30人いる!

113 名前:30人いる! その104 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:33:40 ID:???
第8章 笹原恵子の休息

笹原は疲れて果てていた。
同じ派遣会社の編集者が過労で倒れ、本来の担当以外に新たに2人の漫画家の担当を臨時で兼任することになった。
それに加えて、本来担当していた3人の漫画家たちは、各々困ったちゃんと化していた。
A先生は、本格的に新連載の準備にかかっていた。
機銃掃射のように次々とネームを上げ、同時に上機嫌になったA先生は、毎日のように笹原に夕食を奢ってくれるのだが、これがありがた迷惑だった。
A先生が連れて行ってくれる夕食とは、完全に酒席とワンセットであり、しかも彼の旧友である裏社会の住人たちが同席することが多かった。
異常な量の酒を勧められる一方でその筋の客人に気を使う、そんな酒席での笹原は、まるで力道山の付き人をしてた当時のアントニオ猪木のような精神状態だった。
(まあみんな笹原を異常なほど可愛がってくれたので、殴られることは無かったが)
あれほど手のかからなかったC先生は、最近ではスランプに入りネームも原稿も遅れがちになり、〆切日は毎回ギリギリの時間との戦いを強いられた。
そして1番の問題児のB先生は、この大変な時期にまたやってくれた。
弟子の漫画家の作品がアニメ化されたことが原因で、今回はかなり本気に近い自殺騒動に発展した。
マンションの自室から飛び降りようとして、本当に落ちた。
幸い足から落ちたので命に別状は無いが、両足の骨折で2ヶ月の入院を余儀なくされた。
しばらく休載かなと半分ホッとした笹原だったが、上司の小野寺はそれを許さなかった。
「足が折れただけで上半身は無事なんだろ?病院で原稿描いてもらえ!」
『鬼だ、この人…』


114 名前:30人いる! その105 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:35:59 ID:???
そんなこんなで、笹原はここ1週間ばかりまともに寝ていなかった。
移動の時間の居眠りを除いては、1日に2時間も寝てない。
荻上会長とも肉声での連絡は取れていなかった。
病院に居る時間が長かったり、ようやくフリーになった時間が夜中や早朝などの直接電話するには微妙な時間だったりのせいで、この1週間ほどの連絡は全てメールで行なった。
そのメールとて忙しかったり意識朦朧としてたりで、ちゃんと全部読んだ自信は無い。
そんな生活が今日ようやく終わった。
倒れていた編集者が復帰し、やっと休みがもらえた。
『本来ならすぐにでも荻上さんに会いに行くとこだけど、今日はとりあえず寝よう』
その一心で笹原は最後の力を振り絞って寝間着代わりのジャージに着替え、床に着いた。
その時玄関のチャイムが鳴った。
「誰だよ、こんな時間に!」
本来朝言うには不適切な台詞を不機嫌そうに吐きつつ、笹原は玄関に向かう。
いつもなら覗き窓から相手を確認しつつ誰何してドアを開ける笹原だが、今回ばかりはいきなり乱暴にドアを開ける。
新聞の勧誘かセールス相手なら、殴りかねない勢いだ。
ドアを開けると同時に、来客は笹原に向かって倒れ込んだ。
「恵子?!」
来客は恵子だったが、笹原が「?」を付けたのには、いきなりの訪問以外にも訳があった。
殴られて青タンが出来たような濃い目の下の隈、死人のような青白い肌、そして笹原の妹とは思えない痩せこけた頬と、一瞬恵子とは分からないほどの変わり様だった。
抱きかかえたその身体は、笹原が感覚的に記憶している恵子の体重よりも軽く感じられた。
「何があったんだ?」


115 名前:30人いる! その106 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:37:42 ID:???
笹原の腕の中で、恵子は目を覚ました。
とは言っても、意識は朦朧としているようだった。
「あっアニキか…すまね…家まで帰って寝る積りだったんだけ…ムリ…寝さし…」
ここまでで恵子は再び意識を失った。

笹原は恵子を部屋に運び込むと、彼女の置いていった恵子専用布団を出してやり、そこに寝かせてやった。
「まあ何があったか知らんけど、あとで起きてから聞いてやるか」
そう思い、再び床に着いた。
だが数分後、「バカヤロー!」という恵子の絶叫と共に飛び起きた。
「なっ、何だ?」
恵子は眠っていた。
「何だ寝言か?」
笹原が安心して再び床に着いた途端、恵子は寝言の続きを叫び始めた。
「何て下手くそな戦い方だ!周りを見てみやがれ!何も守れてねえじゃねえか!」
「これって、何かの台詞っぽいな、何だろ?」
再び床に着く笹原。
だが数分後。
「あすか〜〜〜〜〜!!!!!!」
再び恵子の絶叫に笹原は叩き起こされた。
「何だ?エヴァ?種死?それともまさか、空手バカ一代?」
そのどれでも無かった。
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」
「そっちかい!」


116 名前:30人いる! その107 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:40:11 ID:???
その後も恵子は、数分ごとに何かの台詞を絶叫した。
「切手のき!吉野のよ!田んぼのたに点々!」
「ば〜れたか〜!」
「ぬるい!砂糖も多い!ええいっ!」
「生命?生命とは何だ?分からない」
どうも感銘を受けた名台詞というより、印象に残った台詞らしい。
笹原が疲れてるのにすっかり目が冴えて途方に暮れていたその時、電話が鳴った。
国松からだった。
国松「笹原先輩ですか?朝早くすいません。そちらに恵子監督いらっしゃってませんか?」
笹原「恵子監督?どういうこと?」
国松「あの笹原先輩、失礼ですけど恵子先輩が今度うちで作る映画の監督やることになったって話、お聞きになってないんですか?」
笹原「この1週間ほど、荻上さんともメールでしか話してないからね。それも全部ちゃんと読めてる自信無いし…」
国松「そんなにお忙しかったんですか?」
笹原「かくかくしかじかな事情で、マジで忙しかったよ。今日やっと休みもらえて、これから寝るとこ」
国松「そうだったんですか…すいません」
笹原「それはそうと、恵子なら今うちで寝てるよ。何か様子がおかしいんだけど、何があったの?」


117 名前:30人いる! その108 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:52:25 ID:???
国松は事情を話し始めた。
恵子は部室での制作会議の日から、結局ぶっ通しで10日間徹夜でビデオを見続けた。
「ゴジラ」10回鑑賞会の後は、延々と「ケロロ軍曹」を見続けた。
しかもそれと並行して、ケロロの劇中のパロディの元ネタの作品や、休憩中に国松との雑談で出た主要な特撮作品、さらには他の会員推薦のアニメ作品までもクリアして行った。
当初恵子は国松の部屋に無い作品については、国松が他の会員たちのとこへ借りに行ったり、他の会員たちが持って来たりしていた。
だがその内それも面倒になり、自分で見に行った方が早いとばかりに、恵子自らビデオの持ち主の家に出向き、時間によってはそのまま泊まる、そんな生活を繰り返した。
そして今日の早朝、遂に「ケロロ軍曹」を全話見終った。
(ちなみにこの時点で123話!)
国松「大丈夫ですか、監督?このままうちで休んでいかれては?」
そう言わざるを得ないほど、恵子は衰弱した様子だった。
恵子「ありがとよ。でも今日は帰るよ。たまには自分の部屋でゆっくり寝たいしな。まあもし途中でヤバいと思ったら、アニキんちにでも泊まるさ」
そう言って恵子は引き上げたが、その有線ロケット弾の弾道のようにヒョロヒョロと進む足取りを見送る内に不安になり、念の為電話してきたのだ。



118 名前:30人いる! その109 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:55:12 ID:???
「あの恵子がそこまで頑張るなんて…」
笹原は今回ばかりは素直に感心した。
何事にも根気が無く、怠け者で飽きっぽい恵子。
「(恵子の寝顔を見つつ)そんなこいつが、何でこんなになるまで…何がこいつをそこまで駆り立てたんだ?」
国松「これは私の個人的な推測なんですけど」
笹原「何?」
国松「もしかしたら恵子先輩は、現視研に自分が居たという足跡を残したかったんじゃないでしょうか?」
笹原「足跡?」
国松「恵子先輩は椎応の学生じゃないから、公の記録には名前は残りません。今回の総監督就任は、先輩にとって現視研に名を残すチャンスと考えたんじゃないでしょうか?」
笹原は絶句した。
お気楽で、軽くて、何事にも深く関わろうとしない、そんな風に笹原が捉えていた恵子像が覆されたからだ。
『こいつの中で現視研は、そこまで重い存在になっていたのか?…』

その後笹原は、国松から恵子の寝言の元ネタを聞き出し(全部特撮の台詞だった)、恵子が世話になったことに礼を言って電話を切った。
恵子は先程までよりはペースが落ちたものの、相変わらず何かの台詞を叫んでいた。
特撮の台詞だけでなく、アニメの台詞も混じり始めていた。
『まあ今のところ、こいつが何考えてんのか分かんないけど、とにかく夢中になって頑張ってんなら、純粋に応援してやるか』
そんなことを思いつつ、笹原は恵子の寝顔を見つめた。


119 名前:30人いる! その110 sage 投稿日:2007/09/24(月) 21:58:36 ID:???
恵子は昨夜風呂に入ってメイクを落としてから朝までそのままだったらしく、珍しくスッピンだった。
『考えてみれば、こいつのメイク無しの顔見るの、久しぶりだな』
厳密には恵子の入試の時他、笹原の部屋に恵子が泊まった日には見ているのだが、ここまでしげしげと眺めることは無かったので、彼にはえらく久しぶりに感じられた。
『ちょっと…可愛いかな…』
一瞬そう感じた笹原、慌てて自分の中でそれを否定した。
『ばっ馬鹿な、俺が妹萌えなんて、そんなのあり得ねえ!』
「お兄ちゃん…」
そんな笹原の気持ちを見透かしたかのごとくタイミングで、恵子が寝言を呟いた。
飛び上がりそうになって驚く笹原。
「何だ寝言か、脅かすなよ」
そう言いつつも笹原、一瞬ちょっと胸キュンぽい気持ちになった。
『こいつも昔は俺のこと、お兄ちゃんって呼んでたんだよな。確か小学生ぐらいまでだったかな?』
笹原の脳内に幼い恵子の記憶が蘇り、ちょっとノスタルジックな気持ちになる。
だが次の瞬間、恵子の寝言が笹原のノスタルジーを木っ端微塵にした。
「亜美、飛んじゃう…」
珍しくガターンとギャグ漫画のようなコケ方をする笹原。
「そっちかい!て言うか1年の子たち、どういう基準で恵子にビデオ薦めたんだ?あれはさすがにケロロのネタには無いだろう…」

その後も笹原は、恵子が相変わらず台詞の絶叫を繰り返す為に眠れなかった。
「あっ荻上さん?俺、笹原。久しぶり…実はかくかくしかじかな事情で、泊めて」
結局笹原は荻上会長に連絡し、恵子に合鍵と置手紙を残して荻ルームへと避難した。
そんなささやかな戦果を知ることもなく、恵子は眠り続けた。


141 名前:30人いる! その111 sage 投稿日:2007/09/30(日) 19:41:28 ID:???
結局笹原は、その日はほぼ丸1日寝て休みを潰し、翌日も殆どの時間を荻ルームで過ごした。
その間何度か自室にも戻ったが、恵子は眠ったままだった。
翌々日の朝、出勤の準備の為に自室に戻った。
恵子はまだ眠っていた。
一昨日自室を脱出した際と、状況は殆ど変わっていない。
つまり恵子はあれから丸2日寝ていたようだ。
その寝顔を見ている内に、彼女がここまで頑張って作ろうとする映画がどのように作られているのか、現場に見に行ってみたいと思った。
荻上会長からいろいろと話は聞いていたが、直に見てみたくなったのだ。
幸い今日は午後からC先生宅に行く予定だから、帰りに部室に寄ることにする。

昼過ぎ、笹原はC先生に会ってネームのチェックを終えた後、部室にやって来た。
屋上に来てみると、あちこちに畳ぐらいの大きさのベニヤ板が置かれている。
その1枚に向かって、豪田はしゃがんで鉛筆を走らせている。
長い金属製の定規を片手に線を引き、幾何学的な模様を書き込んでいく。
別の1枚には、沢田がメタリックシルバーのペンキを塗っていた。
ペンキを塗り終わった分には、豪田が鉛筆を一旦置いて細かい手直しを加える。
そして部室のプレハブの壁際では、巴がベニヤ板を並べて立てかけている。
そのベニヤ板には、先程のメタリックシルバーの塗料をベースに、メカニカルなデザインの塗装が施されている。
いくつかの小さな穴(後で豆電球を入れるのだ)の開いたその板のデザインは、異様に精巧でリアルだ。


142 名前:30人いる! その112 sage 投稿日:2007/09/30(日) 19:50:25 ID:???
巴「あら笹原先輩、こんにちは」
最初に笹原の存在に気付いた巴に続き、あとの2人も挨拶する。
笹原「こんちわ、これは?」
沢田「ケロロ小隊の作戦司令室の壁です」
笹原「(心底感心して)上手いね」
豪田「(照れて)こんなのちゃんと撮られたら粗見えまくりですよ。手前の人物に焦点合わせて照明暗めにして、やっとそれらしく見える程度です」
笹原「あれ?豪田さんが美術ってのは聞いてるけど、巴さんと沢田さんは映画に出るんだよね?」
巴「私は夏美役なんですけど、今回は最初と最後にちょこっと出るだけですから、実質的なセカンド助監督なんです。だから忙しいとこ手伝うのは当然ですよ」
笹原「セカンド?あっ、そうか、確か伊藤君がチーフ助監督だったね」
沢田「私はドロロ役なんですが、終盤でちょっと出るだけなんで、サード助監督です」
豪田「私もセット作った後は手空きなんで、照明担当します。そんでこの2人は、交代で録音も担当します」
笹原「録音?」
豪田「8ミリの音はアフレコですけど、音入れる時にライブの音があった方がいいらしいんで、撮影時の音取ることになったんです」
笹原「何か本格的だね…」


143 名前:30人いる! その113 sage 投稿日:2007/09/30(日) 19:54:25 ID:???
その後しばらく、笹原は女子会員3人といろいろ映画について話した後、部室に入ろうとした。
部室のドアに手を掛けようとして、ピタリとその動きを止めた。
ドアの横に貼られた張り紙に気付いたからだ。
縦長のその貼り紙には、毛筆で「G作品制作本部」と書かれていた。
笹原「何だこりゃ?」
巴「あっ、それミッチーが書いたんですよ」
沢田「彼女ペン習字だけでなく毛筆の習字も1級なんです」
笹原「なるほど達筆だね…じゃなくて、G作品て何?」
豪田「今回の映画の仮称ですよ。伊藤君、まだサブタイトル決めてないんです。監督と相談して決めたいからって」
沢田「元々は『ゴジラ』の企画段階での仮称だったらしいんですけど」
笹原「国松さんの提案?」
巴「(にっこり笑って)やっぱ分かります?」
笹原「彼女しか居ないからね、こういうの提案する人は」
豪田「まあ今回は、現視研のGとでも解釈して頂ければいいと思います」
3人に苦笑気味に微笑んで、笹原は部室のドアを開けた。


144 名前:30人いる! その114 sage 投稿日:2007/09/30(日) 19:58:16 ID:???
笹原が部室に入ってみると、2つのテーブルを2グループが各々使っていた。
片方のテーブルは、映画に出る荻上会長、スー、アンジェラ、ニャー子、有吉、そして大野さんが囲んでいた。
全員台本を持っているから、台本の読み合わせをやっているようだ。
もう片方のテーブルは国松と日垣と伊藤と神田が囲み、テーブル上は大量の自動小銃や短機関銃のモデルガンが占領していた。
荻上「あっ笹原さん」
荻上会長が気付いたのをきっかけに他の会員たちも笹原に気付き、互いに挨拶する。
大野「荻上さん、しばらく抜けていいですよ」
荻上「えっ、いいですよ」
大野「まあまあ、照れなくてもいいですよ。それにOBの人ほったらかしってのも何でしょ?スー、あなたしばらく軍曹さん役もお願いね」
スー「(渡辺久美子似の声で敬礼しつつ)了解であります!」
笹原「…似てるね」
荻上「スーちゃんはケロロに出てくる声優さん、全員マネ出来ますよ」
笹原「凄いね。今日はみんなで台本の読み合わせ?」
荻上「まあ、そんなとこです」
アンジェラ「てゆーか演技指導?」
笹原は大野さんの服装に注目した。
この暑いのに上下黒づくめで、上は長袖、下はロングスカートだ。
笹原「もしかしてその格好…」
大野「(顔半分を髪で隠し)さあ、仮面を被るのよ」
笹原「月影千草か…」
荻上「それをやりたかっただけですよ」



145 名前:30人いる! その115 sage 投稿日:2007/09/30(日) 20:02:44 ID:???
しばし笹荻並んで、台本の読み合わせ風景を見つめる。
大野さんが積極的にチェックを入れていく。
「有吉君、声が吹き替えになるからって台詞おろそかにしちゃダメ!」
「アンジェラ!台詞なんだから語尾に『あるね』付けちゃダメ!」
そんな様子に感心する笹原。
「けっこう本格的なんだ、演技指導」
荻上「何でも一夜漬けで演劇関係の本読んで勉強したそうですよ。(少し考え)今日はどうしたんですか?」
笹原「いや、ちょっと現場を見ときたくなったんだ。恵子があそこまで入れ込んでる映画の制作現場をね」
荻上「まあ入れ込んでるというか、何かスイッチ入っちゃったみたいですね。正直私も驚いてるんです、1年の子たちの報告聞いて」
笹原は先日聞いた国松の推測について話した。
荻上「そういうのもあるのかも知れませんね…」

笹原はもう片方のテーブルに目を向けた。
伊藤はテーブルの上にモデルガンの薬莢(カートリッジと呼ばれる)を並べ、火薬(キャップと呼ばれる)を次々と詰めていく。
日垣はモデルガンの銃身や銃口にノギスを当てて何やら測り、手元に置いた図面に数字を書き込んでいく。
国松は次々とテーブルの上の銃を手に取り、肩に付けたり腰だめにしたりして構えていた。
そして神田は、台本や彼女の物らしきシステム手帳を見ながら、何やらノートに書き込んでいる。


146 名前:30人いる! その116 sage 投稿日:2007/09/30(日) 20:08:01 ID:???
笹原「伊藤君それは?」
伊藤「ギロロが使う火器なんですが、今から発火テストをやりますニャー」
日垣「銃そのもののテストはこの間やったんですが、今日は実際に使う国松さんに撃ってもらおうと思って」
笹原「ここで?」
伊藤「まあその時は皆さんに一時避難してもらうことになりますけど、まだまだ掛かりますからニャー」
笹原「まだまだって?」
日垣「この手の銃で30発も撃とうと思ったら、弾の用意だけで1時間近く掛かるんです」
伊藤「それをフルオートで撃ったら10秒かそこらで弾切れ、そして後の分解掃除にさらに1時間、全く不条理な趣味ですニャー」
笹原「何か大変そうだね…」
その時国松が、銃を降ろしながらため息を付きつつ呟く。
「けっこう重いわね。モデルガンにしては」
日垣「金属製だからね。それでも本物よりはやや軽いんだけど、どう振り回せそう?」
国松「(再び銃を持って、いろいろポーズを変えて構え)ただ振り回すだけなら何とかなりそうね。でも問題は発火した時よね」
日垣「まあいざとなれば、発射するシーンと銃持って走るシーンと分けて撮って、撃つシーンを上半身アップにして下から銃引っ張るって手もあるし」
国松「そこまでしなきゃいけないぐらい反動強いの?」
日垣「この手の銃のフルオートって、薬莢吐き出す時に重たい遊底が連続して前後するから、けっこうきついと思うよ。片手撃ちで制御するのは」
国松「そうなんだ。でもまあ、とりあえずどうするか決めるのは、撃ってみてからね」



147 名前:30人いる! 休憩 sage 投稿日:2007/09/30(日) 20:34:21 ID:???
ここで休憩がてら、前回のお返事を。

>>122
エルメス抜きのリアル電車男ですか、心中お察しします。
>自分萌え
笹原って割といい男だから、案外その線もあるのかも。
そして鏡を見てる笹原を見て、あらぬ妄想をする荻上会長…

>>121
ではリクエストにお応えして。
「バカヤロー!」
「何て下手くそな戦い方だ!周りを見てみやがれ!何も守れてねえじゃねえか!」
「ウルトラマンメビウス」第1話「運命の出逢い」から、リュウ隊員の台詞。
「あすか〜〜〜〜〜!!!!!!」
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」
「快傑ズバット」の主人公、早川健の台詞。
前者はオープニングで毎回絶叫、カラオケで主題歌歌う人の間では、もはや歌詞の一部と化している。
後者は毎回クライマックスでの決め台詞のひとつ。
ちなみにシリーズ前半では、日付は無く、言われた方もただ否認するだけだった。
だが後半になると、わざわざ日付を付けて尋ね、言われた方も律儀にアリバイを主張するようになった。
その中で1番有名なのは「違う!俺はその日、シシリー島でスパゲッティを食べていた!」、何でそんな具体的に覚えていたんだ?
長くなってきたので、1回送ります。

148 名前:30人いる! 休憩続き sage 投稿日:2007/09/30(日) 20:53:09 ID:???
「切手のき!吉野のよ!田んぼのたに点々!」
映画「キングコング対ゴジラ」から、多湖部長の台詞。
「巨大なる魔神(キングコングのこと)はまだか」という文面の電文を送るように、部下に命じた際の台詞。
ファックスやメールの無かった時代の新聞記者は、電話で口頭で記事を伝える時に、こういう言い回しをしていました。
(ちなみに多湖部長は、製薬会社の宣伝部の部長)
この映画のパロネタは、「究極超人あーる」でも多数使われてるので、オタ必見の1本。
「ば〜れたか〜!」
「ダイヤモンド・アイ」から、毎回ダイヤモンド・アイに正体を暴かれた前世魔人(このシリーズの怪人の呼称)が言う決まり文句。
ちなみにあーる君の霊波光線の元ネタはこの作品。
「ぬるい!砂糖も多い!ええいっ!」
「ウルトラセブン」第43話「第四惑星の悪夢」から、ロボット長官の台詞。
ロボットと言っても人間そっくりのヒューマノイドタイプで、人間のようにコーヒーを飲み、その味に対して前述の文句を言いつつ秘書(人間の女性)を殴打する。
そしてこう付け加える。
「どうも人間は物覚えが悪くていかんな。毎日コーヒーの味が違うんだからなあ」
違いの分かる男…(なのか?)
「生命?生命とは何だ?分からない」
「ウルトラマン」第2話「侵略者を撃て」から、バルタン星人の台詞。
地球人を殺したことをハヤタに責められたことに対する回答。
バルタン星人に生命という概念が無いことを示した、センスオブワンダー溢れる隠れた名台詞。

では、1時間ぐらいしたら続き投下します。

149 名前:30人いる! 再開 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:05:56 ID:???
それでは続きを投下します。

150 名前:30人いる! その117 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:07:57 ID:???
笹原「何かこっちも大変そうだね」
国松「でも浅田君と岸野君が銃貸してくれたおかげで、ギロロの装備は何とかなりそうです」
笹原「まあ確かにギロロの装備って、ガンダム系のやつか実銃系のやつだから、モデルガン使えば一応格好は付くね」
国松「ほんとはビームライフルぐらい作りたいんですけど…」
日垣「まあビームライフルだと、あとで光線描き込むのが大変ですから」
笹原「日垣君は何してるの?」
日垣「試射してみたんですが、煙と薬莢はしっかり出るけど銃口は塞がってますから、銃口から火が出るようにしようと思いまして」
笹原「銃改造するの?」
日垣「借り物ですし、それやると法律に引っかかるんで、サイレンサーみたいなのを別に作って銃口にはめて使おうと思うんです」
笹原「(日垣の手元の図面見て)何か本格的だね」
日垣「(笑って)そんな大がかりな仕掛けじゃありませんよ。要はサイレンサー状の筒の中に短く切った花火を何本か仕込み、長さの違う導火線つないで点火するだけですから」
笹原「短く切る?」
日垣「普通の花火なら1分近く火が出るでしょ?それを銃の発射炎みたいに一瞬だけにする為ですよ」
笹原「導火線の長さってのは?」
日垣「もちろん1度に発射するのを防いで、フルオートの連発に見せる為です。まあよく見れば銃口があちこち変わるのが分かるでしょうけど、銃ブラせばバレませんよ、多分」
笹原「いろいろ考えてるんだね」



151 名前:30人いる! その118 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:11:07 ID:???
「銃もいいけど、タイムカプセルの方はどうなってるの?」
神田が口を挟んだ。
日垣「おもちゃ屋やホームセンターを回って、改造して使えそうな物を物色してるとこだけど、急ぐ?」
神田「スケジュールの関係から行くと、多分クランクインしてすぐぐらいに出番があるわ。日向家でのシーンから撮影スタートすると思うから」
日垣「そんじゃあ急ぐよ。最悪プラ板で1から作るし」
「どんなスケジュールになってるの?」
笹原が口を挟んだ。
それに対し神田は、以下のような説明をした。
クッチーの就活(と言うか公務員試験)の関係で、ベム絡みのシーンの殆どの撮影は後回しになる予定だ。
ちなみにこれは、特殊技術の国松からの意見を入れたせいでもあった。
ベム絡みのシーンには、着ぐるみが破損する危険性が高いものが多い。
特にギロロに撃たれるシーンでは、着ぐるみに弾着を仕込む(と言っても、ニクロム線に繋いだ火薬を着ぐるみに貼るだけだが)ので、かなりひどい破損になることが予想される。
ベムの着ぐるみはラテックス製だから、熱には弱いのだ。
日々の撮影で生じる傷や汚れ程度は、修理しつつ撮影続行するが、熱で溶けた破損となると修理にどれぐらいかかるか見当が付かない。
最悪の場合、着ぐるみがオシャカになるかも知れない。
そこでギロロに撃たれるシーンを1番最後に持って来たのだ。



152 名前:30人いる! その119 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:14:01 ID:???
そういった事情により、必然的にその他のシーンからの撮影になる。
撮影現場は主に2つに別れる。
日向家内でのシーン中心の屋内撮影と、クルル時空での着ぐるみバトル中心の屋外撮影だ。
この時点でまだ屋外でのロケ地が決定してないこと。
屋外シーンの方が小道具や仕掛けが多く、準備にまだ時間がかかること。
そして9月前半に外での着ぐるみバトルの撮影は、まだ暑いので初心者にはキツいこと。
それらの理由により、前半は主に屋内撮影、後半は屋外撮影中心で撮ることに決めたのだ。

「なかなか大変だね、撮影スケジュール組むのも」
そんな笹原の感想に、神田は笑顔で答えた。
「いやこれはこれでなかなか楽しいですよ。みんなの日々の生活とか、どんな科目履修してるのかとか分かりますし、それに…」
笹原「それに?」
神田「OBの方々にも頻繁に連絡出来ますしね」
笹原「OB?」
神田「この部室、けっこう皆さんよくいらっしゃるでしょ?でも今後しばらくは留守にすることも多いから、念の為に撮影スケジュールはその都度連絡しようと思うんです」
笹原「まめだね」
神田「特にシゲさんは頻繁にいらっしゃるから、まめに連絡しなきゃいけないですからね」
さらに言い訳するように付け加えた。
神田「あっこれ仕事ですからね。ついでに誘惑しちゃおうなんて考えてないですからね」
一同『それが狙いだったのか…』



153 名前:30人いる! その120 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:17:18 ID:???
「ただ今戻りました!」
そう言いつつ、浅田と岸野が部室に入って来た。
荻上「お疲れ様、どうだった?」
岸野「とりあえず撮影に使えそうな空き地や原っぱ、数ヶ所見繕っときました」
荻上「ご苦労様、ビデオには撮ってあるの?」
今や半ば彼の愛機と化したDVX100を前に差し出しつつ、浅田が答える。
「こいつに収録してありますよ」
岸野もデジカメを差し出しつつ付け加える。
「写真もこいつに撮ってあります」

部室のテレビで、ロケハンして撮ってきた映像が再生された。
台本の読み合わせをしていた組も一時中断し、会員全員でそれを見る。
国松「うわーシナリオのイメージにピッタリじゃない!『仮面ライダー』の撮影に使われてた造成地みたい」
岸野「ここなら住宅地から離れてるから、少々騒いでも問題無いと思うよ。それに何とか近くまで車も入れられるし」
浅田「まあ難点は、トイレと電源が取れそうな施設が近くに無いことかな」
国松「シナリオのイメージ的には夕暮れ時以降だけど、昼間撮影すればいいんじゃない?フィルターか何かで画面暗めにするとかして」
荻上「暗くなってから素人がアクションシーン撮影するのも危険だし、その方がよさそうね」
みんなも賛同し、後で恵子にその線で話してみることになった。
この辺りから、会員たちは自然にミーティングへと移行し始めた。



154 名前:30人いる! その121 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:19:55 ID:???
「屋外はそれでいいとして、屋内の方はやっぱり私んちでいいかな?」
神田の発言で話題は日向家内のロケ地に移った。
岸野「リビングとか台所とかはいいと思うけど…」
神田「何?」
岸野「冬樹の部屋がねえ、何というか神田さんの部屋だとちょっと…」
神田「あっそうか。私の部屋だと、相当模様替えやらないといけないわね」
笹原「神田さんの部屋も、やっぱり俺たち同様オタルームなの?」
神田「オタルームってほどじゃないですよ。そりゃ本棚は殆ど漫画本だし、壁にポスター貼ってるし、抱き枕あるし、フィギュアも飾ってますけど、それぐらいは普通ですよ」
笹原「…いや十分オタルームだと思うよ」
荻上「他の部屋は?」
岸野「他の家族の方の部屋も同様です」
荻上「片付けるの手間そうだし第一神田さんに悪いから、冬樹の部屋はまた別で考えましょう。あと決まってないのは?」
浅田「あとはケロロの部屋とクルルズラボですね。ケロロの部屋って窓の無い地下室だけど、そんな部屋さすがに神田さんちにも無いですし」
荻上「まあ日本の家屋の部屋って、普通は窓あるもんね」
岸野「まあ最悪カメラアングルで上手く誤魔化すって手も無くは無いですけど」


155 名前:30人いる! その122 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:23:27 ID:???
「無ければ作ればいいわ」
話に割り込んできたのは、ひと仕事終えて休憩しに部室に入ってきた豪田だった。
岸野「作るって?」
豪田「窓の上に、周囲の壁と同じ色塗った板貼って隠しちゃうのよ。それで不自然だったら、最悪その窓のある壁ごと大きい板で隠しちゃってもいいし」
荻上「えらく大がかりな方法だけど、やれそう?」
豪田「私がやれば何とかなりますよ。ベニヤ板とペンキだけで」
浅田「それなら場所だけ探せばよさそうだね。あとクルルズラボはどうしよう?」
豪田「このシナリオだと室内全景を映す必要は無さそうだから、クルルの背景だけ作って照明暗めでバストショットで撮影すればいけるわよ」
浅田「そう言や作戦司令室もそれに近かったね」
豪田「背景さえあれば場所はどこだって構わないわよ。例えばこの部室でもいいし」
一同『何て頼もしい美術担当なんだ…』

「うっしゃー!」
気合いと共に台場が部室に来た。
荻上「どうしたの?」
台場「やりましたよ会長!サンライズと交渉して、ケロロの主題歌とBGMの使用許可もらってきました!あとは著作権の方申請したら、サントラから音取り放題です!」
国松「お疲れ、晴海!」
笹原「何か話がどんどん大きくなってるな…」



156 名前:30人いる! 次回予告 sage 投稿日:2007/09/30(日) 22:27:35 ID:???
何か今回は、オチらしいオチも無く、ダラダラと撮影準備風景をお届けしてしまいました。
チト反省。

さていよいよ次回、長き眠りから覚めた恵子監督が復活し、撮影準備も佳境に入る。
そして彼女の肉体に、ある異変が…
(て言うか、まだ撮影始まらないのかよ)

本日はここまでです。


逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan