30人いる!

28 名前:30人いる! その60 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:38:47 ID:???
第6章 笹原恵子の采配

有吉「えーでは第3回 現視研で映画作ろうぜ会議を始めます!」
朽木「それはいいんだけど、何でここでやるのかのう?」
クッチーが素朴な疑問をぶつけるのも無理は無かった。
3日後の制作会議の会場、それは部室ではなく国松の部屋だったからだ。
ちなみに今回の制作会議、部室で原稿執筆中の藪崎さんと加藤さん、前回の会議の翌日帰国した外人コンビ、そして今日合流したクッチー以外のメンバーは前回同様だ。
国松「恵子先輩が、ケロロ軍曹のビデオをギリギリまで見たいって仰ったからですよ」
その言葉通り、恵子はまだビデオ再生中のテレビの前から離れなかった。
朽木「監督の命令とあらばやむを得ませんな」
体育会系体質のクッチーはあっさり納得した。
神田「それよりクッチー先輩、今日は就職活動大丈夫なんですか?」
朽木「その点なら大丈夫。実は僕チン、あるところからお誘いを受けて、今その為の試験勉強をしているんだにょー」
言い終わるやいなやクッチーは、自分のリュックから1冊の本を出した。
問題集のようだ。
神田「地方公務員試験?」
豪田「クッチー先輩、公務員になるんですか?」
沢田「でもこの時期に公務員と言えば…ひょっとしてお巡りさん?」
朽木「ピンポーン!」
一同「マジっすか?!」
荻上「(頭を抱え)朽木先輩がお巡りさん…世も末だ…」
朽木「失礼だなあ荻チン、わたくしこれでもスカウトされたのですぞ」
一同「すかうと?!」


29 名前:30人いる! その61 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:40:30 ID:???
クッチーはことの経緯を語り始めた。
夏コミの次の日、彼は就職活動を再開した。
だが面接の手応えは芳しくなかった。
憂鬱な気持ちを抱えての帰り道、彼の居る方に引ったくりが逃げて来た。
引ったくりはナイフを振り回し、クッチーをキレさせた。
その結果引ったくりは、全身包帯グルグル巻きで集中治療室に収容される破目になった。
多少(?)過剰防衛気味ながらもお手柄のクッチー、最寄の警察署の署長に表彰された。
署長はクッチーをえらく気に入り、彼に警官になるように熱心に勧めた。
その執拗な勧誘に音を上げたクッチー、遂に警官の採用試験を受けることを決意した。
(この辺の詳しい経緯は「はぐれクッチー純情派」参照)

沢田「でもクッチー先輩、警官の採用試験ってもうじきじゃないですか?」
朽木「その点ならノープロブレム。この問題集、署長さんが貸してくれたんだけど、これのチェックしてあるとことほぼ同じ問題出るらしいから、丸暗記すればオッケーだにょー」
一同『それって不正なのでは…?』
そう思いつつも、みんなクッチーが就活で苦労してるのを知っているので、敢えて誰もツッコまなかった。
荻上「それより国松さん、ごめんなさいね。こんな大人数でお邪魔して」
国松「そんなこちらこそ、狭い部屋で申し訳ないです」
国松の部屋は2DKの2部屋が障子で仕切られているので、会議をするにあたり障子を外して外へ運び出して、1つの大部屋とした。
だがそれでも、わざわざ部室から(脚部を外したのでボードだけだが)ホワイトボードを持ってきたせいもあってか、総勢15人を収容するにはキツかった。



30 名前:30人いる! その62 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:42:51 ID:???
そうこうする内に、テレビ画面の「ケロロ軍曹」がエンディングタイトルとなり、恵子はビデオを止めた。
「さてと、ここまでにするか」
そう言いながら、恵子はまだテレビの方を向いていた。
台場「恵子先輩、ケロロ全部見たんですか?」
恵子「(ビデオテープを取り出しつつ)さすがに全部は無理だったな。(テープのインデクスを見つつ)えーと今ので74話か」
台場「そりゃそうですよ。3日も続けて徹夜出来ませんし…」
そこで恵子は初めてみんなの方を向き、こう言い放った。
「この顔がちょっとでも寝た顔に見えるか?!」
「ひっ?!」
悲鳴を上げる一同。
恵子の目の下には、まるで覚せい剤中毒患者のような濃い隈が出来ていた。
笹原似のふっくらした頬は、心なしかこけていた。
顔色も死体のような土気色だ。
台場「でも先輩、ぶっ続けで見たのなら何故…」
ここまで言いかけた台場の言葉をさえぎるように国松が答えた。
「恵子先輩、ケロロ見てる途中でパロディの元ネタになった作品もご覧になっていたのよ。特撮関連は私のとこで全部まかなえたんだけど…」
神田「あっ千里、昨日借りに来たビデオってもしかして…」
国松「そう、恵子先輩にお見せする為に借りたの。私んち、アニメの在庫は乏しいから」


31 名前:30人いる! その63 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:45:33 ID:???
国松の説明を恵子自ら補足した。
「あたしさあ、ハッキリ言ってアニメとか特撮とかの知識って、ほんと無いのよ。春日部姉さんが知ってるようなやつでも知らなかったから、あたし」
荻上「それでパロディの元ネタを?」
恵子「ケロロの1番の売りってパロディだろ?まあ分かんなくても面白かったけど、監督がそれじゃまずいっしょ?」
荻上『あのチャランポランな恵子さんが、よくぞそこまで…』
恵子「まあそんなことより伊藤、例のプロットとかいうの見せろや」
伊藤「はい、かしこまりましたニャー」
「笑点」の座布団運びのような返事をしつつ、伊藤はプリントアウトして閉じておいたプロットをみんなに配った。
全員に行き渡ったところで、各自黙読し始める。
以下の文章は、そのプロットを要約したあらすじである。

ケロロ小隊が地球に来てから数年の年月が経った。
冬樹と夏美は共に大学に進学した。
母親の秋はケロロを正式に日向家の家政夫として採用し、ケロロは完全に日向家の家事を1人で取り仕切ることとなった。
一方他のケロロ小隊の面々は、相変わらずの状態であった。
そんなある日、タママが冬樹のところに大きな箱を持って来た。
ヨーロッパにショートホームステイに行っている、桃華から送られてきたという箱の中身は、タイムカプセルのような謎の物体だった。



32 名前:30人いる! その64 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:47:44 ID:???
そのカプセルは13世紀頃のある学者の屋敷跡から発掘されたもので、西澤グループが調べる前にオーパーツ好きの冬樹に見せたくて送ったとのことだった。
クルルが珍しく自分から分析を申し出、一方冬樹は、箱に一緒に入っていた学者が残したノートを調べ始める。
(この時冬樹は、クルルの発明した何語でも翻訳出来る万能翻訳機を借りた)
2人の出した結論は以下の通りであった。
冬樹によれば、学者は錬金術師であり、ノートに書かれていたのは人造人間ホムンクルスの製法だという。
一方クルルによれば、カプセルの中身は細胞レベルで圧縮されている人工生命体だという。
(ちなみにカプセルの表面には、古代ケロン文字が刻まれていた)

そんな中、クルルズラボに置いてあったカプセルから、人工生命体ベム1号が復活する。
クルルはクルル時空にベム1号を引きずり込み、ケロロ小隊もクルル時空へ。
だがベム1号は強く、ケロロ小隊の攻撃は全く歯が立たない。
その時クルル時空に、1体のロボットと冬樹が飛び込んで来る。
ロボットはクルルが開発した超兵器アル1号だ。
激しい格闘を続ける、ベム1号と冬樹が操るアル1号。
だが何度倒しても、ベムは自己修復機能で復活する。
クルルのアドバイスにより、冬樹はアルに最後の手段を使わせる。
だがその最後の手段とは、ベム諸共自爆することだった。
ベムは無事撃破したものの、同時にクルル時空も爆散し、日向家もメチャクチャに。
そこへちょうど夏美と秋が戻り、夏美はケロロたちを締め上げるのだった。



33 名前:30人いる! その65 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:49:48 ID:???
「みんな読み終わった?」
荻上会長の呼びかけがきっかけになって、制作会議が再開された。
有吉「えーそれでは、まずはみなさんの意見を伺いましょうか」
国松「これ凄くいいよ、伊藤君。ケロロにベムとアル何とか絡めてるし、他の特撮ネタもいろいろ絡めてるし」
日垣「俺分かんなかったけど、どんなのがあったの?」
国松「ベム1号ってのは『ウルトラQ』に出てくる人工生命体M1号のパロよ。単に語呂合わせじゃなく、ケロロの写真撮影のせいで細胞分裂ってとこまで本家通りだし」
伊藤「よく分かったニャー」
国松「あとベム1号ってのは『シルバー仮面』の光子ロケットの名前とも掛けてるし」
伊藤「いや、それは偶然ですニャー『さすがにそこまでは考えなかったニャー』」
国松「そうなんだ。あとアル1号ってのは『ウルトラセブン』の超兵器R1号のパロね。それに冬樹が使う腕時計型操縦機と、敵諸共自爆ってのは『ジャイアントロボ』ね」
伊藤「いやあ、お見事。さすが国松さんですニャー」
片隅では腐女子たちが小声で話し合っていた。
荻上「ねえ、今の話分かる?」
豪田「私はちょっと…」
巴「私も…」
沢田「私は番組の名前ぐらいしか。『シルバー仮面』は分かんなかったですけど」
台場「私も名前ぐらいですね」
荻上「やっぱり特撮の話させたら凄いね、国松さんって」



34 名前:30人いる! その66 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:51:47 ID:???
恵子「まあ元ネタはともかく、千里的にオッケーってことは、特撮映画の筋書きとしちゃあオッケーってことだな」
浅田「俺もいいと思いますよ、この話。カメラマン的には凄くやりがいありそうだし」
岸野「俺もそう思います」
荻上「あとひとついいかな?伊藤君、何で数年後って設定にしたの?」
伊藤「うちの会員の中には、着ぐるみの人以外に中学生役が出来そうな人は居ないなと思いまして、こういう強引な設定を考えましたニャー」
恵子「まあ確かに、中学生が演れそうな童顔で小柄なのって、今回全員着ぐるみだもんな」
荻上「何で私の方を見るんですか?」
恵子「んなこと今さら気にすんなよ、姉さん」
荻上「はいはい、今さら気にしませんよ」

「ただねえ…私たち初心者にこの話、上手く作れるかしら?」
沢田が会員たちの内なる不安を代表して口にしたのをきっかけに、他の会員たちも不安要因を口にし始めた。
有吉「確かに当初の計画と違って、えらくスケールの大きい話になってるもんな、これ」
日垣「こりゃ殺陣たいへんそうだな。俺、出来るかなあ…」
神田「そうね。これだけ長い話を映画にするとなると、かなり綿密な計画が必要ね」
豪田「それにセットもかなり大がかりなの作らなきゃね」
台場「念の為にスポンサー増やした方がいいかな」



35 名前:30人いる! その67 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:54:11 ID:???
巴「あと千里、率直に訊くけど、この話に必要な特撮って、アマチュアの8ミリの映画で出来るの?」
国松「(キッパリと)出来るわ、理論上は」
巴「理論上?」
国松「つまり実際にやったことは無いけど、知識としてのノウハウはちゃんとあるってこと。ただ、出来上がりが上手いか下手かは、やってみないと分かんないけどね」
巴「そう…」
国松の答えに、巴の顔にも不安の色が浮んだ。

「お前ら、何守りに入ってんだよ?」
恵子のひと声に注目する一同。
「お前らの今の話聞いてるとさあ、何か成功したいっつーより失敗したくねえって感じがすんだよね、あたしには」
図星なのか、ウッという表情の1年生たち。
「いいじゃねえか、失敗作なら失敗作で。そういうのが内輪では1番ウケるんだよ。それはそれでいい思い出じゃねえか」
国松「監督、そんなに失敗作失敗作言わないで下さい。少なくとも私は成功させるつもりなんですから」
豪田「ちょっと千里、そりゃないでしょ。私たちだって成功させたいわよ、この映画」
他の1年生たちも同様のことを口にする。
恵子「あたしだってそのつもりだよ。たださあ、全員映画作り初めてで凄い傑作が出来たら誰も苦労しない、あたしが言いたいのはそういうことさ」



36 名前:30人いる! その68 sage 投稿日:2007/09/02(日) 15:57:33 ID:???
「恵子さんの言う通りね」
今度は荻上会長の発言に注目する一同。
「うちは営利企業じゃない、大学のぬるいサークルなのよ。もちろんいいものが作れるようには頑張るけど、それ以上に作ることを楽しまなきゃ」
恵子「姉さん…」
豪田「そうですね、荻様の仰る通りだわ」
他の1年生たちも賛同しかけるが、台場が異議を唱えた。
「でも会長、スポンサーさんたちから金集めてる上に、金取ってお客さんに見せる以上、それなりにいいもの作らないと…」
荻上「もちろんそうよ。でもスポンサーと言っても、あくまでも寄付とかカンパだし、お客さんの方も祭りの余興なんだから、あんまし堅苦しく考えないで」
台場「でも…」
荻上「それともひょっとして台場さん、まさかスポンサーの方々に利益還元するような裏の契約とかしてるの?」
台場「(慌てて)してませんしてません!一瞬しようとは思ったけど、してません!」
一同「やるつもりだったのかよ!」
恵子「まあまあ、つもりまでならいいじゃねえか。で、どうよ?映画、やるよね?」
「やります!」「やらせて下さい!」「頑張りまーす!」
全員が口々に賛同の意志を示し、再び制作会議は続行された。
そして細かいことについての議論を1時間ばかり経て、伊藤のプロットに基づいてシナリオが書かれることが決まった。



39 名前:30人いる! その69 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:46:41 ID:???
恵子「そんじゃあ配役決めようか?」
伊藤「着ぐるみの人以外は、冬樹、夏美、それにモアちゃんだニャー」
男性会員たちを見渡す恵子。
恵子「うーん、お前ら不細工じゃないけど、イケメンや美形もいねえな。うーんと…」
その時、豪田の頭の中でピンッという音が鳴った。
そしてズンズンと有吉に近付く。
有吉「えっ?」
豪田は有吉から眼鏡を外した。
有吉「ちょっ、ちょっと、返してよ」
有吉を凝視する一同。
イケメンや美形とまでは行かないが、割と知的で整った顔立ちだった。
沢田「こ、これは?」
巴「行ける!」
恵子「おしっ、有吉、お前冬樹やれ!」
有吉「ぼっ、僕ですか?」
巴「監督命令となれば、しょうがないわね」
有吉「(マジ顔で)分かりました、監督。(情けない顔に戻り)それより豪田さん、眼鏡返してよー」
豪田を追う有吉、荻上会長の肩を掴んだ。
荻上「えっ?」
有吉「あれっ?豪田さん、えらく小さくなったね?それに華奢だし、(筆握り)頭に筆があるし、何か会長みたい…」
神田「いや有吉君、あなた掴んでるの会長だし…」
豪田「ほら眼鏡」
言いながら豪田、有吉の眼鏡をかけてやる。


40 名前:30人いる! その70 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:48:53 ID:???
有吉「わっ、会長?しっ、失礼しました!」
慌てて荻上会長から離れる。
荻上「まっ、まあ見えなかったんだからしょうがないわよ。気にしないで」
豪田「ネタでやってるのか、それとも本当に見えないのか…」
沢田「どうもマジでやってるみたいよ」
恵子「まあ冬樹って動かんキャラだから、何とかなんだろう。よし、次は夏美だな」
一同「うーん…」
台場「夏美ってさ、数年後だったらやっぱり、秋ママみたいな体型になってるんだろうな」
神田「クルルの銃で大人になった夏美って、確かにナイスバディだったわね」
有吉「ナイスバディでスポーツ万能と言えば…」
会員たちの視線が巴に集中した。
巴「(自分を指差し)わっ、私?」
恵子「まあ髪は染めればいいか。よしマリア、お前夏美やれ!」
有吉「監督命令なら、しょうがないね」
巴「…分かりました、やります」
伊藤「あとはモアちゃんだニャー」
豪田「アンジェラでいいんでねの?ちと胸デカ過ぎだけど」
台場「うーん…金髪はいいとして、青い目はどうだろう?」
荻上「その点なら心配無いわよ」
台場「どゆことです?」


41 名前:30人いる! その71 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:50:43 ID:???
荻上「アンジェラの瞳の色は、光の加減によって褐色や黒にも変わるのよ」
浅田「なるほど、それなら照明やカメラアングルで上手く誤魔化せるかも知れませんね」
台場「それならいいですね」
恵子「よっしゃ、モアはアンジェラで行こう!ミッチー、連絡してやれや」
神田「はーい。千里、ちょっとパソコン借りるわよ」
神田は国松の部屋のパソコンで、アンジェラにメールを送った。
(アンジェラは日本語の読み書きは何とか出来るので日本語で送った)
向こうは夜のはずだったが、アンジェラは起きていたらしく、すぐにメールが返って来た。
神田「アンジェラからの返信メールです。えーと何々…日垣君、コスよろしく…快諾してくれたようですね」
日垣「コスっていうと、ハルマゲドンの時のあの格好のことかな?」
伊藤「うーん、予定ではその格好するシーンは無いんだがニャー」
恵子「無いなら追加してやれよ」
伊藤「うーんと、それじゃあ…そうだ!ベム出てきたとこで、モアちゃんが例の格好でベムどついてクルル時空に叩き込むってのはどうでしょうかニャー?」
恵子「いいんじゃねえか。それで行けや」
伊藤「かしこまりましたニャー」
日垣「夏コミの時はアンジェラのコス、ほとんど田中先輩1人で作ってたから、サイズが分かんないな。神田さん、メールで訊いといてくれる?」
国松「サイズなら分かってるわよ」
日垣「国松さん採寸手伝ったの?」
国松「この間夏コミの時に、アンジェラのコス姿見たから、大体分かるわよ」


42 名前:30人いる! その72 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:52:35 ID:???
しばし時間が凍結した。
荻上「国松さん、見ただけでサイズ分かるの?」
国松「ええ、田中先輩に服の上から見てサイズを目測するコツをお聞きしたんです。そんで試してみたら、ほぼ当たりました」
1年女子一同『そう言えば夏コミで絶望先生コスやる時、制服のサイズなんて既製品なのに、千里しつこくサイズ聞いてたな。あれがそうだったのか…』
1年男子一同『国松さん恐るべし!』

「あと着ぐるみ組の配役だけど、日垣君、僕チンがベム演るから君アル演ってくんない?」
1年生たちの発言が活発で切り込みにくかったせいか、それまで意外に大人しくしていたクッチーが突如口を開いた。
日垣「俺ですか、アル?でもこのプロットだと、どっちかと言えばアルの方が攻め込んでますから、俺じゃ無理じゃないですか?」
朽木「その点は大丈夫。このプロットのアルって、ジャイアントロボみたいなロボットムーブの方が合いそうだから、練習すればすぐ出来るにょー」
日垣「まあそれなら動きは何とか。でもベムの方がカット数多そうだし、大丈夫ですか、就職活動の方は?」
朽木「さっきも言ったように、僕チンは警官の試験受けるから、試験日当日以外は目いっぱい撮影に付き合えるにょー」
日垣「いいんですか?」
朽木「いいんです。それにこの話だとアルよりベムの方が打たれ強さ要りそうだし。体力は日垣君の方がありそうだけど、打たれ強さなら僕チンでしょ」
恵子の了承を得て、結局アルが日垣、ベムがクッチーということで落ち着いた。


43 名前:30人いる! その73 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:54:18 ID:???
一方女子の着ぐるみ班も配役の相談を進めていた。
沢田「まあクルルがスーちゃんで、軍曹さんが会長は決まりとして…」
荻上「決まりなんだ…」
国松「スーちゃんはそもそもクルル希望ですし、何と言っても会長も軍曹さんもリーダーですから、やっぱリーダーの立ち位置でないと」
荻上「まあ、それはいいけど、残るはタママとギロロとドロロかあ…」
国松「それなんですけどニャー子さん、タママお願いしていいですか?」
沢田「なるほど、タママなら声可愛いし、適役かも」
国松「それにタママって、格闘技やってる割には肉弾戦よりタママインパクトばっかしだから、動きは意外と少ないでしょ」
荻上「一応他所から招いたお客さんってことで配慮した訳ね」
国松「そうです。どう、ニャー子さん?」
ニャー子「タママなら声作れますニャー。(可愛い高音で)ハーイモモッチー!(ドスの効いた低音で)うだるぞぬしゃー!」
一同「おー!」
沢田「これなら吹き替えは要らなさそうね」
ニャー子「でも私、タママインパクトは出来ませんニャー」
こける一同。


44 名前:30人いる! その74 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:56:24 ID:???
国松「その点は大丈夫ですよ。タママの顔は通常のものと別に、タママインパクト発射用の顔も作りますから。ニャー子さんはポーズしてくれるだけでいいです」
ニャー子「光線はどうするのかニャー?」
国松「シネカリでフィルムに直接描き込みます」
ニャー子「しねかり?」
国松「8ミリ特撮の技法で、フィルムに針みたいなもので軽く傷を付けて、光線っぽい絵を作る方法です」
沢田「でもそれ、8ミリのフィルムにそれって…」
国松「もちろんかなり手間で根気の要る作業だけどね。何しろ虫眼鏡でフィルム見ながら、ひとコマひとコマに描き込んで行くんだから」
「そういうのなら、私にまかせなさい!」
台場が話に割り込んだ。
国松「晴海、やったことあるの?」
台場「(笑って)無い無い。でもその代わり、私米に字書けるわよ」
室内にザワッという音が轟く。
国松「米に字って、例えばどんな?」
台場「まあさすがに2文字までが限度だけどね。画数的にも、薔薇とか憂鬱とかぐらいが限度ね」
一同『どうやればそんな複雑な字が米に書けるんだ…』
国松は台場の右手を両手で力強く握った。
国松「お願いするわ、光学合成担当!」
一同『それは光学合成と言うのか?』


45 名前:30人いる! その75 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:57:52 ID:???
沢田「あと残るはドロロとギロロかあ…」
国松「それなんだけど彩、あなたドロロでいい?」
沢田「ちょ、ちょっと待って!私、運動神経無いんだから、あんな動き無理!」
国松「(笑って)あんな動き、誰も出来ないって。大丈夫よ、何も生であの動きやれっていう訳じゃないから」
沢田「そんじゃあどうするの?」
国松「カメラワーク駆使するのよ」
沢田「カメラワーク?」
国松「例えば軽く走ってるとこをカメラ低速で撮影して、再生時は標準で回して早回し状態にして、凄く速く走ってる図の出来上がりとか」
沢田「なるほど、あと他には?」
国松「えーとね…例えば飛び上がるポーズをしたとこを撮り、続いて同じ背景をドロロ無しで撮り、それをつなげば消えるように高速でジャンプする図の出来上がりとか」
沢田「それなら私でも出来るかも。分かった、私ドロロ演るわ」
荻上「ということは、国松さんギロロ演るつもりなの?」
国松「まあギロロだけは実際に武器持って動かなきゃならないし、そんなキツイの人様には押し付けられませんから、言い出しっぺが責任取りますよ」
荻上「国松さん…」
国松「大丈夫ですよ、会長。これでも私、多分ケロロ小隊役の5人の中で、1番体力あると思いますから」
こうして着ぐるみ班の配役が決まり、神田はホワイトボードにそれを書き込んだ。


46 名前:30人いる! その76 sage 投稿日:2007/09/02(日) 22:59:20 ID:???
恵子「さてと、配役も無事決まったことだし、次はスタッフの役割分担を決めるか。先ずは千里、とりあえず特撮関係はお前が全部仕切れや」
国松「はいっ!」
「ということは、こうですね?」
そう言いながら、神田はホワイトボードに「特技監督 国松」と書き込んだ。
国松「そうじゃないわよ、ミッチー」
国松はホワイトボードに近付き、特技監督を消して「特殊技術」と書き直した。
神田「とくしゅぎじゅつ?」
国松「本来特技監督ってのは、特撮班と本編班の2班体制で撮影する場合の名称なのよ。
うちの場合は全部ひっくるめて総監督だから、その名称は不向きよ。それに…」
恵子「それに?」
国松「本来特技監督を名乗っていい人物は1人だけなんです」
恵子「誰?」
国松「円谷英二です」
国松によれば、円谷英二の直弟子の特技監督は、円谷プロの初期の作品では自らを特殊技術と称していたという。
これは彼らにとっての特技監督とは円谷英二ただ1人であり、自分ごときが特技監督を名乗るのはおこがましいという考え方の為だ。
国松「だから私も、それに倣おうと思います」
恵子「わあった、そんじゃ千里それで行けや」



47 名前:30人いる! その77 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:01:45 ID:???
「さてと特技監督、じゃなくて特殊技術が決まったとこで、あと助監督なんだけど…」
恵子は一同を見渡し、伊藤と眼が合ったところでピタリと止まった。
オドオドする伊藤。
恵子「お前さあ、脚本書いた後はヒマだろう?」
伊藤「まっ、まあそうですニャー」
恵子「そんじゃお前、チーフ助監督やれや」
伊藤「ぼっ、僕がチーフですかニャー?」
恵子「まあ助監督は原則手の空いたもん全員だけど、通しでやる奴が1人は要るだろ?」
有吉「なるほど、伊藤君なら脚本の隅から隅まで把握してるから、全体を見ながら現場を仕切るのには適役かも知れないな」
国松「それに普段のパシリっぷりから見て、助監督の必要最低条件のフットワークの軽さもあるしね」
恵子は普段から、手の空いてる者は誰彼構わず命令したりこき使ったりしているのだが、眼が合うとオドオドする習性のあるせいか、伊藤が命じられる確率は高かった。
恵子「つう訳で、いいな伊藤?」
伊藤「かしこまりましたニャー」
『何のかんの言っても恵子さん、監督らしくなってきたわね』
そんな様子を見て、荻上会長は内心感心していた。


48 名前:30人いる! その78 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:03:25 ID:???
みんなが役割分担について話し合っている傍らで、豪田はプロットを読みながら、まるで北島マヤが台詞を覚えてる時のように、1人片隅で何やらブツブツとつぶやいていた。
荻上「どしたの?」
豪田「あっ、荻様。今この映画に必要なセットを考えてたんです」
荻上「セット?」
豪田「先ずケロロ小隊の作戦司令室とクルルズラボが要りますね。日向家内部の各部屋とクルル時空は、どっかでロケするとして、あとは最後のボロボロになった日向家ですね」
立て板に水の如くスラスラと撮影場所について述べる豪田に、沈黙する荻上会長。
豪田「まあ作戦司令室とクルルズラボは、ベニヤ板でそれらしいのが作れると思います。日向家は適当にガラクタ並べるか、解体中の家探して交渉するか。あとは…」
荻上「あとは?」
豪田「ベム1号とケロロ小隊が戦うシーンで、ケロロたちが吹っ飛ばされるでしょ?女の子が入った着ぐるみを地べたにモロにぶつける訳には行かないじゃないですか」
荻上「(改めてプロットを読んで青ざめ)確かにそうね…何かいい方法があるの?」
豪田「ウレタンか綿を布で包んで岩みたいな感じに塗装して、岩型のクッションをいくつか作って、クルル時空になる原っぱなり野原なりに配置すればいいと思うんです」
荻上「いい考えだと思うけど、そんなこと出来るの?」
豪田「その点はお任せ下さい。この豪田蛇衣子、伊達に8年も舞台美術やってませんから」
一同「8年?!」


49 名前:30人いる! その79 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:05:18 ID:???
豪田「小学5年生の時の学芸会以来、何故か私のクラスって劇に縁があってね、中3までずっと文化祭やら何やらで、毎年1回は舞台セット作ってたのよ」
荻上「でも8年って言ってたよね?高校では?」
豪田「高校では同じ中学から来た子が私の噂広げちゃって、学祭で劇やる他所のクラスや演劇部からお誘いがあったんですよ」
台場「て言うことは、蛇衣子の作った舞台セット、好評だったってことね」
巴「凄いわね」
豪田「まあ最初は、単に昔からこの通りの体型だったから、舞台でやれる役が無いから回ってきただけだったんだけど、これでも図画工作や美術はいつも成績5だったからね」
恵子「よっしゃ蛇衣子、お前美術担当な」
豪田「はいっ!あと照明も私でいいですか?ライトやレフ板持つ人は出来るだけ統一した方がいいと思うんですけど」
岸野「確かにライティングはカメラとワンセットなポジションだから、なるべく統一した方がいいね」
浅田「もしかして豪田さん、照明もキャリア8年とか?」
豪田「さすがにそんなにはやってないわよ。舞台の方動かしたりするの、私が現場仕切ってやること多かったからね。せいぜい3〜4回ってとこかしら」
巴「十分やってるじゃん…」
恵子「よっしゃ、ほんじゃ照明もお前に頼むわ」
豪田「はいっ!」



50 名前:30人いる! その80 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:07:00 ID:???
台場「あの、あと私、渉外関係の仕事一括して受け持っていいですか?」
恵子「しょうがい?」
台場「平たく言えば、外回りの仕事ってことですよ」
恵子「どんなことやるんだ?」
台場「まず予算まだ増やしたいですから、スポンサー集め続けようと思います。そのついでに、関係官庁への行ったり、著作権関係のことやったり」
一同「著作権?」
台場「そりゃそうでしょ。現在放送中のアニメの実写版映画作って、学祭とは言え木戸銭取って客に見せるんだから。いろいろ手続きは要るはずよ」
荻上「なるほど、そこまでは考えてなかったわね。関係官庁ってのは?」
台場「この手の撮影には、いろいろ許認可が絡んでくるはずです。特にうちは爆発シーンなんてやるんですから」
荻上「確かに外回りの仕事関係、一括して担当した方が効率良さそうね」
恵子「よっしゃ、晴海それやれ!」
神田はホワイトボードに「プロデューサー 台場」と書いた。
神田「ということですね、監督」
台場「プロデューサーなんだ、私…」


51 名前:30人いる! その81 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:18:44 ID:???
岸野「あと監督、俺たちシネハン担当していいですか?」
恵子「何それ、シネハンって?」
岸野「ロケハンとも言いますが、撮影に使える場所を探して回る仕事です」
浅田「カメラテストも兼ねたいので、俺たち2人で回ろうと思うんですが」
恵子「わあった、お前らに任す」
「あと私、内勤系の事務やらせて下さい」
ホワイトボードを背に、唐突に神田が進言する。
恵子「ないきんけい?何やるつもりだ?」
神田「これだけのシーン数のある映画作る以上、記録係要りますよね?」
国松「確かに要りそうね」
神田「それにスケジュール管理も要ると思うんです」
恵子「と言うと?」
神田「このシーン数から考えて、効率良く撮れるように撮影の順番考えなきゃいけないし、それにクッチー先輩の試験のスケジュールも考慮しなきゃいけないし」
朽木「すまんねミッチー」
神田「あと他のOBの方々にも小まめに連絡しなきゃいけませんから」
荻上「まあ確かに、部室に来られる方多いからね」
神田「特にシゲさんは、撮影中はほぼ毎日連絡しなきゃいけませんしね」
恵子「わあった。じゃあその辺りの仕事、よろしくな」
神田はホワイトボードに「シネハン 浅田・岸野」「記録 神田」「スケジュール管理 神田」と書き加えた。
神田「千里、私特撮のことは全然分かんないから、特殊技術担当としてのアドバイス、よろしくね」
千里「うん」



52 名前:30人いる! 次回予告 sage 投稿日:2007/09/02(日) 23:26:34 ID:???
いよいよ役割分担も決まり、本格的に始動した映画制作プロジェクト。
このまま一気にクランクインと思いきや、下準備作業はまだまだ続く。
そしてこのプロジェクトに次々と乱入者が…

今回はここまでです。


逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan