- 喰うようです。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 03:54:13.12 ID:fkUxxi2hO
- 閲覧注意を投下すっぞー
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 03:56:49.18 ID:fkUxxi2hO
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男は神社に居た。
その男は寒空の下、上着も着ずに薄着で、裸足で砂利を踏みしめていた。
痛むであろう足を気にする素振りも見せずに、男は歩き出す。
じゃり、じゃり、と絶え間なく裸の足を傷付ける小石を踏み、男は首を巡らせて何かを探している様だった。
何かを探す男は虚ろな目をして、神社の周りに広がる、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れる。
小石が敷き詰められていた道から、湿った土の地面に移動する。
足の痛みが和らいだ筈なのに、男はやはり顔色を変えない。
眉一つ動かさずに歩く男は、せわしなく頭や目を動かして何かを探し続ける。
白くよれたシャツを着た男の背中は少しずつ、少しずつ、森の中へ吸い込まれて行き、
ついには、背中が見えなくなった。
男は一度も振り返る事なく、ただ足と頭を動かして、森の暗さに消えていった。
神社には足跡一つも無く、ただただひたすらに静か。
不気味なまでの静けさは、男の存在をゆっくりとかき消していった。
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 03:59:29.15 ID:fkUxxi2hO
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ほう、ほう、ほう。
夜の鳥はひっきりなしに声を上げ、森の中で己の存在を知らしめる。
風もなく、木々のざわめきすら感じられない森には、鳥の声と足音だけが広がるばかり。
夜でも無いのに鳴く鳥と、暗く重い森の闇。
男は相変わらず、ただひたすらに歩いて何かを探している。
少し前すら見えない闇であるにも拘わらず、男の足取りは大した迷いも見せずにひたひたり。
四方を木々に囲まれた森は、ひどく湿った空気を広げさせていた。
肺がずっしりと重くなる様な空気の中ですら、男は表情を動かしはしない。
まるで死人の様な目で、唇を半分ほど開いたまま歩く。
左右に頭を動かして何かを探し続けるものだから、男の伸びた髪はすっかり乱れ果てていた。
それでも顔に落ちる前髪を払いもせずに歩き続ける男は、ひどく痩せていた。
貧相なまでに細い身体を休まず動かす男の顔には、生気は感じられない。
けれど男は確かに生きていて、尚且つ己の意思で歩き、何かを探しているのだ。
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:02:10.09 ID:fkUxxi2hO
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湿った土と木々の妙な緑臭さに満ちた森の中。
男がその中を歩いたのは、生まれて二度目。
一度目は幼い頃。
少年と言うには少し早い様な、一桁の子供の頃。
男は神社の近所に住む、ごく普通の子供だった。
子供だった男にすれば、神社の境内は遊び場でしか無かった。
毎日飽きる事なく足を運び、遊び仲間と一緒にはしゃぎまわる子供。
夕暮れ時、遊び仲間が帰った後もまだ一人で残っていた子供は、境内から神社全体をぐるりと見渡した。
今よりも広く広く感じられた神社の中で、子供は森に目を向けた。
いつもは気にする事も無かった、背景でしか無かった森。
改めてそこに目を向けた子供の胸には、妙な好奇心が宿る。
「あの中はどうなってるのかな」
誰に言うでもない呟きを溢すが早いか動くが早いか、子供はふらふらと森の中へ入って行く。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:05:11.62 ID:fkUxxi2hO
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今と変わらぬ重く暗く湿った森。
その中を、何か無いかときょろきょろ見回して歩く子供。
夕方であるにも拘わらず、光を感じられない森には、夜の鳥が鳴いていた。
ほう、ほう、ほう。
子供はその声を聞きながら、ただただ森の奥へと進んで行く。
何があるか分からない、だからこその好奇心。
子供は心細さも感じずに、全身を好奇心で満たして歩くばかり。
そして見付けた物は、今までと変わらない四方を囲む木々の海。
その中にぽつんと存在する、小さな箱。
三角の屋根に観音開きの扉、子供の胸辺りまでの高さをした四本の足。
箱と言うより小さな家みたいだと、それが何か分からない子供は思った。
扉の取っ手には、元は赤かったであろう汚れた房が飾られている。
子供は何を思うでもなく、躊躇う事もなく、その房を両手で掴み、引いた。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:08:06.17 ID:fkUxxi2hO
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軋みながら開いた扉は、ぱらぱらと木屑を溢しながらその中を晒す。
子供はその中を見て、驚いた様に目を丸くした。
開いた扉から溢れた物は赤い袖、鮮やかすぎる程の赤い着物の袖だった。
その袖の元へと視線を上げて行ったなら、そこには、幼い娘が膝を抱えて目を瞑っていた。
白い顔に長い黒髪、娘はとても愛らしかった。
川 - -)
('A`)「あ……」
川 - -)「……ぅ」
('A`)「あ、の」
川 ゚ -゚)「ん、ぁ、あ……外、?」
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:11:12.93 ID:fkUxxi2hO
-
('A`)「あ、その、こんにち、は?」
川 ゚ -゚)「こん……にちは、君は、誰?」
('A`)「僕は、えっと、ドクオ、です」
川 ゚ -゚)「ねぇ、ドクオ」
('A`)「は、い?」
川 ゚ -゚)「狭い、から、出してくれない、かな」
('A`)「ぁ、は、はい」
川 ゚ -゚)「すまない、ね、ああ、足がうごかない」
('A`)「大丈夫、?」
川 ゚ -゚)「大丈夫、だよ、ありがとう」
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:14:09.14 ID:fkUxxi2hO
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膝を抱えてぼんやりした目を子供に向ける娘は、子供に抱かれる様にして箱の外へと抜け出した。
力の入らない足に、地面にぺたりと座り込んでしまう娘。
その娘を支えながら、隣に腰掛ける子供は、箱を見上げて首を傾げていた。
('A`)「なんで、箱のなかに?」
川 ゚ -゚)「さあ、きっと、捨てられたの、かな」
('A`)「捨てられた?」
川 ゚ -゚)「ああ、私は邪魔だった、らしいから」
('A`)「かわいそう、」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
('A`)「ねぇ、」
川 ゚ -゚)「ん、?」
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:17:09.73 ID:fkUxxi2hO
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('A`)「君の、なまえ、は?」
川 ゚ -゚)「なんだった、かな……ええと、ええと、」
('A`)「思い出せないの?」
川 ゚ -゚)「ああ、思い出せない、どうしてだろう」
('A`)「じゃあ、えっと、思い出すまで、僕が名前をつけてあげるよ」
川 ゚ -゚)「ほん、と?」
('A`)「うん、えっと、えっと、」
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:20:08.43 ID:fkUxxi2hO
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川 ゚ -゚)「……く、ぁ、う」
('A`)「へ?」
川 ゚ -゚)「ああ、すまない、あくびしちゃった」
('A`)「そっか……あ、クーって、どう、かな?」
川 ゚ -゚)「くぅ?」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「どうして?」
('A`)「どうしてだろう」
川 ゚ -゚)「くぅ、くぅ……くぅ、うん、」
('A`)「いい、かな?」
川 ゚ -゚)「うん、ありがとうドクオ、私は今日から、くぅだ」
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:23:06.40 ID:fkUxxi2hO
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ただの一度だけ。
一度だけしか会った事もなく、話した事もない娘。
けれど子供と娘は不思議と仲良くなり、その日は楽しく過ごした。
夜が更けてきた頃に、子供はやっと立ち上がる。
もう帰らないとおこられる
また遊びに来てくれるかい?
うん、また遊ぼうね
約束、つぎは食べるもの、ほしいな
じゃあお菓子とか、たくさん持ってくるね、約束
うん、じゃあまたね、ドクオ、約束破ったら、ひどいぞ
またね、クー、約束破らないように、するね
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:26:27.94 ID:fkUxxi2hO
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娘を箱に戻した子供は来た道を引き返し、迷う事なく神社へと戻れた。
そして帰路に就き、帰りが遅くなった事を親に叱られて、いつもと変わらぬ夕飯の時間。
その時に、子供は家族に森で出会った娘の話をした。
すると家族は顔色を変えて、森には行くなと子供に怒鳴る。
子供は何が起きたのか分からなくて、必死に森に行くなと叫ぶ家族に、ただ頷くしか出来なかった。
それから子供は森に行きたくとも出来ず、月日は流れ流れて子供は大人になって行く。
子供は男となり、森どころか神社に近付く事すら無くなった。
男の中から森も神社も娘も消えて、随分と経った頃。
男はふと、壁にかかるカレンダーを見上げた。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:29:16.12 ID:fkUxxi2hO
-
白地に黒と赤で数字が書かれている、素っ気ないカレンダー。
そこには今日の日付、今年が何年かを表す数字が存在する。
男は大した理由もなく、子供の頃を思い出した。
今から十年前は何をしていたか、二十年前は何をしていたか。
二十代も後半に差し掛かろうと言う、しっかりと仕事に精を出す様になった男。
その頭の中では、二十年前の事を思い出そうと、様々な事が浮かんでは沈みを繰り返していた。
そうして浮かぶ物は、赤い袖。
右手で掴み、口に近付けていた湯飲みをがちゃんと落とし、男はカレンダーを見詰めたまま目を丸くした。
湯飲みから溢れて、机や床を濡らす熱いお茶。
濡れるそれらをそのままに、男は靴も履かずに外へと飛び出した。
外は未だ夕方で、明るさは十分にあった。
それなのに、男の頭の中は重苦しい森の闇でいっぱいだった。
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:47:32.74 ID:fkUxxi2hO
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ほう、ほう、ほう。
夜の鳥の声を聞きながら、男は探していた。
赤い袖を、娘の顔を見るために、ただただ森を歩いていた。
ひたりと冷たい湿った土を踏み、足が止まる。
巡らせていた首が、正面を向いたまま動かなくなった。
すっかり小さくなった箱。
男の腰までもない高さの箱。
あの頃よりも更に汚れた房。
小さくなってしまった、二十年もの間に、こんなにも小さくなってしまった。
男は悲しそうな、申し訳なさそうな顔をして、扉を飾る房に両手を伸ばした。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:50:20.64 ID:fkUxxi2hO
-
川 ゚ -゚)「やあ、ドクオ」
('A`)「やあ、クー……遅くなって、御免」
川 ゚ -゚)「それでも君は、また、遊びに来てくれたじゃないか」
('A`)「でも、随分待たせた」
川 ゚ -゚)「私は、気にして、ないよ」
('A`)「有り難う、クー」
川 ゚ -゚)「ふふ、大きくなった、ドクオ」
('A`)「クーは、小さいままだ」
川 ゚ -゚)「ああ、そうだ、それより」
('A`)「ん、?」
川 ゚ -゚)「約束、」
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:53:07.56 ID:fkUxxi2hO
-
('A`)「あ……悪いクー、食べ物、持ってくるのを忘れた、御免」
川 ゚ -゚)「酷いな、約束、破るなんて」
('A`)「御免な、クー」
川 ゚ -゚)「じゃあ、ドクオ?」
('A`)「何だ? クー」
川 ゚ -゚)「いただきます、して、良い?」
('A`)「ぇ、」
川 ゚ -゚)「約束破ったら、ひどいぞって、言った、ね?」
('A`)「あ……ああ、そう、か」
川 ゚ -゚)「だからドクオ、いただき、ます」
('A`)「ぁ、あ、ああぁあ、あ゙、」
川 ゚ -゚)「いただき、ます、いただきます、ドクオ」
('A`)「は、ぁ、あは、は、お上がりなさい、クー」
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:55:09.43 ID:fkUxxi2hO
-
男は少しずつ無くなって行く身体と意識に、約束を破ったら事に対する罪悪感に涙を溢した。
二十年も待たせて、約束を破ったのだ。
悪いのは自分だと、男は左腕が無くなったところで改めて思った。
痩せこけた自分だけれど、腹は膨れるだろうかと、両手足が無くなったところで思った。
小さな箱の扉の脇、そこに存在するかすれた文字が、男の目に入った最後のいちまい。
( A )「……く、ぅ」
男の意識はぷつりと消えて、娘は口を拭いながら箱を見上げる。
そして口の端を持ち上げて、
「ごちそうさま」
『喰うようです。おわり』
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/01/19(月) 04:56:15.01 ID:fkUxxi2hO
- こんな時間に支援ありがとうございましたー。
猿死ね氏ねじゃなくて死ね。