- ('A`)Crazy for you?のようです
- 1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:09:11.69 ID:F+9T90it0
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00.
- 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:13:45.08 ID:F+9T90it0
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昔からよく女の子みたいだと言われた。
大人が使う褒め言葉であろうものも、同級生が言う無神経な発言であっても、それは幼い僕の心をひどく傷つけた。
一度傷つけられると、もう二度とこんな思いはしたくないと、その言葉をただひたすら気にしてしまう。
しかし分っていた。それ自体もまた、既に男らしくない行動だということを。
こんな性格がイヤだった。どうしても直したかった。
直したい、直したい、直したい、直らない。
その葛藤は僕を大いに苦しめ、日に日に自分が嫌いになっていった。
- 5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:17:18.96 ID:F+9T90it0
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僕には親友がいた。
しかしその相手は生きている人間ではなく、ぬいぐるみであった。
他の人には決して言えない僕だけの友達。
僕が小学2年生のクリスマスの日に、彼はやってきた。
小学校のころ”こども会”、地域の子供たちを集めてレクレーションをやるという行事があった。
本当はそんなものには参加したくなかったが、母親が「楽しんでらっしゃい」と微笑む顔を見ると、行きたくないなどとはとても言えない。
しかたなく参加することになったが、予想していた通り実に面白くなかった。
ビンゴだ、ドッヂボールだ、と騒ぐものの気が知れなかったし、何より人と喋らなくてはいけないということが辛い。
その頃には自分の性格に対するコンプレックスはとても大きなものになっており、自分の思考、発言、行動のすべてが気になってしまい、他人との会話を楽しむことができな
くなってしまっていたのだ。
そして帰り際に、役員である大人たちからプレゼントをもらった。
みんなは嬉しそうに中身の確認していたが、一刻も早く帰宅したかった僕はプレゼントを抱きかかえてすぐにその場から離れる。
遠くから、地域のムードメーカーである男の子が「こんなのいらねーよ!」と嘆く声が聞こえた。
- 6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:21:13.61 ID:F+9T90it0
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家に着くとさっそくプレゼントをあけた。
そそくさと帰ってはきたが、本当は中身がとても気になっていたのだ。
小さな体の僕にとってはとても大きな袋に見えたが、それほどの重みはない。
一体なんなのだろうと心を躍らせていた。
袋を開けると中から、おおきな白くまのぬいぐるみが顔をだした。
真っ白で、ふわふわしてて、目がパッチリしてて・・・とにかく
('A`)「・・・かわいい」
ぬいぐるみなんてひとつも持っていなかった僕はとても嬉しくなり、家族に自慢した。
母親は「よかったわね」とにっこり微笑んでくれたが、姉は「そんなのが嬉しいの?」と目をまるくした。
姉の言葉が理解できなかったが、父親に見せ「お前はお姉ちゃんより女の子らしいな」と笑われたときに全てわかった。
がっくりと落ち込む僕の耳にだけ、メードメーカーの男の子の嘆く声がまた聞こえた。
- 7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:26:44.76 ID:F+9T90it0
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そうは言っても、可愛かった。
母親は動物が苦手で、家ではペットは飼えなかった。そのせいか、ぬいぐるみのことをペットのように思っていたのかもしれない。
僕はその白くまに”ハチ”という名前をつけた。
由来は、自分自身が8才だったから、という単純なものだった。
名前をつけてからはさらに愛着が湧き、よりいっそう可愛がるようになった。
たまにぬいぐるみと会話できるという人がいるが、僕にはハチの声が聞こえるだとか、心が分かるだとか、そういったことはない。
単に触ってみたり、じっと見つめてみたり、枕にして寝てみたり、一方的なものだった。
しかし、それでよかった。
むしろハチがお喋りをするのならば、好きになれなったように思う。
- 8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:32:18.25 ID:F+9T90it0
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時が流れていくいちに、いつの間にかペットではなく、友達になっていた。
嬉しいことがあったとき、落ち込んだとき、傷付いたとき、僕にはハチがいた。
ハチに笑ってみせるだけで、さらにあったかい気持ちになった。
ハチのお腹で泣くだけで、気持ちが落ち着いた。
外では素直に笑うことも泣くこともできなかったが、ハチの前では本当の自分でいられる。
もちろん彼は何もしない。
一緒に笑うこともなければ、慰めてもくれないし、動いてもくれない。
それが僕には心地良かった。
優しくされることはないが、冷たくされることもなかった。
自分も批判することもなければ、変に説教することもなく、ただただ黙って(ぬいぐるみに黙って、というのは変かもしれない)そこにいれくれる。
当たり前のことがうれしかった。
- 9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:38:39.25 ID:F+9T90it0
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その一方で、他人との距離は広がっていった。
幼い頃から人との会話を苦手に感じてはいたが、うまくできるようになりたいと常々思ってはいたのだ。
しかし年を重ねるごとに、その考えは消えていった。
できれば他人と関わらずにいたい。
そうは言っても、全く関わらずにいることなんていうのは容易ではなかった。
こんな僕にでもたまに話かけてくれる人はいるし、好意をもってくれる人もいる。
そんな人たちを邪険にすることなどできるはずはなかった。
ただ、接してみて残るものはいつも後悔だけだ。
会話がうまく続くことはほとんどない。
愛想笑いも、感じの良い相槌も、冗談を言う事もできなかった。
苦笑いされるのが、困った顔をされるのが、詰まらないと言われるのが苦痛で堪らなかった。
自分を含めた人間というものが嫌いになっていた。
- 10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:45:32.33 ID:F+9T90it0
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言葉なんて必要ない。
そんなことを考えていた僕が就いた職は、小説作家である。
大学生の頃、掲示板に貼ってあったミステリー小説のコンクールのチラシを見て、何げなく応募してみた。
会社に入社しみんなで一丸となって働くなどということが全く想像もつかなったので、これをきっかけに小説家になれないだろうかと安易に考えてしまったのだ。
そしてなんとも幸運なことにそのコンクールで優秀賞をもらい、作家になることができたのである。
デビュー作はまぁまぁのヒット。
編集の人にも「これからも期待してるよ」と声をかけてもらえた。
しかし、2作目以降は大きな評判を呼ぶことはなかった。
担当の人は困ったように「なんかワンパターンなんだよねぇ」と呟いたあと、「おかしなことを書けばいいってものじゃないんだよ」と厳しい表情をした。
僕は何も言えなかった。
人生で初めて悔しいと思えた。
- 12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:49:14.61 ID:F+9T90it0
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その日もハチに助けを求めていた。
しかし、こんな気持ちになったのは初めてで、どうしたら気分が晴れるのか分からなかった。
じっとハチを見つめていると「何してんのー?」と怪訝そうな声が聞こえた。
ドアを開けたままにしていたので、僕の奇妙な姿が姉の目にとまったらしい。
「別になんでもないよ」
そう答えると興味なさそうに「あっそう」と言った。
不仲なわけではないが、姉の自分の価値観だけでものごとを計るところが苦手だった。
「いい加減に卒業したら?」
姉が続けた言葉の意味が分からず、姉を見ると姉も僕を見降ろしていた。
今までの生きてきて、良かったとこ・楽しかったことなどほとんどなかった。
人生はうまくいかないことが9割以上を占めている、と思っていたはずなのに、作家になれたとたんに忘れてしまっていた。
- 16 最後の2行は見なかったことにして!お願いします 2010/02/17(水) 06:52:01.30 ID:F+9T90it0
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姉は、僕が人とうまく関われない性格だと知っていたらしい。
姉弟なのだから知っているのは当たり前のことなのだろうが、なぜだかとても驚いてしまった。
そしてそれはそのぬいぐるみのせいではないかと言った。
僕は慌ててそんなことはないと否定したが、気付いてないだけだと冷たく一喝した。
姉はこれでも心配しているのだと言う。
やはり僕は家族から見てもおかしな人間のようだ。
今さら言われても傷付きはしないが、家族に言われると他人よりもずっしりと心に響く。
しかし、彼女の表情には嘘はなかったように思う。
いつも僕を批判する姉の言葉は、彼女なりの優しさだったのかもしれない。
やはり言葉というのは難しいものだ。
僕は姉に話した。
今日生まれて初めて感じた悔しいという気持ちについて。
- 18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:55:42.19 ID:F+9T90it0
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ハチ以外に相談したのは、何十年ぶりだろう。
説教も慰めも嫌いだった。
アドバイスなんか要らなかった。
そんなものをもらったところで、僕の気持ちはどうにもならないと思っていたから。
それぐらい僕の心は腐っていた。
もっとも、彼女の場合は慰めは省略されていたが。
「もっと真剣になってみたら?がんばってんのは分かるけど、一生懸命さがたりないっていうか。仕事しやすい環境作りから始めてみるといいんじゃない」
僕は正直言うと少々怒りを感じていた。
確かにこちら相談したとはいえ、よく知りもしないくせにここまでずけずけと言われると腹が立った。
- 21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 06:58:27.53 ID:F+9T90it0
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しかし、姉の言葉は当たっていた。
図星をつかれたから、腹が立ったのかもしれない。
僕はきっと浮かれていたのだろう。
人生はうまくいかないことが9割以上を占めている、と思っていたはずなのに、作家になれたとたんに忘れてしまっていた。
デビュー作のときは必死に資料を集め、展開を練りに練って、何日も徹夜した。
それを良く評価してもらえてとても嬉しかった。
しかし作品を重ねるごとに、闇雲にやっていただけのように思う。
反省をせず、振り返りもしなかった。
ただただ、その場で足踏みをしていただけだった。
- 24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 07:02:22.11 ID:F+9T90it0
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ひとり暮らしをすることにした。
姉の言葉を参考に、環境作りをから始めようと思い、実家の部屋よりも少し広い部屋を借りた。
必要最低限の家具と家電、そしておおきな本棚を購入し、いろいろな本や資料を集めると、今までとくに使い道のなかった貯金をほぼ使い果たしてしまったが、それでもよかった。
引っ越しの際、ハチをもっていくのは、やめた。
前までの僕なら当然のようにもっていったが、姉にこの性格はぬいぐるみのせいだと言われたことがとても気になっていた。
成長できていないと思われるのも、頭がおかしいと思われるのも構わない。
しかし、それの原因がハチだと勘違いされることはどんなことよりも不快だった。
僕はハチがいたからここまでこれたし、今を生きていれる。
これは決して大袈裟ではなく、真実であった。
ここまで支えてくれた。ずっとずっと甘えてきた。
これからは、ひとりでも頑張ってみようと思えた。
全て、ハチのおかげだ。
- 26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 07:05:11.07 ID:F+9T90it0
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そう思ったのが、2年前の春
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ζ(゚ー゚*ζ「ただいまー」
('A`)「おかえり」
ζ(゚ー゚*ζ「今日は寒いからシチューにするね!」
('A`)「うん、楽しみ」
ζ(゚ー゚*ζ「えへへ」
――――
彼女と出会ったのは、半年ほど前。
- 27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/17(水) 07:09:06.66 ID:F+9T90it0
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僕は彼女に出会えて幸せだ。
しかし、彼女はどうだろうか。
何も出来ない僕に
たくさんのことを教えてくれたけど
結局、僕は何も出来ないままだ
ごめんね、
ずっとずっと出来るフリしてたんだ
こんなこと言ったら、
君はどんな顔をするかな
続く