- (,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 2 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:45:24.82 ID:oI8DgOzr0
-
――――第六話
『I don't Know How』――――――――――
だから、確かめるんだ
- 5 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:48:30.16 ID:oI8DgOzr0
- 白く長い通路を、空軍長であるセントジョーンズは歩いていた。
(’e’)「…………」
護衛も付けずに進んでいく姿は心細いものだ。
更に、五十を過ぎた小柄な体型とって、その通路は余計に広く感じられる。
ただしそれは、彼が着ている軍服を無視するならば、の話である。
裾の長い軍服には、今まで受けた様々な勲章類が、胸や肩の位置で揺れている。
それらは時折、互いに接触することで金属音を立てるわけだが、
その音の群れこそが、セントジョーンズという男が高い地位にいることを示していた。
どこまで続くか解らない廊下は、しかし唐突に終わりを告げる。
辿り着いたのは、両開きの大きな白扉だ。
(’e’)「ここをくぐるのも久々だな……」
それを、セントジョーンズは立ち止まりもせずに押し開く。
重い軋みをあげながら扉が開いていく先は、
ミ,,゚(叉)「――よぉ」
と、一人の亜人が構える広い会議室だった。
- 8 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:50:39.22 ID:oI8DgOzr0
- ここは、チャンネル・チャンネル軍部における、
各軍を統括する軍長のみが使用を許される専用の空間だ。
白を基調とした色の中、中央には広く黒いテーブルが置かれ、
そこには三つの椅子が三角点上に配置されている。
亜人が座っているのは、向かって右にある椅子だ。
堂々と姿勢を崩している彼は、入ってきたセントジョーンズを見て、
ミ,,゚(叉)「何月振りかねぇ、空軍長セントジョーンズ。
互いに多忙なせいで、ここで会議するのも久々だな。
あと、フサギコが世話ンなった」
グレーカラーの体毛に覆われた大柄な人狼だ。
特に亜人種の血を濃く継いでいるのか、顔の造型は犬や狼を連想させる。
そして彼の粗暴な性格を示すかのように、
素肌の上に、やはり勲章や記章で飾られた軍服を引っかけていた。
それは、彼の地位がセントジョーンズと同等であるということで。
嫌味のない笑みに対し、セントジョーンズは首を振りつつ、
(’e’)「気にするな。 陸軍長ヴォルフ。
アレは良い素材だ。 気概も知識もある。 大切に育ててやると良い。
ただし、少々考え過ぎて突っ走る傾向があるようだな」
ミ,,゚(叉)「俺も常々言ってやってンだが、どうも根付いた性格らしくてな。
そのしょっぱいところがどうにかなれば食えるんだがねぇ。
まぁ、今回のことで色々考えることもあったらしいし、良しとするか」
- 11 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:52:48.06 ID:oI8DgOzr0
- 言っている間にもセントジョーンズは会議室を歩き、己の椅子へ手をかけた。
三角点上で言えば頂点に位置している席だった。
(’e’)「海軍長はまだかね?」
ミ,,゚(叉)「いつも通り遅れ気味らしい。
入港に時間が要るとか何とかな」
(’e’)「ふむ。 彼女の艦は『霧女王(ネーベルケーニギン)』だったか。
ならば時間が掛かるのも仕方あるまい」
視界の左端でヴォルフが動いた。
巨大な鉄の右腕をテーブルに乗せ、硬い音を響かせる。
それはこちらの方へ身を乗り出してきたということで、
ミ,,゚(叉)「それより、あの都市に行ってきたんだろう?
上層部に無断で『無邪気な姉妹』を動かしやがって……無茶したな。
どうだった?」
(’e’)「どう、とは?」
ミ,,゚(叉)「食えそうかどうか、美味そうかどうか、だよ」
- 12 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:54:34.31 ID:oI8DgOzr0
- (’e’)「君の基準は相変わらずそれか。
流石は肉食系狼種の亜人だな、ヴォルフ=リーズィヒゴット」
ミ,,゚(叉)「牛、羊、豚、鳥、馬、象、猪、人、竜……何でもいけるぜ、俺は。
美味けりゃそれで良いし、鮮度があればもっと良い。
だが腐ったのは駄目だ。 歯応えが無さ過ぎる」
(’e’)「そんなグルメな君なら気に入るかもしれんな。
なかなか面白いものを見せてもらったよ。
最低限、小型の竜に対抗する術は持っているらしい」
ミ,,゚(叉)「ほーぅ……下位種とはいえ、お前が飼ってた竜をねぇ。
まぁ、それくらいはやってもらわねぇと駄目だわな。
何しろ、あの都市は俺達の――」
言いかけた時、それを止めるような音が来る。
それは先ほどセントジョーンズが通った扉が、再び開け放たれた音だ。
二人の待っていた人物が、ゆっくりとした足取りで会議室へ入ってくる。
(’e’)「どうやら長い船旅だったようだ。 疲れが少し見えるぞ」
ミ,,゚(叉)「アンタも久々だな、海軍長」
J( 'ー`)し「――貴方達こそ疲れているようにも見えるわねぇ。
長期開拓任務の私と違って、色々と動き回らなきゃいけないもの。
ご苦労様、と言わせてもらおうかしら」
- 14 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:56:17.12 ID:oI8DgOzr0
- 姿を見せた人物は、女性であった。
柔和な笑みを浮かべた表情は、どう考えてもこの場には不似合いである。
見た目としては何処にでもいそうな中年女性なのだが、
他の二人と同じ軍服を羽織っている以上、そういうことなのだろう。
ヴォルフが口端を上げ、彼女を眺め回し、
ミ,,゚(叉)「はン……相変わらずの母親っぷりだな。
『海なる母』の異名通り、アンタ相手じゃあ、どんな奴も毒気を抜かれちまう。
それで本名がアレなんだから世の中よく解ンねぇ」
(’e’)「ヴォルフ」
ミ,,゚(叉)「解ってるさ。
『カーチャン』、もしくはそれに準ずる呼び名。
それれで良いんだろう?」
J( 'ー`)し「ふふ、アンタ達みたいな子にそう呼ばれると嬉しくなるねぇ。
なぁに? そんなに甘えたいの?」
ミ;゚(叉)「お前が『そう呼ばないと軍辞める』って言ってるからだ……」
ヴォルフの半目になった視線を受けつつ、カーチャン海軍長が己の席に着く。
そして完成したのは、入口から見た時、右にヴォルフ、左にカーチャン、
中央奥にセントジョーンズが座るという形だ。
それは、チャンネル・チャンネル軍部が誇る三大軍長が揃ったことを示している。
- 19 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 20:59:27.58 ID:oI8DgOzr0
- 空軍長、『不墜鳥』、セントジョーンズ=ウワアー。
陸軍長、『狼王』、ヴォルフ=リーズィヒゴット。
海軍長、『海なる母』、カーチャン(本名不明)。
本国のほとんどの戦力を動かせる三人が、この場にて言葉を交わすのだ。
たった一言で都市や国が滅びかねない状況の中、三人は静かに頷いた。
(’e’)「……これで三軍長が揃ったわけだな。
改めて言おう。 久し振りだ、二人とも」
ミ,,゚(叉)「おう。 俺は本国に残ってることが多いが、
お前らは戦艦持ちであるが故に、任務の多くが遠方で行われるからな。
次、こうしてゆっくり話せるのもいつになることやら」
J( 'ー`)し「そうねぇ。 でも今回だって本当は無理だったのよ?
それをちょっと無茶言って許してもらったのだから、次があるとしてもずっと先ね」
(’e’)「ならば、尚更貴重な時間を無駄にはすまい。
早速始めようか。 まずはそれぞれの情報交換から行おう」
他の二人を見て、
(’e’)「そして、これからどうするかを決めていこう。
あの未熟な都市に対して我々はどうしていくのかを」
一息。
(’e’)「――『プロフェッサーK』抜きで、な」
- 20 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:02:57.73 ID:oI8DgOzr0
- 学園都市北部にある医院は、
基本的に都市住人なら、誰でも診察や治療を受けられることになっている。
もちろん無償というわけではないが、それでも一般相場と比べて格安だ。
それに加え、血気盛んな若者ばかりな都市という理由もあり、
今日も医院は人の気配と音で満ち溢れていた。
「はい、痛かったら右手を上げて下さいねー」
「痛たたたた――!? 折り畳まれる!?」
「はははホントに上げてやんの。 はい続行――」
「23番の方ー、診察室へどうぞー」
「あっはっは、それでさー――」
「……早く行けっつってんだろゴルァ!!」
「ぎゃー!!」
「今日はどうしました? それはいけない、すぐ改造手術しましょう!」
「え? えぇ!? じゃあカッコよく!」
「任せなさい。
私はこれでも今流行っている特撮系書物の一話の途中まで読んでいるのです。
確か主人公が改造されかけていましたが、雰囲気でコツは掴んでいます」
色々と不安になるような気もするが、気のせいである。
- 22 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:05:30.72 ID:oI8DgOzr0
- ともあれ医院は今日もいつも通りの喧騒に満ちているわけだが、
敷地奥に建っている入院棟には、まったく真逆の雰囲気が漂っていた。
それは、人の気配が希薄であることを示す『静寂』である。
入院棟の内部も、医院本棟と同じような白を基調とした壁や床で構成されていた。
ただ根本的に異なるのは、今述べた通り、音が圧倒的に少ないことで、
特に最上階である三階部では、ほとんど音も声も無い状態だ。
そこに、一人の女子生徒がいた。
場所は入院棟三階の廊下。
その最も奥にあるスペースで、患者服に身を包み、車椅子に腰掛けて佇んでいる。
視線は、窓から外を覗くように置かれている。
/ ゚、。 /「…………」
ダイオード=ヴェルウッド。
武術専攻学部五年生であり、かつてクー達と共に戦っていた生徒だ。
- 24 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:07:16.05 ID:oI8DgOzr0
- レクリエーションにおいて、あの渋澤からダウンを獲ったという実績もあり、
当時は学園中の生徒達の注目を浴びていたこともあった。
だが、今の彼女にその力は無かった。
下腹部の上に置かれた右腕が、己の無力を謳うように力無く垂れている。
ぴくりとも動かないそれは、まるで人形の腕であった。
かつての事故で右半身の機能を失った彼女は、
こうしてほぼ毎日、日中の時間をここで過ごしている。
/ ゚、。 /「…………」
その目に、以前のような力強さは感じられない。
ただ、窓から見える墓地や森林地帯へ視線を置いているだけ。
/ ゚、。 /(生きているのかどうか、解らんな……)
一年以上も続けている無気力な入院生活だが、変化は未だにない。
身体は相変わらず右半分が動かず、心の方も沈んだままだ。
こうして車椅子に身を預け、ただ外を眺めることしかすることがない。
- 27 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:09:35.37 ID:oI8DgOzr0
- / ゚、。 /(毎日、よくも飽きずに……やはり心のどこかで望んでいるのだろうか。
外へ出たい、と。 元通りになりたい、と)
いつもならそこで首を横に振るところだが、今日は違った。
珍しく思考に続きがある。
/ ゚、。 /(やはり、昨夜の夢が気になっている、か……)
何も見えない黒い部屋。
遠くに見える黒い大剣。
こちらを見る黒い小男。
男は、言った。
漆黒の大剣を手にすれば、望む通りになる、と。
だが、
/ ゚、。 /(馬鹿らしい……いや、馬鹿な私らしい都合の良い夢だな。
何せ……腕も動かないのに、どうやって剣を握るつもりなのか)
右腕を見るが、やはり動きはない。
感覚も無いため、他人の腕を見るような気持ちだった。
- 28 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:12:18.06 ID:oI8DgOzr0
- / ゚、。 /「…………」
心に浮かぶのは諦念ばかりだ。
何もかもが自分には出来ない、と言い聞かせる毎日。
本当に馬鹿らしいが、事実なのだから仕方ない。
/ ゚、。 /(クーはともかく……ツーやジョルジュはどうしているだろう。
私など気にせず、強く成長してくれていれば良いが……)
事故から目が覚め、ツー達からの面会を遮断してから、外の情報も全て断っていた。
自分の諦念がツーやジョルジュに移っているかもしれない。
それを知るのが、とてつもなく怖かったからだ。
だからダイオードは、今の学園都市がどのようになっているのかをほとんど知らない。
知っていることと言えば、
/ ゚、。 /(春期の頃か……幻覚を見たんだよな)
墓地よりも遠くに映る森林地帯。
そこに、見覚えのある少女を、鮮やかな銀髪を持つ彼女を見たのだ。
視界に収めた瞬間、鳥肌が立ったことを覚えている。
まさか、と思うと同時、あり得ない、と記憶が囁いたのも覚えている。
何故なら彼女は――
/ ゚、。 /(……よほど参っているらしい。
アイツに会いたいと無意識に思ってしまったのか。
もはや、二度と会えないというのに)
- 29 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:14:06.47 ID:oI8DgOzr0
- 何もかもを失ってばかりだ。
友も、剣も、後輩も、環境も、何もかも。
それが己の諦念から来るものだとは解っている。
しかし、
/ ゚、。 /「こんな動きもしない手で……何が出来るというのだ」
僅かに震えた声で呟いた時だった。
ダイオードは、視界の端に色を見る。
/ ゚、。 /(銀――?)
顔を上げ、窓から外を見る。
ここから見えるのは墓地と森林地帯、そしてその向こうにある空だけだが、
実はもう少し姿勢をずらすと、医院入口の一部が見えるようになっているのだ。
そこを歩いているのは、かつても見た銀髪の少女だった。
- 34 名前: ◆BYUt189CYA >>32 訂正 投稿日:2009/08/29(土) 21:18:09.48 ID:oI8DgOzr0
- 思わず目を見開き、立ち上がろうとしたが、足は反応を示さない。
だから、というようにダイオードは、唯一まともに動く左手でグリップを握り、
/ ゚、。 /「……何をしようとしているんだ、私は」
会ってどうするつもりか。
今見た色は確かに見覚えがあったものの、それが彼女ではないことは明白だ。
何故なら、ハインリッヒはもうどこにもいないのだから。
……だから、あれは別人だ。
理性では、解っている。
けれど、感情では解っていない自分がいる。
/ ゚、。 /「偽物にすがるまで弱っているのか……だが――」
だからこそ、というように、ダイオードは頷く。
/ ゚、。 /「……確認しよう。 そして、今度こそ諦めよう。
私に希望などないことを……見てはいけないのだ、と解らせるために。
諦念。 それが、きっと今の私に必要なものだから……」
- 35 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:20:40.79 ID:oI8DgOzr0
- ギコは、ハインを連れて医院へとやって来ていた。
鍛えられた両手には大きなボックスが抱えられており、
(,,゚Д゚)「あとはこれを医院内に運べば仕事終了、と」
从 ゚∀从「じゃあ、俺はこっち持つな」
(,,゚Д゚)「頼む」
気楽に言いながら、医院の入口へと歩いていく。
ボックスの中には医療品を始めとして、薬物や輸血パックなどが入っていた。
都市外から買い付けたものらしく、その運搬を任されているのだ。
本来なら生徒会がやるような仕事ではないのだが、
クーとトソンに頼まれては、断るわけにもいかない。
手も空いていたし、体力をつけるという意味でも有効だという判断もあった。
- 37 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:22:36.03 ID:oI8DgOzr0
- (,,゚Д゚)「…………」
トソンの話を聞いてから、既に数日が経っていた。
結局、クーとの会話にあの話題を出すことはしていない。
部外者である自分が軽々しく言うべきではない、と解っているからだ。
向こうから話してきてくれた時だけ、真剣に応答しようと思っている。
それまでは自分に出来ることを続けるつもりだ。
クーの過去も重要だとは思うが、だからといって自分のことを疎かには出来ない。
何より、確率は限りなく低いが、いつか頼られた時に情けないままでは格好がつかない。
从 ゚∀从「……ギコ、それ一人で大丈夫なのか?
随分とデカいし、重そうに見えるけど」
横についてくるハインが、余った荷物を片手に言う。
入口である自動扉を開きながら、ギコは笑みを見せた。
(,,゚Д゚)「このくらいなら余裕。 伊達に鍛えてはないってことだ。
それより、手伝わせちゃって悪いな」
从 ゚∀从「俺は良いよ。 暇だったし」
(,,゚Д゚)「そっか。 ところでハインは医院まで来たことあったっけ?」
从 ゚∀从「ん? いや、今のところは世話にもなってないなー。
簡単な外傷なら自分で処置出来るし、無理でも保健室があるし」
(,,゚Д゚)「ふぅん……」
- 38 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:24:50.58 ID:oI8DgOzr0
- 医院の中は、相変わらず騒がしい。
ロビーの時点で既に人の数は多く、それぞれ雑談や応答を行っている。
どこからか悲鳴が聞こえている気もするが、ギコとハインは無視しつつ、
从 ゚∀从「……そういえば、ちょっと気になることがあるんだけど」
(,,゚Д゚)「?」
从 ゚∀从「ほら、竜が来る前の騒動……シナー達と戦った時な。
俺、身を隠すために人の少ない都市北部まで逃げたじゃん?」
(,,゚Д゚)「そうだなー。 偶然、俺が見つけたから良かったものの、
あとちょっとでも遅れてたらシナーに襲われてアウトだったっけ。
そういえば、あの影の術式ってどういう仕組みなんだろうな。
プログラム的に考えて――」
从 ゚∀从「――あー、ごめんギコ。 俺の話聞いてくれる?」
(;゚Д゚)「え? あ、ス、スマン」
从 ゚∀从「いいよいいよ。 で、問題はギコと出会う前なんだ。
俺はあの時、森林地帯の傍にいたんだけど、そこから墓地を見ててな。
学園都市にもこういうのあるんだよな、って思ってたら――」
少し言いにくそうに、
从 ゚∀从「――この医院の方角から、強い視線を感じたんだ。
距離があるからおかしいとは思ったんだけど、確かにここからだった」
- 42 名前: ◆BYUt189CYA >>40 訂正 投稿日:2009/08/29(土) 21:27:37.49 ID:oI8DgOzr0
- するとギコは首を捻った。
ロビーを横断し、奥のT字路を右へ曲がりながら、
(,,゚Д゚)「……? おかしくないか?
だってお前、ここには今日来たのが初めてなんだろ?
あの時点で医院からお前のことを見てる奴がいるのは変じゃないか」
从 ゚∀从「うん、同感。
シナーかなって思ったりもしたんだけど、アイツはもっと近くにいたはずだし、
だから……ちょっとよく解ンねぇんだよな」
ううん、と唸るハインを見ていたギコが、少し考えてこう言った。
(,,゚Д゚)「じゃあ、確かめてみるか」
从;゚∀从「確かめるって……」
(,,-Д-)「これでも特別生徒会役員だからな。
バッジ見せて理由は……うん、適当に言えば大体の所に行けるはず。
この荷物を届けたら後は自由だし、ちょっと探索してみよう」
从;゚∀从「良いのか?」
(,,゚Д゚)「日頃から真面目にやってるから、ちょっとくらいは良いだろ」
- 45 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:30:13.14 ID:oI8DgOzr0
- それに、他の生徒会メンバーもやっていることだ。
特に頻度が高いのはフォックスだと、ミセリから聞いている。
普段からブラブラしている怠惰な先輩だと思っていたのだが、
ミセリの話によれば、都市の様々な場所を歩き回って情報を集めているらしい。
何の情報かまでは知らないが、アレはアレでやはり生徒会メンバーなのだ。
(,,゚Д゚)「――っと、ここだったな。
すぐに終わらせるから、ちょっと待っててくれ」
言い、入っていったのは『薬品室』と書かれているプレートの部屋だ。
扉が閉まり、しかし中から引渡しのための会話が聞こえてくる。
从 ゚∀从「さて、と……」
少し時間が掛かりそうだったので、ハインは廊下にあるベンチに腰掛けた。
左右を見渡すが、人の姿は無い。
どうやらここは医院所属の人間が主に行き来する廊下のようだ。
特に目新しいモノが近くに無いことを確認したハインは、
軽く俯いて、ロビーの方角から聞こえてくる喧騒に耳を傾ける。
- 47 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:32:49.49 ID:oI8DgOzr0
- しばらくすると、誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
規則的に刻まれるリズムと残響から、女のものだと判断。
从 -∀从「……?」
床を映す視界の中、足音が自分の前で止まった。
見えるのは、こちらに爪先を向ける女物のブーツだ。
何か用でもあるのか、と思いながら顔を上げれば、
('、`*川「――――」
そこには、いつか見た記憶のある顔があった。
从;゚∀从「っ!? お、前は……!?」
('、`*川「……御久しぶりね。 学園生活を満喫してるかしら」
- 49 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:34:19.32 ID:oI8DgOzr0
- 数月前の記憶が思い浮かぶ。
ハインを捕縛する旨が書かれていた偽メールが出回った時、
その直前にハインと接触を得た女子生徒だ。
言動が、まるでこちらの全てを知っているかのような口調だったことを覚えている。
敵か味方かの二元論で言えば、前者の方が確率的に高いだろう。
そんな迷いが気配に表れたのか、女子生徒は制止するように、しかし静かな声で、
('、`*川「安心して。 今のところ、私は貴女の敵じゃないわ」
从;゚∀从「は……?」
先手を獲られた、という思いが、ハインの判断を鈍らせる。
('、`*川「信じて、と言うしかないわね。
それとも騒ぎを大きくして捕まえてみる? 何の証拠も出ないわよ?
そうなったら――」
小さな笑みを浮かべ、
('、`*川「――貴女の立場が悪くなるだけ、ね。
ただでさえ春期の事件のせいで貴女への評価が揺れているというのに、
善良な一生徒を捕まえておいて実は無実でした、なんてシャレにならないわ」
从;゚∀从「っ……」
- 51 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:36:18.98 ID:oI8DgOzr0
- 彼女の言うことは事実であるため、動けない。
同時に、自分が自身の安全を望んでいることに気付き、悔しくも思う。
今ここで捕まえれば、ほんの少しでも情報が得られるかもしれない。
しかし、もし何も出なかった時のことを考えると、身体が動かなくなる。
堂々と姿を見せているのが自信の表れだと、そう思って止まないのだ。
('、`*川「ごめんなさいね、別にイジめる気はないのよ?
ただ、今言った通りのことをしたら貴女の損になる、という忠告自体を、
私の『友好的である』という意思表示として受け取ってほしいわ」
从;゚∀从「じゃあ聞かせろよ……お前は一体、何を、どこまで知ってやがる?
あの時点で俺の正体に気付いてたはずだ……何者なんだ、お前は?」
('、`*川「私は貴女よりは多くのことを知っているわ。
でも、今それを言うつもりはないの」
そして彼女が懐へ手を入れる。
取り出されたのはシンプルな形状の携帯端末だ。
彼女は小さなウインドウを一つ展開し、それを指で摘まんで、
('、`*川「本当は、貴女と接触するのは出来る限り避けるべきなのだけれど、
個人的に色々とやっておきたいことがあってね。 受け取ってくれる?」
从;゚∀从「これは……アドレスデータか?」
('、`*川「もし誰にも頼れない状況が訪れたとして、
それでも助けが欲しければ、このアドレスに連絡を頂戴。
それがせめてもの……私にとっての、『反抗』よ」
- 54 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:38:41.00 ID:oI8DgOzr0
- そして止める間もなく女子生徒は去っていった。
颯爽と歩いていく後姿は、やはり一般教養学部だとは思えない。
残されたハインは少しの間呆然としていたが、
やがて渡されたデータウインドウを見て、携帯端末を取り出す。
ウイルスが混入されていないかチェックするが、反応は特に無い。
从;゚∀从(当然か……ここで敵意があることを見せちまったら意味がない。
それに形としての証拠が残っちまって不利になるからな……)
思い、そのデータを端末に転送する。
するとアドレス帳に一つのデータが追加されていた。
世話になるとは思わないが、ともあれ彼女との繋がりが出来たことを確認する。
しかし、その表示名を見て、ハインは眉を詰めることとなった。
从;゚∀从「どういうつもりだよ、こりゃ……」
表示された名前は既に変更されていた。
通常は『新規アドレス01』などと付くのだが、そこには、
――『The first one person』。
そう、表示されていたのだった。
- 57 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:43:15.94 ID:oI8DgOzr0
- 『薬品室』の中、抱えていたボックスを床に置いたギコは、
運搬物の責任者である医者と向き合っていた。
携帯端末を片手に、仕事内容の確認をして、
(,,゚Д゚)「じゃあ、これで全てってことで良いんすね?」
「あぁ、御苦労だったね、ギコ=レコイド君。
こんな雑用みたいなことを頼んでしまって申し訳ない。
あとで、ささやかだが武績を送らせてもらうよ」
(;゚Д゚)「こ、困るっすよ。 そこまでの仕事じゃないんだし、
都市のために動くのが生徒会の役目なんで……」
「良いんだ。 個人的に君のことは気に入っている。
それにまた仕事を頼むかもしれないから、そういう意味も含めて、ね」
そこまで言われてしまえば、こちらとしても断ることが出来なくなる。
渋々、といった様子で頷いたギコを見て、中年の医者は笑みを浮かべた。
「ところで、外にガールフレンドを待たせているのだろう?
武績授与の申請はこっちでやっておくから、君はもう行きなさい」
(;゚Д゚)「ガ、ガールフレンドって……」
- 59 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:45:55.60 ID:oI8DgOzr0
- 廊下に出ると、少し離れた位置にハインがいた。
彼女は壁際に設置されているベンチに座り、携帯端末を見ている。
(,,゚Д゚)「悪い、待たせたな」
从;゚∀从「え? あ、うん?」
(,,゚Д゚)「? ……何かあったのか?」
こういう時だけ鋭いよなー、と思いながら、ハインは改めて首を振る。
何でもないように振舞いながら、いつもの調子で、
从 -∀从「いや、何でもない何でもない。 大丈夫大丈夫」
(,,゚Д゚)「そっか? じゃあ、次はハインの用事を済まそう。
あの時、視線を感じた詳しい方向が解れば、そこを重点的に調べて――」
しかし、その言葉に被さるように新たな声が来る。
「――そこの御二方」
(,,゚Д゚)「え?」
いつの間にか、左手方向に一人の女性看護師が立っていたのだ。
- 62 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:49:23.20 ID:oI8DgOzr0
- 从;゚∀从(なんでこの都市の人達は気配消して現れることが多いんだ……)
などと思っていると、
「突然で申し訳御座いません。
そこの銀髪の……」
(,,゚Д゚)「ハインリッヒがどうしたんすか?」
「ハインリッヒ様、ですね。 御呼び出しが掛かっております。
これから入院棟へ御連れしたいのですが、よろしいでしょうか?」
二人は顔を見合わせる。
どちらにも心当たりはないようだ。
(,,゚Д゚)「……どういうことだ? しかも入院棟って医院の敷地内だと奥の方だよな」
从;゚∀从「敷地の……奥?」
(,,゚Д゚)「ハイン……? もしかして、お前が感じたっていう視線は――」
从;゚∀从「――あぁ、医院の奥にある施設からだった。
たぶん、今言った『入院棟』ってやつだ」
そして二人揃って看護師を見る。
彼女は無表情のまま、
「……よろしいでしょうか?」
頷くしか、選択肢はなかった。
- 65 名前: ◆BYUt189CYA >>64 訂正 投稿日:2009/08/29(土) 21:51:42.57 ID:oI8DgOzr0
- 入院棟には、独特の冷えた空気が満ちていた。
特に重傷・重病患者、面会謝絶を望む者達が集められるという三階部は、
下の階以上の沈黙と、そして一種の絶望感に似た何かが存在している。
二階から階段で上がってきた二人は、まずその重い空気に足を止めた。
見える光景は今までと変わらないのに、何かが決定的に違うことを感じたのだ。
先導する看護師の背中が遠ざかっていくのを見ながら、
从 ゚∀从「……学園都市にも、こういう雰囲気の場所ってあるんだな。
でも、今まで見てきたものが全て眩しかったから……意外だ。
軍部にも似たような施設があったよ。 俺には縁が無かったけど」
(,,-Д-)「ここは『前途を断たれた生徒が行き着く場所』なんて言われてる。
幸いにも数はそう多くないらしいが……それでも、いるにはいるんだ」
一息入れ、
(,,゚Д゚)「久々に来たけど……この空気にはいつまでも慣れることが出来ないな。
でも、ここにいる誰かがハインを呼んでるってことは確か、か。
それはやっぱり――」
从 ゚∀从「――だな。
俺がこの都市に来たのは春期だけど、ここに直接来たのは今日が初めてだ。
だから、それより前に俺のことを知ってた奴がいるってことで……」
- 66 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:53:13.10 ID:oI8DgOzr0
- それが何を意味するのかなど、考えるまでも無い。
緊張のせいか、少し肩を震わせたハインを見て、ギコは一歩を踏み出しながら、
(,,゚Д゚)「まだ決まったわけじゃない。
隔絶気味だとはいえ、ここにだって都市内の情報は入ってくるんだ。
だから、お前のことを知ってる奴がいたって不思議じゃない。
ただの興味かもしれないだろう?」
从 ゚∀从「……あぁ、そうだな」
(,,゚Д゚)「安心してくれ。 俺がついてるから。
それにここは学園都市だ。 呼べば生徒会メンバーがすぐに駆けつけてくれる。
だから、大丈夫だ」
言い切り、前を歩くギコの後姿は、
不安を抱える今のハインにとって頼り甲斐のあるものだった。
少し胸の鼓動が早くなったのを自覚しつつ、その背中についていく。
「よろしいですね?
御安心を。 雰囲気はともかく、危険はありませんので」
と、少し先で待っていた看護師に追いつき、再び三人で廊下を歩いていく。
- 69 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:55:22.28 ID:oI8DgOzr0
- 三人の足音以外、特に何も響かない通路を歩きながら、
ギコは看護師の背中に問いかけた。
(,,゚Д゚)「でも、随分と仰々しいっすね……。
なんだか金持ちの家に来て接待を受けてる気分だ」
彼女はこちらを振り向くことなく答える。
「御気に障られたのでしたら申し訳御座いません。
この階にて治療を受けておられる皆様方は、
様々な理由で他者との繋がりを持つことが出来ないことが多く――」
一息。
「――故に、こうして外部から来られる方は珍しいのです」
(,,゚Д゚)「…………」
从 ゚∀从「…………」
その意味を理解した二人は、沈黙することで返答とする。
- 71 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:57:33.04 ID:oI8DgOzr0
- 看護士に連れられる形で歩いていくと、やがて広い空間に出た。
本棚や椅子、テーブルなどが並べられたそこは、『談話室』と呼ばれる部屋だ。
ぱっと見、図書室と言われても信じてしまいそうな光景だったが、
隣にいる看護士の姿と、一面の白い壁や床が、ここが医院であることを表現している。
そして、その奥に人影があった。
車椅子に腰掛け、こちらを見ているのは、
/ ゚、。 /「…………」
呆然、という表情の女性であった。
从 ゚∀从「あの人が……俺を呼んだ……?」
「ギコ=レコイド様。 私達は外へ……」
(,,゚Д゚)「大丈夫なんすか?」
「ここが学園都市だと言ったのは貴方ですよ。
それに、もしもの時を想定しているのは貴方だけではありません」
どういうことか、と看護士を見れば、腰にナイフが差さっているのが見えた。
衣服とベルトの隙間に上手く隠しているが、その配置は素人のそれではない。
- 72 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 21:59:24.36 ID:oI8DgOzr0
- 「重病患者の中には、ヤミツキの影響を強く受けてしまった方もおられます。
時間さえ掛ければ治るものですが、やはりその間の危険は存在しますので」
一礼して、
「この状況での私達は部外者です。 ならば部外に出るのは当然の理。
参りましょう」
(,,゚Д゚)「…………」
有無を言わさない迫力に、ギコは黙って頷いた。
こちらを見る車椅子の女性と、彼女を見るハインに視線を向けた後、
先に行った看護士を追って談話室を出ていく。
/ ゚、。 /「…………」
从 ゚∀从「…………」
扉が閉まる音が響き、そして重い沈黙が満ちていく。
- 75 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:01:05.52 ID:oI8DgOzr0
- 互いに正面から相対した状況の中、先に口を開いたのはダイオードだ。
/ ゚、。 /「まさか、このようなことが現実にあろうとはな……」
从;゚∀从「え?」
/ ゚、。 /「見れば見るほど似ている。
白銀の頭髪、明朗快活を示すような眩しい表情、そして――」
己の胸に手を当て、
/ ゚、。;/「その巨乳……! くそっ、他人の空似だというのに、
そういうところまでトレースしていなくとも良いじゃないかっ!
私がどれだけ屈辱に思っていたか……!!」
いきなり苦悩し始めたダイオードに、ハインは一瞬言葉を失う。
よく解らないが、きっと精神的な病気なのだろう、と思うことにして、
とりあえず意思疎通のために言葉を交わすことにする。
从;゚∀从「一応、確認するけど……俺を呼んだのはアンタなんだよな?」
/ ゚、。 /「そうだ。 突然で悪かったな。
以前、よく一緒にいた人と同じ髪の色をしている君を見て、どうしても一目見たかったのだ。
感傷的で女々しいことだとは解っているのだが……ところで二年生のようだが、名前は?」
从 ゚∀从「……ハインリッヒ」
/ ゚、。 /「……!?」
- 78 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:04:29.60 ID:oI8DgOzr0
- 女性の表情が一変する。
両目を見開き、車椅子から身を乗り出す動きと共に、
/ ゚、。 /「馬鹿な……名前まで同じだと……?」
从;゚∀从「え、っと、どうしたんだ? 俺の名前が何?」
/ ゚、。 /「いや、すまん……どうしても確かめたいことがある。
出身地は――」
問いに、ハインは少し考える。
記憶がない以上、正確な答えを返すことは出来ないので、
書類に記載されている名目上の出身地を言い放つ。
从 ゚∀从「……チャンネル・チャンネルだ」
/ ゚、。 /「そうか……」
驚きの動きから打って変わり、女性は深く俯いて表情を隠す。
落とされた肩は、落胆や諦念を表しているようにも見えた。
何が何やらよく解らないハインは、とりあえず名前を聞こうとして、
从 ゚∀从「あの――」
/ ゚、。 /「――私の顔に見覚えはないか?」
と、追加するように、静かに問われた。
- 81 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:06:16.69 ID:oI8DgOzr0
- 強引系の人だな、と分析しつつ、彼女をよく見てみるが、
少なくとも今持っている記憶の中には該当しない顔であった。
そのことを伝えると、彼女は再び表情を暗くする。
/ ゚、。 /「やはり……そう、か。
そう都合良くいくはずもないよな。
何せあの時、アイツは確かに――」
从;゚∀从「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
/ ゚、。 /「どうした?」
落胆し切った表情の女性に、悪いことしたかな、と思いつつ、
从 ゚∀从「俺、実は記憶がないんだ。
この都市に来る前……と、その少し前の記憶が、さ」
/ ゚、。 /「記憶が……?」
从 ゚∀从「だからもしかしたら、それ以前に会ったことがあるかも――」
瞬間、いきなり女性が声を放った。
/ ゚、。 /「は、はは……ははははは……!
まさか、そのようなことが、あり得るというのか?」
身を折り、腹の中を吐き出すように笑う。
ほとんど声は出ず、掠れた吐息だけが談話室に響いていった。
- 87 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:10:29.33 ID:oI8DgOzr0
- それはしばらく続いたが、やがては止まり、女性がこちらを見る。
/ ゚、。 /「……すまないな。 頭のおかしい女だと思っただろう?」
从;゚∀从「あ、いや……」
/ ゚、。 /「良いんだ。 お前に言われるなら構わない。
はは、まさか諦念を得ようと思っていたら、その逆が来るとは。
悪魔の悪戯としか思えんな……」
頷き、
/ ゚、。 /「勝手に話を進めてすまなかった。
そして、お前の名だけ聞いて、私の名を言わないのはルール違反だな。
私はダイオード=ヴェルウッドだ」
从;゚∀从「ダ、ダイオード……!?」
今度は、こちらが驚く番であった。
ツーから聞かされた話に出てくる人物が、目の前にいるのだ。
しかも、その人が自分を呼び出すなど想像も出来ないことだった。
どうした、と言いたげなダイオードに、ハインは少し迷ってから、
从;゚∀从「えっと、ツー先輩から話を少し聞かされたので……」
/ ゚、。 /「ツー? ツー=メイルか? アイツと知り合いなのか?」
- 91 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:16:23.67 ID:oI8DgOzr0
- 予想以上の食いつきに、ハインはツーのことを伝える。
同室であること。
良き先輩であること。
しかし戦いを捨てていること。
ついでに、エロ野郎と呼ばれるジョルジュのことも言っておいた。
それらを聞いたダイオードは、眉を詰めた表情で溜息を吐く。
/ ゚、。 /「そうか……アイツらは、そんなことになっているのか。
戦いを捨てるなど、私のために馬鹿らしいことを……」
从 ゚∀从「ダイオード先輩は、ツー先輩達とは……」
/ ゚、。 /「もう一年以上も顔を合わせていない。
それは私が臆病だったことが――いや、今はそんなことどうでもいい。
しかし、私の知らぬ間に、外は変わったようだな」
動く左手で、動かない右手を掴み、
/ ゚、。 /「…………」
どうしたいのだろう、と自分に問いかける。
今、自分の前にハインリッヒがいて、戦いを捨ててしまった後輩達と接触しているという。
クーはクーで、おそらくあの時と同じように全力で疾駆しているのだろう。
ならば、自分は――?
- 95 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:20:06.16 ID:oI8DgOzr0
- / ゚、。 /「…………」
从;゚∀从「……えっと」
/ ゚、。 /「……すまない、ハインリッヒ。 今日は疲れた。
また後日、私と会ってはくれないだろうか」
从 ゚∀从「あ、それは大丈夫だけど……」
どうやら話が終わりつつあるようだ。
だから、というように、ハインは焦りを得つつ、
从;゚∀从「でも最後に聞かせてくれ!
ダイオード先輩は、記憶を失う前の俺を知っているのか!?
俺のことを、俺よりも知っているのか!?」
/ ゚、。 /「――あぁ、知っている。
おそらくお前よりも、お前のことを知っている」
从;゚∀从「……!!」
記憶が、目の前にある。
手を伸ばせそうな位置に、確実にある。
ハインの鼓動が跳ね上がり、その意味を自分で理解する。
从;゚∀从(俺は、やっぱり記憶を取り戻したいのか……!?)
- 99 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:26:01.23 ID:oI8DgOzr0
- 聞くべきか。
忘れるべきか。
いきなり現われた二択に対し、ハインは本気で迷いを得る。
要らないとギコに言ったあの時は、本当に要らないと思っていたのだ。
しかし、いざ目の前に存在すると解れば、知りたくなるのが人というもの。
望めるのなら、手を伸ばすべきなのだろうか。
迷いが段々と強くなり、腕に震えが来て、
/ ゚、。 /「……ハインリッヒ」
それを察知したのか、ダイオードは首を横に振った。
/ ゚、。 /「まだ、それをお前に教えようとは思っていない。
理由は言えないが、そういう考えだということを理解してくれ」
从;゚∀从「何故……?」
/ ゚、。 /「おそらく、これを知った時……お前は今以上の迷いを得る。
だからもう少し、自分の立ち位置を確認してからにしてほしい。
今教えてしまうのは、精神的に危険だ」
从;゚∀从「危険、って……危険って何だよ!? 何が危険なんだ!?」
/ ゚、。 /「すまん。 また、会おう」
- 101 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:29:40.35 ID:oI8DgOzr0
- 言った瞬間、背後の扉が開かれ、先ほどの看護師が入ってきた。
失礼します、という静かな声と共に腕を引かれ、談話室から退出させられる。
从;゚∀从「ダイオード先輩……!!」
/ ゚、。 /「先輩、か。 不思議な響きだな、ハインリッヒ。
私はその響きがとても悲しく聞こえるよ」
その言葉を最後に、談話室の扉が閉じられる。
(;゚Д゚)「ハイン!?」
廊下に連れられたハインを見て、ギコはベンチから腰を上げた。
从 ∀从「…………」
粘るような汗を顔に浮かべたハインが、そこにいる。
看護師に連れられる格好だが、姿勢に力はまったくなかった。
(;゚Д゚)「おい、大丈夫か!?」
「問題ありません。 ただ、動揺しているだけです」
(;゚Д゚)「動揺……? 何があったんだ!?」
看護師に詰め寄ろうとしてたギコを、ハインが力無く止める。
从 ∀从「……良いんだ、ギコ。 俺は大丈夫だから」
- 104 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:37:02.50 ID:oI8DgOzr0
- (;゚Д゚)「でも……! ハイン、何があったんだ? お前がそこまで――」
从 ∀从「……あの人、ダイオードっていうんだって」
(;゚Д゚)「っ!?」
从 ∀从「ほら、憶えてる? レクリエーションの時、ツンが言ってたろ?
渋澤からダウンを獲った唯一の生徒、って」
(;゚Д゚)「あ、あぁ、それは知ってる。 それと……」
少し迷い、
(;゚Д゚)「トソン先輩から、聞いた。
あの人がツー先輩とジョルジュ先輩の『理由』を作ったんだ、って」
从 ∀从「あぁ、ギコも聞いてたんだ……」
看護師の手から離れたハインは、ギコの胸に頭を預けた。
慌てて抱きかかえるギコの制服を握り、何かに耐えるように震え、
从;゚∀从「ギコ、どうしよう……あの人、以前の俺を知ってるみたいなんだ。
あの夜、記憶なんてどうでもいいって言ったけど……俺、俺……!!」
(;゚Д゚)「ハイン……?」
从;゚∀从「どうしよう……俺、知りたくなっちまった……!
自分の記憶を知れるって解ったら、知りたくなって……!!」
何かに怯えるような震えは、いつまでも止まらなかった。
- 106 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:38:48.30 ID:oI8DgOzr0
- 白の会議室では、三人の口から様々な情報が交わされていた。
通信では話せないことを優先的に交換し、吟味していく。
それは他国が知れば跳ねて喜ぶほどの重大情報の群であったが、
この会議が本国の軍事施設内で行われている以上、それを知れる者は三人以外にいない。
話し合いと情報交換は、三時間ほどで一区切りがついた。
ミ,,゚(叉)「ふぃー、やっぱりこういうのは性に合ってねぇなぁ俺。
フサギコの奴でも連れて来ておけば良かったぜ」
J( 'ー`)し「随分と彼を買っているようねぇ。 まぁ確かに可愛いけれど」
ミ,,゚(叉)「アイツはある種の天才だよ。 何かを吸収する才能が半端ねぇ。
今はまだ芽が出たばかりだが、いずれ陸軍長の座はアイツに譲ろうと思ってるくらいだ」
(’e’)「後継者とは、これはまた重大な情報が出たものだ」
ミ,,゚(叉)「いずれ周りの皆も思うだろうよ。
俺なんかよりフサギコの方がよっぽど良いってな」
(’e’)「狼の血を引く亜人族は、やはり冗談を言うのが好きなようだ。
術式という技術が生まれてから、誰のおかげで陸軍がその水準を保っていられると思う?
最新技術の恩威の多くが、航空艦などを戦力として保有する我々側に優先して図られる中、
それでも自軍の士気や数をほとんど減らさなかったのは、君のカリスマ性のおかげだろう」
ミ,,゚(叉)「やめてくれよセントジョーンズ。
俺はただ狼らしく吼えただけさ」
- 108 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:41:04.51 ID:oI8DgOzr0
- (’e’)「ただの人間である我々と異なり、君は獣の血を継いだ野性味溢れるリーダーだ。
それが、陸軍所属兵士の理念と合致していたのかもしれないね」
ミ,,゚(叉)「そこまで言われちゃ皮肉にしか聞こえねぇぞ。
薄汚い獣と、それに組する奴らは、地べたに這いつくばっていればいい、とな」
(’e’)「では君は、獣が翼を得て自由に舞う姿が美しい、と?」
するとヴォルフは少し考え、
ミ,,゚(叉)「……気持ち悪ィな」
(’e’)「自虐的かつストレートな意見をありがとう。
他の亜人種同志には黙っておくよ」
どうにも納得がいかない様子のヴォルフと、それを見て苦笑するセントジョーンズ。
そして二人を眺めて微笑んでいるのはカーチャン海軍長で、
J( 'ー`)し「――懐かしいわね、こういう掛け合いも。
こうして忙しくなる前は毎日のようにやっていたことなのに」
ミ,,゚(叉)「あの頃は俺達も若造だったわけだしなぁ。
何せ四十年も前だ。 新兵真っ盛りだったぜ、俺は」
(’e’)「懐かしいな……まだ小さかった娘達を可愛がっていた頃か」
J( 'ー`)し「あの人と出会った頃だったかしらねぇ」
- 113 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:43:49.86 ID:oI8DgOzr0
- それぞれ少し過去に思いを馳せ、
(’e’)「……不思議なものだな。
当時は立場すら異なっていたというのに、
今はこうして同じ目的のために動いているとは」
ミ,,゚(叉)「生まれも育ちも環境も違って、怨恨の部分だけ同じ、か」
J( 'ー`)し「しかも、その矛先を向ける方向を迷っているのよね。
私達が失ったものに対して、あの都市が存在する価値はどうなの、と」
少しの間、沈黙が訪れる。
それから逃れるように動いたのは、陸軍長ヴォルフで、
ミ,,゚(叉)「あーやだやだ。 こういう湿っぽいのは駄目だ。
毛が湿気で面倒な事になっちまうからな」
口元から伸びた髭を、爪で撫でながら、
ミ,,゚(叉)「――次は俺が出るぜ。 ちょうど、口実もあるんでな」
- 114 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:45:21.98 ID:oI8DgOzr0
- (’e’)「君はあの都市の何を確かめるつもりだ?」
ミ,,゚(叉)「奴らは竜という『強力な単体脅威に対する抵抗』を見せた。
だから俺は、少し違う切り口であの都市を確かめようと思う」
(’e’)「ふむ……成程。 君のやり方が何となく解った。
ならば、ついでに連れて行ってほしい者達がいる。
あとで送る資料とデータを確認しておいてくれ」
J( 'ー`)し「あんまり乱暴は駄目よ?」
ミ,,゚(叉)「無茶言っちゃいけねぇなぁ、カーチャンよ。
俺は人すら食っちまう狼だぜ?
そんな俺が相手に対して求める価値はそう多くねぇ」
舌舐めずりしつつ、
ミ,,゚(叉)「食えるか食えないか、美味いか不味いか、だ」
- 115 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:47:03.20 ID:oI8DgOzr0
- 言い切り、ヴォルフはその巨体を立ち上がらせた。
人の数倍はあろうかという身体は、まさに亜人種の証拠である。
テーブルに付いた両の鉄腕を軋ませながら、
ミ,,゚(叉)「久々の顔合わせ、有意義だったぜ。
何せ、俺達の誰もがこの恨みを忘れていなかったんだからよ」
(’e’)「当然だ。 忘れていないがために、このような役職に就いているのだからな」
J( 'ー`)し「上の人達が知ったらどんな顔をするのかしらねぇ。
軍の頂点に立っている三軍長が、個人個人の怨恨の持って行き場を探しているなんて、
夢にも思っていないでしょう」
(’e’)「あぁ。 だが、プロフェッサーKだけには注意を払っておけ。
奴は既に我々の胸中に気付いているはずだ」
ミ,,゚(叉)「その上で放置、かよ。 いけ好かねぇな。
ああいう手合いは何を考えてンのか解らねぇが……」
会議室の出口へと足を向け、
ミ,,゚(叉)「少なくとも意味のねぇことはしねぇんだよな。
だからおそらく俺達のこの行動も、奴にとっては意味があるんだろう。
だったら、せいぜい今は好きに泳がせてもらうさ」
(’e’)「……それで怨恨を晴らすことが出来るのなら、な」
- 120 名前: ◆BYUt189CYA 投稿日:2009/08/29(土) 22:54:17.32 ID:oI8DgOzr0
- こうして三軍長の会議は終わりを告げる。
その後、再び空軍長は遠地に赴き、海軍長は開拓現場へ戻っていった。
ただ一人本国に残った陸軍長は、己の軍を集め、何かの準備を始める。
その中には、緊張した面持ちのフサギコも混じっていた。
翌週、学園都市に陸軍長ヴォルフから直々に通達が届く。
その内容は、この都市を再び大きく揺する戦いの到来を、
テキストデータという形で簡潔に知らせていたのであった。