30人いる!

537 名前:30人いる! その322 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:36:45 ID:???
第13章 笹原恵子の苦悩

現視研の学祭出品用の映画のクランクインから、およそ半月が経過した。
この間現視研は、屋内で撮影するシーンの大半を撮影し終えた。
残る主なシーンは、屋外で撮影する戦闘シーンと、ミニチュアを使用しての特撮シーンだ。
それらの準備の為、現視研は数日の撮休に入った。

その日もまた斑目は、部室にやって来た。
「ういーっす!おやっ珍しい面子じゃねえか」
部室に居たのは、荻上会長、スー、アンジェラ、神田、国松、日垣といった現役陣に加え、大野さん、田中、久我山、高坂といった面々であった。
久我山「そ、そこの取引先の病院に行った帰りに、ちょ、ちょっと寄り道をね」
田中「俺は大野さんと、学祭とは別口のイベント用のコスプレの打ち合わせさ」
高坂「僕は1年生の子たちに、モニターをやってもらおうと思って、女の子向けの新作のゲーム持って来たんですけど…」
神田「今日は撮休なんで、部員はこれだけなんです。次から屋外の撮影中心になるんで、いろいろ準備がありますし。私も今日は、スケジュールの進捗表を直しに来ただけです」
部室には、神田がホワイトボードとマグネットシートで作成した、撮影の進捗表が置かれているのだ。
国松「私と日垣君は、この後の特撮シーンの打ち合わせの為に来ました」
スー「押忍!自分はセンセイ荻上のお手伝いをすべく、修行に励んでいる次第であります」
スーの前には、かつて荻上会長が作った同人誌と、スケッチブックが置かれていた。
どうやら同人誌の絵を見本に、模写の練習をやっているようだ。
なかなか上手い。
アンジェラ「私はスーの付き添いあるね。てゆーか同伴出勤?」
ブッとなる一同。
斑目「その四字熟語の使い方、微妙に間違ってるよ」
大野「それ以前にアンジェラ、どこで覚えたのよ、そんな特殊な日本語?」



538 名前:30人いる! その323 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:38:01 ID:???
荻上「そして私は、もうすぐ連載始まる話の、ネームを書いている次第です」
荻上会長の前には、ノートパソコンが置かれていた。
斑目「ここじゃ落ち着かないんじゃないの?」
荻上「最近じゃ多少うるさくないと、却って落ち着かないんですよ。それにこの話に限っては、部室の方がいいんです。OBの方々からいろいろお話聞けますから」
田中「そう言えば荻上さんの新連載の話、確かうちの話なんだよね」
荻上「ええ、アキバ系研究会の略って意味で『あきばけん』とタイトル付けました。私のここでの体験談を基にした、セミドキュメンタリーみたいな話です」
斑目「なるほど、ここならネタの宝庫だな。特に今日は、これだけOB居るんだから、取材し放題だし」

来ていない会員たちの今日の予定は、神田によれば次の通りであった。
豪田、巴、沢田、有吉、藪崎さん、加藤さん、恵子は自宅にて休息。
伊藤とニャー子はデート。
浅田と岸野はロケ予定地の確認。
台場はスポンサー探し。
そしてクッチーは警察官採用試験の一次試験とのことだった。

斑目「朽木君、本当に警官になるんだなあ」
荻上「朽木先輩がお巡りさんとは、世も末ですね」
久我山「だっ、大丈夫かなあ、朽木君?」
田中「大丈夫なんじゃないの。案外彼、体育会系体質だし」
高坂「それにああ見えても、根は真面目な善人ですし、意外と正義感強いですしね」
大野「でも彼と一緒に働くお巡りさんは、気の毒ですけどね」
クッチーをフォローしつつも、つい納得してしまう一同。
このおよそ20年後、まさか彼らの子供たち(斑目とスーは本人だが)が警官になり、クッチーの部下になる破目になるとは、神ならぬ彼らには知る由も無かった。
(20年後の話については、『無軌道警察ハグレイバー』参照)



539 名前:30人いる! その324 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:39:31 ID:???
斑目「それにしても、部室に人がいるのって久しぶりだなあ。何かここ数日、ずっと1人で飯食ってたような気が…」
荻上「ここ1週間、ずっと神田さんの家で撮影してましたから」
斑目「そりゃ大変だったね。あれっ?」
斑目は、部室の片隅に置かれた「神田ファミリーBOX」と書かれた段ボール箱に注目した。
斑目「これは?」
荻上「神田さんのご家族から借りて来たビデオですよ」
神田「すんません、家の者がご迷惑かけまして。それ返却は急ぎませんから、みんなでゆっくり見て下さい」
神田は斑目に事情を説明した。
神田の父と母と兄は古参のオタクであり、70〜80年代をアニメの黄金期とする、70〜80年代原理主義者であった。
彼らは若いオタと会う機会があると、その時代のアニメのビデオを出して来て、見るように薦めることが半ば習性と化していた。
結局のところ1週間撮影の為に神田宅に通った現視研の面々は、行くたびに父母兄の誰かと出くわし、そのたびに新たにビデオを半ば強制的に貸し付けられた。
そしてそれは、とうとう段ボール箱ひと箱分に達した。

斑目「ちょっと見ていい?」
神田「どうぞ」
斑目「(箱を開いて)ほほう、こりゃ凄いな。ボトムズにゴーショーグンにレイズナーか。
70年代のも充実してるな。コンバトラーVにザンボット3に…あれっ?」
急に硬直する斑目。
神田「どうしたんですか?」
斑目「(顔面蒼白滝汗で)何で『キャンディ・キャンディ』なんてあるの?」
神田「それは確か、ママがママのお友だちから借りて来たのをダビングしたやつですけど、何か問題でも?」
斑目「あの作品、原作者と漫画家が著作権で揉めて裁判やってるから、漫画単行本の復刻も、アニメの商品化も再放送も、今のとこ不可能なはずなんだけど…」
(注)この問題については、「封印作品の謎2」(太田出版、安藤健二著)が詳しい。


540 名前:30人いる! その325 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:42:38 ID:???
久我山「そっそれにしても、1週間神田さんちに通い詰めとは、随分時間かかったね」
田中「あっそれ俺も思った。脚本読んだけど、今までの進み方からすれば、3〜4日もあれば撮れそうな気がするけど」
大野「恵子さんが凄いこだわりを見せたからですよ」
国松「そうなんですよ!実際この1週間って、ほとんど1日ワンシーンのペースでしか進まなかったですし」
OB一同「1日ワンシーン?!」
荻上「本当にそんなもんでしたよ、進み方」
アンジェラ「てゆーか牛歩戦術?」
高坂「でもどうして?」
神田「ひとつには、撮影2日目以降うちの家、毎日私以外の家族が必ず誰か居たってのがあります。そのせいで撮影出来る時間が限られちゃって…」
スー「押忍!それはあまり関係無いと思うであります!」
日垣「そうだよ。撮影が延びた最大の原因は、NG連発のせいだし」
斑目「そんなに多かったの、NG?」
神田「多かったと言うか、撮影時間の9割ぐらいがNGでしたね」
日垣「それも明らかなNGならともかく、傍で見てる分には、どう悪いのかよく分からない、微妙なNGばっかりでしたけどね」
斑目「そうなの?」
荻上「ええ、私の場合で言えば、冬樹を出迎えるシーンだけで12回ぐらい、タイムカプセルを写真撮影するシーンでも、10回ぐらいNGにされましたよ」
久我山「すっ凄いね…」
高坂「恵子ちゃん真面目にやってるみたいだね。咲ちゃんも心配してたけど、これなら安心だね」
田中「いや、それはそれで心配な気が…」



541 名前:30人いる! その326 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:44:19 ID:???
神田家に通い詰めた1週間、現視研一行は恵子のNG連発の洗礼を受け続けた。
例えばシーン5の、秋ママがケロロを正式に家政婦に任命するシーン。
実際には大きさのあまり変わらない、ケロロと秋ママを同じフレームに入れる訳に行かないので、細かくカット割りしての撮影となった。
つまりこういう感じだ。
@何やら喋っている秋ママのアップ
A敬礼するケロロのアップ
B拍手する冬樹と夏美のアップ
C表彰状みたいな感じの辞令を持った、秋ママのアップ
D辞令を受け渡しする、秋ママの手とケロロの手のアップ
E家政婦任命の辞令をもらい、得意そうなケロロのアップ
この全てのカットで、恵子はもれなくNG判定を出した。
例えば@は、ただ単に秋ママ役の大野さんが、にこやかな顔で喋るだけの芝居なのだが、
8回NGになった。
Dに至っては、秋ママ役の大野さんの手と、ケロロ役の荻上会長の手とが辞令の受け渡しをするだけの芝居に、14回ものNGとなった。

問題は恵子がそれぞれのNGについて、理由を明確にしない、いや出来ないことであった。
理由を訊かれても、恵子は曖昧にこう答えるだけであった。
「いや、何て言うか、上手く言えないんだけど、何か違うんだ。すまね、もう1回だけお願い」
普段どちらかと言えば高飛車な物言いの多い恵子に、ここまで低姿勢に出られると、誰も何も言い返せない。
誰も文句を言うことも無く、恵子のOKが出るまで、延々とリテイクが繰り返された。
ただ、単に同じ様に撮影を繰り返すだけでは、フィルムの無駄になるだけなので、NGが5回以上繰り返された時には、撮影を中断してミーティングが行なわれた。
具体的にどういう画にすれば恵子が納得するかを話し合う為だ。
そしてミーティングは、ほぼ全シーンに対して行なわれた。



542 名前:30人いる! その327 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:46:16 ID:???
「クリエーター系の人って、一生に何度か何かに取り付かれたように、制作に没頭する時期があるんですよね」
唐突に口を開いた国松に、意図を掴みかねて怪訝な顔をする一同。
国松「例えば脚本家の上原正三先生は、70年代から80年代にかけて、爆発的な数のアニメや特撮の脚本を執筆されました」
斑目「特撮はあんまし知らんけど、アニメではゲッターロボとかアルベガスとかの脚本書いてる人だな」
国松「(ニコリと笑い)さすがシゲさん。で、その上原先生なんですけど、後年のインタビューによれば、当時書いた作品について、あまり覚えてらっしゃらないんですよね」
荻上「それはどうして?」
国松「先ず執筆数が膨大過ぎるってのがあります。それに30分番組の脚本は30分で書く、早書きの名人でしたし」
久我山「そっそれは凄いね」
(注)この当時の脚本家では、他に佐々木守氏や長坂秀佳氏も同様の逸話がある。
国松「まあその代わり、ネタの使い回しも多いですし、戦隊や宇宙刑事だと、完全に話のパターンが出来ていて、ネタさえ入れれば後はルーティンワークでしたし」
斑目「それでもかなり凄いんじゃないの?」
国松「そりゃ凄いですよ。で、こっからが本題なんですが、どうも上原先生、執筆中は何かに取り付かれたみたいな感じで、まるでイタコ状態だったみたいなんです」
荻上「つまり創作の神様みたいなのが降臨して、勝手に書いてるような感じと?」
国松「そんな感じだったらしいです。そして同様の例としては、やはり東條昭平監督は外せないでしょう」
神田「千里、また『怪獣使いと少年』の話?」
田中「またって?」
神田「千里って何かあると『怪獣使いと少年』持ち出して来るんですよ」
大野「まあそれだけ好きってことですね」



543 名前:30人いる! その328 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:48:25 ID:???
「怪獣使いと少年」とは、「帰ってきたウルトラマン」のエピソードである。
過去何度かいろんなSSで出て来た話なので、ここでは詳しく触れないが、興味のある方は、ググってみて欲しい。
国松「今回だけは必要なんですよ。あの話にまつわるエピソードが」
神田「どう必要なのよ?」
国松「前にも言ったように、あの話は脚本の段階ではそれほど酷くないし、陰惨な描写の大半は、東條監督が変更して追加したシーンばかりです」
神田「でっ?」
国松「私、大学入ってから、この話について文献いろいろ調べたり、パソコンでいろいろ検索したりしたんです」
神田「?」
国松「けど、東條監督の所業についての資料はたくさんあるのに、何故監督がそこまでやったかについては、どこを見ても分かりませんでした」
斑目「円谷プロの黒歴史って訳か?」
国松「と言うより、こっからは私の推測なんですけど、東條監督自身にも、何故あそこまでやったのか説明出来ないんじゃないかと思うんです」
荻上「どゆこと?」
国松「つまり監督にも、創作の神様か何か降臨して、自分でもよく分からない何かに引きずられるように、ああいう作品を作っちゃったんじゃないかな、と思うんです」
日垣「確かに、俺も見たことあるけど、あの話って何か神がかりな雰囲気はあるね」
国松「まあそうとでも考えないと、説明出来ないんです。あの話の時だけ、東條監督があそこまでの暴走した理由が」
荻上「確かに撮影始まってからの恵子さんって、何かに取り付かれたみたいになってるもんね。まあ映画10回鑑賞会の特訓の影響もあるんだろうけど」



544 名前:30人いる! その329 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:53:15 ID:???
「うーん、そこまで大袈裟な事じゃなくて、単に恵子監督、作りながら学んで行くタイプなんじゃないですか?」
国松の説に、神田は異を唱えた。
国松「と言うと?」
神田「私はどっちかと言うと恵子監督って、よしりんに近い感じじゃないかと思うんです」
荻上「よしりんって、小林よしのりのこと?」
神田「そうです。ここでちょっと質問。『東大一直線』を最初から読んだことある人って、こん中にいらっしゃいますか?」
手を上げたのは、スーだけであった。
久我山「おっ俺は『東大快進撃』になってからの分なら、読んだことあるけど…」
斑目「俺は東大(この場合は、主人公の東大通のこと)が高校に入った頃ぐらいからなら、読んだことあるけど」
神田「となると、『東大一直線』の最初の最初の方を読んだ人って、スーちゃん以外には、いらっしゃらないんですね」
荻上「最初の最初に、何かあるの?」
神田はニヤリと笑うと、部室のパソコン(部室が移転した時に新たに設置されたのだ)を操作して、検索してある画面を出した。
神田「まあ百聞は一見にしかず。これを見て下さい」
どれどれと、パソコンの前に集まった一同、驚きの声を上げた。
「えええええええええええええええええ?!」
パソコンのディスプレイには、あまりにも下手くそな絵の漫画が映っていた。



545 名前:30人いる! その330 sage 投稿日:2009/04/19(日) 17:55:34 ID:???
荻上「あの神田さん、これって?」
神田「これは『東大一直線』の第1話の絵です」
日垣「なっ、何たる下手な絵…」
斑目「いやこれ、下手とかそういう次元の問題じゃないぞ…」
神田「でしょ?ここに居る絵描き属性のある方はもちろん、下手すれば絵描き属性の無い方でも勝てそうなぐらい下手でしょ?」
田中「これが商業誌に載ってたの?」
神田「載ってたんですよ、これがまた」
久我山「すっ凄い時代だね…」
神田「昔よしりんの絵のことを『インクのしみ』って酷評した人が居ましたけど、この絵を見た後だと、インクのしみでも褒め過ぎって気がしますね」
荻上「ああそれ聞いたことあるわね。確か『おぼっちゃまくん』で小学館漫画賞取った時に、作品が下品だったから賞をあげたくない審査員に言われたんだっけ?」
神田「そうです。まあもっとも東大の頃のよしりんの場合、絵が下手以前に、漫画の描き方全然知らなかったらしいですけどね」
斑目「仮にもプロの漫画家が?」
神田「ええ。例えばよしりん、この当時はスクリーントーンの存在を知らなかったらしいんです」
荻上「じゃあどうやってたの?」
神田「前にプロの漫画家の生原稿見たのが災いして、アシ用に色指定してあるのを勘違いして、色指定だけして原稿出してたそうです」
固まる一同。
久我山「なっ、何で?」
神田「そうしておけば、印刷する時に勝手に色が着くと、よしりんが思い込んでたらしいですよ」
荻上「それじゃあ原稿は…」
神田「編集部の担当さんが貼ってたらしいですよ、トーン。で、ある日とうとう担当さんが泣きついて、それでスクリーントーンというものの存在を知ったそうです、よしりん」
大野「何と言うか、豪快な時代ですね」



554 名前:「30人いる!」 その331 sage 投稿日:2009/04/26(日) 14:51:16 ID:???
「みんな案外ケイコの評価低いあるね」
今度はアンジェラが口を開いた。
荻上「と言うと?」
アンジェラ「私はケイコのリテイク(NG)連発で、キューブリック監督の演出を思い出したあるね」
国松「キューブリックって、スタンリー・キューブリックのこと?」
アンジェラ「イエス、そうある。キューブリックもリテイクの連発で有名な監督だったあるね」
スー「押忍!それもどうということの無い、ただ廊下を歩くだけのシーンで、十数回リテイクを繰り返していた逸話がある人であります!」
ウルウルする国松。
「恵子監督って、キューブリックに匹敵する、こだわりの人だったんですね!」
アンジェラ「うーん、ちょっと違うあるね」
日垣「と言うと?」
アンジェラ「もちろんクリエーターとしてのこだわりもあってのことだろうけど、彼がリテイクを繰り返したのには、ちょっと複雑な事情があるあるね」
大野「どんな事情があるの?」
アンジェラ「キューブリックがカメラマン出身の監督ということあるよ」
一同「???」
アンジェラ「つまりキューブリックには、こういう映像が欲しいというビジョンはあっても、どういう芝居をすればいいかという、引き出しが無いということあるよ」
スー「普通の監督は、役者に対してこういう芝居をして欲しいと、具体的に説明したり、場合によっては演じて見せたり出来る訳であります!」
国松「でもキューブリックには、それが出来ない…」
アンジェラ「そう、だから彼は、とりあえず何度もリテイクを繰り返すあるよ。で、その内に役者が飽きて来て、アドリブをやり出す。そこで『それだ!』となる訳あるよ」
固まる一同。
斑目「何と言うか、意外といい加減なんだね、映画の演出って」
国松「でも確かに、ある意味恵子監督もそうですよね。頭の中に理想の映像があるらしいのに、それを上手く表現出来ずにリテイク繰り返してるみたいだし」



555 名前:「30人いる!」 その332 sage 投稿日:2009/04/26(日) 14:55:50 ID:???
久我山「なっ何か、えっえらい話が大きくなってるね」
斑目「上原昭三に東條昭平に小林よしのりにキューブリックか。アマチュアの学生映画にしては、凄いメンバーが比較対象になったもんだな」
高坂「凄いね恵子ちゃん。しばらく会わない間に、随分成長したんだね」
大野「でも確かに頑張ってますよ、恵子さん」
荻上「ただ、あんまし寝てないみたいなのが、ちょっと心配ですけど」
斑目「そうなの?」
荻上「撮影始まってから、たびたび笹原さんの部屋に泊まってるんですけど、笹原さんの話だと、夜遅くまでビデオ見てるらしいんですよ。それもマジ顔で」
国松「やっぱり寝てらっしゃらないんですね、監督」
斑目「やっぱりって?」
国松「毎日段々濃くなってるんですよ、目の下の隈」
斑目「マジ?」
大野「確かに濃くなってますね。最近は目が悪くなって眼鏡かけてるから、あまり目立たないですけど」
田中「大丈夫かい、恵子ちゃん」
アンジェラ「その代わりケイコ、食欲は前より旺盛あるよ。睡眠不足は、ある程度までは食べることで補えるから、大丈夫あるよ」
荻上「確かに恵子さん、前に比べて食べるようになったわね。何しろ豪田さんや巴さんやアンジェラや日垣君と、あんまし変わらない量食べてるし」
一瞬固まるOB連。
斑目「体でかい豪田さんや日垣君はともかく、巴さんやアンジェラもそんなに食べるの?」
アメリカ人にしてはアンジェラは、さほど大柄でも無いし横幅も無い。
怪力の持ち主にしては、見た目の筋肉はさほどぶ厚くない。
それに露出しているへその周辺を見る限り、贅肉のかけらも無い。
巴もまた、体形はアンジェラに近かった。
アンジェラ「私とマリアの場合は、消費カロリーの問題あるよ。日々食べた分消費しているから、プラマイゼロあるね」
斑目「そう言えば巴さん、よくこの近所で走ってるのを見かけるな。いやはや、体育会系の人って凄いね」



556 名前:「30人いる!」 その333 sage 投稿日:2009/04/26(日) 14:57:41 ID:???
「ちゅーす」
そこへ話題の人物、恵子が入って来た。
挨拶を返しつつも、慄然とする一同。
恵子の足取りが何やらおぼつかず、幽霊の様にフラフラと進んでいるからだ。
恵子「あれっ、何か今日賑やかじゃねえか…」
高坂と目が合った恵子、何とも言えぬ複雑な表情で固まり、しばし見つめる。
高坂が微笑み返すと、恵子は妙にぎこちない不自然な微笑みを返した。
荻上「大丈夫?」
恵子「だいじょぶだいじょぶ」
言いながら恵子、ビデオラックに向かう。
しばらくビデオラックを見つめていたが、やがて数本のテープをチョイスした。
かつてはアニメのビデオやDVDのみだった現視研のライブラリーも、今では特撮や一般のドラマや映画も、数多く抱えている。
その多くは、台場がスポンサー集めで駅前のパチンコ屋と契約した際に、スポンサー料の代わりに現物でもらって来たビデオテープだった。
そのパチンコ屋は、バブルの頃はレンタルビデオ屋とテレクラとコンビニを経営していたのだが、バブル崩壊後並んでいたそれらをまとめて畳んで、パチンコ屋に改装したのだ。
台場がもらって来たのは、その際に処分し損ねて倉庫に入っていた品であった。
最初はけっこうな金額になりそうだと、ほくそ笑んでいた台場だったが、DVDが普及した2006年には、ビデオテープはほとんど二束三文でしか引き取ってもらえなかった。
結局テープを運ぶ交通費の方が高く付きそうな上、国松やスーが繰り返し見たいと主張したので、部室のライブラリーに追加することになったのだ。
恵子がチョイスしたのは、その古いビデオテープの何本かであった。
「ほんじゃお邪魔さん」
お目当てのテープを手に、恵子は部室を後にした。



557 名前:「30人いる!」 その334 sage 投稿日:2009/04/26(日) 15:00:41 ID:???
恵子が立ち去った後の、異様な雰囲気を変える為、荻上会長は話題を変えた。
「そう言えば国松さん、今日は特撮のことで来たって言ってたわね」
国松「とりあえず準備中の特撮シーンが三つあって、それをどうするか日垣君と相談する為に出て来たんですけど…」
彼女の説明によれば、必要な特撮シーンは次の通りであった。
・ベム1号が巨大化するイメージ
・クルル時空に吸い込まれるベム1号
・ベム1号とアル1号爆発

荻上「で、状況はどうなの?」
国松「巨大化のシーンは、今担当者が各自ミニチュア制作中です」
日垣「巨大化と言ってもイメージシーンなので、本格的な特撮のように、きれいに壊す為の仕掛けは要りませんから、ミニチュアの数が揃い次第撮影出来ますよ」
荻上「担当は2人と、あと誰だっけ?」
国松「ニャー子さんにも頼んでます。あと蛇衣子も大道具の方が手が空いたんで、手伝ってもらってます」
ニャー子は以前に夏コミで、ハチクロの青春の塔のミニチュアを、売り場のオブジェにする為に作ったことがあった。
その細かさを見た国松が、腕を見込んで依頼したのだ。
国松「もうみんな大体8割程度は出来てるんですけど…」
国松に軽く睨まれ、肩をすくめる日垣。
「日垣君の方が遅れてるの?」
いぶかしげな口調で、田中が会話に割り込んだ。
特撮に熱心なのは国松の方だが、器用さでは日垣の方が数段上だからだ。



558 名前:「30人いる!」 その335 sage 投稿日:2009/04/26(日) 15:02:07 ID:???
国松「日垣君の場合は遅れてると言うんじゃなくて、自分で仕事増やしちゃうんですよ」
荻上「どういうこと?」
国松「まあ見て下さい」
国松は自分のリュックからCD-ROMを取り出し、部室のパソコンにセットして再生する。
ディスプレイにミニチュアの町並みが映った。
斑目「ほう、よく出来てるな。まだ建物が少ないみたいだけど」
日垣「俺は主に、ミニチュアのベースになる町を作ってます」
国松「確かによく出来てるんですけど、彼の場合作り込み過ぎなんですよ。見て下さい」
国松はマウスを操作して、画面をアップに切り替えた。
呆然とする一同。
画面には恐ろしくリアルな電柱が映っていた。
大野「これ、電柱の低いとこって、こういうぶつぶつありますよね?」
高坂「そのそばの塀に、番地のプレートが貼ってあるね。えーと奥東京市…」
番地のプレートの文字は、大学の近所の地名を適当にもじったものだが、最後まで読み取れた。
国松「言っときますけど、その電柱の実物、鉛筆ぐらいの大きさですから」
一同「ええええええ?!」
国松は画面を切り替えた。
今度は交通標識が映った。
今度は普通なせいか、一同の反応は薄い。
国松「(画面を切り替え)これがその標識の裏です」
一同「ええええええ?!」
標識のプレート部分は、本物同様に鉄柱部分に2つの金具で固定されていた。
国松「(画面を切り替え)これがその標識の足下です」
一同「ええええええ?!」
標識の鉄柱部分の中腹辺りが不自然に湾曲して少し傾き、根元の地面にひびが見えた。
田中「これってもしや?」
日垣「自動車がぶつかったって設定なんです」
国松「ちなみにこの標識、実物は待ち針ぐらいの大きさです」
慄然とする一同。



559 名前:「30人いる!」 その336 sage 投稿日:2009/04/26(日) 15:05:19 ID:???
日垣のミニチュアワールドの驚異は、なおも続いた。
人形をデジカメで写し、縮小コピーしたものを使って作った選挙ポスター。
葉っぱが1枚1枚作られている、銀杏の街路樹。
針状の葉が1本1本丹念に作られている、松の木。
ドライバーの顔や、ナンバープレートの数字まで作り込まれた自動車。
各部屋のベランダに、大量の布団や洗濯物が干された団地等々…

「言っておきますけど、このミニチュア使うシーンって、ほんの3秒ぐらいですから」
呆然とする一同に追い討ちをかけるように、国松は付け加えた。
田中「それにしても凝ってるね。モデラー魂全開だな」
日垣「いやあ、こういうのって、やり出すとドンドン趣味の世界にハマって行っちゃうんですよね」
田中「まあ気持ちは分かるけど…」
斑目「国松さんは、こういう細かさへのこだわりは無いの?」
国松「この場合は時間優先ですよ。早く仕上げて早く撮影したいですから」
日垣「その代わりに材料費はかかってないよ。材料の大半は、大道具や小道具の材料の残りだし」
国松「まあそれはそうだけど…」
日垣「分かったよ。じゃあ今作ってる分は、他のみんなのが出来次第終了にするからさ」
国松「うーん、作りかけたんなら、最後まで作っちゃいなさいよ」
日垣「(苦笑し)どっちなの」
「あのう、ミニチュアは急がないわよ。この後の撮影は外ばっかりだから、雨の日狙ってスケジュール入れるし」
神田が割り込んだ
国松「分かったわ。じゃあ日垣君、それ最後まで作っちゃって。でも急ぎなさいよ」
日垣「了解」
『やっぱりこの2人、いいコンビかも知れないわね』
国松と日垣のやり取りを見ていて、荻上会長は思った。



560 名前:「30人いる!」 その337 sage 投稿日:2009/04/26(日) 15:52:15 ID:???
次に国松がパソコンのディスプレイに映したのは、自前のデジタルビデオカメラで、ベム1号がクルル時空に引きずり込まれるシーンを試作したものであった。
「おおおおおお!」
それを見た一同が、どよめきの声を上げたのも無理は無かった。
画面いっぱいの白い渦の中に、ベムのシルエットがゆっくりと吸い込まれて行く、不思議な映像が映っていたからだ。
神田「凄いじゃない千里!」
久我山「こっこれ、どっどうやって撮ったの?」
得意そうな笑顔を浮かべていた国松、その疑問に答えた。
「洗濯機ですよ」
一同「洗濯機?」
国松「先ず洗濯機に水を張り、その水に白の絵の具を溶かします。それから洗濯機を回し、そこへ黒く塗ったベムのフィギュアを放り込んで撮影したんです」
荻上「にしては、えらく渦の回転がゆっくりな気が…あっそうか!」
スー「高速撮影でありますな」
田中「なるほど、それで普通に再生すれば、洗濯機の渦とは思えない、ゆっくりした渦になる訳か。それにこれ、ひょっとしてモノクロで撮ってない?」
ニッコリ笑ってうなずく国松。
大野「それにしても、よくこんな方法考えましたね」
国松「実はこれ、『ウルトラQ』で使われた方法なんですけどね」
荻上「そうなんだ」
国松の説明によれば、彼女が今回使った方法は、「ウルトラQ」第27話「206便消滅す」で、旅客機が異次元空間に吸い込まれるシーンの撮影で、実際に使われた方法であった。
ちなみにモノクロで撮影したのは、特撮を嘘っぽく見せない為だったが、モノクロ作品の「ウルトラQ」に対するオマージュの意味もあった。



561 名前:「30人いる!」 その338 sage 投稿日:2009/04/26(日) 15:56:30 ID:???
「で、残るはラス前の爆破シーンなんですが…」
国松は先程までの笑顔が消え、別のビデオを再生し始めた。
荻上「何か問題があるの?」
国松「まあ見て下さい」
パソコンのディスプレイに映ったのは、ベムのフィギュアであった。
通常のフィギュアに比べると全体的に太く、作りが少し雑だ。
国松「これは日垣君に作ってもらった、紙粘土製のベムです」
日垣「まあ試作用なんで、作りは雑なんですが」
斑目「いや、それでもけっこう上手いよ、これ」
国松「このフィギュアには、50本ほどの爆竹が埋め込まれています」
国松はパソコンを操作しながら言った。
「で、これの導火線に点火します」
数秒の間を置いて、ベムのフィギュアが少し膨らみ、全身が破裂したが、爆発と言うにはインパクトが弱かった。
国松「どうです?」
一同「うーん…」
一同の表情から読み取れる判定は「微妙」だった。
田中「何か爆破と言うよりは、北斗神拳でやられたみたいだな」
斑目「あっ、俺もそう思った」
国松「ですよね。何か爆破と言うには、今ひとつ迫力が出ないんですよ。かと言って、これ以上爆竹入れるのも、危険ですし」
日垣「確かに。今の火薬の量でも、1度に爆発したら手が吹っ飛ぶぐらいの威力にはなりますからね」
一同「うわあ…」
国松「いざとなったら、晴海がどっかから爆破シーンだけ借りてくれるって言ってるんですけど、なるべくなら自分で撮りたいですし…」
日垣「かと言って、これ以上の爆発させようと思ったら、爆発物取扱の免許でも無いと難しいですし…」
一同「うーむ…」



566 名前:「30人いる!」 その339 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:46:11 ID:???
「爆発物取扱の免許か…」
そう呟いた荻上会長、携帯電話を握って立ち上がった。
国松「会長?」
荻上「ちょっと待ってて」
そう言い残して、荻上会長は部室を出た。

数分後、意気揚々とした顔で荻上会長は戻って来た。
そして国松に告げた。
「何とかなりそうよ、爆発物取扱の免許」
国松「えっ?」
荻上「ダメ元で、今電話で訊いてみたんだけど、知り合いに持ってる人が居たのよ」
国松「本当ですか?!」
荻上「本当よ。ちょうど今近くにいらしてね、あと30分ぐらいで、こちらに見えるわ」
日垣「誰なんです、その人って?」
荻上「まあいらしてからでいいでしょう。多分みんな初対面だし」

きっかり30分後、部室にやって来たのは笹原だった。
一同「笹原(先輩)?」
国松「あの、笹原先輩って、爆弾使えるんですか?」
笹原「(苦笑)俺じゃないよ。俺は付き添いで、荻上さんご指名の方をお連れしただけだよ」
笹原は後ろを向いて、もう1人の人物を招き入れた。



567 名前:「30人いる!」 その340 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:48:08 ID:???
その人物を見て、一同は困惑の表情で硬直した。
無理も無い。
荻上会長と笹原を除いて全員初対面な上に、その人物が異様な雰囲気を持っていたからだ。
素の部分は普通で、特別変わった特徴は無い。
中肉中背で、顔も目鼻立ちは割とイケメンだ。
だが同時に、一筋縄で行かなさそうな異様さも兼ね備えていた。
やや面長で卵形の顔の輪郭。
軽く茶髪にしている割には、短く切り揃えてベッタリと寝かせただけの髪型。
それに縁が太く本体は細身の、ウルトラアイのような眼鏡。
そして見た目の年齢は、妙な貫禄と若々しさを兼ね備えている為、20代後半ぐらいにも、30代半ばぐらいにも見えた。

笹原「みんな初対面だよね。改めて紹介するよ。こちらは俺の勤務先の鷲田社の上司の小野寺さん」
小野寺「ども、鷲田社の小野寺竜二です」
一同も挨拶を返し、各々自己紹介した。
国松「あの、笹原先輩と小野寺さんは、何でこんなすぐに来られたんですか?」
笹原「俺はたまたまC先生(笹原が担当してる漫画家で、椎応大学の学生)のとこに来てて、そこに荻上さんから電話があったんだよ」
小野寺「で、その笹原から俺の方に電話があった時、俺もたまたまこの近くに在住の漫画家の先生のとこに居たんで、すぐ合流出来た次第さ」
荻上「すいません。お仕事中わざわざ来て頂いて」
小野寺「まあ他ならぬ荻上先生からのお願いだからね。俺デイアフターの編集部にも出入りしてるし。それに1回直に見たかったし、現視研ってのを」
ここまでは割とにこやかだった小野寺、突然ハードな顔付きに豹変して切り出した。
「さてと仕事の話だけど、どこを爆破すりゃいいのかな?」



568 名前:「30人いる!」 その341 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:50:27 ID:???
率直過ぎる質問に固まる一同を置き去りにして、小野寺は続けた。
「爆薬の方は、知り合いに頼めば格安で手に入るよ。まあ俺が得意なのは橋を落とす方だけど、このサークル棟程度の規模の建物なら、いつでも木っ端微塵に出来るし」
一同『木っ端微塵!?どういう人なんだよ、この人?橋落とすって?』
国松「あの、どうして漫画雑誌の編集者の方が、爆発物取扱の免許なんて?」
小野寺「編集者の仕事って要は雑用係だからね、ひとつでもやれることが多い方が便利なんだよ」
そう言って小野寺は自分の持っている資格を列挙した。
社労士、商業簿記、シスアド、TOEICなど、ビジネスマンっぽい資格が多い一方で、極真空手初段や大型免許など、あまり編集に関係無さそうな資格も多い。
日垣「でもそれにしても、爆発物の取扱なんて、どうやって取ったんですか?」
小野寺「学生の時にやってたバイトで必要だったんでね。あっごめん、これ以上は守秘義務があるんで、詳しくは教えられないんだ」
一同『守秘義務?』

荻上「あの爆破ってほど、大袈裟な仕事じゃなくて申し訳無いんですが…」
荻上会長は小野寺に事情を説明した。
小野寺「なるほど、8ミリ映画用の爆破か。まあそれぐらいなら、すぐ用意出来るよ」
国松「本当ですか!?」
小野寺「ああ、マイトの1本もあれば十分だし、砂糖と○○○○○○○○(自主規制)混ぜれば今すぐでも…」
言いかけて口ごもる小野寺。
一同が固まってるのを見て、まずいことを言いかけたことに気付いたからだ。
一同『砂糖と○○○○○○○○(自主規制)って…何者なんだこの人?』



569 名前:「30人いる!」 その342 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:52:32 ID:???
失言をフォローするかのように、小野寺は話題を変えた。
「まあ、爆薬の方はどうにでもなるが、問題は場所だな。ロケはどこでやる予定なの?」
国松は地図を出して、小野寺にロケ地の場所を教えた。
「うーむ、ここらだと今じゃ爆破の許可取るのは難しそうだな」
国松「やっぱりそうですか。70年代なら、そこいらの造成地で爆破し放題だったのに…」
小野寺「まあしょうがないさ。それより場所をどうするかだな…」
しばし考え込んだ小野寺、「ちょっと失礼」とひと声かけて部室の隅に行き、携帯電話を取り出して、どこかにかけ始めた。
一同「?」
やがて電話がつながって小野寺が話し始めると、一同は引っくり返った。
小野寺が流暢な外国語で話し始めたからだ。
斑目「これ、英語じゃないよな?」
大野「ええ、英語じゃないです」
スー「これはスペイン語であります!」
一同「スペイン語?」
荻上「スーちゃんスペイン語も分かるんだ。何話してるか同時通訳出来そう?」
スー「同時は難しそうですが、やってみます」
スーは傍らに置かれたメモ用紙に、サラサラと英文を書き始めた。
いかにIQの高いスーと言えども、母国語ではない言語から、また別の母国語ではない言語に瞬時に通訳するのは、小野寺が早口で喋っているせいもあって難しいらしい。
先ずはスペイン語から母国語である英語に訳してメモし(その作業自体難しそうだが)、それを日本語に直すという作戦のようだ。



570 名前:「30人いる!」 その343 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:55:01 ID:???
メモ用紙1枚にびっしりと英文が書かれた頃、スーは顔色を変え、ギブアップ宣言した。
「押忍!申し訳ありませんが、こんな複雑な暗号、自分には解読不能であります!」
一同「暗号?!」
スー「押忍!一種の暗号と思われます!」
国松「でも、普通に英語に訳せてない?」
スー「試しに一部日本語に直してみましょう」
スーは別のメモ用紙に、日本語の文章を書き始めた。
それを見た一同の頭上に、大きな?が浮んだ。
スーが書いた日本語の文章は、以下の通りであった。

・実はクジラの足が、アルミの鉄板でして
・ポルシェに乗った電卓は平野部に降るでしょうか?
・そうですか、扇風機は新聞紙でしたか
・タイタニックの尻尾にクラゲの耳ですね、分かりました
・お手数ですが、クレーンとスパゲティをご用意いただけますか?

久我山「なっ何なのこれ?」
斑目「全っ然分からん…」
神田「スーちゃん、訳これで合ってるの?」
スー「間違い無いであります!」
アンジェラ「スーは7ヶ国語喋れるから、多分間違い無いあるよ。私もちょっとだけスペイン語喋れるけど、確かにこの単語出てたあるね」
荻上「じゃあこれは一体?」



571 名前:「30人いる!」 その344 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:56:45 ID:???
スー「おそらくこれは、本来の単語を別の単語に置き換える形式の、暗号の一種と思われます」
斑目「それって難しいの?」
スー「ある意味、乱数表を使っての暗号よりも解読困難です」
国松「どうして?」
スー「アルファベットを数字にアトランダムに置き換える暗号は、使われている数字の統計を取ることで、ある程度解読が可能であります」
荻上「つまり言葉を置き換える暗号だと、何が何に置き換えているかが分からない限り、解読出来ないってこと?」
スー「その通りであります!特に今回、使われている単語にまるで規則性が無いので、解読表無くしては解読出来ません!例えエニグマ暗号機でも解読不可能であります!」
田中「エニグマって…そんな高度な物使った暗号よりも、あの小野寺さんの使ってる暗号の方が難しいって言うの?」
荻上「笹原さんは、小野寺さんについて、何かご存知ですか?」
笹原「実は俺も、あの人の過去については、よく知らないんだよ」
一同『どういう人なんだよ、小野寺さん?』

やがて電話を終えて、小野寺が戻って来た。
小野寺「神田さん、3日後この大学のグラウンド空いてるか、分かるかな?」
神田「えっ?ちょっと待って下さいね。(スケジュール帳を取り出し)えーとこの日は…あっ、第2グランドが朝10時から昼12時まで空いてますね」
小野寺「国松さん、爆発だけ撮影して、後で必要なシーンに合成するようなことは出来るかな?」
国松「まあ、それぐらいは何とか出来ますけど」
小野寺「よし、それじゃあ荻上さん、3日後の朝10時に、この大学の第2グランドに、みんなを集めてもらえるかな?もちろん撮影の用意して」
荻上「それは大丈夫ですけど、どうするんですか?」
小野寺はニヤリと笑い、高らかに宣言した。
「みんなに、本物の爆弾の爆発するとこを撮らせてあげるよ!」



572 名前:「30人いる!」 その345 sage 投稿日:2009/04/29(水) 21:59:27 ID:???
そして約束の3日後、現視研の一行は椎応大学第2グランドに集合した。
この時間帯にグランドがたまたま空いていたのは、もうじき大学の夏休みが終わるので、試合間近のところ以外の運動部が、活動を控え始めたからだ。
荻上「集まったはいいんだけど、小野寺さんはどっから来るんだろ?」
四方八方をキョロキョロと見渡す一同。
「上からじゃないですか?」
日垣がぼそっと言ったひと言に、空を見上げる一同。
こちらに向かって、1機のヘリコプターが近付いて来る。
前後にローターのある、灰色の大型ヘリだ。
浅田「あれ、ボーイングバートルV-107じゃないっすか!」
藪崎「浅田、知っとるんか?」
浅田「ええ、主に軍隊で兵員や車両を輸送するのに使われる、大型ヘリコプターです。日本の自衛隊も使ってますし」
岸野「しかもあれ、USマリーンのロゴが入ってるぞ」
一同「えー?!」
スー「ということは、我が祖国の海兵隊のものでありますな」
恵子「何でそんなもんが、あたしらの方に来るんだよ?」
浅田「米軍のということは、正式名称はCH-46シーナイトか。こりゃ驚いたな」
藪崎「そら驚くわな」
浅田「あんな旧型のヘリが、自衛隊ならともかく、まだ米軍で使われてたのには、さすがに驚きましたよ」
藪崎「そっちかい!」
そんな会話の中、ヘリはグランドにゆっくりと下降して来た。
周囲に強烈な砂嵐を巻き起こして、ヘリはグランドに着陸し、操縦席からパイロットが降りて来た。
パイロットは、タイガーストライプの迷彩服に、パイロット用のヘルメットという服装で、細身のサングラスをかけていた。
肌の色から、アジア系と思われた。



573 名前:「30人いる!」 その346 sage 投稿日:2009/04/29(水) 22:01:34 ID:???
パイロットは、度肝を抜かれて硬直する現視研一行に近付き、立ち止まると同時にサングラスを外した。
いや正確には、眼鏡からサングラス状のカバーを外した。
一同「小野寺さん?!」
パイロットの正体は小野寺であった。
意外な出来事の連続に、どうリアクションしたものかと戸惑う一同。
小野寺「(恵子に近付き)君が恵子ちゃん?」
恵子「はっ、はいっ!」
小野寺「何だ、笹原そっくりって聞いてたから、あんまりなのを想像してたけど、可愛いじゃないの。眼鏡も似合ってるし」
(注)この話の恵子は、ビデオの見過ぎで近眼になってしまい、眼鏡を着用している。
恵子「そっ、そんな…」
いつもの恵子なら『誰がアニキそっくりじゃゴラア!』となるところだが、あまりにも異質な小野寺が相手なせいか、対応に困っているようだ。
小野寺「今日はよろしくね、可愛い監督さん」
恵子「はっはいっ!でもまあ今日は、私らは見てるだけっすから」
小野寺「(一同を見渡し)えーと…全部で20人か。わざわざこいつ(ヘリ)を出して来たのは正解だったな。何しろパイロットを除いて、25人乗れるから」
今日の現視研メンバーは、外人コンビを含めた1年生13人プラス、恵子、荻上会長、大野さん、クッチー、そして「やぶへび」の3人という、大人数であった。
小野寺「あと2時間ぐらいトイレ行けないから、今の内に行っといてね」
荻上「2時間で着くんですか?」
小野寺「いや、ざっと6時間ぐらいかな」
一同「6時間?!」
小野寺「直線距離にして、ざっと1500キロぐらいあるからね」
一同「1500キロ?!」
小野寺「このヘリはフルスピードでも時速250キロぐらいだから、まあ時間はそんなもんだろ」



579 名前:30人いる! その347 sage 投稿日:2009/05/02(土) 21:59:58 ID:???
恵子「あのう、どこへ行くんですか?」
小野寺「残念ながら、守秘義務があるから詳しいことは教えられない。でも安心して、とりあえず日本国内だから」
恵子「なあ姉さん、しゅひぎむって何だ?」
荻上「内緒ってことですよ」
恵子「内緒ならしゃあねえな。まあとりあえず、外国まで行くんじゃなきゃいいや。こんなので外国連れてかれても困るし」
小野寺「まあ確かに、こいつで外国へ行くのは大変だな。何しろ航続距離が、エンジンをチューンナップしたり、燃料タンクを増設したりして、やっと500キロぐらいだからな」
藪崎「あれっ?でも小野寺はん、それやったら1500キロ先やなんて…」
小野寺「そう、一気に行くのは無理だから、途中で2回給油の為に着陸するよ。ちょうど2時間置きぐらいだから、ついでにその時にトイレ休憩ってことで」
一同『我々は、どこへ行くのか…』

小野寺の話は、さらに続いた。
「それと昼飯は用意してる?」
荻上「ええ、今日は全員お弁当にしました」
小野寺「正解だよ、それで。多分時間的に、ヘリの中で食べることになると思うから。あとみんな、これかじっといて」
小野寺は、1錠ずつパッケージされた、ラムネかトローチのような物を差し出した。
荻上「あのこれは?」
小野寺「酔い止めだよ。ヘリの揺れはまた独特だから、普段乗り物酔いしない人でも分からんからね。チュアブル錠だから、水無しでかじっていいから」



580 名前:30人いる! その348 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:01:17 ID:???
ヘリの内部は予想よりも狭かった。
左右の内壁にシートが並び、バスの客席を細くした感じだ。
天井も低い。
後部に十数箱の金属の箱が積まれ、ワイヤーで固定されている。
「何ですかな、この箱は?」
言いながら箱に手を伸ばすクッチー。
「触るな!」
大声の叱責に手を縮めるクッチー。
叫んだのは小野寺だった。
小野寺「ごめんね、脅かして。それ爆弾だから、触ると危ないよ」
一同「爆弾?!」
後ずさる現視研一同。
小野寺「まあ正確には、迫撃砲弾とか、対戦車ロケット砲弾とかだけどね。信管は別にしてあるから、滅多なことでは爆発しないけど」
恵子「あの、何でそんなもん積んでるんです?」
小野寺「君たちを連れて行く為の口実だよ」
荻上「それはどういう?」
小野寺「今日の俺の身分は、米軍海兵隊第3海兵遠征軍第13補給分隊所属、ジョン・スミス曹長ってことになってるんだ」
一同「じょん・すみす?!」
豪田「何つうベタな偽名…」
(注)日本人で言えば、山田太郎とか鈴木一郎みたいな感じ。
国松「まるでキョンの本名ね」
浅田「いやそれ、いろいろ間違ってるし」



581 名前:30人いる! その349 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:02:51 ID:???
荻上「はいはい、オタ話はその辺にして、小野寺さん続きを」
小野寺「つまり君たちをこのヘリに乗せる為に、これから行く演習地への弾薬補給のヘリに、レベル5の政治的配慮による便乗という体裁を取る為さ」
一同「演習地!?」
だが恵子は、その言葉をあっさり流して、話を続けた。
「何すか、その政治的配慮って?」
小野寺「そういう体裁にしないと、君らにヘリの燃料代を請求しなきゃならなくなるからだよ。ヘリの燃料代って高いよ」
台場「(電卓を持って)あの、どれぐらいですか?」
小野寺「(台場の電卓のボタンを操作して返し)まあ、このぐらいにはなるね」
台場「(携帯を受け取って青ざめ)こっ、こんなに?」
荻上「どれぐらいになるの?」
台場「映画の制作費の、軽く10倍にはなります」
一同「何ですと?!」
小野寺「そりゃそうさ。高い航空燃料を蛇口からダダ洩れにしながら、飛んでるような代物だからな、ヘリって」
伊藤「そう言えば『戦国自衛隊』でも、ヘリが1番油食ってましたニャー」
小野寺「まあそういう訳で、後ろに積んでる箱は、そんなヘリに乗る為のチケットとでも思ってちょうだい」
沢田「物騒なチケットですね…」
巴「まあ正直、あまりご一緒したくない代物ね」
アンジェラ「てゆーか呉越同舟?」
豪田「ある意味合ってるわね、その使い方」



582 名前:30人いる! その350 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:04:02 ID:???
いざ飛び立つと、バートルの機内はローター音が響くので、落ち着かなかった。
会話をする際には、自然に怒鳴り合いとなってしまう。
国松「行けども行けども海の上、これじゃあどこに向かってるのか、全然分かんない〜!」
浅田「多分行き先は沖縄だよ〜!」
神田「何で分かるの〜?!」
浅田「ヘリの向かってる方向と、速度と航続距離と到着時間から割り出したんだよ〜!」
岸野「それにアメリカ海兵隊第3海兵遠征軍と言えば、基地は沖縄だしな〜!」
朽木「とんでもねえ!あたしゃ神様だよ〜!」
荻上「ややこしくなるから、黙ってて下さい〜!」
そんな喧騒の中、恵子だけはスヤスヤと眠っていた。

2時間後、現視研一行を乗せたヘリは、給油とトイレ休憩の為に、1度着陸した。
着陸したヘリポートの周囲には、たくさんの戦闘機があり、その向こうに海が見えた。
荻上「あの、ここはもしや…」
浅田「空母です。型式から見て、多分エンタープライズ級ですね」
朽木「何とも落ち着かない、パーキングエリアですのう」
15分後、巨漢揃いの米海軍兵士たちに送り迎えされ、落ち着かないトイレ休憩を終えた現視研一行は、再び機上の人となった。
今度はちょうど昼飯時なので、みんな飛び立つと同時に食事を始めた。
食事が終わると、怒鳴り合いの会話に疲れたせいか、今度は全員でお昼寝タイムとなった。

2時間後、小野寺に起こされた現視研の面々は、2度目のトイレ休憩となった。
今度のヘリポートも海上にあったが、先程の空母に比べれば狭い。
浅田「今度は大型揚陸艦かよ」
台場「揚陸艦って何?」
浅田「海兵隊が上陸する為の、船舶や航空機や車両を運ぶ船だよ」
岸野「多分演習の為だと思うけど、こんな戦争始まったら真っ先に敵地に上陸する連中を運んで来る船、よく俺たちが出入り出来たもんだ」
有吉「やっぱ謎だな、あの小野寺って人…」



583 名前:30人いる! その351 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:05:51 ID:???
通算6時間の長いフライトを経て、ようやく現視研一行は目的の地に着いた、
朝の10時に出発したので、もう時刻は夕方4時を回っていた。
ヘリを降りた現視研一行は、周囲を見渡して呆然とした。
ヘリの着陸した広場の前方には、岩山がそびえ立っていた。
そして周辺には、ジャングルが広がっていた。
荻上「で、ここはどこなの?」
浅田「太陽の位置や、ジャングルの状態や、この暑さから見て、やっぱり沖縄のどこかの島ですね。本島はさっき通過してましたし」
岩山のふもと付近に、人影が見えた。
ニャー子「兵隊さんですニャー」
藪崎「何かお洒落な兵隊さんやな。ヘルメットやのうて、ベレーなんか被ったはるわ」
豪田「あっほんとだ。漫画家?んな訳無いですよね」
巴「今時ベレー被った漫画家なんて居ないでしょ」
沢田「じゃあ絵が趣味とか…んな訳無いか」
スー「押忍!あれは米陸軍特殊部隊であります!グリーンベレーは、そのトレードマークであります!」
浅田「やはりここ、米軍の演習地みたいだな。でもそれにしても、グリーンベレーみたいな精鋭部隊が出て来るとは、かなりヤバイ演習だな…」

「ありゃあ、もうそんなとこまで進んじゃったか」
一同の背後で、小野寺がつぶやいた。
いつの間にか、ヘリの後部に積んでいた金属製の箱を、傍らに置いた手押し車に積み上げて、やはりワイヤーで固定してあった。
「みんな着いたとこで悪いんだけど、さっそく撮影の準備始めちゃって。あの連中が今いるってことは、予定より演習進んじゃったみたいだし」
恵子「あのベレーの外人さんたちが、オーラスってこと?」
小野寺「その通り。俺、弾薬持って行くから、適当にやってて」
恵子「分かりました!野朗ども、行くぞ!」
一同「おう!」



584 名前:30人いる! その352 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:07:15 ID:???
現視研一行は準備にかかった。
と言っても用意するのは、4人のカメラマンと録音の沢田だけであった。
後のメンバーは、付き添いに等しい。
「あとみんな、これ着けてね」
小野寺は爆弾の入った物とはまた別の、大きな金属製の箱を持って来て開けた。
中身はたくさんのヘッドホンとゴーグル、それに使い捨てタイプのマスクであった。
荻上「あのこれは?」
小野寺「爆薬使ってる現場って、埃っぽいからね。あとこのヘッドホンは耳栓と違って、爆音を和らげる一方で、人間の声は聞き取れるから、着けたまま会話出来るよ」
現視研の一行が、ゴーグルとマスクとヘッドホンを装着し終わった直後、爆発音が轟いた。
一斉に音の方を向く一同。
先ほど見たグリーンベレーの面々が、岩山に向かって砲撃を開始したのだ。
主に対戦車ロケット砲の発射訓練のようだ。
小野寺「どうやら始まったようだな。みんなも用意出来次第、撮り始めていいぞ」
カメラマン一同「はいっ!」
ヘリが着陸した広場は高台になっており、演習に使われている岩山の中腹を見下ろせるポジションにあった。
4人のカメラマンはギリギリまで岩山の方に接近し、撮影を開始した。
遅れて録音の沢田も近付き、爆発音を録音し始める。
あとのメンバーは、その様子を緊張の面持ちで見守る。



585 名前:30人いる! その353 sage 投稿日:2009/05/02(土) 22:08:46 ID:???
小野寺「ここからなら、いくら撮っても問題無いけど、これ以上は前進しないでね。それと爆発はいくら撮ってもいいけど、軍の人間や兵器は撮らないようにね」
荻上「どうしてですか?」
小野寺「守秘義務が生じたら、ややこしいからだよ。まあこの訓練自体は別に極秘じゃないから、口外しても問題無いけどね」
荻上「それにしても小野寺さん、何でこんなとこに私たち連れて来られたんですか?」
小野寺「俺の昔のバイト先の上司が、今グリーンベレーの教官やってるから、そのコネで特別に許可もらったんだよ」
恵子「バイトって、何のバイトなんです?」
小野寺「悪いけど、守秘義務があるから答えられないよ」
恵子「また守秘義務っすか、じゃあしゃあないですね」
そんな会話の中、浅田と岸野がズンズンと前進し始めた。
藪崎「ちょっと!あんたらどこ行くんや?!」
呼ばれて立ち止まった2人、何かに取り付かれた目で、こう呟いた。
「呼んでいる・・・戦場が俺を呼んでいる…」
呆然とする藪崎さんの傍を、さらに加藤さんも通過して前進し始めた。
加藤「呼んでいる…戦場が私を呼んでいる…」
藪崎「ちょう加藤さんまで!」
さらに見学者にも、興奮して行動を開始する者がいた。
国松「ああもう我慢出来ない!(自前のデジタルビデオカメラを出し)私も撮る!」
さらにお祭り野朗クッチーの制御装置が壊れた。
「にょおおおおおお!!!!僕チンも写真を撮るであります!」
クッチーは自前のデジカメを取り出して、爆発の続く岩山への走り出した。
小野寺「あっ、こらああああ!それ以上先に行くなあああああ!!!!」
小野寺はカメラマンたちを追って走り出した。
他の会員たちも、前進し過ぎのカメラマンたちを必死で呼び戻そうと、大声で名を呼ぶ。
爆音と怒号の混じり合った喧騒の中、荻上会長は虚空に絶叫した。
「て言うか、小野寺さんの昔のバイトって、いったい何なんですかあああ!!!!!?」




逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan