めて実験してたんだと思うよ」
巴「そう言えば監督、何かビデオで撮った分、熱心に何度も見返してたわね」
沢田「そうそう、マジ顔の恵子監督って、何か凛々しいのよね」
ちょっとウットリ顔になる沢田に引く一同。
だがそこでアンジェラがダメ押しをかける。
「何と言うか、男前な感じだったあるね。ミスター笹原そっくりだったあるよ」
一瞬固まった一同、声を合わせて叫ぶ。
「それは禁句だ〜!!!」

「一万年と二千年前から愛してる〜♪」
沢田と台場が歌う中、有吉が切り出した。
「さてと、ようやく今日の話に辿り着いたな」
110レス以上にも及ぶ回想を経て、1年生たちの反省会兼飲み会は、2次会に場所を移してから、ようやく撮影開始10日目に当たる今日の撮影の話にこぎ付けた。
伊藤「長かったですニャー、ここまでの話」
豪田「まあ厳密には、昨日撮休を挟んでるけどね」
浅田「とは言っても、結局俺ら1年生は神田さんちに集まって、撮影用の模様替えやってたけどね」
巴「こうやって振り返ってみると、ほんの10日間でいろいろあったわね」
スー「(納谷悟郎似の声で)地球カ、何モカモ皆懐カシイ…」
アンジェラ「てゆーか一日千秋?」
豪田「相変わらず、四字熟語の使い方が微妙に間違ってるわね…」



508 名前:「30人いる!」 その312 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:02:51 ID:???
浅田「しかし今日はまいったよ。まだバルディオス全部見てないのに、また宿題もらっちゃったよ」
国松「浅田君のは何だっけ?」
浅田「『戦国魔神ゴーショーグン』だよ。国松さんは?」
国松「『太陽の牙ダグラム』よ」
有吉「またえらく長いのをもらって来ちゃったね」
国松「そんなに長いの?」
有吉「75話あるからね」
豪田「あれそんなにあったっけ?」
有吉「初心者にはちょっときついね」
国松「大丈夫よ。私1週間ぐらいで、ウルトラシリーズの2期全話制覇したことあるから」
日垣「…そりゃ頼もしいね」
ちなみにウルトラシリーズの2期は4年間に及ぶから、全部で207話ある。

10日目のロケ地は神田宅であった。
神田の家族は、この日留守の予定であったが、現視研の面々がロケ地である神田宅に訪れた時、神田の父は出かける直前であった。
神田「あれっ?パパ、今日出張じゃなかったの?」
神田の父は、大学生の娘の父親としては若く見えた。
見た目年齢は30代半ばぐらいだ。
中途半端な長髪に眼鏡にうっすらと無精髭という、いかにも古参のオタ風の風貌だ。
今日はスーツ姿だけに、その異質性が余計に強調されていた。
神田父「おおミッチー、出発前に本社でトラブルがあってね、その処理に追われてて、ちょっと出発が遅れたんだよ」
神田の父は、目ざとく浅田と岸野のカメラマンコンビを見つけた。
彼らはかつて、夏コミで神田作のコピー本を運ぶのを手伝う為に、神田宅に訪れたことがあった為、神田の父とは面識があった。



509 名前:「30人いる!」 その313 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:07:19 ID:???
岸野「ども、ご無沙汰してます」
浅田「すんません、まだバルディオスは全部はちょっと…」
神田父「いいよいいよ。君たちには、まだまだ見なければならない作品、言い換えればお楽しみがまだまだ残っているんだ。ゆっくり見てくれればいいさ」
神田の父は現視研の面々を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
神田父「いやあそれにしても、思い起こせば早17年、あの頃は犯罪者予備軍のように言われ蔑まれて来たが、今ではこんなにも若き後継者たちが増えるとは…」
ポケットからハンカチを出して、涙をぬぐう神田父。
日垣「(小声で)17年前って、何の話?」
神田「(小声で)89年に起きた、宮崎勤の事件の話よ。パパの年代のオタには、あの事件がトラウマになってる人、たくさん居るのよ」
有吉「(小声で)まあ確かに、コミフェス会場でワイドショーのリポーターに、『ここに十万人の宮崎勤がいます』って言われたら、トラウマになるわなあ」
恵子「(小声で)何だい、その宮崎哲弥って?」
国松「(小声で)哲弥じゃなくて勤ですよ、監督」
国松は恵子に、小声で宮崎勤の事件について説明した。
だがその間も、神田の父のありがたいオタク講話は延々と続いていた。
場所を提供してもらう恩義もあって、ついつい拝聴し続ける現視研一行。
神田父「こうなれば、私の持つ知識、ぜひ君たちにその全てを伝承したいものだ。そしてそれがまた次の世代に引き継がれれば、もう思い残すことは無い」
神田「あのパパ、そろそろ出発しないとまずいんじゃない?」
神田父「おおそうだった!すっかり出張を忘れていた。では名残惜しいが今日はこの辺で」
ホッとする一同。
神田の父の話は、確かにオタクとして押さえておくべき、ありがたい内容ではあったが、残念ながらこれ以上聞き続けていては、映画の撮影の時間が無くなる。
神田父「では最期に君たちに、また宿題を渡しておこう。まあ映画の撮影で忙しいだろうから、返すのは何時でもいいよ」



510 名前:「30人いる!」 その314 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:21:53 ID:???
スー「(サンボマスター似の声で)このまま何も残〜らずに〜あなたと分かち合〜うだけ♪」
浅田「で、再び宿題もらったんだよな。まあみんなは初めてだけど」
巴「そう言えば、ミッチーも何か宿題もらってたわね」
神田「うん、パパの持ってるビデオはあらかた全部見たけど、新しいのが入ったからって」
沢田「何もらったの?」
神田「『ジャングル黒べえ』」
一同「じゃんぐるくろべえ?」
神田「うん、30年ぐらい前の藤子アニメ」
国松「あっそれ知ってる。確か(ウルトラマン)エースとタロウの裏番組だったせいで、あんまし視聴率取れなくて打ち切りになったアニメじゃない」
日垣「何でそんなことまで知ってるの?」
その時、歌い終わったスーが、唐突に大声を上げた。
「ちょっと待つであります!何故そんなビデオが存在するんでありますか?」
神田「何故と言われても…どしたのスーちゃん?」
スー「『ジャングル黒べえ』は、主人公がジャングルの土人だった為に、現在では再放送もビデオ化もされてない封印作品であります!」
凍結する一同。
一同『どうやって手に入れたんだよ、そんなビデオ?』

結局10日目の撮影は、神田の父が出かけ、軽い昼食を終えた後に開始された。
神田の母は、前々から友人と約束していたというイベントに出かけており、神田の兄も相変わらず友人の家に泊まりこんでいるので、夕方まで神田宅には神田しか居ない。
この日撮影の予定だったのは、以下のシーンであった。
5 秋から正式に家政婦に任命されるケロロ
6-A 家事をするケロロ
11 帰宅した冬樹と会話するケロロ
12 呼び鈴に反応するケロロ
13 大きな箱を持ったタママが訪れる
14 居間で箱の中身(タイムカプセル)を説明するタママ
21 廊下を通り、異変に駆け付けるケロロ、ギロロ、タママ



511 名前:「30人いる!」 その315 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:25:40 ID:???
「しまった〜!!!」
台所から食卓までのエリアを見ていた恵子が、突如声を上げた。
続いて浅田と岸野も、同時に声を上げた。
「あっ…!」
荻上「どうしたの?」
顔を見合わせる恵子、浅田、岸野。
3人とも滝汗状態だ。
3人はお互いの表情で、同じ問題に気付いたことを悟った。
自然に浅田が説明役を買って出た。
「俺たちは、とんでもないことを見過ごしてました」
荻上「どういうこと?」
浅田「ケロロの撮影に当たり、俺たちはケロン人役のスーツアクターと、ペコポン(地球)人役の俳優との対比に神経を使って来ました」
神妙な顔で聞く一同。
浅田「ここまではセットや屋外でのロケが多かったから、上手く誤魔化せて来たけど、今日の撮影は、日常の家具や道具とケロロとの絡みが中心になります」
ようやく事態に気が付き、息を呑む一同。
浅田「もうみんな気が付いたと思うけど、俺たちはケロロと日向家の家具や道具との対比について、何も対策が出来てないんです」
恵子「その通りだ。みんなすまねえ、こんな大事なことに今まで気付かなくて」
国松「そんな、監督のせいじゃないですよ」
日垣「そっすよ。今からひとつひとつ考えて行きましょうよ」
恵子「…だな。よし、とりあえずいろいろ試してみるか」



512 名前:「30人いる!」 その316 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:29:56 ID:???
神田家の居間に来た現視研の面々。
神田「ケロロって、アニメでも掃除してるのって、大体ここか廊下か、あるいはトイレか風呂場よね」
沢田「ここだと普通、掃除機使ってたわね。シャアザクみたいな、羽根飾りの付いたやつ」
日垣「しまった〜!それは作ってなかったな」
荻上「いや、作っててもダメでしょ」
日垣「と言うと?」
荻上「ケロロって掃除機使う時、持つとこを肩にかつぐようにして持つじゃない。普通の掃除機でそれやったら短過ぎるし、かと言ってかつげるサイズのじゃ…」
日垣「周囲の家具に比べて、でか過ぎますね。ケロロも掃除機も」
恵子「しゃあねえな。家ん中の掃除は、ほうきか雑巾持たせて誤魔化そう。あと姉さん、ケロロに着替えといて。ケロロ並べてみねえと、感じが分かんねえから」
荻上「分かりました。神田さん、お部屋貸して」

ケロロと化した荻上会長を連れて、現視研の一行は神田宅内を巡り歩いた。
ついでに神田は、荻上会長に更衣室として自室を提供した際に、私物の原寸大ケロロ軍曹のフィギュアを持って来た。
荻上ケロロとの大きさの比較用だ。
恵子は各部屋で、ケロロに様々なポーズを命じ、ひとつひとつ確認して行く。
傍らでは記録係の神田が、恵子の指示に従ってメモする。
「トイレはケロロ入ったら、かなり狭そうだな。ここはボツだな」
「風呂場もダメだな。本物のケロロって、ほんと小さいんだな」
「流し使う時ってケロロ、踏み台使ってたよな。アップにして足元誤魔化すか」
「洗濯機もアップだな」
「廊下なら周りに物ねえから、何とかなりそうだな」



513 名前:「30人いる!」 その317 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:44:17 ID:???
ひと回りしたところで、荻上会長の休憩も兼ねて、恵子の考えタイムになった。
しばらく神田にメモさせたノートを見ながら、あれこれブツブツ言いながら1人で考えていた恵子だったが、やがて口を開いた。
「聞いてくれ。すまんけどみんな、今日は多分ケロロが家事やってるとこだけになりそうだわ」
浅田「やっぱりそうですか」
岸野「まあ、しゃあないですよ」
荻上「とにかくひとつひとつ試してみて、画的に良さそうなの選んでつなぐしか無さそうね」
恵子「そゆこと。んな訳で、すまねえけどニャー子さん、アンジェラ、スー、有吉、千里、それに大野さん、多分今日は出番無いから」
大野「ま、しょうがないですね」
他のみんなも同意する。
恵子「そん代わり姉さん、今日は頑張ってもらうかんね」
荻上「分かってますよ」

再びカラオケボックス。
有吉「で、結局のとこ、今日ってケロロの家事シーンしか撮ってないんだよな」
神田「そう、シーンbナ言うと、6-Aだけ」
スー「隊長出ずっぱりっでありましたなあ」
沢田「スーちゃんいつの間にか、会長のこと隊長って呼ぶようになってない?」
国松「役になり切ってるのね。クルルはケロロのこと、隊長って呼ぶし」
沢田「じゃあ私も隊長殿って呼ぼうかな。私ドロロだし」
国松「私どうしよう。ギロロってケロロ呼び捨てだし」
アンジェラ「てゆーか芸人根性?」
浅田「何か話の主旨から外れて来てないか?」



514 名前:「30人いる!」 その318 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:51:05 ID:???
結局10日目の撮影は、ケロロの家事のシーンの撮影に終始した。
ケロロと家財道具との大きさの差を誤魔化す為に、アップが多用されることになったので、撮られた画は次の通りであった。
・流し台で洗い物をするケロロ 背後から上半身のアップ
・流し台で洗い物をするケロロ 正面からのアップ
・洗濯機で洗濯をするケロロ 背後から上半身のアップ
・洗濯機で洗濯をするケロロ 正面から上半身のアップ
・庭で洗濯物を干すケロロ 背後から上半身のアップ
・庭で洗濯物を干すケロロ 正面から上半身のアップ
・ほうきで庭掃除をするケロロ
・廊下で拭き掃除をするケロロ

巴「それにしても、今日はカメラの人は大変だったわね」
豪田「そうそう。洗濯機動かして、壁と洗濯機の間に入ったり、庭に回って、窓の外から流し台の前のケロロ撮ったりで」
岸野「それ言い出したら、照明の君らも大変だったじゃない。狭くて人間入り切れなくて、腕目いっぱい伸ばしてライト当てたり、物干し竿にライトくくり付けてライト当てたりで」
台場「まあ確かに、傍から見てても狭そうだったわよね。台所と洗濯機の正面からのアップなんて、カメラマン4人1度に入れなかったから、結局2人ずつ交代で入ったし」
伊藤「僕も目いっぱい腕伸ばして、カチンコだけカメラの前に入れてた状態でしたニャー」
沢田「録音も、後ろから録るしか無かったし」



515 名前:「30人いる!」 その319 sage 投稿日:2009/04/05(日) 00:57:03 ID:???
国松「でも1番大変だったのは、監督だったと思うわ」
浅田「やっぱり?」
国松「そりゃそうでしょ。あちこちアングル変えて、何回もチェックしてたし」
豪田「そうそう、あの大雑把な人が、凄い細かいチェックしてたもんね」
恵子が細かくチェックしていたのは、ケロロと家財道具との位置関係であった。
本来通常の人間の3分の1ほどの大きさしかないケロロに対し、現視研の撮影用の着ぐるみケロロは、人間と比べてむしろ大きい。
今までの撮影では、セットか外での撮影が多かった為、人間との位置関係とカメラアングルだけを考えていればよかったが、家の中だと着ぐるみの大きさが目立ってしまう。
そこでなるべくアップ中心にしたのだが、それだけでは画的に単調になってしまうので、庭と廊下の掃除のシーンでは、ケロロの全身がフレームに入るようにした。
だがそれとて、なるべく家財道具ともろに並ばないように立ち位置を工夫し、廊下の床掃除の際にはケロロをしゃがませ、徹底的にケロロが小さく見えるように注意したのだ。
巴「そん代わり今日の撮影、結局ケロロの家事だけで終了だったわね」
台場「しゃあないわよ。恵子監督も、何故か早目に撮影終わらせちゃったし」
巴「まあおかげで、こうして飲み会やれる時間が出来た訳だけど」
浅田「そう言えば監督、今日撮影した分持って帰ってたな。家で今日撮った分見るからって」
国松「監督やる気満々ね」
有吉「何か今日の撮影は、凄いことになりそうだね。そう言えば神田さん、今日もお邪魔して大丈夫なの?」
神田「昨日同様、誰もいないから大丈夫よ。パパは出張だし、お兄ちゃんは友だちの家に泊まり込んでるし、ママも今日もイベントだから、夕方まで帰らないし…あっ!」
突如大声を出した神田に注目する一同。
豪田「どしたのミッチー?」
神田「今何時?」
各々腕時計等を見た一同、やがて揃って声を上げた。
「あっ!」
スー「あと数分で、今日の日の出の時間であります!」
こうして現視研1年生たちは、徹夜明けで11日目の撮影に臨む破目になった。



516 名前:「30人いる!」 その320 sage 投稿日:2009/04/05(日) 01:01:01 ID:???
撮影開始から11日目の朝、現視研の一行は再び神田宅に集合した。
「おはよう…みんな、どうしたの?」
明らかに寝不足(て言うか徹夜明け)の顔付きの1年生たちを見て、尋ねる荻上会長。
朽木「そう言えばみんな、今日は顔色が悪いのう」
大野「そうですね」
有吉「いっ、いえちょっと昨夜、終わってから1年生だけでミーティングやってて…」
荻上「神田さん、目薬ある?」
神田「多分救急箱にあると思いますけど」
荻上「悪いけど出してあげて。今日出番なのに有吉君もアンジェラも、目が充血してるし」
神田「分かりました」
有吉「すんません」
アンジェラ「てゆーか感謝感激?」
荻上「あとのみんなは大丈夫?」
伊藤「多分大丈夫ですが…(周囲を見渡し)あれっ、監督まだ来てないんですかニャー?」
荻上「(周囲を見渡し)そう言えば、まだ来てないわね」
その時玄関の扉が開き、恵子がやって来た。
「わりい、遅くなって」
「わっ!」
恵子の顔を見て、思わず声を上げる一同。
恵子もまた、明らかに寝不足の顔をしていた。
肌がかさつき、目の周囲にはパンダのように濃い隈が出来ていた。
眠いのに無理矢理目を開いてるような感じで、思い切り目に力が入っているので、いつもは垂れ目気味の目が少し吊り上がって、不機嫌そうな目付きになっていた。
荻上会長とその上の世代の2人は、マジ切れした時の笹原に似てるなと思ったが、恵子があまりにも不機嫌そうな顔になっていたので、さすがにそれは口に出来なかった。



517 名前:「30人いる!」 その321 sage 投稿日:2009/04/05(日) 01:17:49 ID:???
国松「監督、どうしたんですか?」
恵子「いや昨日帰ってからさあ、昨日撮った分のビデオ見ながらあれこれ考えてたら、朝になっちゃってさ」
国松「監督も寝てないんですか?」
恵子「監督もって、お前らも寝てねえのか?」
日垣「まあ、ちょっといろいろありまして…」
恵子「(目が吊り上がったままニヤリと笑い)何だそういうことか。若いなお前ら。ひと晩中頑張ってたのか」
日垣「まあ頑張ったというか、気が付いたら朝になってまして」
恵子「(ニヤニヤしながら日垣の胸元を肘で小突き)何しれっとした顔で言ってんだよ、このスケベ」
日垣「はっ?何の話ですか?」
恵子「あれっ?何だお前、昨夜千里とやりまくったんじゃないのか?」
ブッとなる一同。
国松・日垣「(赤面滝汗で)違います!」
事情を説明する国松。
恵子「何だそういうことか…」
再び不機嫌な顔に戻る恵子。
本当に不機嫌な訳ではなく、顔面に力を入れてないと寝てしまいそうな状態らしい。

結局のところ、今日の撮影に際してちゃんと寝ているのは、荻上会長、大野さん、「やぶへび」の3人、それにクッチーだけであった。
(と言っても今日の撮影に、クッチーの出番は無いが)
全体の3分の2以上に当たる、あとの13人の1年生と監督の恵子は、徹夜明けの最悪のコンディションで、11日目の撮影に突入した。
その行く手には、冥府魔道が待つことも知らずに。




逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan