- 30人いる!
- 589 名前:30人いる! その354 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:02:50 ID:???
- 第14章 笹原恵子の遠征
今日も今日とて、現視研の面々は部室に集まっていた。
今日集まっているのは、1年生13人、荻上会長、クッチー、「やぶへび」の3人、そして例によって昼飯を食いに来た斑目という面子だ。
今日は大野さんは就職活動だ。
そして監督の恵子は、笹原の部屋にこもっていた。
国松「何で監督、こもってるんです?」
荻上「もうじき屋外でのバトルの撮影が始まるけど、イメージが上手くまとまらないんですって。笹原さんの話じゃ、ずっとビデオ見てるそうよ」
浅田「そろそろ撮影の方、加速しないとまずいんですけどね」
神田「そうでも無いんじゃない?もうあと残ってる主なシーンは、屋外でのベムとアルとケロロ小隊のバトルと、ミニチュアでの特撮シーンぐらいだし」
浅田「いや、まだ油断は出来ないよ。この映画、むしろ今からの屋外のシーンがメインで、ここまでは露払いみたいなもんだし」
神田「そうは言っても、まだ9月下旬よ。学祭まで40日以上あるし」
岸野「なら実質、あと20日程度だよ」
藪崎「何で?」
岸野「お忘れですか?8ミリは現像が戻って来るまで、2週間は見とかないといけません」
藪崎「ああ、そやったな」
沢田「でも2週間なら、25日はあるんじゃ?」
岸野「俺たちに、ひと晩で編集しろと?」
沢田「あっ…」
岸野「それにアフレコだって、映像が上がってからでないと、素人には無理だよ」
浅田「まあそんな訳で、現像と編集を考慮すると、実質撮影期間は、あと20日足らずと考えといた方がいいです」
有吉「ヤマトで言えば、イスカンダルまでに半年以上使っちゃった状態ってとこか」
荻上「そう考えたら、こっからが正念場ね」
- 590 名前:30人いる! その355 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:04:40 ID:???
- 国松「まあでも、昨日ので特撮部門の最大の難関だった、爆破シーンはたくさん撮れたから、何とかなりますよ」
斑目「昨日はたいへんだったらしいね」
豪田「まあ往復で1日に12時間、ヘリに揺られての遠征でしたからね」
斑目「そりゃ凄いね」
巴「まあヘリのパイロットにでもならない限り、あんなにヘリに乗ることは生涯無いでしょうね」
伊藤「同感ですニャー」
台場「でも撮影はもっと大変だったわね。私らは見てただけだけど…」
ニャー子「カメラマンの人たち、ドンドン前進して行っちゃって、後で小野寺さんに怒られてましたニャー」
浅田・岸野・加藤「面目無い…」
藪崎「ほんまですよ。私だけですやん、普通に撮影してたの」
加藤「いや、ああいう場所って、カメラマンを頑張らせ過ぎちゃう、何かがあるのよ」
藪崎「元々カメラやっとった2人はともかく、加藤さんまで取り付かれてどないしまんねん?」
加藤「でも私たちまだマシな方よ」
神田「そうですよ。クッチー先輩なんて、前進し過ぎで爆心地に近付き過ぎで、爆風浴びてましたもん」
「いやあ、わたくし危うく死ぬかと思いました」
頭がアフロになったクッチーが、神田のネタ振りに応えた。
荻上「紛らわしいことしないで下さい!」
スポンと音を立てて、クッチーの頭からアフロを外す荻上会長。
クッチーのアフロは、ケロロ小隊の面々が、着ぐるみの頭の上から被る為に、日垣が作成したヅラだった。
これを被ることで、ラスト間際の爆発に、小隊の面々が巻き込まれたことを示そうという訳だ。
斑目「なんだヅラだったのか。爆発に巻き込まれて、そうなったのかと思ったよ」
荻上「ドリフのコントじゃないんですから…」
- 591 名前:30人いる! その356 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:06:07 ID:???
- 「当面の問題はロケ地までの足ですね。運ぶ物いろいろあるし」
国松が話題を戻した。
荻上「浅田君、前に見せてもらった造成地みたいなとこ、道のりはどんな感じだっけ?」
浅田「砂利積んだトラックが通ってるぐらいだから、車で近くまで入れますよ」
荻上「となると、荷物共々車で行った方が良さそうね」
巴「また車が要りますね。この間海に行った時みたいに、また車持ち寄りましょうか?」
荻上「でも今度は、少なくとも10日ぐらいほぼ毎日だから、自家用車4〜5台を確保するのは難しいわね」
国松「まあ欲を言えば、ロケバスみたいなもんがあればいいんですけど…」
国松の視線を感じた台場が答える。
「予算的には、マイクロバス1台ぐらいは、借りられないこともないけど…」
「マイクロバスか…」
台場の思考を遮るように、そう呟いたのは加藤さんだった。
「ちょっと待っててね」
加藤さんは部室の隅に行き、自分の携帯を取り出して、どこかにかけた。
「…お久しぶりです、加藤です。実はかくかくしかじかな事情で、マイクロバスを借りられるところを探しているんですが…そう、なるべく格安で…」
数分後、加藤さんは電話を切り、一同に報告する。
「何とかなりそうよ、マイクロバス」
藪崎「ほんまですか?!でも、どないして借りはったんですか?」
ニヤリと笑ったらしいオーラを放ち、加藤は答えた。
「知り合いの人でね、家で仕事にバス使ってる人が居たのを思い出したのよ。それで試しに訊いてみたら、ちょうど今ヒマでバス空いてるそうなのよ」
台場「あの、お代の方は?」
加藤「ガソリン代だけでいいって」
台場「よし乗った!会長、いいですよね?」
荻上「そうね。加藤さん、お願いします。でも、どなたなんですか、バス貸して下さる方?」
加藤「(ニヤリと笑ったらしいオーラを放ち)それは当日のお楽しみ」
- 592 名前:30人いる! その357 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:07:50 ID:???
- 翌日、椎応大学の近所の大通りで、現視研の一行はマイクロバスを待っていた。
みんな歩道に立っていたが、伊藤と浅田だけは、路肩に停めたワゴンの傍にいる。
ワゴンは伊藤の実家から借り出したものだった。
撮影機材をバスが来てから積み直すより、最初から車1台にまとめて積み、その車で一緒にロケ地に向かった方が速いと判断したのだ。
それにロケ地へと先導する役割もあった。
伊藤が運転し、シネハンを担当していた浅田が、助手席でナビゲーターをするのだ。
今日の面子は、1年生全員と「やぶへび」の3人、荻上会長、大野さん、クッチー、そして
恵子という面々だ。
やがて1台のマイクロバスが近付いて来て、一行の前で停まった。
一同「キタ―――――――!!!」
国松「これですよね、加藤先輩?」
加藤「ええ」
そのバスは、紺色と白のツートーンカラーの、地味なマイクロバスであった。
横腹に、微かにペンキを重ね塗りした形跡が見られた。
よく見ると、何か文字が見える。
元々は、何か社名が入っていたらしい。
バスの運転席から降りて来た男の顔を見て、一行の反応は2つに分かれた。
荻上会長よりも下の世代の会員たちは、男と面識が無かった為、キョトンとしていた。
一方荻上会長から上の世代の会員たちは、その小太りで眼鏡をかけた、いかにもオタクな容貌の男の名を叫んだ。
「高柳さん?!」
バスの運転手は、椎応大学漫画研究会OBの高柳であった。
- 593 名前:30人いる! その358 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:09:25 ID:???
- 「お久しぶりです、高柳さん!」
最近では1年生たちに殆どのことを任せ、自分が前面に出ることの少ない荻上会長が、珍しく真っ先に駆け寄って挨拶した。
現視研に入るきっかけを作ってくれた高柳は、荻上会長にとっては大恩人でもあるからだ。
「お久しぶりですぅ、ヤナはん」
続いて藪崎さんも駆け寄り挨拶する。
高柳「元気そうだね、2人とも」
2人の間に壁が無くなったことに気付き、さらに付け加えた。
「それに、仲良くなったみたいだし」
藪崎「(赤面し)仲良くって…そんなたいそなもんやおませんて。オギは私のライバルでっさかい…」
荻上「(苦笑し)まあ、そんな感じですよ」
高柳「ほんと立派になったもんだ。現視研に始めて連れて行った頃には、想像出来なかったよ」
今度は荻上会長が赤面した。
ふと振り返る荻上会長。
1年生たちの「この人誰ですか?」という視線に気付いたからだ。
まだ赤面してる荻藪コンビには酷と判断したか、加藤さんが割って入った。
「改めて紹介するわ。こちらは漫研のOBの高柳さん」
高柳「ども、高柳です。言いにくい人はヤナでいいから」
加藤「そう、だからみんなヤナさんって呼んでるわ」
- 594 名前:30人いる! その359 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:11:00 ID:???
- 神田「ヤナさんか。シゲさんと組んだら、いいコンビかも」
高柳「シゲさんって?」
加藤「今の現視研の1年の子たち、斑目さんのことをそう呼んでるんですよ」
加藤さんは高柳に、その語源を説明した。
高柳「そういう事情かあ。斑目まだ部室に出入りしてるんだな」
神田「ヤナさん、シゲさんのこと、ご存知なんですか?」
加藤「ご存知も何も、2人は同学年で親友よ」
1年一同「へー」
高柳「まあ親友は大袈裟かな。卒業してからは、あんまし会ってないし」
加藤「でも漫研女子の間では、話題になってましたよ。斑目×高柳か、高柳×斑目かで、けっこう論争になってましたし」
ブッとなる一同。
国松「そっちの親友ですか!?」
高柳「俺と斑目とでねえ…まあ薄々そんな気はしてたけど」
日垣「あの、高柳先輩は、そういうのは抵抗無いんですか?」
高柳「まあ全然無い訳じゃないけど、女子のオタク相手に、そういうの気にし出したら、キリが無いでしょ?」
1年男子一同「大人だあ…」
高柳「そう言えばこの子たち、みんな現視研なの?」
藪崎「加藤さんと私と(首をつまんでニャー子を差し出し)こいつ以外は、みんな現視研ですわ」
高柳「その猫顔の子は?」
藪崎「こいつは去年入った、私ら漫研の後輩ですわ」
ニャー子「ニャー子ですぅ」
加藤「ヤナさんは卒業してから来られてないから、ニャー子は初対面だったわね」
- 595 名前:30人いる! その360 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:12:36 ID:???
- 高柳「そんじゃあその金髪の外人さん2人と、そっちの茶髪の眼鏡の子も?」
加藤「そうです。あとその茶髪の眼鏡の子は、笹原先輩の妹さんです」
高柳「笹原の?へー、あいつにこんな可愛らしい妹さん居たんだ」
眼鏡をかけ、少し痩せて顔が細くなったのにプラスして、笹原の丸顔度を実物の2割増しで覚えていた為、高柳は恵子を見ても、笹原に似てるとはあまり思わなかった。
恵子「ども、初めまして。笹原恵子です」
久々に、オタ丸出しの外見の人物との初対面なので、やや硬い対応だ。
加藤「しかも恵子さん、今回作る映画の監督さんですよ」
高柳「へー。事情は大体電話で聞いてたけど、現視研も随分アクティブになったもんだな。しかも漫研よりも、女子の比率高いし」
藪崎「それはそうと、よろしいんでっかヤナはん、こないなもん貸してもろて」
高柳「いいさ。どのみち年内いっぱいは、俺もこのバスも空いてるし」
荻上「どういうことです?」
高柳「卒業後に俺が後継いだ、実家でやってた家業が、近くに大手が進出して来たせいで大赤字なんで、年内いっぱいで閉めることしたんだ」
急にヘビーな話になり、沈黙する一同。
荻上「じゃあ今後は、どうされるんですか?」
高柳「とりあえず、年内はのんびりと残務整理さ。伝手はあるから再就職の方は大丈夫だよ。うちは潰れたけど、業界自体は成長産業だから、仕事には困らないさ」
荻上「そうですか…」
高柳「何かしんみりさせちゃったね。まあこの話はここまでにしよう。みんなバスに乗ってよ」
- 596 名前:30人いる! その361 sage 投稿日:2009/05/04(月) 22:15:12 ID:???
- 現視研一行はバスに乗り込んだ。
沢田「何か、線香臭いわね」
台場「芳香剤か何かじゃない?」
沢田「それにしては、臭いが何かヨモギっぽいわよ」
「あれっ?これなんだろう?」
座席の下の物体に気付き、荻上会長はそれを拾った。
その物体は、白くて丸みを帯びていて、軽くてカサカサしていた。
豪田「何かポップコーンのカスみたいな物体ですね」
「あっまだあったか。ちょっとごめんね」
高柳はそう言って、その物体をつまみ上げ、ポケットから出した白いハンカチで、丁寧に包む。
そして傍らの席に、ハンカチに包んだ物体を置き、ポケットから数珠を出し、手を合わせた。
そして「南無阿弥陀仏」と短くお祈りすると、物体と数珠をポケットに仕舞った。
その様子を呆然と見守る一同。
荻上「あのう、高柳さん…」
高柳「多分最後のお客さんのだよ。ご遺族の方の中に小さいお子さんがいらしてね、お墓まで行く途中で、中身ぶっちゃけちゃったんだよ」
一同『ご遺族?お墓?』
高柳「ありがとう荻上さん。後でちゃんとご遺族の方に届けとくから。あと手を出して」
「?」となりつつも荻上会長が手を出すと、高柳はポケットから散剤のような小さな紙包みを出して、その中身の白い粉を荻上会長の手にふりかける。
よく見るとその紙包みには、「高柳葬祭」と印刷されていた。
一同『葬儀屋だったのか、高柳先輩って…』
荻上「何ですかこれ?」
高柳「清めの塩だよ。まあ高温で焼いてあるから害は無いけど、一応習慣だから」
荻上「(自分の手を見つめ)初めて触ったわ、人のお骨なんて」
高柳「まあ最後の仏様は末期のガンだったから、もう全身カサカサになってたからね、お骨の方も。普通のお骨はもう少し硬くて原形保ってるよ」
恵子「何かえらい縁起の悪いバス借りちゃったな…」
- 6 名前:30人いる! その362 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:26:58 ID:???
- 「おーし全員乗ったか?!」
恵子の呼びかけに、キョロキョロと周りを確認する一同。
岸野「えーと、伊藤と浅田は車の方だったよね?」
神田「それ抜きにしても人数が足りない気が…」
巴「千里と日垣君がいないわね」
有吉「ほんとだ。さっきまで居たよね、2人とも?」
その時、バスの外から国松の大声が聞こえた。
「ちょい右!そう!あとちょっと上げて!オッケー!」
声のした左側(つまり歩道側)の窓の外を見る一同。
バスから2メートルほど離れて、国松がこちらを向いて立っていた。
台場「(バスの窓から身を乗り出し)千里、何やってるのよ!?」
言い終わると同時に、台場はすぐ下に人が居ることに気付き、驚きの声を上げた。
「日垣君!?」
ちょうど台場が身を乗り出した窓の下で、日垣はバスの車体に何かを押し付けていた。
恵子「(バスの窓から身を乗り出し)何やってんだよ、お前ら?(日垣の方を見て)何だこりゃ?」
日垣がバスに押し付けていたのは、白い布の横断幕だった。
黒い大きな文字で、「実写版 ケロロ軍曹 撮影快調」と書かれ、その下にやや小さい文字で「椎応大学 現代視覚文化研究会 学園祭参加作品」と書かれていた。
日垣は大型の磁石を使って、バスの車体に横断幕を固定していた。
- 7 名前:30人いる! その363 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:28:30 ID:???
- 荻上「(バスの窓から身を乗り出し)どうしたの、これ?」
国松「ロケバスが手配出来るって聞いて、大急ぎで作ったんです!(不意に顔色変え)あっ会長!(ペコリと頭下げ)ごめんなさい無断で作っちゃって!」
荻上「まあ私はいいけど…(恵子の方を見る)」
恵子「千里、これってもしかして、何か特撮の伝統なのか?」
国松「昔、第1期ウルトラシリーズのロケバスには、こういう横断幕付いてたんです」
恵子「まあ伝統ならしゃあないな、オケー」
顔を見合わせ喜ぶ国松と日垣。
台場「千里、これの材料費の領収書はもらってる?」
国松「レシートならもらって来てるけど、これは私のポケットマネーでいいわよ。私の趣味入ってるし」
台場「いいから明日にでもレシート持ってらっしゃい。宣伝費として経費で落とすから」
国松「いいの?」
台場「いいわよ。あなたのおかげで、大事なことに気付いたから」
国松「大事なこと?」
台場「(目を輝かせつつ横断幕の端をつまみ)宣伝の基本は、こういうPOPだってことよ」
豪田「うわあ、晴海また商人の目になってる…」
巴「て言うか、またもや狩る者の目に…」
神田「(窓から身を乗り出して、横断幕を見て)ところで晴海、この横断幕って、撮影期間中ずっと付けてるの?」
台場「当然!」
一同『それはちとハズイな…』
そんな現視研一行の迷いを吹っ切るように、恵子が檄を飛ばした。
恵子「うっしゃー!野朗ども出陣だ!」
一同「おう!」
- 8 名前:30人いる! その364 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:29:31 ID:???
- 十数分後、現視研一行はロケ地に到着した。
山の麓にあるそのロケ地は、確かに特撮のロケにぴったりの場所であった。
切り立った崖に囲まれた、広場のような原っぱだった。
バスから降りた一行、改めてロケ地を眺めて感嘆の声を漏らす。
国松「ほんと、いかにも戦隊やライダーが崖の上から降って来そうな場所ね」
巴「ビデオでは見てたけど、実物見ると確かにここ、雰囲気あるわね」
有吉「よくこんなとこ探してきたね」
浅田「まあ運が良かったよ、俺たちにとっては」
豪田「妙な言い方ね。それじゃまるで他に運の悪い人が居たみたいじゃない」
岸野「居たんだよ、それが」
一同「えっ?」
浅田「ここは本来、今頃住宅地になってたはずだったんだ。ところが山切り開いて造成し終わったとこで、会社が倒産しちゃったんだよ」
岸野「しかも次の買い手がまだ見つからない状態なんで、少なくとも年内はこのままらしいよ」
一同「…」
沢田「何か、ラッキーと言えばラッキーなんだけど、いわく付きの物件が続くわね…」
藪崎「素直に喜んだら、祟られそうやな」
恵子「今度大野さんに、巫女コスでお祓いしてもらやいいんじゃねえか?」
大野「いやそれはちょっとさすがに…余計祟られますよ」
朽木「その点なら大丈夫!山神様はスケベですから、適度に露出したコスでお祓いやれば、きっと鎮まって下さいますよ」
大野「ほんとかなあ…」
そう言いつつも、今夜田中に「適度に露出した巫女」のコス制作を依頼しようと、大野さんは秘かに決意した。
スー「(人差し指を立てて、塩沢兼人似の声で)オ祓イすたー誕生」
大野「ややこしくなるから、スーは黙ってなさい!」
- 9 名前:30人いる! その365 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:30:47 ID:???
- ひと心地付くと、一同は各々準備を開始する。
先ずは伊藤のワゴンから、撮影機材をみんなで運び出す。
今回最大の大荷物は、布団やマットレスを改造して作った、岩型のマットだ。
全部で1ダースあったが、車に積み切れない上に、今日はテスト撮影なので、積んで来たのは2つだけであった。
全長1メートル四方ほどの、ルナツーやソロモンに形が似たそれらのマットは、触らぬ限りマットとは見抜けないぐらい、岩そっくりの仕上がりだった。
ロケハンの際に、浅田たちが撮って来たビデオを豪田も見たので、色合いもしっかりこの地に自然にありそうなものになっている。
伊藤「(マットを運びながら)やっぱり豪田さん、天才だニャー。どう見ても岩にしか見えんニャー」
有吉「(マットを運びながら)だな。僕にはちょっと無理だよ、この匠の技は」
一方浅田と岸野は、別口の作業に没頭していた。
先ずロケ地の隅の方に行き、各々スコップで穴を掘る。
陸軍の工兵のような、機械的で正確な動きだ。
ほんの1分ほどで、深さ1メートル近くの穴を掘り終わる。
次に穴の周囲に木の杭を打ち込み、さらに杭の間に横木を渡してロープでくくり合わせ、椅子のような物体を作る。
最後にその物体を覆い隠すように、縦長のテントを張る。
異様に手馴れた仕事ぶりで、2人はほぼ同時に、およそ15分ほどで作業を終えた。
恵子「何だいそれ?」
浅田「トイレですよ」
一同「トイレ!?」
岸野「後はトイレットペーパーを中に置いて、外に手洗い用の水タンクを置くだけです。水タンクには小出し用の蛇口があるから、十分手洗いに使えますよ」
- 10 名前:30人いる! その366 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:32:45 ID:???
- 朽木「使用後はどうするのかのう?」
浅田「穴掘った時に出た土を横に盛ってありますから、使用するつどスコップで土をかければオッケーです」
朽木「おお、何とエコロジーな」
女子一同「(引いて)それはちょっと…」
浅田「まああれは非常用だから、基本は休憩のたびに、伊藤のワゴン車で下のコンビニまで行って借りればいいよ。ただ、コンビニまで5分はかかるけどね」
この造成地のロケで撮影するのは、以下のシーンであった。
(数字はシーンaj
25ケロロ小隊(タママ、ギロロ、ケロロ)が、次々とベム1号を攻撃するも返り討ち
27ドロロも来るも、やっぱり返り討ち
29冬樹とアル1号が来る
31なぜ冬樹が操縦するのかと問うケロロ
33冬樹が操るアル、ベムと互角の勝負
35冬樹が最後の手段を命じるのに応じて、ベムに抱き付くアル
と言っても、ロケ初日の今日は、殆どカメラテストに費やす予定であった。
何しろロケハン担当の浅田と岸野以外、みんな直に現場を見るのは初めてなので、先ずはいろいろ撮影してみてから、具体的にどう撮影するか考えようという訳である。
(もちろん実際に撮影するので、使えるカットは使って行くが)
- 11 名前:30人いる! その367 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:34:25 ID:???
- 神田「問題は天気ですね。明日辺り、雨らしいですし」
豪田「雨はまずいわね。ラテックス製のベムと、樹脂製のアルはともかく、ケロロ小隊は布とスポンジ製だから、次の日地面が乾いてないと、泥だらけになっちゃうし」
恵子「まあいいさ。そん時はアル対ベム中心に撮るだけさ。浅田、まだ十分時間はあるだろ?」
浅田「十分ってほどじゃないですけど、来月上旬ぐらいまでにクランクアップすれば、編集に時間かけられる程度の余裕持って、現像返って来ますよ」
(注)繰り返しになるが、8ミリのフィルムの現像が返って来るまでには、2週間程度は見て置かなければならず、最悪の場合20日近くかかる場合もある。
(都内なら大体10日前後と言われている)
現在では8ミリの現像は、調布のフジカラーサービスでしか行なわれていない為である。
もちろん写真の技術がある人なら、自家現像も出来なくはないが、失敗の可能性も高い。
最初のカメラテストは、岩型のマットにケロロ小隊の面々が激突するシーンからであった。
ロケバスを更衣室代わりに、小隊役の面々はケロン人スーツ姿になった。
荻上「何でスーちゃんまで着替えるのよ?このシーンでは、クルルの出番は無いでしょ?」
スー「押忍!プロデューサーから、特写用に着替えてくれと言われたであります!」
国松「相変わらず宣伝熱心ね、晴海…」
小隊役の5人は、普通に背中からぶつかったり、ジャンプして落ちてみたり、様々な体勢から岩型マットにぶつかった。
それを撮影しつつ、カメラマンたちは感想を述べた。
浅田「特訓の甲斐あって、上手いもんだな、5人とも」
岸野「元々は運動音痴だった、沢田さんもけっこう様になってるしな」
浅田「だけど1番大変なのは、国松さんだな。よくやるよ、あんなもん抱えての受身なんて」
- 12 名前:30人いる! その368 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:36:05 ID:???
- 浅田の言う「あんなもん」とは、M60機関銃のモデルガンだった。
M60は三脚を付ければ重機関銃、二脚を付ければ軽機関銃として使える、多用途機関銃だ。
それだけにモデルガンとは言え、女の子が抱えて持ち歩くには、重過ぎる代物だ。
だが国松は、それを抱えて岩型のマットに激突し、ほとんど体のみで受身を取っていた。
(注)M60機関銃の実銃の重さは、10キロぐらいある。
アサヒファイヤーアームズという、今は倒産したメーカーが作ってたエアガンですら、5キロぐらいはあった。
筆者はおよそ20年ほど前、あるモデルガンショップで、M60機関銃のモデルガンが展示されているのを見たことがあった。
試作品レベルだったのか、その後あちこち検索しても資料は発見出来なかったが、金属部品を多用していたので、実銃とエアガンの間ぐらい、おそらく7〜8キロはあると思われる。
「どうってこと無いわよ、別に」
休憩に入り、浅田と岸野に受身について訊かれ、国松は事も無げに答えた。
国松「柔道じゃ、上になった相手を抱えて倒れ込むような状況なんて、いくらでもあるし」
浅田「いやそうは言っても、君選手じゃ無かったし」
国松「それに機関銃抱えてる方が、ライフルやサブマシンガン2丁持つよりは、自然に体丸められて、受身の体勢が取りやすいのよ」
岸野「なるほど、銃持った手を叩き付ける訳には行かないからね」
浅田「まあ確かにギロロなら、銃持った手で受身は取らないだろうね」
国松「だから2丁持ってやった受身の方が、逆にしんどいのよ。体丸めずに銃持ち上げて、体全体伸ばしてビターンと倒れなきゃいけないから」
浅田「まるでプロレスラーだな」
- 13 名前:30人いる! その369 sage 投稿日:2009/05/05(火) 20:37:59 ID:???
- 昼食を挟んで、次のカメラテストはアル1号対ベム1号の殺陣であった。
まずは空手的な殺陣だ。
短期間の特訓による付け焼刃ながら、持ち前の運動神経の良さと体力により、日垣はそれらしい動きを見せた。
一方クッチーも、本来獣的なアクションの多いベムには珍しい、回し蹴りや後回し蹴りなどの大技を見せる。
次にステッキを持ったベムと、錬金術で作った棒を持ったアルのチャンバラだ。
どちらの武器も、塩ビのパイプをゴムで包んで作った代物だ。
多少武器をしならせつつも、迫力あるチャンバラを見せた。
そして最後は、ロボット的な動きを見せるアルと、獣的な動きで応戦するベムであった。
ジャイアントロボ(特撮の)とジャイアント馬場の動きを参考にしたという、スローモーで大振りな日垣の動きに対し、素早い動きにも関わらず、クッチーは見事にシンクロした。
みんなが2人の動きに感嘆する中、恵子は1人怪訝な顔をしていた。
国松「どうしたんですか、監督?」
恵子「…何か、違うんだよな」
巴「何がです?」
恵子「あたしにも分からん」
一同「分からんて…」
荻上「でもそれじゃあ、対処のし様が無いですね」
恵子「だからあたしも困ってんだよ。あいつらの動きがいいことは分かるんだよ、あたしにも。でも、何かが違うんだ」
結局恵子が考え込んだままで、初の本格的な野外ロケは終わった。