どろどろのようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:22:46.69 ID:ueuFbBn+0

吹きすさぶ風が冷たさという凶器となって僕の頬を打つ。
足元は覚束ない。ゴツゴツとした感覚が足の裏にあって、それだけが確かな感覚。
自殺するために作られたみたいな場所だ。

見下ろせば地獄を思わせる景色。鋭い岩が海面から顔をのぞかせている。
海はちっとも青くない。黒く、そして岩にぶちあたって白く。汚い。

自殺するために作られたみたいな場所だ。
だから敢えて逆らってみたんだ。正しくは、逆らわせてあげたのだ。
こうなる運命なのだなんて泣いた彼女の為に。
だってほら、僕は優しいからさあ。

僕は正しいからさあ。

僕は綺麗だからさあ。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします すみません、祭り無関係です…・・ 投稿日:2009/04/03(金) 23:23:57.80 ID:ueuFbBn+0









どろどろのようです







7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:25:50.91 ID:ueuFbBn+0

同僚の初本からそれを聞かされたときに、俺の脳内に例のあのBGMが流れてきたのは、
緊張感の無いこの警察署にその電話が入ったのが、奇しくも火曜日だったからである。

('A`)「どこの火サスだそれは」

(´・ω・`)「うん、すまない。”現実”なんだ。しかし、そのツッコミを入れたのは内藤、流石の兄、弟で四人目だよ」

下がり気味の眉をさらに下げて、初本は笑った。

('A`)「で?」

(´・ω・`)「此処に自首しに行きますから、どうぞよろしくお願いします、って行って電話は切れたよ」

('A`)「随分と礼儀正しい殺人犯だなそりゃ……」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:26:49.02 ID:ueuFbBn+0

もしもし警察ですか?わたくし茂羅と申すものですが、今お時間大丈夫でしょうか?
ああ、はい、よかった。110か109か、少し迷ったんです。流石に117は違うってわかったんですけどね。
では先に説明させてもらいますね。その方が手間もかからないでしょう?

私、人を殺しました。
なので是非、自首をしたいんですけれど、急に伺っていいかわからなかったもので。
何しろ人を殺したのも、自首をするのも初めてのことでして。全くの初心者なんです。

テレビでそういうシーンを見たことはあるんですが、肝心の警察に行ってからの手順は省かれているじゃないですか。
どこの窓口に行けばいいのか、とかそういうの、もっと映すべきだと思いません?
私、交番に財布を届けに行ったことはあっても、警察署に行ったことはないんでその辺さっぱりで。

ああ、つい長くなってしまいました。お忙しいところすみません。
では、これから伺わせてもらいますので、どうぞよろしくお願いします。
そちらへは、三十分ほどかかります。では、失礼します。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:30:17.49 ID:ueuFbBn+0

どうにも胡散臭く感じ、録音テープを聞いてみたはいいものの、
胡散臭さに磨きがかかっただけだった。
嫌みのないハキハキとした口調からは、何も感じられないのだ。
恐れや怒り、そして後悔さえも、微塵も。

('A`)「イタズラ、じゃないのか」

( ^ω^)「わからんお。とりあえず待つしかないおね」

慢性的な署内の平和ボケに大いに貢献している間抜け面こと内藤は、
この電話にすら緊張感を抱かないようである。

('A`)「三十分、か。電話は何分前に?」

( ^ω^)「えーと、十四分前だお」

('A`)「となると、あと十五分か」


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:33:56.06 ID:ueuFbBn+0
(´・ω・`)「いや、ここまで律儀だと二十分後に来るかもしれないよ」

( ^ω^)「なんでだお?」

(´・ω・`)「家に訪問するときは、約束した時間より五分十分遅らせるのがマナーなんだってさ」

ソースは昨日やっていた雑学クイズ番組だけどね、と初本が付けたす。

(;^ω^)「でも、十分も遅れたらツンにぶん殴られるお……」

(´・ω・`)「ま、臨機応変にってことだね」

こんな会話を聞けば、
”なんとまあ、これが現役警官の勤務中の会話だろうか?遺憾の意でアル!”
”税金泥棒もいいところ、謝罪と賠償を請求するニダ!”
と、善良な市民の方々思うのは仕方がないことだろう、とは思う。

俺とて善良な一警察官だ、そういった思いを抱かない日はないのだが。

('A`)「まあとりあえずだな、リア充は死ね」

(;^ω^)「おっ」

まあこの通り、かなしいかな、俺もこの署の平和ボケ要因なのである。
現実って厳しいね。彼女欲しいです。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:38:03.23 ID:ueuFbBn+0

さて、マナーを意識したのかは定かではないが、
電話の主が現れたのは、二十五分後のことだった。

('A`)「日本のノストラダムスこと初本君、感想は?」

(´・ω・`)「この程度、星を見ればすぐわかることであるぞなもし」

( ^ω^)「スゲーお、それっぽいお」

(;'A`)「いや、何処がだよ」

(´・ω・`)「ショボトラダムスと呼んでくれてもいいんだよ」

('A`)「ドラゾンビ並にダセーよ」

(*^ω^)「あ、懐かしいおそれ。ドラえもん見たいおー」

(;'A`)「テメーらいつまで学生気分なんだよ……」

( ´_ゝ`) 「三馬鹿の一員が言うことじゃねえな」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:42:21.75 ID:ueuFbBn+0

俺が全力で無視していた現実を口にしたのは流石の兄の方。
兄の方などと呼ぶのは、そっくりな顔をした双子の弟も同じ署内に居るからだ。
ちなみにこの兄も十分な平和ボケ要因であるので誤解のないよう。弟と居るときなどは特に。

('A`)「なんだ、お前も十分馬鹿じゃねーか」

( ´_ゝ`) 「上司に向かってなんて口を……まあいいか。俺らちょっと出てくるわ」

( ^ω^)「何かあったんですかお?」

( ´_ゝ`) 「いや、知ってんだろ例の火サス電話」

そんな名称がまかり通ってしまうとは、それでいいのか日本の警察。

('A`)「マジっぽい?」

( ´_ゝ`) 「ああ、火サスの殺したっていう少女がな、捜索願い出てる子みたいで、どうも……」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:45:15.57 ID:ueuFbBn+0

流石の兄の表情が一瞬曇る。
それに三馬鹿一同、釣られそうになったが、そこは上官、すぐに表情を変えて、

( ´_ゝ`) 「というわけでお前ら後は頼んだ!必ず戻る!」

と言って走っていった。こういうところが部下の信頼を得るのだろう。
実はこっそり尊敬している人の一人である。

(*´・ω・`)「あにじゃー!それ死亡フラグー!」

と初本が叫んだ。
ちなみに彼も一応上司にあたるのだが、とりあえず殴っておいた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:50:10.24 ID:ueuFbBn+0

結論から言うと、火サスと呼ばれた彼の言うことは事実であった。死体が発見されたのだ。
この辺では自殺の名所と呼ばれている、断崖絶壁という言葉を具現したかのような崖。
そこから少女をつき落としたのだと、彼が朗らかに語った通りに。

( ・∀・)「遺体は見つかりましたか?」

('A`)「……ああ、見つかったよ」

( ・∀・)「それは良かった。ご両親もお喜びでしょうね」

(#'A`)「ふッ、ざけてんのか!?」

(;^ω^)「ど、毒尾」

( ・∀・)「ふふ、そう怒らないで下さいよ。あそこ、聞けば自殺の名所なんて呼ばれているそうじゃないですか。
      潮の流れも早くって、遺体が見つかることもそう無いって。だから見つかってよかったと、そう思っただけですよ」

確かに、確かにそうだ。遺体が見つかったのはほとんど奇跡だった。
だからといって、こいつの言ったことを許せるわけもない。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:53:58.53 ID:ueuFbBn+0

( ・∀・)「正義感に溢れた刑事さんなんですね。当たり前か。正義感が強くなければ、なりませんよね、警官」

およそ取り調べをされている人間とは思えないような口調、表情。
ときには人好きがするような笑みを浮かべさえする。
取り調べが始まってから三日間、彼はずっとこの調子なのだという。
此処について開口一番に殺人を犯したと告白したくせして、理由を一向に話そうとしない。

世間話には応じるが、あくまで彼のペースで、話がひと段落すると、
「この刑事さんには理由を話す気にはなれません」と一言。
それっきり怒鳴ろうがカツ丼を出そうがだんまりを決め込む。いや、カツ丼は出してないけど。

「なんかキャバ嬢とかデリヘルとか、そんな気分」とは初本の迷言である。
そのこころは、”しばらく喋って、品定め、気にいらないとはいチェンジ!”らしい。
まあ、とりあえず初本のイスの座布団は取っておこうか。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/03(金) 23:58:24.26 ID:ueuFbBn+0

(#'A`)「俺が正義感が強いかはわからんが、とりあえずお前みたいなのは大嫌いだ。なんで素直さんを殺害した」

( ・∀・)「……」

( ・∀・)「ふふっ」

その笑みに、俺’S黒歴史のうちのひとつ、学生時代に告白した女の子に言われた、
”生理的に受け付けません”という一言が蘇る。

まあ、彼の顔は俺より、というか平均より上。
それでも吐き気がしたのだから、彼女受けた苦痛は相当なものなのだろう……
やっべ傷を抉り過ぎて泣きそうだ。右腕が疼くぜコンチクショー。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:01:02.59 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「私は、刑事さんが気に入りましたよ?」

(;'A`)「悪いが、そっちの趣味はねえ」

( ・∀・)「やだなあ、僕だって、女の子が好きですよ」

('A`)「……」

一人称が変わった。
彼の気に入った、はつまり気を許したということだろうか。
こんな奴に懐かれてもろ嫌悪しか抱かないのだが、そこはプロだ、それは表情に出さず、

( ・∀・)「凄い、嫌そうな顔してますね」

…に居ることは、無理でした。すみません、やっぱり俺も税金泥棒でした。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:03:40.50 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「なんで素直さんを殺害した、かあ」

友人とちょっと喫茶店でおしゃべり、といった風に、
両手を組んで、その上に顔を乗せて、笑顔。

( ・∀・)「あの崖に彼女が居たからです」

('A`)「……あのなあ」

( ・∀・)「ジョークですよ。ほら、何故山を登るのか、そこに山があるからさ、」

(#'A`)「ジョ……そんなこたぁどうでもいいんだよ!そもそも何であの崖に行った?!素直さんと面識はあったのか?!」

(;^ω^)「毒尾、落ちつくお」

( ・∀・)「そうそう、そっちの刑事さんの言うとおりですよ」

(#'A`)「……!!」

(;^ω^)「毒尾……」

( ・∀・)「心配しなくても、貴方にならちゃんとお話しますって」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:06:51.52 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「ええと、そうだなあ。あの崖に行った理由はですね。鮫をとろうと思ったんです」

もう駄目だこいつ。
助けを求めて振り返る。その先に居た内藤も同じことを表情で言っていた。

('A`)「………何故鮫を?」

( ・∀・)「どろどろしてるからですよ。刑事さんもきっとわかると思うんですけど」

('A`)「はは、買い被り過ぎですよ。さっぱりわかりません」

(  ∀ )「ウソツキ」

何の前触れもなく入ったスイッチ。
顔からは表情が消え、声から穏やかさは消えた。
責めるようなその一言に、悪いことをしてしまったような気がして、一瞬ひるむ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:11:03.94 ID:GRJ68l3k0

(  ∀ )「人間の、汚いところ」

(  ∀ )「それが、どろどろ」

そして、にたぁ、と音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる。
気持ち悪いを通り越して、怖い。全身が粟立つ。

( ・∀・)「あまりにも、全部がね、どろどろしているので」

( ・∀・)「通販で見たんですよ。血管のどろどろが、鮫の何かでさらさらになるって」

( ・∀・)「だから、鮫って凄いんだなあって思って。
      僕のどろどろもきっと鮫ならどうにかしてくれるかなって。ほら、僕って純粋なんですよ。ふふっ」

( ・∀・)「そうしたら、素直さんが居たんです」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:12:27.97 ID:GRJ68l3k0
一昨日にテレビで鮫のことを知ってから、僕はすぐに出かけました。行動派なんです。
いえ、本当の僕は行動とかしたくないんですけど、
引きこもって一日中ネットして無料エロ動画漁りたかったんですけど、
でもやっぱり僕は行動派なので行動したんです。

車の免許は持っていたので、ああこれも持たざるを得なかったといいますか、
まあ役に立つものなので別にいいんですけど、
とにかく持っていたので僕は車を運転して地元の海まで行ったんです。
知ってます?ラウンジ海岸っていうんですけど。
あ、刑事さん、この辺が地元なんですか?じゃあ知らないかもしれないですね。結構遠いですから。

やっぱり鮫って綺麗な海じゃないと居なさそうじゃないですか。
だって鮫ですよ?フカヒレですよ?その辺の汚い海に居るわけないと思いませんか?
だから地元の海にはいないなあと思ったんです。浜辺からしてゴミだらけだったんでね。

僕はコンビニでゴミ袋を買って、ゴミを全部拾いました。
勿論、本当は拾いたくなんかなかったけれど、ゴミが落ちていたから拾わなくてはいけなかったんです。
丸一日かかりましたよ。すべて拾うのには。凄く疲れました。

途中、犬の散歩をしているおじさんが手伝ってくれたり、小さい子が手伝ってくれたりしましたよ。
僕は笑顔でお礼を言って、うれしいと思わなければいけませんでした。
浜辺は本当に綺麗になりました。それだけは本当にうれしかったです。
でも、きっともうゴミが捨てられているんでしょうね。
だから、それを悲しいと思わなければいけませんね。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:17:15.18 ID:GRJ68l3k0

死ぬほど寒い比喩を使わせてもらうならば、彼はまるで夢見る少女のようだった。
すなわち、夢見る火曜サスペンス劇場。視聴率はだだ下がり。

('A`)「ちょっと待て」

( ・∀・)「はい?」

俺を見ているようで俺を見ていない。
目線は合っているのに、その目は俺の目玉を突き抜けたどこかを見ているようで。
…目の奥なんて脳みそしかねえぞ。

('A`)「なんだ、まあ、うん、そうだな、お前、おかしいんじゃないのか?」

(;^ω^)「ちょ、毒尾!」

('A`)「いや、言い方が悪かった。……つまりだな」

( ・∀・)「いいんですよ。実際、僕はおかしいんだと思います。
      きっと普通の人はこんな風には考えないんだろうなってくらいわかっています。
      でもね、刑事さん。僕は誰よりも優しくて、正しくて、理性的な人間なんです。
      僕は常々この世界は息苦しくて生きにくい世界だなあと思っているんですが、
      それはこの世界が汚れているからなんですよ。
      僕は綺麗過ぎて、だからこの世界が息苦しく感じるんです。
      つまり僕は、地上に舞い降りた天使なんですよ」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:20:49.79 ID:GRJ68l3k0

だ、

(;'A`)「だめだこいつ早くなんとかしないと……」

( ・∀・)「口に出てますよぉ?」

最早内藤も俺を止める気を無くしたようだった。

(;'A`)「キモいしゃべんな!」

警察官になってから大した年数は経っていないが、その中でもいろんな被疑者が居た。
同情してしまいそうになるくらいに憔悴したおっちゃん、日本の終わりが見えるような頭の悪いヤンキー、
延々と脅迫してくるオッサン、三次元に絶望するようなクソビッチ。

勿論頭がイってるのも居た。見えない誰かと交信してたりな。
でもこいつは、もう新ジャンルとしか言いようがない。
なんという嫌な新ジャンル、間違いなくこのスレは伸びない。

( ・∀・)「喋れって散々言ってきたくせにして。つまり、の続きはなんなんですか?」

('A`)「………」

俺には奴が、故意に狂っているように見えるのだ。
完璧な笑顔が、必死の笑顔に見えるのだ。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:24:04.19 ID:GRJ68l3k0

('A`)「その……なんだ?本当は行動したくないのにやっぱり行動派だとか、
    免許とりたくないのにとらなきゃだめだったとか、ゴミ拾いたくなかったのに拾わなきゃいけなかったとか、
    それはどういうことなんだ?」

( ・∀・)「ああ……」

( ・∀・)「貴方ならわかっていただけると思っていたんですけどね」

('A`)「そりゃ悪かったな」

( ・∀・)「いえいえ。こちらの説明が悪かったのかもしれません。そうですねえ……刑事さん?」

(;^ω^)「ぼっ、僕かお?」

にしても、俺も大概わかりやすい方だが、こいつには負ける。

( ・∀・)「ええ。貴方です」

( ^ω^)「なんですかお?」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:27:44.93 ID:GRJ68l3k0

取り調べなんてもんは、初本や流石の弟みたいなポーカーフェイスに任せときゃいいんだとつくづく思う。
無駄にいい大学を出てるあいつならこの意味のわからない供述にもなんらかの意図を見出せるだろうに。

( ・∀・)「想像して答えて下さいね。貴方は電車に乗っています。別に優先座席でもない、普通の席に座っています。
      満員というわけではないのですが、席は全部埋まっている状態です。
      そこにおばあさんが乗ってきました。貴方はどうしますか?」
 
(*^ω^)「おばあさんに席を譲りますお!」

(;'A`)「クイズ番組じゃないんだから、喜々として答えるな」

だけど、その明るい声色に少し救われた。
この火サスの話を聞いていると、胸のあたりがもやもやして気分が悪かったのだ。
まるで夜に考え事をしてしまったときのようなあの感覚。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:31:29.12 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「そうですね。私もそうします。でも、それはなぜですか?」

( ^ω^)「なぜって……お年寄りの方は若い人より立っているのが辛いんだお。
      みんながそうじゃないかもしれないけど、足腰が弱っている人が多いんだお。
      僕はまだ立っていても足腰が痛くなったりしないですお。
      だから席は僕よりおばあさんが座るべきですお!」

( ・∀・)「……貴方は本当に優しい方なんですね」

(*^ω^)「ふひ…「内藤」 ('A`#)

(;^ω^)「あ、ありがとうございますお」

( ・∀・)「……貴方なら、どうします?」

('A`)「そりゃ、俺も譲るよ」

( ・∀・)「それは何故ですか?」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:35:14.90 ID:GRJ68l3k0

(;'A`)「何故って、そりゃ、じーちゃんばーちゃんに席譲るのは常識だろうよ」

(  ∀ )「うふふっ」

(  ∀ )「ふ」

(  ∀ )「ふふふふうふふふふふふふふふふふふふうふふふうふふふふふふふ、あはぁ、」

内藤によって少し持ち直した気分が一気に冷めて落ちていくのがわかった。
俺は心からこいつが苦手なんだ、合わないんだと実感した。
情けない話、こいつが笑うだけで泣きたくなるくらいに怖い。

(  ∀ )「やっぱり、刑事さんは、そうだと、おもいましたよ、僕……」

何がおかしいんだ。俺の顔か。そうならどれだけ救われることか。
こんなことを思うことになろうとは、顔のことを言われるだけで
胃を痛めていた思春期時代の俺は想像だにしなかったろう。

( ・∀・)「僕は、嬉しいです」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:39:09.69 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「ねえ、刑事さん」

( ・∀・)「そこに、貴方、少しの義務感も発生していないと言い切れますか?」

('A`)「は?」

( ・∀・)「本当は座っていたいのに、でも譲らないと誰かから何か言われそうで、だから譲ったことはありませんか?」

('A`)「何、」

( ・∀・)「周りの目が気になって、譲ったことは?」

('A`)「…、」

( ・∀・)「無意味に、譲らなくてはいけないからという義務感に急き立てられたことが、全くないと言い切れますか?」

( A )「………」

( ・∀・)「ありますよね?」

( ・∀・)「大丈夫ですよ、僕もありますから」


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:42:40.34 ID:GRJ68l3k0

例えば……そうですね。

母親に「あなたは本当によく食べるわね、食いっぷりがよくて見てて気持ちいいわ」と言われたとします。
実際僕が言われたことなんですがね。刑事さん細いですから、こんなこと言われたことないかもしれないですが、
まあ想像してみてください。

僕はそれ以来、別に食べたくなくてもおかわりをするようになりました。
そうして親はまた同じような台詞を嬉しそうに僕に言いました。

父親に「お前は姉と違って大人しくて手がかからない」と言われたので、
僕は大人しくなりました。喧嘩もしたことがありませんよ。
姉に理不尽なことを言われても、僕はにこにこしていました。

父親は僕が将来お嫁さんの尻にしかれるんじゃないかと心配しながら、
やっぱり同じような台詞を言いました。
だから、僕が結婚したら、僕はお嫁さんの尻にしかれるでしょう。

姉に「あんたは肝心なところで失敗して、私に頼るんだから」と言われたとします。
刑事さんはお姉さんとか、居ますか?居そうですね。

僕はそれ以来、積極的に姉を頼りにするようになりました。
そうすると、姉は同じ台詞を呆れたように、でも笑って僕に言いました。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:47:08.57 ID:GRJ68l3k0

ある人に「お前って責任感強いよな」と言われて以来、
僕は何かを途中で投げ出すことが出来なくなりました。
そのせいで文化祭実行委員なんてものに他薦されたりして、刑事さんはやったことあります?
あれ、どんなに頑張っても不思議と誰かには嫌われるっていう不思議なものですよ。
皆自分のことしか考えていませんから、そうなるんですかねえ。

ある人に「茂羅君は頭がよさそうだね」と言われて以来、
勿論、もともとある程度の成績をとっていたからそう言われたのですが、
テストで悪い点をとれなくなりました。

ある人に「いつもニコニコしていて、優しい人だと思いました。その笑顔に惹かれました」
といった感じのラブレターを貰って以来、僕はずっと笑っているんです。
ずっとずっと、わらっているんです。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 00:51:11.08 ID:GRJ68l3k0

つまり僕は人に張られたレッテルをそのまま僕として作り上げていったのです。
そういったレッテルは良い悪いにかかわらず僕への期待であって、
その期待を裏切った瞬間に僕という人間は消えてしまうような気がして怖かったのです。

しかし本当の僕は気まぐれで、無愛想で、好き嫌いも激しいし、心の中で汚い言葉を吐き、
責任のある仕事からは出来れば逃れたい、勉強なんてものよりは、なんのためにもならない本をひたすら読んでいたい、そんな人間でした。

けれど僕を知る人に聞いてみればわかると思うのですが、
いわゆる僕の長所はそのレッテルで作られた部分だけであって、
それどころか、僕以外の全員にとっての僕はすなわちそのレッテルで作り上げた方の僕であって、
僕以外の誰も本当の僕を知らないわけで、………そうなれば本当の僕など必要ないと思いませんか?

ああそうだ、車の免許持ってないなんて言ったらびっくりされましてね、
それから急いで取りに行きましたよ。最初の話はそういうわけです。
車の免許って高いですよね。本当に欲しかったもの、全然買えませんでしたよ。

そう、レッテルのために本当の僕はいつだって犠牲に。

そういったことを考えて考えて考えて考えて考えて、
何度も何度も考えていると…………

………ねえ、刑事さん?

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします >>56 祭りとは無関係です 投稿日:2009/04/04(土) 00:56:00.10 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「優しさってなんだと思います?」

( A )「……………」

( ・∀・)「僕は、ずっと、優しくしなければならないという義務感に突き動かされて、優しくしていました」

( ・∀・)「貴方は、どうですか?」

( A )「……………おれは」

( A )「………………………おれは……」

( ^ω^)「少し!」

( ^ω^)「休憩をとらせてくださいお!さ、毒尾!」

( A )「………俺は……、」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:00:45.18 ID:GRJ68l3k0








”いつもお留守番させてるのに、文句ひとつ言わない、いい子なんですよ”
”絵をかくのが大好きでねえ、絵ばっかり描いてるんです”
”この子は、運動とかは全然だめで。人見知りも激しいから、友達も少ないみたいで”
”ほんと、私が居なかったら何にも出来ないのねえ。手がかかるったらないわぁ”
”毒尾、こういうの好きそうだよなあ。読んでみろ、絶対好きになるからさ”
”絶対そんなの向いてないって、やめとけよ”
”えーイメージと違う…………







64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:03:32.87 ID:GRJ68l3k0

…………………………………………

(´・ω・`)「ちょっと」

('A`)「あ」

(´・ω・`)「新人じゃあるまいし、被疑者に遊ばれちゃあダメだよ」

('A`)「………スンマセン」

( ´_ゝ`)「大丈夫、毒尾は落ち着けば出来る奴だってこと、皆知ってるからな」

( A )「…………ハイ」

( A )「……そうです 」

(*´・ω・`)「自分で言うな!」

( A )「………」

(;´・ω・`)「……大丈夫かこの毒尾」

(;^ω^)「顔色が悪いお。やっぱり代えてもらった方がいいお、毒尾」

( A )「大丈夫だ、よ」


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:07:59.29 ID:GRJ68l3k0

二人の行く道に、ひとつ、煙草の吸殻が落ちていた。

それを、かれは、とうぜんのように ひろって、ごみばこにすてた。

( A )「ねえ、流石さん」

( ´_ゝ`)「うん?」

( A )「なんで、それ、ひろって、すてたんですか?」

(;´_ゝ`)「………なんでって、落ちてたから?掃除のおばちゃんが大変だから?
      実は署内清掃大臣だから?」

(´・ω・`)「僕を差し置いていつの間にそんな出世したのさ」

(;´_ゝ`)「うう……すまん毒尾、別に理由はないんだが……気に触ったか?
      お前の好きなおにゃのこの吸ったやつだったか?」

( A )「だれかに、命令、されないんですか?」

(;´・ω・`)「おーい、大丈夫か?」

(; A )「ねえ、なんで」

(; A )「なんで、なんの迷いもなく、」

(; A )「………」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:11:31.25 ID:GRJ68l3k0

例えば
誰かが相談をしてきたときとかに、ああ、相手はこう言って欲しいんだろうなあとわかるときがあるだろう?
大抵の場合俺はそれを言いたくはないのだけれど、そう言って欲しいのならば言わなくてはいけないのだと、俺はそれを言う。

例えば
誰かが落ち込んでいたとき。そりゃ自然と慰めたくなるときはある。
でも俺は恐ろしく気分屋で、他人なんてどうでもいいときがあって、
でもそれでも慰めなきゃいけないってわかってるから慰めなきゃって、慰める。

例えば
子供が泣いていて、確かにそれはかわいそうだと思うのだけど、
けど俺がどうにかしたいかって言えば話は別で、でもほら俺は警察官だし、
だからどうにかしなきゃいけないからって、子供に話しかけるんだ。



人は言う。


「毒尾は優しいね」


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:14:59.17 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「おかえりなさい」

( ^ω^)「毒尾、僕が」

('A`)「いい」

('A`)「……優しさってのは、なんだ」

( ・∀・)「ふふ、それ、僕の質問ですよ。そうですね」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:19:26.93 ID:GRJ68l3k0

さっきの話の続きですが、僕だって、最初は本当の僕が明確にわかっていました。
今は猫を被ってる僕だって区別がつきました。心の中で暴言を吐いたりもしていました。

けれど、あるときから、
嫉妬しては「そんな醜い感情を抱いてはいけない」と、
人を見下しては「人を見下すなんてお前の方がダメな人間だ」と、
少し調子にのれば「すぐに駄目になる」と、
そういう思いが生まれるようになりました。

謙虚にならねばいけない、人の悪いところを探してはいけない、
調子にのってはいけない、嫉妬してはいけない、心の綺麗な人にならねばいけない。

そうした思いの中に、当然優しくならねばならないというものもありました。

それを嫌だという僕は、本当の僕のはずです。
それなのに、僕はそういった思いたちに従わざるを得ないのです。
物凄く強い力で、僕を従わせるのです。

僕は心の中でさえ、暴言を吐けなくなりました。
暴言を一行分吐けば、三行分の否定が僕の頭で暴れまわるのです。
何度それに反論しても、それを言い終える前に否定がそれを塗り替えて。

あまりにうるさいものだから、僕は耳を塞ぐこともありました。
全ては僕の頭の中で繰り広げられているというのに、耳を塞いだって、無意味だと思いますか?
けれど、不思議と落ち着いてくれるんですよ。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:23:54.18 ID:GRJ68l3k0

どろどろが生まれたのも、そういった思いたちを抱くようになった頃でした。
とても優しくて、心の綺麗な人を見て、僕の心が嫉妬に狂ったとき、
「嫉妬してはいけない」という思いがそういった僕の心を必死で殺そうとするのです。

本当の僕の心は滅茶苦茶に殺されて、どろどろに溶けていきます。
そして僕は嫉妬などはしてはいけないな、と思うのです。
その戦いが繰り広げられている間、僕は胸が苦しくて、息も出来ないくらいに苦しくなり、
身体中がどろどろしている気がして気が狂いそうになります。
けれど嫉妬してはいけないのは正しいことなので、僕は仕方ないとそれを受け入れます。

僕は考えます。
こういったいわば自浄作用が働く僕という人間は、
そもそも綺麗なのではないか、と。

もっとも綺麗な人間とは、つまり私なのではないかと。
この苦しみは、こんなにも汚い世界で、必死で生きている結果なのではないかと。

汚い世界で生きていくための僕と、本当の僕である私が、
真に溶けあったときに、僕は本当の僕になれるのでは?

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:30:50.50 ID:GRJ68l3k0

( ・∀・)「真の優しさとは、誰にも命令されないで、心から相手のためになることをすること」

( ・∀・)「僕は素直さんを殺したときに、初めて真の優しさを手に入れました」

( ・∀・)「彼女は、死ななければならないと泣いていた」

( ・∀・)「本当は、自殺なんかしたくなかった」

( ・∀・)「だから、僕は彼女を殺しました」

( ・∀・)「彼女を殺したとき、僕は本当の僕を手に入れたんです。本当に、満たされた気持です」

(;^ω^)「お前は…、狂ってるお」

( ・∀・)「ですって、刑事さん。酷いですねえ」

(#^ω^)「毒尾は狂ってなんかないお!毒尾は、本当に優しいんだお!
       僕が落ち込んだとき、さりげなく慰めてくれたり、ツンとの仲をとり持ってくれたり……
       この署の皆、ドクオが優しいのは知っているんだお!」

( ・∀・)「………可哀想に」

(#^ω^)「もう、代わってもらうお!流石兄さんでも!弟さんでも!ほら、毒尾!」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:37:53.44 ID:GRJ68l3k0

( A )「……う」

( ・∀・)「苦しいでしょう?胸のあたりが、どろどろしているでしょう?」

(#^ω^)「毒尾!」

( A )「……」

( ・∀・)「大丈夫、刑事さん」

( ・∀・)「全部、わかりますよ。落ち着いて」

( ・∀・)「ゆっくりと、耳を塞いで、目を閉じて」

(#^ω^)「毒尾!ああもう、誰か呼んでくるお!」

( ・∀・)「…………ほら」


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:40:41.47 ID:GRJ68l3k0

( A )「ああ、そうか」

どろり。

( A )「そうか………」

ぼたり。

( ・∀・)「僕、優しいから、刑事さんを助けてあげたくて」

どろり。

( A )「ああ、本当に、お前は優しいやつだ」

ぼたり。

( A )「俺も、なれるかな?」

どろり。

( ・∀・)「大丈夫ですよ。刑事さんが優しい人だって、知ってますから。だから、お話したんですよ」

どろり。

( A )「そうか」

( ∀ )「ああ、よかった」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:44:56.19 ID:GRJ68l3k0









聞こえたのは、泣き声だった。











92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:49:37.85 ID:GRJ68l3k0




| *^o^*|「どうも みなひゃんおはようございまうぅ じゅーむいんちょーゆれす!」

| ^o^ |「ろれつが まわって いません」

| *^o^*|「どうって こと ありゃましぇん!おたけ なんか のんれ まへん!」

| ^o^ |「ろんがい です 一回死ねばいい です さて本日は 現職の警察官が 取り調べ中に 容疑者を殺害、という ショッキングな ニュースから………」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/04(土) 01:52:27.61 ID:GRJ68l3k0

(  ∀ )







 」

( ∀ )

                 のようです 終わり



逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan