(´・ω・`) は雨男のようです


2 名前: ◆ps3CKPkBXI sage 投稿日:2007/12/07(金) 20:23:15.40 ID:gS+PjJ1E0
思い込みとは不思議なものだ。


例えば明日、学校で何か嫌なイベントがあったとする。
「嫌だ、嫌だ…」って、
「都合よく体調崩さないかな…」って唸ってさ、
本当に腹とかが痛くなってしまう時が、誰にでもあると思う。特に小さい頃だ。


僕もよくそう思った。
運動会や、無理矢理行かされている習い事の日が近づくと、
そんな下らない願いごとを決まって空に捧げた。まったく駄目な子供だ。


そしてそれは今でも続いているんだけど、ね。






(´・ω・`) は雨男のようです



3 名前: ◆ps3CKPkBXI sage 投稿日:2007/12/07(金) 20:24:39.37 ID:gS+PjJ1E0

物語の季節は、5月の下旬の頃だった。
四角い教室の、窓側の列。前から四番目。
そこが僕の席だった。

窓際はいい。なんでかって、空が近くにあるから。
つまらない授業に飽きたら、僕はちょっとだけ首を回して空を眺める。
数十分前に眺めてみたけれど、
本日の空の機嫌はあまり芳しくないようだ。


授業と授業の合間の10分間の休み時間。
四方八方からあらゆる色の声が飛び交う。その話題の内容を掴めないくらいに。
僕はといえば、イヤホン耳に差し込んで、うつ伏せ、寝たふり。
クラスの中のよくいる地味なやつの、定番のリアクション。


(´・ω・`) (次の時間なんだっけ…)


むくっと起き上がり、時間割を確認しようとしたとき。
勢いよく教室のドアは開いた。そして、野太い声が教室に轟く。




5 名前: ◆ps3CKPkBXI sage 投稿日:2007/12/07(金) 20:26:08.34 ID:gS+PjJ1E0
「今日のマラソンは中止だー。体育館でバドミントンをする」


教室に入ってきたのは体育教師だった。次の次の時限に体育がある。
ちらほらと湧き上がる歓喜の声。そりゃそうだろう。
余程自信がある奴じゃなければ、誰も好き好んで5キロも走らないさ。
勿論僕も心の中でガッツポーズを取る。走るのは苦手だ。
いや、スポーツ自体が苦手なんだ。典型的な運動オンチ。


(´・ω・`) (でもなんで急に変更になったんだろ)


一瞬黙考。そして、すぐにハッとその理由が分かった。


(´・ω・`) (まーたか。またなのか)


僕はおそるおそる窓を少しだけ開けてみた。




静かに静かに音を立てて、灰色の空から雨が降り注いでいた。



6 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:28:02.43 ID:gS+PjJ1E0
「残念だお〜…」

後ろの席から、間延びした声が聞こえてきた。
何気なく振り返ってみる。


( ^ω^)「マラソンしたかったお!」


人の良さそうなほくほくとした顔。
それとアンバランスな、絞まった精悍な肉体。制服越しでも、自分と比べてみりゃなんとなく分かる。
僕の一つ後ろの席。その男子の名前は内藤。確か、彼は陸上部だったな。
走るのが好きなんだろうなあ。僕には全く理解はできないが。


(´・ω・`) 「内藤君、プリント…」

( ^ω^)「?」

(´・ω・`) 「窓開けっ放しにしてるから、雨いっぱい入ってきてるよ。紙、濡れてるよ」

(;^ω^)「どわっち!」


完全に窓一つ分開けていたスペースを、内藤はすぐに閉ざした。
ちょっとだけ水に濡れてしまった紙を、ヒラヒラと揺らして乾かしている。

チャイムが鳴った。


7 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:30:08.58 ID:gS+PjJ1E0

授業を進める先生の話は、程ほどに聞き流す。
僕は昨夜のことを思い返していた。

〜〜〜


――僕は、時間割の表を見ながら鞄に教科書を詰めていたな。
何となく、学校の机やロッカーに物を沢山置きたくない性分なんだ。
そのとき、「体育」という二文字を見て僅かに何かを思い出す。


(´・ω・`) 「明日は体育があるのか…」

(´・ω・`) 「体育… なんだっけ…?」

(´・ω・`) 「あ」


そう、5キロマラソン。
僕が通ってる中学校の恒例行事として、マラソン大会がある。
それに向けて、今の季節の体育はいつも長距離走になってしまうのだ。

僕は走るのが嫌いだ。
長い距離なら尚更だ。
基本的に根性というものは持ち合わせていない。
すぐへばってしまう。
嫌いだ。


10 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:31:30.80 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「…あ〜」


(´・ω・`) 「学校休みたいな」


体調不良とか、正当な理由がなきゃ学校は休めない人間だって、
僕は自分をそう思う。サボリとかそういう行為にはあまり縁が無い。
だからこそ、僕は神様仏様に、その”正当な理由”を下さるよう望む。


(´・ω・`) (雨降らないかな)

(´・ω・`) (突然腹痛くならないかな)


…だがしかしだ。
嫌がっていて、それでも嫌々ながらそれをするのではなく、
あくまで逃亡の道を望む。結局はサボリ野郎と同じ。
子供の頃から進歩してねぇなと一瞬鬱になるけど、すぐ忘れる。
「てるてる坊主逆さまに吊り下げてやろうか」なんて思いつつ、
雲に半分隠れた月を眺めつつ、昨夜は寝床についた。


12 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:33:13.09 ID:gS+PjJ1E0
〜〜〜

――そして現在。

耳に飛び込んでくるのは、古文を淡々と朗読する先生の太い声。
勢いを増していく雨だれの音。窓に激しく打ち付ける雨粒の音。

次の授業のマラソンはお流れ。空は暗い。教室の電灯が点いていた。
斜め前に見える電灯が、チカチカと不穏に瞬く。
僕はそれをボンヤリ眺めていた。相変らず授業には集中していない。


「おい、内藤」

先生が厳しい口調で、こちらを向いて呟く。
僕は一瞬ヒヤッとした。しかし、指されたのは後ろの席。

「起きなさい」

反応して起き上がる気配を、背中からは感じとれない。
僕は何気なく後ろを向いてみた。内藤は変わらずうつ伏せになっている。
机の隅にシャープペンが転がっていた。


「おい、起こしてやれ」


冷ややかな視線が今度は僕に向けられた。


14 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:36:26.54 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「あ…はい」


僕は内藤の背中を軽く揺する。三秒くらい続けていると、
彼はゆっくり上半身を立ち上げた。眠たそうに、だるそうに。
寝起きの平和な顔を見て思う。
馬鹿だなあこいつ… 


内藤に、言葉が飛んだ。

「おい、おまえ寝てるってことはな、俺の授業がつまらないってことか、あ?」


そう、こいつは厳しいタイプ。授業中の居眠りを許さないタイプの教師。
しかもネチっこい。惚けた内藤に向けて、初老の先生はクドクドとした言葉を撃ち続ける。
授業は停滞。僕を含む他の生徒は、「ああまたか」って時間を弄んでいた。


( ^ω^)「…はい。はいだお」

( ^ω^)「すんませんでしたお」

内藤が一方的に謝りの言葉を続けて、説教の時間は終わった。
既に授業は残り5分になっている。

雨は降り続いていた。


16 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:38:01.83 ID:gS+PjJ1E0



(´・ω・`) 「ジャージジャージっと…」

廊下で運動着を取り出す僕の左肩を、誰かが叩いた。

( ^ω^)「おいすー!」

内藤だった。彼は頭を掻きむしり、
わざとらしい照れ隠しで僕に言う。

( ^ω^)「いやー、起こしてくれてありがとだお!」

(;^ω^)「…そんなに僕は眠りこけていたのかお?」


(´・ω・`) 「うーん、まあ。だって、先生の一度目の呼びかけを見事にスルーしたからね」

( ^ω^)「さっぱり気付かなかったお…」

ふひひ。と独特な笑い方(喋り方もかなり独特なのだが)をして、続けて喋る。

( ^ω^)「でもどうせ、うまいこと授業を削ってくれたって、うめぇwww って思ってるお〜?」

(´・ω・`) 「ま、まぁね。そりゃそうだよ」


18 名前: 投稿日:2007/12/07(金) 20:39:15.40 ID:gS+PjJ1E0


( ^ω^)「マラソンが潰れたってんで、ちょっとやる気なくなってたお」

(;^ω^)「それに…、雨がガーッって降ってる音聞いてたら、なんとなく眠くなっちゃうんだお!」

その言葉を聞いて、僕の思考がぴくっと反応する。


(´・ω・`) 「ああ、それわかる。僕も雨の音は好きだ」

( ^ω^)「休みの日とか、雨の音を聞きながら二度寝とかたまらないお!」

(´・ω・`) 「わかってるね、実にわかってる」


人の話に相槌打つのも久しぶりだと思った。
しかも、なんだか心の底からどうでもいい話題で。
だが、局所的なポイントだからこそ、うんうんと頷いてしまうのは言うまでもないな。


19 名前: 投稿日:2007/12/07(金) 20:42:08.03 ID:gS+PjJ1E0
僕は、雨の日が好きだ。
でも晴れの日は嫌いだ。みんな、外に遊びに行くだろう。どこかへ出かけるだろう。
僕はどこへも行かない。行く場所がない。一緒に行く友達もいない。基本的にインドアな生活だ。
だから、太陽が燦々と輝いている日曜日の午後なんか、
自分ひとりがポツンと取り残されているような気がして、自然に嫌になる。
自分の部屋の数メートル先、あっちのグラウンド、そっちの喫茶店。
デートだの、部活だの。それぞれの日々を、いわゆる”青春”と呼ばれているような日々を過ごしてる彼ら。
うらやましくて、届かなくて、腹が立つ存在。そいつらが元気に活動するから晴れの日は嫌いなんだ。

でも、雨の日は誰も好んで外出はしないだろう?
だから好きだ。みんな部屋ん中で苦虫噛んでりゃいいんだ。


…と、ここまでは単なる自分の卑屈さ故の理由だ。曝け出した本心、とも言うべきか。


それらを隠して説明するならば、単純に言えばこうだ。
雨の日特有の、ゆったりした時間の流れが好きだからだ。これも、インドア派の嗜好に起因するのかな。
ざーざーと降り続く雨をバックミュージックにして、好きな本を読んで、ブラックコーヒーを飲んで。
最高じゃないか。雨の日はなんだか安心できるんだよな。


何故かって? いやだからそれは、雨が降っていたらみんな外出しないじゃないか…
ああ、そうなんだな、結局帰結している。


22 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:43:36.40 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「…」

( ^ω^)「どうしたお? ぼーっとして」

(´・ω・`) 「ああ、なんでもない」


内藤が長袖の運動着からスポッと頭を出して、
ふーっと浅く短い息を吐き出した。
そして、窓の露を指でなぞりながら呟いた。


( ^ω^)「でもさ…」

( ^ω^)「雨は、きらいだお」


なんだよ。結局嫌いなのか。一瞬何かを共有できたと思ったのに。
だが当然か。彼はあっち側の人間なんだ。バリバリのアスリートなのだ。
晴れの日が大好きなのは少し考えてみれば当然のこと。


僕はさりげなく憂鬱になった。

25 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:46:36.89 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「そ、そうだよな」

(´・ω・`) 「内藤君、陸上部だからな」

(´・ω・`) 「外で練習するのは嫌だよなー」


同意を求めるように喋り方を変える。悔しそうに聞こえたら嫌だな。


( ^ω^)「うん。嫌だお。なるべく外で練習がしたいお!」

⊂ニニ( ^ω^)ニ⊃「僕は走るのが大好きだおー!」


そう言って、内藤は僕を残して駆けていった。体育館に向かって。
僕はジャージのチャックを喉元まで上げ、窓の外の豪雨を見ながらため息をついた。
走るのが大好きか。僕もそんな類の言葉一度言ってみたいよ。
そう思ったら、雨の勢いがほんの少しだけ弱まった気がした。そして、また別のことを考えた。



この雨は、僕が呼び寄せたんだ。

27 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:49:37.32 ID:gS+PjJ1E0

学校が終わる頃には、雨はすっかり上がっていた。
校門を出ると、水溜りの中で太陽が光っていた。
僕は帰宅部だから、6時間目が終わったら速やかに家へ帰る。
教室に残ってダベる仲間はいない。中学生だからアルバイトもしない。
1年生の後半あたりまでは、卓球部に入っていたけど、なんとなくやめた。
本当になんとなく。特に楽しさも向上心も無かったからだろうか。
でも、中学1年生の自分がそんな向上心だのって、考えるか? 本当になんとなく、やめたいからやめた。
ただ自分が面倒くさがりの馬鹿ってだけだ。


そんな僕を他所に、運動部はどこも気合が入っている。6月に、中学生生活最後の大会があるからだ。
帰り際に通り過ぎる体育館。バレー部やバスケットボール部の怒声が、廊下に漏れていた。
そして校門から出た数メートル先、僕は内藤と逢った。


( ^ω^)「おいっちにーさんし」

(´・ω・`) 「内藤君」

( ^ω^)「お! ショボン!もう帰るのかお?」

(´・ω・`) 「あ… ああ」


30 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:51:48.23 ID:gS+PjJ1E0

( ^ω^)「帰宅部はいいおー。勉強いっぱいできるお!」

内藤は嫌味な意味で言ったんじゃないって、すぐに分かった。
そういう奴なんだ、彼は。

だけど僕は、何故か皮肉っぽい言い方で答える。根も葉もない嘘で答える。

(´・ω・`) 「そうだな。みんなが部活に精を出してる間、
      僕は進学校に入学するため問題集をばんばん解いてるのさ」


( ^ω^)「ふひゅー!! ショボンは、どこの高校を目指しているんだお?」

その質問を受け取って、途端に声が小さくなった。分かりやすい奴。


(´・ω・`) 「…いや、まだ未定」

( ^ω^)「なるだけいい点数を取って、行ける高校は選り取りみどりって魂胆かお?」

( ^ω^)「うめえwwww」

僕は彼のような平和な性格になりたいとふと思う。
僕は嘘をついた。本当はその真逆なのに、行ける高校を選ぶ側じゃなくて、選ばされる側(になると思う)なのに。


31 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:53:29.01 ID:gS+PjJ1E0

(´・ω・`) 「…内藤君はどこ?」


内藤は上半身を反って準備運動を始めた。
陸上競技のトレーナーを纏っていた。それが身体にぴちっとフィットしていたから、
隆々とした肉体がはっきり分かった。本当に顔と合わないと思った。


( ^ω^)「僕ー? 僕の頭じゃ、多分まともに突っ込んだらどこにもいけねぇおwww」

( ^ω^)「僕は陸上一筋でやってきたおー。だからどこかの体育科とか…」


(´・ω・`) 「スポーツ推薦は?」

( ^ω^)「スポーツ推薦?」


(´・ω・`) 「大会とかでいい成績を収めると、学校のほうからお呼びがかかるんだ」


縁の無さ過ぎる事柄なのに、僕はそんな知識を覚えていた。


33 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:57:57.75 ID:gS+PjJ1E0

初めて聞いたような顔で、内藤はアキレス腱を丹念に伸ばす。
その様子を見て、僕は少しだけ驚いてしまった。

( ^ω^)「スポーツ推薦かお…。先輩がそんなんで高校行ったって話、聞いたことがあるお」

(´・ω・`) 「え、いや。僕はてっきり内藤君は知ってるかと
つーか、スポーツ推薦で高校に行くんじゃないかとばかり…」




( ^ω^)b 「まあ僕は高校に進学するために走ってんじゃないお。走るのが好きだから陸上してるんだお」




一見いいこと言ってるように聞こえるけど、まあそりゃそうだよな〜。
などと即座に頭の中で判断する僕は、まったくの捻くれ者で、なんだか嫌になった。


34 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 20:59:54.18 ID:gS+PjJ1E0
( ^ω^)「さて! 体育の時間の分も合わせて、走ってくるお」

(´・ω・`) 「もうすぐ大会だね。頑張ってよ」


(;^ω^)「その前に記録会があるお! だからまずそこでいい記録ださなきゃ…」

( ^ω^)「それじゃ! ばいぶー」


そう言って、内藤は僕の帰り道の反対方向へと走っていった。
グングンと軽快なペースで自分から遠ざかっていくのを見て、
走るという行為が、なんだか楽しいものに思えてくるから不思議だ。
僕は、彼が角を曲がって見えなくなるまで姿を見送り、見えなくなったら、



背を向けて、とぼとぼと歩き始めた。



太陽は、僕の背中を照らしていた。
同じように、太陽は、内藤の行く先を照らしていた。
だからといって、別に、何も意味はない。
―――本当に何も無い。


35 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:01:23.04 ID:gS+PjJ1E0

簡素な部屋。退屈な空間。それでも安らげる場所。
僕は鞄をベッドに放りなげ、椅子に腰を下ろした。
思い切り両手を伸ばして、背もたれが軋む。窓から差し込む夕陽が眩しい。


(´・ω・`) 「…っはあ」

(´・ω・`) 「問題集をばんばん解いてる、か」


机に広げてあったのは、問題集でもなく、教科書でもなく、
一冊の大学ノートだった。僕は徐にそれを手に取り、ぺらぺらと捲ってみる。


(´・ω・`) 「うーん。ここの構図が甘いな」


そのノートには、僕が描いた漫画。
いや…、落書きが描かれてある。
部活にも、勉強にも精を出さない中学3年生のライフワーク。


それは、漫画描きだった。


36 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:02:56.56 ID:gS+PjJ1E0

一応、キャラを作って、コマを割って、台詞を書いて。
他人から見られたときに、「…これ漫画?」と聞かれないくらいの体裁は、整えてある。
でも、ペンだとか、インクだとかはまったく使っていない。全部鉛筆描き。
実は、漫画の描き方なんか余り分からない。
だから僕の唯一のライフワークは「ごっこ」といっても過言ではない。
虚しさは、見て見ぬ振りだ。そんなもの。


(´・ω・`) 「今日は何ページくらい書くかな」


張り切って、楽しんで、描く。だって唯一の楽しみなんだから。
だけど、誰かに見てもらおうなんてコレぽっちも思っていない。
いや、見てほしくない。
これは僕の自己満足なんだ。オナニーなんだ。

このノートを見られるってことは、
自分がズボン下ろして自慰している姿を見られることと同義。
それを考えたら、もう、このノートを誰かに見せることなんて、
ましてや「お…面白い?」なんて聞くことなんて


(´・ω・`) 「きゃーーーーーー」


38 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:04:23.00 ID:gS+PjJ1E0
何故か叫んでみたが、冷静に考えてみる。
僕には、見せる友達がいないじゃないか。だから、そんな心配もない。
全くの杞憂ということだ。


(´・ω・`) 「…いいんだいいんだ」

(´・ω・`) 「これが僕の楽しみなんだ」

(´・ω・`) 「これを誰かに見せて、もし一言”つまらない”とでも、言われたら」

(´・ω・`) 「もう僕は、楽しんで漫画を描けない」


でも、なんだかなあ といった気持ちだった。
不思議と胸がバクバクする。きっと、帰り際に”正反対の人間”と対話したからだろうか。
なんとなく鉛筆は持ちたくなかった。僕は立ち上がって、本棚へと向かう。
僕の本棚はでかい。だけど、並んでいるのはほとんどが漫画本。
お母さんは、部屋の掃除をするたびに呆れる。「本当にあんたの頭の中はそれだらけなのね」って。
ああ、その通り。僕の頭はそれだらけ。


いいじゃないか。何か一つのことに夢中になっているんだ、一応さ。


39 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:05:59.47 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) (だから… その辺を考えると僕も、内藤と同じ… なんじゃないかな)


でも、そんな考えはすぐに取り去った。
ノートを開いて、見えた落書きがそう思わせた。
こんな下らない自己満足ノートなんて、内藤が貰ったメダルや、叩き出した記録と等価じゃない!
僕は自分で自分のやっている行為を、至極下らないものだと決め付けた。
そうやって、卑屈になっている自分に酔っているってことも重々承知。
僕はどこまでもそういう人間なんだと、痛く感じた。


(´・ω・`) (今日は漫画を描くの、やめよう)








僕は寝転がり、ページを捲った。
現実ではあり得ない、空想の世界。そこへ僕は身を投じていくのであった。


40 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:07:12.03 ID:gS+PjJ1E0



とある歌に、こういう節がある。


真っ青な空はまだ 真っ青じゃない
真っ白な雲なんか 真っ白じゃない


真っ青な空があるとする。それを青い絵の具だけを使って描いても何も伝わらないと思う。当たり前か。
真っ青な空の感動を伝えたくても、伝わらない。それは何故か?
その青は誰にでも作れる既存の、ごくありふれた色だから。
自分が感じたそのままの、オリジナルの色で彩らなければ、脳内に叩き出したそのままの色、構図で彩らなければ、
自分はその絵に「嘘」をついてることになるんだ。僕は絵に嘘をつかない。
これは絵描きとしてのちっぽけなプライドだ。


だから…





「今日の美術はぁー、二人一組になって友達の顔を描きます」

42 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:08:38.65 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) (げっ…)

「それじゃグループ作ってくださーい」 だの
勿論僕は、こんな類の言葉を忌み嫌う人間の一人。
絵を描くのは好きで、美術も自分が学校生活を楽しめる数少ない時間帯の一つだけど…

(´・ω・`) (どうしたもんかね)


「ぎゃーww じゃんけん負けちまったおwww」


組む友達がいなくて、途方に暮れ頭を掻きむしる。
その時、僕の元へ、誰かが迫ってきた。


( ^ω^)「おいすー!!」


内藤だった。内藤は、たまたま組がかち合って三人になってしまい、じゃんけんで弾き出されたというのだ。
僕はやはり余り物か。でも別に嫌な気持ちはしなかった。
それは、内藤は嫌味な人間ではなかったからだ。


43 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:09:45.35 ID:gS+PjJ1E0


( ^ω^)「かっこよく描いてお!」

スケッチブックの向こうに、わざとらしくポーズを取る内藤の姿があった。
交換交換で互いの顔を描く。最初は僕の番だ。


(´・ω・`) 「いや… 無理だな」

(#^ω^)「えー!?」

(´・ω・`) 「あ、ごめんごめん。そういうことじゃなくて」

( ^ω^)「?」

(´・ω・`) 「僕から見た内藤君を描くよ。僕の目から見たまんまの内藤君を」

ちょっと臭い台詞だった。内藤は眉を釣り上げて返事をする。

(;^ω^)「見たまんま? じゃあ、不細工に描かれたら、
       僕はショボンから不細工だと思われてんのかお?」

(;´・ω・`)「いや、そういうことじゃなくてね…」


歓談を交わしながらも、僕の手は忙しく動いていた。
真剣に描くのであったら、ひたすら押し黙って集中するのが普通だ。
だけど、たまにはこんな時があってもいいさ。


45 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:10:50.83 ID:gS+PjJ1E0
チャイムが鳴った。僕の手はそれを無視して働き続ける。
ある程度の状態まで持っていきたかったからだ。
ちょっと急ぎ気味になり、いきなり僕は真剣な顔つきになる。


( ^ω^)「ちょ… チャイム鳴ったお」


(´・ω・`) 「待って、まだちょっと」

( ^ω^)「おっおっお」


(´・ω・`) 「…ふう」

(´・ω・`) 「よし。まだ未完成だけど、どう?」


僕は内藤にスケッチブックを見せた。
得意気でも、控えめな感じでもなく、ただこの絵を内藤がどう受け止めるか知りたい。


48 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:11:47.12 ID:gS+PjJ1E0

( ^ω^)「これは期待!」

( ^ω^)「すごいお。本当の僕の顔みたいだお。…似てる」



(´・ω・`) 「本当かい? 良かったな」


僕は内藤を、僕の目で見たままに、感じたままに鉛筆で描いた。
結果、それを内藤と一先ず共有することができた。
だけど、何より嬉しかったのは…


( ^ω^)「ショボーン」

(´・ω・`) 「ん? 何?」


( ^ω^)b「おまえ、絵上手いお!」



(´・ω・`) 「…」


50 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:13:07.12 ID:gS+PjJ1E0

褒められるのには、慣れていない。

褒められることもしていないし、褒められるほどの何かも持ち合わせていない。
建前や、同情で賛美されたことは何回かある。
まったく不快でもない。だけど全然嬉しくない。当然か。
だけど、内藤が口にしたその言葉が、まったく無造作に出た本当の気持ちだとしたら?
僕もそれを素直に受け取るしかないだろう。


(*´・ω・`) 「あ…ありがとう」

( ^ω^)「美術部みたいな、そういう絵描くんだお。他のやつと一味違う」

( ^ω^)「いや… 美術部の人とも違うんだお。なんか独特っつうか」



家で変なもんばかり描いてるからかな。
”一味違う” か。悪くない。実に悪くない言葉だ。







僕はその日の晩、漫画を何枚も描いた。
夜遅くまで、夢中になって鉛筆を、走らせた。


53 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:23:10.99 ID:gS+PjJ1E0


良いことと悪いことは隣合わせ。
善事ばかりは続かない。
今日の占い最下位だった。
カレンダーは仏滅だった。

納得。

最近は、いつもに爽やかな気分で目覚めていたのに、
それが、眠るときは最低な気分に変わっていたなんて。
人生は何が起こるか分からない。

故に楽しい
故に悲しい




今日は完璧に後者。
それは、数学の時間に起きた出来事だった。


55 名前: ◆ps3CKPkBXI sage 投稿日:2007/12/07(金) 21:23:56.47 ID:gS+PjJ1E0
僕の隣の席に座る男は、長岡という。
良く言えば、お調子者のムードメイカー。
悪く言えば、ちょーしこしのKYのDQNのアホの馬鹿のなんたらかんたら…


良く言うのと悪く言うので、こんなに矛盾が生じるのは何故だろう。


まあいい。とりあえず彼はそんな軽いキャラだった。
彼はよく授業道具などを忘れる。忘れん坊。
教科書やら、ノートやら、二日に一回何か忘れては、隣の人のいい女の子から物を借りるのだ。


その日も彼は忘れ物をした。
昼休み終了のチャイムと共に響く、あっけらかんな声。

_
( ゚∀゚)「やっば、数学のノート忘れた!!!!」

周りの男子が、「またかよ〜」と冷やかす。
僕も心の中でそう呟いていた。


56 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:25:06.85 ID:gS+PjJ1E0
いつものように、長岡は隣の女子に助けを求めようとする。
だが駄目だった。その女子は今日は欠席だったのだ。


…ということは。


_
( ゚∀゚)「なあショボン!!!」

普段何も話さない人物から声を掛けられると、身体がゾワッとする。

(´・ω・`) 「な、何」
_
( ゚∀゚)「数学のノート貸してくれよー」


まるで貸すことが前提のようになっているかのような口だ。
ヘラヘラと笑いながら僕の返事を待っている。
僕の声は、なぜかどもる。

(´・ω・`) 「あ、ああ。」

(´・ω・`) (数学のノートどこだっけ)
_
( ゚∀゚)「あ、ノート破るんじゃなくて、丸ごとちょっと貸してくれよな」


57 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:26:11.91 ID:gS+PjJ1E0

(´・ω・`) 「え、なんで」



_
( ゚∀゚)「あのさ〜、俺、宿題やってきてねーんだわ」
_
( ゚∀゚)「だから、写さしてくれえ! 五時間目始まるまでの10分間で済むから」


両手を摩りあわせて、長岡は僕にへこへこと頼み込む。
本当、調子いい奴だ。というか、宿題なんて簡単な練習問題の3つ4つなのだから、
自分でさっさとやればいいのに。

僕は机から数学のノートと思われる一冊を取り出し、長岡に手渡した。
長岡が余りに急かすもんだから、ノートの中身も何も確認しないで渡してしまった。






これが明らかな過ち。


60 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:27:30.25 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「…」

(´・ω・`) (太陽まぶしっ うぜぇ)

「ぷっ… くくっ… なあこれ見ろよ」


(´・ω・`)「…?」



僕がふと長岡の方を見ると、彼の机の周りには3、4人の集まりが出来ていた。
いつも一緒にいる奴らだ。クラスのカーストで言えば、上位にいるような、そんな奴ら。 
低俗な言葉でいえば「DQN」


「これ誰書いたん?」

「ショボンじゃね」
 _
( ゚∀゚)「ちょwwww この展開とか、ねーわww」
 _
( ゚∀゚)「なんだよwwww エクシードとかオーバーゼニスってwwww」


(´・ω・`) 「―――――!!!!」


61 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:28:44.32 ID:gS+PjJ1E0
僕だけが知っている、僕のみの世界で通用する、僕だけが扱える、故に外の世界には決して漏らしちゃいけない。
その言葉を、長岡が呟いていた。


何故だ何故だ何故だ何故だ何故なんだ!!!



まさか。



長岡が持っているノート。僕が貸したノート。
人と人の隙間から、なんとかしてその実体を見たい。
数学のノートじゃないのか? 間違って鞄に漫画のノートを持ってきてしまったのか?



(;´・ω・`) (そしてそれを慌てて、間違えて、こいつに渡してしまったのか!?)


62 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:29:41.78 ID:gS+PjJ1E0
―――捉えた。長岡が見せびらかして嘲笑の対象にしているノート。
表紙にちょっとだけ黄色いシミがついている。
間違いない。
あれは
数学の
ノートじゃない。



  _
( ゚∀;)「うひゃwww これ以上笑わせんなwww 魔界編とか」

「ねーわwwwwwww」



(´・ω・`) 「…っ …!!!!」


僕は何も出来なかった。椅子から離れられなかった。
頬の真ん中と、耳の先っぽを、真っ赤にさせて、
唇をぎゅううっと締めることしか、出来なかった。

長岡が立ち上がった。
そしてこちらに近づき、ノートをぱんぱんと叩いて、言った。


64 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:30:50.27 ID:gS+PjJ1E0
 _
( ゚∀゚)「総評ーーーー!」



総評!?

やめろ


やめてくれ


それは僕だ


僕の世界なんだ

  _
( ゚∀゚)「んとよー。絵はそこそこうめぇんじゃね? ところどころ雑だけど〜。あ、やっぱ下手かも」



やめろ!!!!!!!!!


66 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:32:16.12 ID:gS+PjJ1E0

_
( ゚∀゚)「シナリオの悪さ!!!!! これに限るねwwwwww」


黙れ!!!!! 返せ!!!! 

今すぐ!!!!


(´・ω・`) 「…」

  _
( ゚∀゚)「なんつーか、ガキ臭すぎ!! 発想が、小学生みたいだね!」


それは、おまえらに馬鹿にされる為に描いたんじゃないんだ!!!!!

  _
( ゚∀゚)「ジャンプの漫画全部足して、割って もんのすごくマイナスしたみたいなーwwwww」


これ以上…


喋るな!!!!!!!!!!!!!!


(´・ω・`) 「……」


68 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:33:36.62 ID:gS+PjJ1E0

(´・ω・`) 「……」


  _
( ゚∀゚)「以上っすww さーせんwww」

「っつーかおまえ、やたら暗い奴だと思ってたら漫画描くのが趣味だったのねwww やっぱ暗いなwww」

「オタクきめえwwwww」

そう言って長岡は、乱暴にノートを僕の机の上に置いた。
_
(゚∀゚ )「おーい山田ぁ、数学のノートかして〜」












僕は一言も喋れなかった。

いや、喋れなかったんだ。


69 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:34:57.13 ID:gS+PjJ1E0

(´・ω・`) 「…」


僕は、今にも吐き出しそうなくらい苦しい気持ちだった。
そそくさとノートを机に突っ込んで、無造作に他のノートを取り出す。
表紙を捲ると、見慣れた公式や数式が並んでいた。これが本物。
畜生。畜生。畜生!
これを、渡せば良かったんだよ。なんで間違ってしまった?

先生が入ってくるのと同じタイミングで、
内藤も教室に飛び込んできた。


(;^ω^)「ミーティングが長引いたお! ぎりセーフだお!」

 _
( ゚∀゚)「…で、さぁ、それにしても……ははwwww」

(´ ω `)「…」

「授業始めるぞー。学級委員声掛けろ」


( ^ω^)(…? 何かあったのかお?)

70 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:35:51.50 ID:gS+PjJ1E0
午後の授業、僕は空白だった。
全てが終わった世界で、自分だけがフラフラ誰かに歩かされているような気分。
ちょっとした手違いで、僕のノートは晒された。
そしてそれを否定された。完膚なきまでに叩き潰された。
幾多の嘲笑が、耳鳴りとなっていつまでも響いた。
先生の声なんか受けつけず、ただそれだけがずっと響いた。


(´・ω・`) 「…」


「明日は、いよいよマラソン大会だ。
 いいか、完走することが大事なんだぞっ」


(´・ω・`) (ああ、もう授業は全部終わってしまったのか)


顔から火が出るくらい恥ずかしい、また情けない気分にされ。
加えて、なんとか忘れかけていたマラソン大会の話題。重い、キツイ、辛すぎる。

逃げたかった。
やめたかった。
そうだ、もう、今日は、早く家に帰りたい。

73 名前:みすりました sage 投稿日:2007/12/07(金) 21:37:47.76 ID:gS+PjJ1E0
( ^ω^)「おっショボン! 明日はマラソン大会だお」

( ^ω^)「確かショボン長距離苦手だお?
       長距離の秘訣を教えてやr…」


僕は内藤がかけてくれた言葉を無視する。
とにかく誰とも話したくないんだ。察してくれ。
ああ… 無理か。君は昼休みの間、ミーティングに行っていたんだものな。
喜んで受け取るはずの善意も、今日だけは邪魔だ。
さあそこをどけ。

(´・ω・`) 「…」

( ^ω^)「ちょっ、ちょww 待ってくれお! ショボーン!」


内藤から僕はどんどん遠ざかっていく。
僕は背中でさよならを告げた。
君と真正面から会話をする気も起きないんだ。



早く、早く家へ。



歩く速度が、いつもより速かった。

75 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:38:47.63 ID:gS+PjJ1E0
(´・ω・`) 「こんなもの!」


家に帰るなり、僕は例のノートを壁に叩きつけた。
冊子が乱雑にぺらぺらと開いて、ゆっくりとまた閉じた。
僕がこのノートを再び開くことは、無いと思う。
どうやって処分しようか?
どこに捨てる?
焼くか?
それとも川にでも投げるか?

昨日まで1番大切にしていたものが、
とあることをキッカケに、急激に価値の低いものへと堕ちる。
やるせなさを通り越して、これは快感だ。
もう、いい加減目を覚まそう。こんなもの描いてる暇じゃないだろう。
受験だろう。勉強だろう。おまえ時間あり余ってるんだろう。





(´・ω・`) 「くそっ!! くそっ!!! くそおおおおおお!!!」


表紙の一辺を手に取って、何度も何度も壁に叩きつけた。
紙の端が折れ曲がり、表紙が破れ始め、かつての僕の宝物は無残な姿に変わり果てた。

76 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:39:30.70 ID:gS+PjJ1E0
無残なノートを無理矢理に丸め込み、机の1番奥に突っ込む。
この時、思いきってゴミ箱に突っ込めなかった自分が、愚かだと感じた。
机を思いきり閉めると、愛用していた鉛筆が転げ落ちる。
そして、鋭く尖らせておいた芯が容易く折れてそこらに散らばった。


それを見て、塞き止めていた感情が溢れ出た。






―――――――悔しい。







滲みそうな涙を抑えて、ギリギリと奥歯を鳴らした。
夕陽が眩しかったから、乱暴にカーテンを閉めた。

77 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:40:20.56 ID:gS+PjJ1E0
――暗闇に包まれた部屋で、僕は毛布を被った。
面倒だ。何もかもが面倒だ。寝てしまおう。全てから逃げ出してしまいたい。
寝て起きたら朝が来る。面倒だ。学校へ行く。面倒だ。
学校ではマラソン大会がある。面倒だ。
面倒だ面倒だ面倒だ。


明日雨が降ればいいな
明日雨が降ればいいな
明日雨が降ればいいな
明日雨が降ればいいな
そうすりゃみんな走らない
そうすりゃみんな走らない
明日みんな死ねばいいんだ
明日みんな死ねばいいんだ
そうすりゃ僕は何もしない
そうすりゃ僕は何もしない
僕を馬鹿にした奴等は死ね
僕の作品を馬鹿にした奴等は死ぬ
僕は何もしない 何もしないから



(´ ω `)(ねむりたい)

(´ ω `)(泥のように)

(´ ω `)(ずっと………)

80 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:41:28.85 ID:Naz4f7j10
―――朝と夜の間で夢を見た。
僕が創ったキャラクターが呼んでいる。
顔と身体がアンバランスで、手首は有り得ない方向に曲がっていて、
不自然な笑顔で、不自然な姿勢で、僕の名前を呼ぶのだ。

僕は泥のような暗闇を進んでいく。
でも何故か、いつまで経っても彼らの元に辿り着けやしない。
僕と彼らの間に、クラスの奴等が現われた。長岡が中心にいた。
長岡たちは、刀や銃やバットを手に持っている。

ニヤリとこちらに不敵な笑みを飛ばし、
何をするかと思えば、いきなり僕のキャラクターに、暴行を加え始めたではないか。
漫画の中で見たまんまの、インクの飛沫のような血を彼らは吐いた。
何かで叩かれたり撃たれたりする度に、吐いて吐いて吐きまくった。
堪らず僕は「やめろ!」と叫んだ。だけど、声が出てこない。
キャラクター達は、変わらず不自然な笑顔のままだった。おい、痛くないのか、悲しくないのか。
ただ、変わっていくのは顔の形。どんどん皺くちゃになっていく。
まるで、グチャグチャに丸めた紙面のように。

何時の間にか、僕も何故かバットを手にしていた。
そして、彼らを殴りまくっていた。誰かに操られるように殴っていた。
インク飛沫の血を浴びて、ふとキャラクターの表情が変わっているのに気付く。


彼らは泣いていた。

81 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:42:46.71 ID:Naz4f7j10

そして僕は目覚めた。夢とは、いつもそんなところで終わるもの。
僅かに開いた瞼と瞼の間から、群青の空が見えた。
そして、耳でしっかりと何かが流れる音を聞いた。

雨が降っている。


(´・ω・`) 「ふふふ… ふっ、ふふ」

僕は思わず笑みを垂れてしまう。
時計を見てみた。ああ、まだこんな時間じゃないか。
2度寝をするんだ。心から安堵して眠るんだ。こんなに土砂降りじゃないか。
マラソン大会は、中止だ。

(´・ω・`) (やっぱり僕は雨男だ)




本当の雨男とは少し違うな。
だけど、僕が願えば、神様は喜んでそれを叶えてくれるのだ。
思い込みって不思議なもんだ。
まさか自分の内部ではなく、外部に影響を及ぼす能力が僕にあるとはね―――

82 名前: ◆ps3CKPkBXI sage 投稿日:2007/12/07(金) 21:43:48.25 ID:Naz4f7j10

「お、空めっちゃ晴れてるじゃん」
「道路乾いてるし、こりゃマラソン大会あるね」




(´・ω・`) 「…」

今日は良いことの日だろう。
そろそろ善事が起こるだろう。
占いの順位は2位だったろう。
今日は大安だったろう。


…なんでだ。神様は僕を見捨てた。
マラソン大会は午後からの授業をカットして行う。
そして、この憎らしき晴天は、3時間目の終わり頃から続いていた。

あんなに雨が降っていたのに、あんなに空は暗かったのに。
徐々に止んだかと思うと、太陽も併せて顔を出し、途端に世界は光を取り戻した。
僕の心はまた闇を被った。

そして後方から聞こえてくる歓喜の声。

84 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:44:29.93 ID:Naz4f7j10
「やったお!」


(´・ω・`) 「…」 

僕はのっそりと後ろを振り返る。

(*^ω^)「…」


内藤はニッとはにかんでいた。
その表情は、今の僕にとっては憎たらしいほどに爽やかで、
どういう神経をしたらマラソン大会という行事を楽しめるのか? と疑問を持つ。
すぐに答えは分かるのだけれど。


(´・ω・`) (長距離走の秘訣…)

昨日、思いっきりシカトを決めた手前。
今更馴れ馴れしくそれを聞くのは無理だと僕は思った。
弁当の残りを腹の中にかっ込んで、うつ伏せになる。
雨よ降れ雨よ降れと願っても、6月の太陽は輝きを増すばかり。
ああ。憂鬱だ。

85 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:45:23.48 ID:Naz4f7j10






マラソン大会は勿論散々だった。
昼飯時、ヤケクソ気味にガツガツ食べたのが1番の原因だろうか。
走り出してすぐ、脇腹がズキズキと痛くなり、
最初の数キロはまるで、爆弾を抱えているような感覚に襲われた。

そしてその痛みが抜けた頃には、足はすっかり鉛のように重くなっていた。
足首が千切れそうなほど痛く、日頃の運動不足を、直に直に思い知らされた数十分間だった。

大勢の人間から、下級生の女子などからもドンドン抜かされていく。
「はふぅーはふぅー」と悶え、弾けそうな脂肪を揺らして走る巨漢の群れと、
僅かな差をつけ僕は一先ず完走したのであった。


競技が終わり、グラウンドの隅へふらふらと僕は逃げていった。
そして校舎の壁の冷たいコンクリに横たわる。
今感じるのは、達成感云々より先に、体を駆け巡る痛みだ。
ふくらはぎを摩ってみる。もうパンパンだ。
走っていた時のことはあまり思い出せない。
ただ、とにかく、疲れたと。

86 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:46:27.67 ID:Naz4f7j10
僕の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。

「おつかれだおー!」



(´・ω・`) 「…あ、内藤君」

( ^ω^)「ほれ、ポカリだお」


内藤は陸上のユニフォームの上に体育着を着て、
クールダウンの格好だった。汗も殆ど乾いている。
全く、僕はやっと完走したというのに… これが能力の差か。
陸上部のクーラーボックスからくすねてきたという缶のタブを開けた。
そして一気に飲み干す。
ああ、自分でも気付かないでこんなに水分を欲していたんだな。
体の中に冷たく爽やかな感じが巡る。一気に体力が回復した気がした。


(´・ω・`) 「ぷ…は。ありがとう。一気飲みしちゃったよ」

( ^ω^)「頑張って走ったんだおー。良かったお!」


僕は缶を地べたに置き、とあることを内藤に尋ねた。

(´・ω・`) 「内藤君、何位だったんだい?」

87 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:47:34.66 ID:Naz4f7j10
内藤は揚々とポケットの中から紙を取り出した。
きっと、ゴールした時に手渡される順位が書いてある紙切れだ。
そこには、青いインクでただ一本のタテ線が引かれてあるだけだった。
…あれ?


(´・ω・`) 「い、1位!!?」

安易なリアクションだけどこれが精一杯。
こいつ、全校生徒の中で1番マラソンが速いのかよ。


( ^ω^)「1年のときは13位! 2年のときは5位!
       そして… 最後の年、遂に勝ち取ったりwwww」


⊂ニニニ( ^ω^)二二⊃「ぶーん!!」


内藤はいきなり両手を広げて、マヌケなフォームで走り出した。
そして、大きく僕の周りを1周して戻ってくる。
あのひょうきんな姿が一位か。分からないものだ。

88 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:48:42.45 ID:Naz4f7j10
(´・ω・`) 「なんだよその走り方。ちょっと面白いな」

( ^ω^)「嬉しいときは思わずそう走ってしまうおww」

( ^ω^)「小さいときのクセだおwwwww」


僕は素直に軽く微笑んだ。
昨日の嫌な気持ちが、ちょっとだけ削れた気がする。
たまには、晴天の下地獄を見ようとも、体を動かすのも悪くないかもしれない。
ありがとう内藤。







この小さな感謝が、数時間後、何倍も大きな謝罪に変化することを、



僕はまだ、知っちゃいない。

89 名前: ◆ps3CKPkBXI 投稿日:2007/12/07(金) 21:51:19.66 ID:Naz4f7j10



その日の帰り道は暗かった。
家に誰もいないという理由で、夕方まで時間を潰さないといけなかったのだ。
どこへ行っても良かったのだけれど、特に行くところもない。

詰まる所僕は学校の図書館に来ていた。
図書館はいい。落ちつく。ここには長岡のような奴等も余り寄り付かない。

大げさなことを言ってしまえば、ここは僕の聖域。


そしてその聖域からファンタジー小説を2冊借り、外へ出て見ると―――





(´・ω・`) 「なんだ、雨かよ…」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 21:54:15.61 ID:Naz4f7j10

神様とは気紛れなものだ。


僕が望んだ時は知らん振りして、
気付いた頃になってようやく重たい腰を上げる。
もしこの世界に本当に神様って存在がいるのならば、
僕たちは彼の気紛れで生き死んでいるのだろう。
でもまあこんなことはどうでもいいことだ。

そんなことより、僕は今の状況をどうやって打破しようと考えていた。


外は大雨。マラソン大会が終わるのを待ってましたとばかりに、
さっきから降り続いているようだった。


学校の電灯で、雨の筋が沢山流れているのが分かる。



(´・ω・`) 「…はあ」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 投稿日:2007/12/07(金) 21:58:07.16 ID:Naz4f7j10

僕は鞄を雨よけにして、勇敢に家へと駆けて行く。


この時間帯は車の交通量が非常に高い。
ヘッドライトが僕の目の前を照らし、テールライトが僕の背中を照らしていた。

(´・ω・`) (くっそ、水飛ばしやがって)


街灯の光が薄くても、なんとか、車のそれで暗い町を駆けていた。



雨の日に部屋に篭ったりするのは最高だけど、
わざわざ外に出て歩いたり走ったりするのは嫌いだ。これは誰も当てはまるだろう。
もし好きなんて奴がいたらそいつは精神異常者だ。



―――車は僕の脇をびゅんびゅんと走っていく。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 投稿日:2007/12/07(金) 22:02:35.25 ID:Naz4f7j10

( ^ω^) 「傘持ってきて良かったお」


帰路。
僕と内藤は近い距離にいた。
内藤は僕の15メートルほど後ろを歩いている。
だが、大きな傘を射していたから気付かなかったのであろう。


( ^ω^) (ん…? あれはショボン?)


僕はといえば、早く、とにかく家へ帰りたいと急ぎ足だった。
段々体が冷えてくるのが辛いし、制服や鞄が濡れるのもこの上なく嫌だった。


( ^ω^) (そんなに急いだら危ないお…)



(´・ω・`) (早く…早く)



交差点に差し掛かった。
僕は曲がりたい。
信号は、青だった。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 投稿日:2007/12/07(金) 22:05:40.39 ID:Naz4f7j10

(´・ω・`) 「…あ、信号変わっちゃう。 渡らなきゃ」



信号が点滅する

 僕は駆ける

横断歩道を渡る

 赤になる前に

車が直進する

 信号はまだ点滅している

僕は駆ける

  ――――車は止まらない。





(;^ω^)「ショボーーーン!!」 

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 投稿日:2007/12/07(金) 22:08:49.21 ID:Naz4f7j10


――― 一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。

車がハンドルを切るときのけたたましい叫び声。
雨にじっとり濡れた道路の匂い。
頬で感じたアスファルトの冷たさ。


僕は、ハネられたのか?


それにしては妙である。
さっぱり痛みがない。
強いて言えば肘を強打してしまい、少しジンジンする。
道路の脇に止まった自動車。
出来あがる人だかり。




…え?

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:13:19.37 ID:Naz4f7j10

僕はうっすらとした、それでいてくっきりと…

どっちつかずだ、とにかくそんなグラグラした意識の中、
重い体を起こして周囲を見渡してみる。
救急車が来ていた。何か五月蝿いと思ったら、こいつのサイレンか。

で、誰を運ぶんだ?
僕は五体満足だ。軽傷すらない。


運転手が済まさなそうな顔をしている。当たり前だ。
乱暴な運転だった。


担架に、僕と同じ制服を着た少年が乗せられた。
…ああ、制服も雨でグチャグチャになってしまったな。


その担架に乗っている少年の顔を見せてくれ。
人だかりで見えないんだ。



(´・ω・`) 「…」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 投稿日:2007/12/07(金) 22:16:00.21 ID:Naz4f7j10

「ああ! 君が突き飛ばされて助かった男の子かい」

「同い年か… 同じ学校か?」

「どこかケガはないのかい?」

「家はどこだ?」



五月蝿い!!!!!!!!!




そんなことより、僕はこの一瞬に起こった出来事を、
しっかり把握しなければならない。


本当は、把握しているのだけれど、認めたくないだけだ。

(´・ω・`) (横断歩道を渡ろうしたとき、すごく近くで聞こえたんだ)



聞き覚えのある声が。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:19:26.58 ID:Naz4f7j10

僕の全ては雨に濡れていた。
まるで無理矢理なシャワーを浴びたかのように乱雑な髪。
じっとりと雨の跡がこびり付いた真っ黒な制服。


雨の日は好きだとばかり思っていた。
でも、こんな最悪なことが起こるなんて。


ノートを晒された?
そんなことより何倍も苦しい。


相変わらずテールライトとヘッドライトは、交互に僕を照らす。




「君、この子は友達なのかい?」

(´・ω・`) 「内藤は、内藤は大丈夫なんですか!!!!!」

「落ちつくんだ。死んではいないよ」

(´・ω・`) 「内藤! 内藤!」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:22:43.88 ID:Naz4f7j10

「左足と、胸と、右腕を損傷している」

「骨折か… 打撲か…」

「そんな大きなケガはしていないんだ」

「ただ範囲が広いんだ」


…僕は自分への苛立ちを募らせる。



(´・ω・`) 「意識も無いじゃないですか!!」

(´・ω・`) 「頭は! 頭を打ったんですか?」


「それはまだはっきりと…」


(´・ω・`) 「どうなんですか!」


「気絶しているだけかもしれない」


(´;ω・`) 「内藤―――」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:27:23.51 ID:Naz4f7j10

事件の現場に、仕事帰りの親が駆けつけた。
何も知らないからしょうがないのだろうけど、
何も知らない顔をしているのが非常に苛立たしい。

僕は色々と事情聴取をされた。
正直、もう逃げ出したくてたまらない気持ちだった。



(´・ω・`) 「アイツは… 内藤君は車にはねられそうになった僕を庇って」


「ああ、大丈夫。分かってる」


(´・ω・`) 「行かせてください! 内藤君の病院に!」


「ショボン、あんた、気持ちは分かるけど。
 まずは警察さんの質問に答えな」



(´ ω `)



(#´・ω・`)「うるっせえええクソババア!!!!!」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:32:17.55 ID:Naz4f7j10

「あ、君。それとね――」

(´・ω・`) 「どけ!!!」

「オゥフ」

「どこいくのよショボン!」





僕は雨の町をひたすら駆けた。自分の体がどれだけ濡れようと気にしなかった。
いや、むしろズブ濡れにしてくれとさえ思った。 全てを洗い流してくれと。


なんだか、苛立たしくて、切なくて、


自分が情けなくて、ちっぽけで、


なんで助けてくれたんだ内藤。

僕なんて、いてもいなくてもいい人間なんだぞ。

おまえの方がずっと存在価値は高いんだぞ。

それなのに、おまえ、あんな体じゃ――――――――

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:35:29.51 ID:Naz4f7j10






数百メートル走ったところで、僕は力が尽きた。
大体、昼間8キロ走った体だぞ。最初から体力は無かったんだ。
それでも、何故かこの距離を全力で走ってこられた。
あの場所に居るのが嫌で仕方がなくて―――



(´・ω・`) 「はあ…はあ…」


くたびれた公園の小屋に辿り着き、僕は寝転がった。
瞬時に体の疲労が襲いかかる。



(´・ω・`) 「うっ… げほっ、げほっ!!」


咳が止まらない…。
頭が痛い。
どうやら、風邪をひいてしまったらしい。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:39:54.10 ID:Naz4f7j10



(´・ω・`) 「か…ぜ…」

(´・ω・`) 「ひいてもおかしくない、いや、ひかないほうがおかしい」


視界に車のライトが飛び込んできた。
白の角張った軽自動車。親か、親が僕をつけてここまで来たんだな。

小屋へと傘を射して歩いてきて、
襟元を引っ張って言う。

「このアホ息子が、あんたこそ酷い風邪になって御陀仏しちまうよ」

「乗りなさい。家に帰るよ」



(´・ω・`) 「…」



嫌だと言いたかったけど、言えなかった。
体も心もズタボロだった。気を抜いたら本当に意識を失うほど。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:42:10.78 ID:Naz4f7j10

















酷い風邪は3日ほどで治った。
学校を3日間休んだ。
だけどその後も学校には行かなかった。
気がついたら1週間休んでいた。








雨も1週間降り続いていた。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:46:19.19 ID:Naz4f7j10


「今年の梅雨はしつこいですねー。みなさん傘を持って外出しましょう」

「さて次のコーナーです…」



   「ショボン、あんた今日も学校行かないの?」



(´・ω・`) 「…行かない」


僕は学校のみんなに合わす顔がない。
返事の言葉を持っていない。
僕は内藤にケガをさせた。大ケガだ。

学校に行きたくないという気持ちは、空を哀しい色にさせた。




そしてその空は雨という涙を流す。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:49:57.85 ID:Naz4f7j10
神様、アンタは本当に卑怯で気紛れだなあ。

ここぞとばかりに僕の感情に乗っかってきやがって。


願いがあるんだ。

聞いてくれよ。

雨を止めてくれ。


出れないんだ。

僕は雨の日は外に出たくないんだ。


だからさ、学校にも行けずじまいで。


なあ、頼むよ――――

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:52:32.50 ID:Naz4f7j10


その時、部屋のドアを軽くノックする音が聞こえた。


(´・ω・`) 「なんだよ」

「行くよ」

(´・ω・`) 「…どこへも行かないよ」

「内藤君のとこへだよ」

(´・ω・`) 「…行かない」

「お見舞い行くよ」

(´・ω・`) (…合わす顔がないんだ)




また自分で自分が情けなくなり、髪を思いきり掻き毟った瞬間だった。
雨は降り続いているのに、太陽が顔を出した。


天気雨だ。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:54:49.46 ID:Naz4f7j10
「あらあら… 変わった天気ねえ」

「ほら、お日様出てる間に行きましょう」



(´・ω・`) 「…」


太陽は、まさに、「行って来い」と
そう言っているように聞こえたんだ。
僕は、イモジャージから制服に着替えて、ドアを開けた。
開けた先の窓からも太陽の眩しさは伝わった。



(´・ω・`) 「…よし、行こう」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 22:57:36.80 ID:Naz4f7j10



病院は嫌いだ。

ヒンヤリしている。なんだか元気がない場所だ。
何かを吸い取られるような場所。


225室。ここに内藤はいるのか。
僕は意を決して扉を開ける。

(´-ω・`)(内藤…)






( ^ω^) b「おいすー!」



内藤はベッドに寝ていた。
胸と、腕と、足に包帯をぐるぐると巻いていた。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:02:09.44 ID:Naz4f7j10

部屋内に入ると、また雨は激しく降り始めた。
僕はとりあえず、内藤の枕元の小さな椅子に腰を下ろす。


(´・ω・`)「内藤君…」

一言喋り始めたら止まらない。

( ^ω^) 「どうしたお? 元気ないお」

(´・ω・`) 「ごめんなさい!!!!!!」

( ^ω^) 「? なんでショボンが謝るお?」

(´・ω・`) 「だってそうじゃないか」

(´・ω・`) 「僕がはねられそうになったところを突き飛ばして」

(´・ω・`) 「君が代わりに――」

ついつい必死になってしまう。だけど内藤は飄々と言葉を遮る。


( ^ω^) 「僕が勝手にやったことだお! 自業自得wwww」


( ^ω^) 「結果、こんな体になっちまったけど…」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:05:27.69 ID:Naz4f7j10


―――そうだよ、そこが問題なんだ。



(´・ω・`) 「こんな体になっちまったけど… じゃないよ!」

(´・ω・`) 「君… 君、2週間後は何があるのか知ってるのかい!?」

( ^ω^) 「最後の地区大会だお〜」

僕はテーブルを拳で叩きつけた。
乗っていた花瓶が大きく揺れる。
内藤は、窓の外を見ていた。雨の音が聞こえる。





(´・ω・`) 「なっなに呑気に答えてんだよおおお!!!!!!!!!」

(´;ω;`)「けっ…けっ ケガしてたら」

(´;ω;`)「出れないじゃないか!!!!!!」

( ^ω^) 「…」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:10:39.91 ID:Naz4f7j10

( ^ω^) 「別に構わないお〜」


呑気に答えるのが、
余計に僕の激情を誘うのだ。


(´;ω;`)「構うもんか! 僕は君が最後の大会にどれだけ精を注いできたか知ってる!!!」

(´;ω;`)「朝も昼も夜も、あの町を走ってたじゃないか!!!」

( ^ω^) 「僕は走るのが好きなだけだお」

( ^ω^) 「大会やメダルや記録なんて」

( ^ω^) 「好きなこと、とことんやってみた結果のオマケだお」

(´;ω;`)「なっ……」

でも僕は何故か意地になって、
食い下がれなかった。


(´;ω;`)「かっこつけやがって!! 本当は出たかったんだろ? 活躍したくてたまらなかったんだろ!」

(´;ω;`) 「殴れ!! 僕を殴れよ!!」


もう、自分でも何を言ってるかが分からなくなっていた。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:13:39.23 ID:Naz4f7j10


( ^ω^) 「じゃあ遠慮なく」

(´・ω・`) 「えっ!?」


内藤は、ケガをしてないほうの手を振り上げ、
拳を作って僕の方に向けた。

(つω・`)「…!!」


自分で言っておきながら、なんだか恐くて身構えてしまう。
飛ぶ。飛んでくる。拳が。




――――うっ







       つん☆
( ^ω^) つ)´・ω・`)


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:18:20.35 ID:Naz4f7j10

(´・ω・`) 「…」

( ^ω^) 「バーローwwwwwww 何身構えてんだおwww バロスwwww」



内藤はひとしきりに笑ったあと、窓のほうに向き直し、
その向こうの景色を見て、言った。

大きなため息をつきながら。


( ^ω^) 「雨は… 嫌だお。嫌いだお〜…」

(´・ω・`) 「――――!!」

( ^ω^) 「最近、ずっと雨が続いているんだお。梅雨にしても、変だお」

( ^ω^) 「いつも…」

今度は逆に僕が彼の言葉を遮った。


(´・ω・`)「そっそれは…」

(´・ω・`) 「僕の性なんだよっ」


( ^ω^) 「…んえ?」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:22:58.38 ID:Naz4f7j10


「僕は雨男なんだ。雨降れって願うと、本当に雨が降っちゃうんだ」

     「ちょwwwそれ雨男って言わないおwww テラ超能力者www」

「そうやって… 逃げてきた。いくつものことから」

     「それはよくないお!」

「でも、そんな生き方はやめにするよ」

「なんでも、不器用なりにやれるだけやってみる」

     「素晴らしいwww 尊敬だお!」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:29:04.27 ID:Naz4f7j10

「僕ね、漫画を描くのが好きだ」

     「僕は走るのが大好きだお!!」

「だからさ、もっといい絵が書けるように、高校では美術部に入ろうかなって思う」

     「応援するお! 僕は絵はからっきしだから…」

「そんでさ、漫画は絵だけじゃダメだっ。シナリオも書けないと」

     「おっお! その通りだお」

「だからこれから沢山本を読むんだ。いつも3冊くらい持ち歩いてさ」

     「かっけえwwwwww」

「そうだね… だからお互い学校に早く行かなきゃ」

     「…え? ショボン、学校に行ってないのかお」

「あ、いやなんでもない…」

    「雨が降ってる日は学校に行きたくないおー。もしかして理由はそれなのかお」

「ん、まあ… そんなところ」    

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:32:01.32 ID:Naz4f7j10

「もうちょっと、自信持って生きてみようと思う」

     「胸を張るのはいいことだお」

「なんだか、僕は今まで卑屈になりすぎていた」

     「そうなのかお?」

「だからこれからはさ―――」


トントン



二人の会話を、ドアをノックが止めた。
出てきたのは、僕のお母さんだった。


「おしゃべりは、終わったかしら?」  



(´・ω・`) 「あ…うん」

( ^ω^) 「おばさん! フルーツありがとですお!」 

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 23:41:42.04 ID:sY4eolYR0

「いいえ、ごめんなさいね。本当にウチの馬鹿息子が…」

( ^ω^) 「いや〜! 大丈夫ですお!」

(´・ω・`) 「…」

お母さんは内藤のベッドを整えたあと、わざとらしく窓の外を指差して、僕等に言う。

「外、見てごらんなさいよ二人とも」
「ほらあ、今までの雨が嘘のような――――――」



(*^ω^) (´・ω・`*) 「…」



雨は完全に上がり、姿を現した太陽の、白い光が部屋に差込んでいた。
世界が嘘のように明るくなっていくのを感じる。柱や植物に付いた水滴が、透明で美しいガラス玉のように輝く。
僕は、空もそうだけど、もう一つの輝きを眺めていた。
そう、内藤の屈託のない満足そうな笑顔。コイツめ、今から包帯を全部ほどいて、外へ走り出すかもわからんよ?




――――それ以来、僕が雨を呼び寄せることは、なくなった。


(おわり)