- 昔書いた中2病小説「底辺騎士と純潔」が出てきた
- 1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 12:55:22.62 ID:MdbSoFreO
- ミナアレイヤ騎士学院
ミナアレイヤ共和国の戦力強化・繁栄を目的として設立された騎士学院
国中の名だたる騎士の息子、上流階級の息子などが通うと言われる
要はエリート騎士養成学校である。
しかし、どんなに『上流階級の息子』や『名だたる騎士の息子』を集めようと
何故だろうか必ず『落ちこぼれ』は出てくるものである。
その落ちこぼれは、周りとどんどん開く実力差や人間関係、両親からのプレッシャーに耐えきれなくなり
かつてのエリート騎士候補生は「疎外感」「劣等感」と言う名の魔法によって僅かな期間で
我々で言うニート
…いや一応学籍はあるので『ネット』に化けてしまうと言うから恐ろしい。
そのネットこと
ボサボサ髪が特徴的なナイト・カリイ・ジ・シンドリアは今日も自分の名前にこめられた
『両親からの期待』と言う名の『最凶のプレッシャー』と戦いながら
学院寮で寝ていた。
- 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 12:57:26.05 ID:MdbSoFreO
- 寝て、銃のカタログを見て、買ってきたホウレン草のタルトを食べて、寝て、
戦闘機のカタログを見て、買ってきたペスカトーレを
食べて、寝る。
かれこれこんな事を半年近くも続けていた。
これからの時代は剣よりも銃!銃は軽い上、剣の何倍もの殺傷能力がある。
銃は剣よりも強し。
しかもカッコイイ!スマート!ブラボー!と来た。
これで剣を学ぶメリットも理由もない
なのでもちろんこれからも学院を卒業までその生活を続けるつもりである。
ああ、今日もホウレン草のタルトがうまいなぁ
と、上手な言い訳を自分自身に言い聞かせ、一人で勝手に納得していた。
納得していた…と言うよりナイトには余裕があったのだ。
一応騎士と貴族の娘の子供。
馬鹿みたいに金だけはある。
多分金さえ払えば卒業させてくれるだろう。
卒業さえしてしまえばこっちのもの。
学院を卒業すれば『騎士』を名乗れる。
騎士の給料はこの国では上から5番目くらいに高い。
一生金に困らずホウレン草のタルトを食べて暮らして行けるわけである。
だからこれからもこの生活を続けるつもりだし、続けられると思っていた。
- 4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 12:58:13.87 ID:MdbSoFreO
- ナイトは目を覚ます。
「4時か…。そろそろ町に出て飯、買ってこなきゃな」
よいしょ、と身支度を整える。
身支度と言っても髪を櫛でとかし、ズボンを履き、マントを羽織るだけの簡単な事なので
10分もかからない。
『なんで女って生き物はあんなに身支度に時間を掛けるんだか分からないな』などと童貞の癖に分かった様な独り言いいながら
両親から毎月送られてくる仕送りの金をポケットに入れ
出掛けようとする
…ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン
「…………!」
- 10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:01:26.61 ID:MdbSoFreO
- いきなり激しくドアを叩く音。
来客なんて何ヶ月振りだろうか。
とにかく絶対に関わりたくなかった。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン
音は更に激しくなる。
「るる…るっせーなぁ」
とりあえず強がって強気な独り言を言ってみた
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン
「…………チッ」
舌打ちもなんだか上手く出来ない。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン
「あ…開けりゃいいんだろ?………開けますよ。」
ナイトはそのしつこさに観念したのか、
あの本は隠したか?あのアイテムは隠したか?などを一通り確認した後
新品同様の特殊鉄で出来た一流品の剣を持ちながら、恐る恐るドアを開けた。
「………ったく人がこれから出掛けるって時に」
内心ビクビクしていることを悟られぬよう敢えて
たるそうな、魚が死んだ様な目で変わり者の客人を見上げる
…ナイトは驚いた
- 13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:04:38.27 ID:MdbSoFreO
- そこには中年の大男が立っていた。
化け物でも殺し屋でもない普通の男。
…が、ナイトは更に顔が強張り
背中が凍りつくと言うか、むしろ背中に一本でっかい氷柱が突き刺さった様な気さえしてきた
一歩も動けない。
『ゾクッ』なんてそんなあまっちょろいもんじゃない。
『ジャワギラウィシャ!』と良くわからない擬音が背中あたりから聞こえて来る。
その後、やっと脳が思考することを始めた。
まさか…いや、嘘だろ?
だって半年間平和に過ごせてたし、だってそんなここまで馬車で片道で………みっか……
考えたが、理解出来ない。
「こーんのぉ……クズがぁぁぁ!!!!!」
そんな客のセリフを聞き終える前に視界が揺らいだ。
何か鼻が一番痛い。ツンとした。多分…いや絶対大事な物が出た。
「………うぇぇ?」
なんと情けない反応であろう。避けることもなく、かと言って「なんだこの野郎!」と怒りの感情を剥き出しにするわけでもなく。
ましてや『やり返そう』などと発想することすら無さそうな間抜け面で
『うぇぇ?』と声を裏返らせるなど幼い頃から余り変わらない…いや、むしろ劣化しているとさえ感じてしまう息子の様子に大男は情けなくなった。
「ぐっ……………グラニウス父さん!」
- 15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:07:02.73 ID:MdbSoFreO
- ナイトの脳は思考の末、やっと結論を出した様だった
『自分の父親がいきなりやって来て、いきなり自分を殴った』…のだと。
その様子を見て、グラニウスは何とも耐え難い気分になってしまった。
それは次第に怒りへと変化して行く。
「…間抜けな面をしおって…根性叩き直してくれるわぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ…ちょ…ちょっとまっ……」
グラニウスの拳は美しい弧を描きナイトの顔の丁度真ん中当たりを右から左へと貫く。
と、同時に顔は歪みうねる。
まさにその時のグラニウスの顔といったらケルベロスの様な…いや、ガーゴイルの様なとにかく凄まじい迫力で
ナイトは殴られたと同時に…
漏らしてしまった。
抵抗する暇も能力も体力もなく、薄れ行く景色の中で「生活」との別れ、そして「パンツ」との別れを悟った。
- 17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:08:40.58 ID:MdbSoFreO
- 「…お前はこの半年何をしておった」
部屋を彩っていた
女銃士のマジックポスター・武器カタログ・可憐の六弾銃(レプリカ)など
『グラニウスが不要だと判断したもの』は全て捨てられ
ナイトの部屋は机とベッドそれから男二人だけという殺風景なものに変わっていた。
「……………寝てました」
大切な、この半年を共にした『友人達』を失い泣きたい気持ちでいっぱいいっぱいだったが、
ここで泣いたら殴られるので
我慢する。
「剣の修行は?」
グラニウスは厳しい顔つきをしていたが何故か目は潤んでいる様に思える。
「……………一切してません」
「まぁ、そうであろう。」
深い、深い溜め息をついた。
その後、少しの沈黙が続いた後
グラニウスは言葉を続けた
「粗方、お前は『金さえあれば学院を卒業できるだろう』とでも考えていたのだろうな。」
お見通しである。
- 19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:11:27.17 ID:MdbSoFreO
- 「しかし、『騎士』の称号は金で手に入るような甘っちょろいものではない。」
「……はい」
「お前のその甘い考え、堕落した生活は簡単には直らんだろう。…それに単位はどうするつもりだ。」
「…………………すいません」
「一年前にも、こんな話したよなぁ」
ナイトは一年前にも同じ事をしていた。
しかし、その時はグラニウスが学院側に話をつけ、留年は免れたのだが
「今回は助けんぞ」
「え………」
「『謝ってりゃ何とかなる』なんて思っているだろうが…もう親を頼るな。」
「そんな…酷いよ!」
「前にお前を助けた時、母さんに非道く叱られたのでな。」
「だからって僕を見捨てるの!?」
「見捨てるつもりはない。」
「じゃあ………」
「言っただろう。お前の根性を叩き直すと。」
嫌な予感がよぎった。
こうなると、道は一つ。
「自分の尻は自分で拭け。」
そう言ってグラニウスは一枚の紙を取り出した。
- 20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:12:51.17 ID:MdbSoFreO
- 「これって…」
「ああ。『底辺騎士(アンダーナイト)』の称号証だ。」
学院では単位が取れず、卒業出来ない生徒の救済措置として
彼らに『底辺騎士』の称号を与えている
『底辺騎士』は騎士と同じように国から年金は貰えるが
騎士の10分も1程度
街の人間には「騎士のなりそこない」と可哀想な目で見られる。
底辺騎士が騎士になるには
国王が認める程の手柄を挙げなくてはならず
実際底辺騎士から騎士になったものは今まで数名しか存在していない。
「申請………してきたの?」
「天空騎士グラニウスの息子が底辺騎士とは情けないが仕方あるまい」
「そんな…『底辺騎士』になれって…」
「これから仕送りも止める。家にも入れさせない」
「ええっ…!」
「年金があるんだから、それでなんとかしろ。」
「そんな………」
「それと学院も申請受理と同時に退学になった。明日には荷物をまとめて出ていくように。」
「そんな………出来っこないのよ!」
「出来なくてもやれ。私は帰る」
「ちょっと……ちょっと待ってよ!待ってよ父さん!」
グラニウスは勢い良くドアを閉めた。
- 22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:14:45.59 ID:MdbSoFreO
- 「……………」
グラニウスが「さっきは言い過ぎた」とか何とか言って戻って来るのを待ったが
夜になってもやっては来なかった。
終った。全て終った。
終わりなんてないと思っていた。
ただゴロゴロ楽だった毎日。
でも、突然…本当に突然
終わってしまった。
明日には手柄を挙げる為の旅にでなければならない。
その為にはパーティーを組まなきゃいけない。
その為には誰かに話し掛けなきゃいけない。
しかしナイトは今まで他人を避け、拒み、嫌い、出来るだけ関わらずに生きてきた。
その上、『底辺騎士』と来た。仲間なんて出来るはずもない。
これからの生活はどうする。
今、手元には5000ミナ
宿屋に泊まって飯を食べて酒を飲んで…もって2日である。
今までの生活は出来ない。
年金が来るまであと10日。
どうすればいい。
下着を取り替えつつ夢であれ悪い夢であれと神に祈った。
すると
大方の予想通り朝が来てしまった。
- 27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:17:20.77 ID:MdbSoFreO
- もう良い年の男がワンワン声を上げて泣きじゃくる姿はなんと情けない事だろう。
父親でなくとも殴り付けてやりたい気持ちで一杯になる。
気が済んだのかブツブツ独り言を言いながら準備をし始める。
まだそんなに使ってない、性能がやたらいい剣と盾。軽いが素晴らしい力を発揮する鎧
父親が入学時に揃えた不相応な品々を装備し金が入った袋と寝袋をリュックに詰めた。
廊下に出ると
「アイツ…底辺騎士になったらしいぜクスクス」
「退学かよー。根暗って損だなークスクス」
と皆に言われているような気がした。
ここにまだ居たい気持ちと早く立ち去りたい気持ちが混ざり合ったのか
ナイトは奇妙な早歩きをしながら校門に向かった。
銅製の獅子が中央で平民を威嚇し、「おめーらとは違いんだぜ」とでも言わんばかりに金が所々にちりばめられている
しかし無駄に豪華なだけであって一切防御能力もクソもないただの門。
ナイトは大きく息を吐いた
「いい天気だな。まさに俺の旅立ちを…」
「……………クソが」
- 28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:19:50.15 ID:MdbSoFreO
- 舌打ちをしながら地図を広げる。
地図の見方くらいは一年の実習で習ったからバッチリである。
「とりあえず街に行かなきゃな
まずは酒場に行ってこの国の内情とかを聞こう。
手柄を挙げるったって何をすればいいかもわからんからな」
やけに独り言が多いこの男は世間知らずのボンボンである。
特に今まで国の内情にも興味を持っては来なかったし
最近はあまり出掛けていなかったので尚更だ。
「聞くって事は………喋らなきゃダメだよな」
「…………やだな」
隣町に向かう足取りは重く
空気も澱んで感じた。
だからか、酒場まで普通なら30分でつく道のりなのだが
何故か二時間も掛かってしまった。
- 29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:21:51.55 ID:MdbSoFreO
- そして酒場の中に入るまで更に二時間を要した。
客が少なくなるタイミングを見計らっていたのだ。
ドアを開けるとカラン、と安っぽいがいい音がした。
「らっしゃい」
そこには痩せ細った初老の紳士が一人、カウンターでグラスを拭いていた。
「何にしますかね」
てっきり腕っぷしのいい豪快な大男が出てくるもんだと思っていたので拍子抜けした。
「…一番高い酒をくれ。」
内心緊張していることを悟られぬ様に
精一杯格好を付けながら喋った。
「何かお祝い事ですか」
「逆だ。底辺騎士になっちまった。」
「そうですか。」
「なあ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう。」
格好を付けている…というか端からみれば単なる無愛想な客にしか見えないナイトに対しても
マスターは笑顔を崩さなかった。
- 30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:23:21.92 ID:MdbSoFreO
- 「俺は……国王に認められる様な手柄を立てなきゃいけないんだ。
だから何か…ネタは無いものか」
「国王様に認められる手柄…ですか。
私めにはちょっと思いつきませんなぁ」
マスターの笑顔は苦笑いに変わった。
「しかし、まあ国中のグレムを退治すれば…王様からは分かりませんが
民には感謝されるでしょうな」
「民に……か」
『民に』では意味がない。
あくまで国王に誉められなきゃ意味がないんだ。
「しかし、現国王は民を大事になさる方ですからなぁ。
見返りはあるのではないでしょうかねぇ…」
「…………!」
『民』を大事にする『国王』。
ならば民を救えば
……ニヒヒヒヒ
- 31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:26:00.61 ID:MdbSoFreO
- 「よし、店主その『グレム』について聴かせて貰おうか」
急にナイトはハキハキした声を出す。
利己主義と言えばちょっと聞こえがいいような気がするが、
…単なる変わり身の早いクズである。
「グレムをご存知ないとな!」
マスターは目を見開く。
それもその筈。グレムは皇室と縁の深い街に良く出没し、若い女を犯し、男を食料として拐い、
はたまた街にある財産を奪い取る
多くの民を苦しめて来た最低最悪の化物なのである。
しかし、ムダに知能は高いのか騎士学院等といった自分達より『強い者がいる場所』には近付かない。
その代わり『自分より弱い』と判断したものには容赦なく襲いかかる。
2〜3年前から出没し始めたのであまりデータがないと言う点も更に民を苦しませる。
普通に授業を受けていれば『グレム』についての知識はあるはずなのだが、ナイトは前々から授業は寝て過ごしていたし
最近は出席すらしていなかったのでそんなこと知る由も無かったのだ。
マスターから話を聞き終わったあと、
ナイトの中の何かが久々にメラメラと音を上げて燃え上がっていた。
それは怒りか。はたまた勇気か。
「若い女を犯すって…」
「要はアレを無理矢理です」
「…許せねぇ。」
- 33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:29:41.44 ID:MdbSoFreO
- どうしてもこの手の話は許せなかった。
『可愛い女の子』を『新参の化物』が『無理矢理』
許せない。
こちとら20年近く生きているが童貞だ。
女宿に行く勇気すらないって言うのに若い娘を『無理矢理』なんて…許せねぇ。
どうやらナイトの中で燃え上がっていたのは怒りでも勇気でもない
『嫉妬』だったようだ。
「よし。じゃあ俺がこの辺りのグレムを一掃すれば…民は喜ぶんだな。」
「ええ。もちろん。それは大喜びですが…」
「ですが…なんだ。」
マスターの笑顔が少し険しくなった。
「グレムの数はとても多い上、非常に凶暴です。
ミイラ取りがミイラに…なんて事になりかねません。
今までも貴方と同じような事を言いながら戻って来なかった人間はたくさんいらっしゃいます」
要は、俺は死ぬのか。
…まあいいや。
何か今、死にたい気持ちでいっぱいだし。名騎士グラニウスの息子が底辺騎士。
世間の恥だし。親父も俺がいなけりゃスッキリするだろうし。
姉さんは俺より強いし。正式な跡取りになれるし。
学院追い出されて家にも帰れなくて行くあてないし。年金だってちょっとしか出ないし。
どうやって強くなったらいいか分からないし。だからと言ってパーティー組めないし。
もうこの先どうやって生きていけばいいか分からないし考えるの面倒くさいから
だったら死ぬか女の子に感謝されて騎士になるか賭けてみようかなとか思わなくもないな。
- 36 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:37:13.79 ID:MdbSoFreO
- 「ということなので…つまりあなたの剣なら…」
「………行く。俺は行くぞ。」「…はい?騎士様?」
「ああ。俺は丁度死んでも構わない感じでな。」
「死んでも構わないってそんな…」
「いいんだ。底辺騎士でいるくらいなら死んだ方がましだ。」
「…………いつ、御出立ですか」
「気が変わらないうち。」
と、言うかもうすぐにでも出たかった。
目的があると言うことは…なんか悪くない。
「世話になったな。釣りはいらない。」
酒は200ミナであったがナイトはグレムについて教えて貰った礼も含めて1000ミナをカウンターに置いた。
「こんなに…」
「いい。久々に話した人間がお前で良かった。」
マスターは不思議な男であった。
何ヶ月も…いや、下手すれば1年以上人とマトモに話した事がなかったナイトであったが、
何というか話しやすいというか話していて楽しいというか…
聞き手のプロなのだろう。
「しかし、こんなに頂いては申し訳が立ちませんので私から…」
マスターはカウンターの下から、何か丸いものを取り出した。
「…なんだそりゃ。」
- 37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:38:30.72 ID:MdbSoFreO
- 赤く丸い…艶々した…果実であろうか。
「知恵の実でございます。」
知恵の実…精神に何か幻惑魔法をかけられた時、正気に戻す力があると言われている。
「…北方の名物であろう。」
「ここには色々な方が立ち寄られますから。頂くんですよ…たまに。」
「貰って…いいのか」
「ええ。我々を助けて下さる騎士様にこれくらいの事しか出来ぬのは…心苦しいのですが…」
ナイトはちょっと…いや、かなり嬉しかった。
外へ出た頃には日が長い…と言えども、もうすっかり暗くなっていた。
………死にに行くんだなぁ
と言う実感の様なものが沸々と沸き上がってきた。
とりあえず暗くなってしまったので出発は明日の朝にすることにした。
明日には死ぬかも知れない。
そう思うと足は自然と女宿の方へと向いてしまっていた。
残り4000ミナ。
宿が300ミナ。
女宿が500ミナなので金銭的余裕はある。
童貞のまま死にたくない。
死ぬなら『一人の男』として死にたい。
出来れば恋人なんかも欲しかったがさすがにそんな時間はないので右手で我慢するにしても、だ。
童貞は我慢ならない。
そしてその夜ナイトは童貞を
卒業出来なかった。
- 39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:40:18.72 ID:MdbSoFreO
- 女宿にまで行ったのは良いものの『騎士軍団の貸し切り』だったらしい。
バッカジャネーノ
ヒドウテイノクセニオンナヤドキテンジャネーヨ
ソコハドウテイニユズレヨ
ツクヅクナイトッテクウキヨメネーナ
仕方がないので宿で泣きながら自分の半生を見つめ直すことにした。
己のジャンプ力を活かした剣法で
あの『キールズの闘い』でも数々の戦績を残した名勇でもあり、
国の守護騎士隊・隊長まで勤めた
新進気鋭の天空騎士・グラニウスの長男として生まれたナイト。
小さい頃は地域での大会にて賞を総なめ。
『神童』と呼ばれ家族からも近所からも女の子からもチヤホヤされていた。
特別枠で騎士学院に入学し…
よく考えるとここが人生の絶頂期であった。
入学してからは一般枠で入学してきた平民に負け、
その内成績最下位だった馬鹿貴族の息子にも抜かれ、
ここで1ヶ月くらい学校、行かなかったんだっけ。
でも父親が出てきてまた行くことになったけど教師からは冷たい目で見られ、
生徒達には『頭が足りナイト』とかいうあだ名までつけられた。
上手いこと言ったつもりなのが更に腹が立つ
それからまた引きこもりになって…今に至る
- 40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:41:48.95 ID:MdbSoFreO
- この堕ちっぷり。
情けなくて情けなくて目から涙が止まらない。
まさか10年前の自分は底辺騎士に成り下がってるなんて思いもしなかっただろう。
死にたくなってきた。
そんな所でちょうど日が差してきた。
タイミングが良いのか悪いのか。
とにかく、死にたくなって来たので鎧を着て
盾をもって剣をもってリュックをもって
ボサボサの髪は
…直さなくてもいいや。
飯もいらない。
ただもう森に行って死にたかった。
気が付くとグレムがよく出没する、という『処女の森』の入口に立っていた
多分この『処女の森』の『処女』には『処女航海』とかそんな感じの、
別に期待する様な意味ではないのだろうけど
やっぱり『処女』の森で死ぬとか…なんか情けない気がして来た。
やめようかな。
いや、こんなのはタダの言い訳だな。
ぶっちゃけ足がすくんで来た。グレム怖い。超怖い。
…やめようかな。
でも、マスターにカッコイイこと言っちゃったしなあー。
仕方がないので一応森を一周したら帰る事にした。
- 42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:45:42.59 ID:MdbSoFreO
- 木々が生い茂り、日光が美しく差し込む森。
こんな所で本当にグレムに遭遇しちゃうんだろうか。
大体森一周5〜6キロメイトだけど、どうしようか。駆け足しようか。
でも疲れるから歩くしかないな。
あんなに今朝は死にたがってたのに、いざとなるとどうしてこう
…臆病になってしまうんだろうか。
グレムってどれくらい強いんだろうか。
でも『神童』だったからな。多分倒せるよな。
しかし集団で来られたら困るなぁ…なんて余計な事を考えていたせいか
迷った。
一周してきた…ハズなのに出口が見つからない。
羅針盤も使えない。テント持ってこなかった。食料買い忘れた。
…どうしよう
何キロメイトも歩いた。が、出口は見つからない。どうしよう。
夕暮れ時になったが、やっぱり出口は見つからない。
朝飯食わなかった。昼飯食わなかった。何キロメイトも歩いた。
飯…………食いたい。
今グレムにあっちゃったらどうしよう…。どうしよう。どうしよう。
死にたい死にたいって言ってたから神様が本気にしちゃったのだろうか。
確かに死にたいは死にたいのだが、出来れば痛くない感じで死にたいのだ。
良く考えればグレムは凶暴である。
だからきっと、とっても痛くされてしまうのだろう。本当に我が儘な男である。
…………カサッ
何か、動く音がした。
- 44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:47:42.84 ID:MdbSoFreO
- グレムか?
そう言えばここはグレムが良く出没する森である。
今までグレムに遭遇しなかった方がおかしかったのである。
剣を構える。
…カサッ…カサッカサッ
だんだん近づいてくる。
そういやグレムってどんな姿してるんだろう。
見たことなかったからなぁ…
せめて美少女だったらいいなぁ…
ポニーテールで…
ちょっとつり目気味で…
スカートがめちゃくちゃ似合う…
17歳位の少女が、ナイトの目の前に立っていた。
「…………グレム!」
「ド・レイラ・ジュ・エラール・キラー」
グレムっ娘は呪文を唱えた。
「えっ…なに………それ」
「氷柱の刃」
そう少女が答えた瞬間、氷の矢がナイトに向かって飛んで来た。
「ぅぇぁぁぁぁぁぁ!ぁ!!!」
- 46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:49:36.71 ID:MdbSoFreO
- 声にならない叫びを発した後、自分自身を見てみると
木に…張り付けにされていた。「ぁ…ぁ…」
死ぬかと思った。
「誰が…」
グレムが近づいてくる。留めをさすつもりか。
もうなんかまた自分の半生を思い浮かべてしまった。
…あぁこれが走馬灯ってやつか。
「…誰がグレム、ですか?」
「いや、君が…」
でも美少女にやられるならまあいいか…とも思えてきた
さあ、一思いに…
「私は『純潔(マリア)』ですけど。」
「………え」
「ですから、グレムじゃないです。一緒にしないでください。」
驚きの展開である。
「驚きなのはこっちです。なんで私とグレムを間違えたりするんですか?」
「いや…俺…グレム…見たことないんで…」
- 49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:51:30.97 ID:MdbSoFreO
- 「私が野蛮な化け物に見えるってことですかね」
「いや………」
「第一グレムを知らないなんて…よっぽどの世間知らずで温室育ちの底辺騎士でもないと…」
「……………」
「あれっ…図星ですか」
図星ですが。
少女は木に刺さった氷を全て取り去り、ナイトを降ろしてやった。
不思議な事に身体には傷1つついていない。
「じゃ、さよなら」
そう言うとポニーテール少女は籠を持ち立ち去ろうとする。
「お…おい待てよ!」
「何ですか」
「俺…迷っちゃったんだけど」「どうせ『騎士』になりたいからとか言う理由で自ら望んで森に入ったんですよね」
「いや、その一周するだけで…」
「助けて貰って当然だと思ってる節、ありませんか。」
「いや…」
少女の視線と言葉が突き刺さる。
そういや…つい最近同じような事を言われたばっかりだな。
「……」
「まあ、多分このまま放って置けば貴方、餓死しちゃいそうですよね。」
餓死って苦しいんだろうか。
やだなぁ…
- 51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:53:08.71 ID:MdbSoFreO
- 「見殺しは…そうですね『マリアの教え』に反してしまいますね」
さっきの強力な魔法といい
『マリア』だなんだって、この娘は一体何なんだよ。
ヤバいもんに出会っちまった…のか?
逃げたくなったが
…何でだろう。
助けて貰えるかもと思ったら
逃げられなかった。
やがて、30分が経った
どのくらい歩いただろうか、少女がやっと立ち止まった。
「これは…」
目の前に建物が何軒も何十軒も建っていた。
民家だけでなく酒場や食事屋や…とにかく、一通り揃っている
森の中のオアシス、と言った所だろうか。
「私達の村です。じゃ、待ってて下さい」
「…えっ」
「待ってて。」
村の前まで来て、お預けを食らってしまった。
これは新手の嫌がらせだろうか
「あと鎧とか剣とかリュックとか…私に預けて下さい。」
「…は?」
- 52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:55:22.81 ID:MdbSoFreO
- どうして会って一時間も経たない人間に全財産を預けなきゃいけないんだろう。
新手の盗賊なのだろうか。
「盗んだりしません。とにかく、預けて。」
「や…やだよ。信用できねぇし…」
「じゃあこのままグレム襲われて死ぬか、餓死するか…」
「第一、何で俺を村に入れてくれないんだよ」
「話せば長いから…」
怪しさ満点である。
しかしこいつに全財産を預けなければ確実に餓えかグレムかで俺は死ぬだろう。
苦しいのも痛いのも嫌である。…仕方ないか
「…盗るなよ」
「わかってます。じゃ、10分くらい待ってて下さい」
少女は走り出した。
ホントに大丈夫…なんだろうな。
………
10分が経った。
来ない。イライラする。
…やっぱり盗まれたんだろうか俺の全財産。
そりゃ盗みたくもなるよな。
あれ、特殊な素材だから高いしな。
ナイトは…何故か少女の弁護をし始めた。
- 53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:58:10.61 ID:MdbSoFreO
- ……カサッ
「……………!」
少女だろうか。
足音が聞こえてきた。
……カサッ………カサッ
だんだん近づいて来る。
…信じてて良かった!やっぱりな。俺の判断に狂いはないな。
人を信じるって大事だ…な…
「う゛ぉあ゛お゛ぁ」
あれ…なんか
「あ゛ぁぁぁあ゛」
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
…伸びたよな
「う゛う゛ぅぅぅぅぅ」
身体も緑色とか…ホウレン草のタルトの食べ過ぎだな。
俺も昔お袋に叱られたなぁ…
「い゛う゛ぅあ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
…服を着ようよ
現実怖い。超怖い。
ナイトは認めたくなかった。
目の前にいるものがポニーテール少女ではなく
本物の『グレム』なんだと。
- 54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 13:59:10.00 ID:MdbSoFreO
- 唸っている。それとなんか睨んでいる。
それが1…に…4体か
今までグレムに出会わなかったのがむしろ奇跡だったのだ。
しかしタイミングの悪いこと。
装備を少女に預けてしまい今は手ぶら、丸腰なのである。
そんなところにグレム襲撃なんだから神様も意地が悪い。
か、よっぽど神様は人の言うことを本気にしやすいらしい
どうしよう。
本気でどうしよう。
ああもう何か飛びかかって来た。
終りだ。終り。今度こそ終わった。
3日前、俺はここでこんな目にあってるなんて全く想像してなかった。
ああ、ちゃんと授業出てれば良かった。
そしたら普通に騎士になれて…もういいや。
ママ、パパ、姉ちゃんありがとう
僕は…………
- 55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:00:41.29 ID:MdbSoFreO
- 「…シュミラ・デス・クロイヤ」
「消去魔法『イレイズマジック』(小)!」
声がした後グレムが…消えた。跡形もなく
全部が…なんで…
「お待たせしました。」
まさか…
「これを用意するのに、時間が掛かりまして。」
ナイトの後ろにツインテール娘がへんてこなドレスを抱えて立っていた。
「お前が…やったのか」
「詠唱に時間が掛かるからやなんですけどね。消去魔法って。」
「あれを一発で…」
「でも良かったです。詠唱が終わる前にやられちゃわないで。」
「すげえな」
「凄くありません。貴方が知らないだけです。
…はい、これ着てください」
少女はドレスを差し出した。
「…俺が?」
「着てください。」
「えぇぇェェぇぇえ!?」
- 56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:01:58.39 ID:MdbSoFreO
- 何でグレムに襲われた後に女装をしなきゃならないのか
てんで理解出来なかった。
「着せますね」
と、言った後無理矢理衣服を剥ぎ取られた。
バカみたいに力が強い。
…逆が良かったなあ。
なんて思いつつ…また10分が経過した。
そこにはドレスを着せられ
カツラを被せられ
メイクを施された
どっからどうみてもニューハーフにしかみえないナイトがそこにいた。
「完璧ですね」
「………そうか?」
鏡が無いので本人は確認出来ないようだが全然完璧ではない。
むしろどっち付かずである。
- 57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:03:46.27 ID:MdbSoFreO
- 「とにかく、この村は男子禁制ですから言葉遣いには気をつけるようにしてください」
「……それを先に言えよ」
「男だってバレたら打ち首です」
「えっ…」
「嘘です。」
村に入ると…バルーンがあがっていたり、ピエロがいたり、踊り子がいたり
先ほどとは打って変わって非常に賑やかである。
少女曰く「今日はお祭りなので。」
この村に関しては右も左も分からない。
とにかく、少女の後ろを着いていく。
「あら、ノアーちゃんお友達?」
老婆が少女に声を掛けてきた。何だか思わずビクッとしてしまう。
「ええ。隣町のお友達です。」
「そう。お名前は?」
お名前?お名前なんて考えて無かったぞ…
ナイト?いや…いかにも騎士の息子っぽいな
え…女の子っぽい名前って…
ナイトは思いっきり焦っていた。
一方少女はやけに冷静だった。
「…『トイナ』ちゃんです。」
- 58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:05:43.66 ID:MdbSoFreO
- 「あら、可愛らしい名前ね。」
ナイトを文字ってトイナ。
確かに可愛らしい名前である。
「それじゃあ『トイナ』ちゃん、楽しんで行ってね。マリアのご加護がありますように。」
そう言うと老婆は去っていった。
ナイトは溜め息をついた。
「いちいち焦らないで下さい。怪しさ満点です。」
「…悪かったな。」
少女はその後とりとめもなくクスッと笑いだした。
「何が可笑しいんだよ。」
「………楽しいなって」
「俺の事、助けるの嫌がってた癖に」
「最初から助けるつもりでしたよ。
ただ、ちょっと『焦らした』だけです。」
そう言ってポニーテールを揺らしながらニヤリと笑う彼女は物凄く可愛らしく、
まさに『マリア』っぽくて非常に神々しかった。
それがナイトにとって少し悔しくもあり…何故か苦しくもあった。
- 59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:06:49.88 ID:MdbSoFreO
- 「…お前、『ノアー』って名前だったんだな」
「あ、遅れてしまいました。
ノアール・マリア・アイスマン。
称号は『純潔(マリア)』です。」
「マリア云々って、称号の事だったのか。」
謎が解けた。
称号に関する事だったのか
「この村は『純潔』と呼ばれる魔法使い達が暮らす村。
我々は『純潔』を保つことによって強大な力を使うことが出来ます。」
「だから男子禁制なのか…」
「詳しいことは長くなるので後で話します。で、貴方の名前は?」
「ナイト・カリイ・ジ・シンドリア
称号は…底辺騎士だ。」
「じゃあ…アンダーナイトさんって呼びますね」
「アンダーは余計だ」
「私のことは『ノアー』で構いませんから」
「じゃあ俺も『ナイト』でいいぞ」
「分かりました。『アンダーナイト』さん」
分かってない様だった。
- 60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:08:33.35 ID:MdbSoFreO
- やがて、とある民家の前にやって来た。
どうやらノアーの家らしい。
しかしこの村の家はやけにでかい。
庭は広いわ…畑はあるわ…
「どうぞ。入って下さい。」
「…お邪魔します」
中は比較素朴な作りではあったが…悪くない。
昨日泊まった宿屋よりも居心地が良いように感じた。
「何がいいですか。」
「じゃあ…ホウレン草のタルトを頼む」
ノアーは何処かで買ってきたと思われるまだ生状態のタルトを
なにかの呪文を唱えて火を点して焼き上げていた。
魔法とは便利なものである。
ああ、騎士学院なんかに行かずに魔法学院に行けば良かったな…と
ナイトがそんな意味のない後悔をしているうちに焼きあがったようだ。
ホウレン草のタルトはナイトの大好物である。
タルト生地の上にチーズ、ジャガイモ、
ホワイトソースにトマト、
何かの肉、卵
それからホウレン草がたっぷり乗った
この国では結構どこの家庭でも作られているもので
ブレッドやスープと共に頂く
立ち位置としては『お袋の味』のようなものである。
- 64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:16:41.04 ID:MdbSoFreO
- 「うめぇ!」
ナイトはパン・スープ・ホウレン草のタルトをバランス良くかっこむ。
『かっこむ』という行儀が悪い行為の中にもやはり、厳しく仕付けられてきたせいか
『三角食べ』が採り入れられている所に育ちの良さが感じられる
「その…いいのか…男子禁制なのに…」
「いいんです。アナタ、私より弱そうでしたし。
襲われても返り討ちに出来ますから」
「…………そうかい」
「それに、困ってる人を見捨てるのは『純潔(マリア)の教え』に反しますから」
「その…『純潔』って俺…良く知らないんだけど」
「本当…世間知らずですね。」「食うの止めてまで聞いてるんだから答えろよ」
『純潔』
それはその名の通り、
純潔を保つ事によって強大な魔力を維持している魔法使いの女性のみに与えられる称号である。
魔法使いの中では一番ランクが高く、ちなみに騎士よりも位が高い。
「じゃあ…その、アレ…したらどうなるんだ?」
「回数を重ねるごとに力がなくなり、心が壊れていきます。」「当然…恋愛とかは…」
「ご法度です。だから私達は魔法使いの中でもムダに位が高いんですよ。」
- 65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:19:40.36 ID:MdbSoFreO
- ノアーは二つ目のタルトを焼き上げながら淡々と答える。
「でも子孫は…どうするんだよ」
「一年に一度18以上の娘を3人ランダムに選んでどこかのお屋敷に嫁がせます」
「で…出来るだけ多くの子供を産ませるんです。」
「でも回数を重ねるごとに壊れてくんじゃ…」
焼き上がったタルトが運ばれてきた。
「そうです。だから『生け贄』って呼ばれてます。私の母親も壊れちゃいました。」
「…………」
「この村では子供が大切にされるんです。
残った皆が親代わりです。」
「……………」
ナイトは無言で
タルトを食べた。
「でもね、最近この村変なんです。」
「…変って?」
「本当は『生け贄』って嫌がられるものなんですけど…
嫌がるどころか…『なりたい』って人まで出てきちゃいまして…」
「自分から…嫁ぎに行きたいと」
「そうです。」
「まあ、純粋な恋愛だけって訳には行かないんだろうけど…」
「髪を染めたりする娘とか…ここにも周りの街から派手な娘が集まる酒場とか…増えて来ちゃってて」
「…………」
- 67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:25:19.99 ID:MdbSoFreO
- 「まあ私達は結婚相手なんて探そうと思えばいくらでも探せますからね」
「…自分で言うなよ。」
「クラスも高くて年金も沢山貰えて…しかも純潔ですから平民でも貴族でもよりどりみどりです。」
ナイトが食べ終わった後の皿を片付けながら言うノアーの顔は
ちょっと悲しそうに見える。
「でも、我々は恋愛出来ない身体なんです。
多分、それを受け入れられない娘が増えてきたんでしょ。」
「お前は…どうなんだよ」
正直、もったいない。
美少女でポニーテールでしかも家事も一通り出来る高スペックの娘が
死ぬまで恋愛もせずに死んでいくなんて。
彼女はそれで良いのだろうか。「良いんです。私は、自分が『純潔』であることを誇りに思ってますから。」
「純潔に生まれなきゃ良かったとか思わなかったのか?」
「折角マリア様が私を選んで下さったんです。
人々の為、力を使うことに人生を捧げるのも悪くないと思うんです。」
彼女は自慢のポニーテールを揺らし、言った。
恋愛出来ないことを嘆く訳でもなく
恨むわけでもなく、受け入れ
しかも恋愛よりも大切なものを探したいとまで言っている。
自分より年下の娘なのに、自分の生まれを恨み、
未だに童貞なのを他人のせいにするナイトとは
天と地の差ほどある。
「おかわり、いかがですか」
「いや、もう結構だ。」
- 68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:27:39.53 ID:MdbSoFreO
- 長時間話をしていたのと、えらくタルトが美味しかったからか、8つも平らげてしまい、腹がはち切れそうだった。
「そうですか。それと…先ほどお預かりした装備、タンスに入れておきましたから。」
ノアーはタンスを開け、装備品を指差す。
それにしても立派なタンスである。
しかも装備品の下には傷がつかないようシートが引かれており、細かな気遣いを感じる。
こんなにも出来た娘を奴はグレム、並びに盗賊呼ばわりしたのである。
万死に値するような気がする。
それから、何となくであるが二人の間に重い空気が漂った。
さっきの話をナイトは思い出す。
恋愛をしてしまうと…力が無くなり心が壊れていく少女達(まあプラトニック・ラブなら問題はないんだろうがそんなもの今の世界には滅多にあるはずもなく)
しかも最近は『心が壊れても構わないから恋愛したい少女』と
『運命を受け入れ、純潔として生きていく少女』
の二派に別れてて…
前者は人間としての生き方では正しい気がするし
後者は純潔としての生き方では正しいのだろう。
でも前者の生き方を取れば…
純潔としての戒律を破ることになり、しかも心が壊れて行くとまで来た。
後者の生き方を取れば…
一生恋愛出来ずに死んでいく。
どちらにしても不幸に見える。
が、彼女達自身はそうでもないらしい…のがまた何とも言えない。
でもまあ、俺一人が考えてもどうなる訳でもないし…
ナイトはそれ以上、考える事を止めた。
- 69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:31:15.47 ID:MdbSoFreO
- 窓の外から何だか愉快な旋律が聞こえてきた。
「そろそろ外、出ましょうか。折角のお祭りですから。」
「………またこの格好でか」
「きちんと化粧は直しますから。」
「そう言う問題じゃあ…」
その後、またもやノアーにドレスを剥ぎ取られ
ラフなワンピースを着せられ
更に化粧を施された
今度はゆっくり支度したからかニューハーフ臭さも抜け
何となく、そこら辺にいそうな村娘っぽく仕上がっていた。
しかし、ノアーの隣に立つと何となく、劣等感を覚えてしまう。
「くれぐれも言葉遣いには気をつけてください」
と何度も念押しされ、外へ出た。
外はすっかり闇に包まれていたがその代わりネオンが目に眩しく輝いていた。
噴水のある広場では下着みたいな格好で娘達が激しく揺れている。
「南方の踊りらしいです。」
南方の方ではこんな魅惑的な踊りが踊られているのか。
激しくて胸が出ちゃうんじゃないかとヒヤヒヤする反面…
ちょっぴり期待もしてしまう。
いや、腰の振り方がなんとも…ううん。悩ましい。
他にもパレードが行われていたり、魔法使い達により花火があげられていたり
とにかく、賑やかである。
それより少し気になるのが、さっきのノアーの話通り、ちらほ派手な娘を見掛ける。
彼女達はノアーをジロジロ睨みつけていた。
仲、悪いんだなぁ…
と何とも言えない気持ちになる。
- 72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:32:49.76 ID:MdbSoFreO
- >>61
5年前に書いたのにちょっぴり加筆してます。
- 73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:35:18.38 ID:MdbSoFreO
- 二人はステージらしき場所の前に来ていた。
「第15回最強のミス・マリア決定戦!」と書かれた看板が掲げられている。
ステージには既に何人かの少女達が立っていて
ナイト達がいるステージ前には人だかりが出来ていた。
「これから、お友達が出るんです。」
「その…『最強のミス・マリア』ってなんだよ」
「魔法の威力や使える系統の幅広さなんかを競うんです」
「お前は出ないのか?」
「私は出られないんです。」
何でだよ、と理由を聞きたかったが、黄色い歓声に掻き消されてしまった。
「キャアアアア!今年の優勝候補アーリー様よ!」
「素敵だわぁ…私、アーリー様大好きなんですの。」
ステージに目をやると…
艶やかな長髪の…
胸がデカイ色気たっぷりの綺麗な少女が立っていた。
- 75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:37:58.11 ID:MdbSoFreO
- シャツにスカートというシンプルな格好だったが
そのシンプルさが彼女のボディラインを引き立てていて
見るものの目を胸に惹き付ける。
顔も負けていない。
惑わされてしまいそうな…悩ましい目に唇。
素朴なポニーテール美少女とはまた違った魅力を持っていて…
ヤバい。クラクラして来た。
ステージに上がっている他の少女の中でもものすごいフェロモンを放っていた。
もしやこの子がノアーの…
「アリア・マリア・サンライズ。私の友達です。」
- 77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:40:14.04 ID:MdbSoFreO
- 「……可愛いな」
「でしょう。でもそれだけじゃないんです。」
そうだった。この大会は美しさを競うのではない。
あくまで『魔法の強さ』を競う大会なのである。
「さぁー!アリア・マリア・サンライズさんに自慢の魔法を披露して頂きましょう!」
司会の女性がそう言った途端、壇上に上がっていたはずのアーリーは、ふっと消えてしまった。
「アーリーさまぁぁぁぁぁぁぁ!」
「キャアアアア!」
慌てふためく観客達。
しかし、ノアーは冷静だった。
「幻惑魔法…ですか」
「あら…良く分かったわねノアー」
ナイトの隣に、にっこり笑った…色気むんむんのさっきの美少女が立っていた。
その瞬間、黄色い声援がまたもや会場を包み込んだ。
「キャアアアア!アーリー様!観客の中に紛れこみながら幻惑魔法を使ってなんてー!」
「しかもあんな長い時間投影させられるなんてー素晴らしいですわ!」
「ヤダー!しかも隣にはノアー様までいらっしゃってるー!」「キャアアアア!!ノアー様ぁ!」
ノアーもアーリーと並んでかなりの人気者の様だった。
- 79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:43:16.35 ID:MdbSoFreO
- >>76
してるけど長い。
押し寄せる人だかり。
とにかく、人、人、人
二人を目掛けてやって来る女の子達に踏まれたり殴られたり
ナイトは揉みくちゃにされた。
「あらぁ…思ったより大変な事になっちゃったわねぇ…。」
全く想像出来なかったのかよ…こっちは関係ないのにいい迷惑だぜ…
とナイトは右の頬を誰かに殴られながら思った。
「…レ・クアイラル・チェージ…」
アーリーはブツブツ何かを唱えた。
かと思えば今度はステージの上に居た。
「はーい!皆、こっちよー!」
その声に反応した観客は
今度は視線をステージに向けながらまたキャーキャー言い出した。
何なんだよ。これは一体。
「今度は…移動魔法を使ったんですね。」
「………へぇ」
綺麗なお姉ちゃんは大好きだったが、
ナイトは人混みが非常に苦手だったので
なんだか気分が悪くなってきた。
- 80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:45:19.17 ID:MdbSoFreO
- 落ちていくナイトのテンションに反比例するかの様に
会場は熱狂、テンション最高潮!と言った具合だった。
「シュライヤ・グラア・レイ・フレイム・ライズ!」
アーリーは火炎魔法を繰り出した。
炎は不死鳥の形へ変化し、夜空に飛び立った…と思えば
花火となって夜空に舞った。
かと思えば今度は水魔法で空高く水を撒き、
地上にそれが降ってくる前に
風魔法・氷魔法を使い空気を冷やす…と
結晶が降り注いできた。
季節外れの「雪」だ。
いわゆるアイスブリザードの最小版と言ったところか。
ノアーによると力加減が非常に難しくあらゆる系統に精通していないと
出来ない技…なのだそう。
こんな凄い光景、騎士学院では見たことが無かった。
吐き気を覚えつつもナイトは思わず目を見開いてしまっていた。
結果は勿論、アーリーが優勝。
観客に手を降る時、その動きにあわせるかのように胸がぶるんぶるん震えていた。
- 81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:47:26.16 ID:MdbSoFreO
- 「じゃあ酒場、行きましょうか。」
「友達…待たなくていいのか?」
「待ち合わせしてるんです。」
揉みくちゃにされている彼女の姿を見て、何となく合点が言った。
アリアに近づき、握手を求める少女達。
それに一つ一つ答える。
何となく微笑ましく、それはそれで個人的にかなりそそらせる光景ではあった。
酒場へと歩き出すと
その様子をジロジロ睨みつけている少女達がいた。
…女は怖い。
さて酒場へ着いたのはいいものの、
これまた酷く混んでいる。
「お祭りですからね。この村の住人はここに集まってお酒を飲むのが習わしですし
周辺からも人が来ますからどうしても混むんですよ。」
まあ、その分疑われにくくなりグッドタイミングだと言えばグッドタイミングなのだが。
それにしても『女』だけでこの広い酒場の席が埋まるなんて信じられない。
「今日は違いますけどね」
と、ノアーは意地悪く囁いた。
- 82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 14:49:52.02 ID:MdbSoFreO
- 「とにかく、アリアが来るまで時間が掛かるだろうから…何か飲みますか?」
そういや、気分が悪かったんだ。
また人混みに来たと思うと…振り返してきた。
今飲んだら確実に嘔吐してしまうだろう。
いくら底辺騎士だってそれは情けない。
「いや、いいよ。」
「そうですか。私は飲みますけど…いいですか?」
「構わない」
「じゃあ買ってきますね。」
「…えっ…俺は…」
「座って待ってて下さい」
そう言ってノアーは行ってしまった。
…人混みの中に一人。
ナイトは何かクルものがあったのか
頭を抱えてしまった。
…突然、カラン!といい音がした。
誰か客がやって来たようだ。
「…あら。さっきノアーと一緒いた子ね!」
後ろから声がした。
…俺に…話しかけてるのか?
何故かビクッとしてしまう。
「やだ、ビクッってしないでよー!」
恐る恐る振り向くと
…さっきのむんむん美少女が立っていた。
- 85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:03:55.64 ID:MdbSoFreO
- さるさんにひっかかってました
―――――――――
「ノアーがお友達を連れてくるなんて珍しいわね。
私、アリア・マリア・サンライズよ。
貴方、お名前は?」
にっこり笑った顔も色気があり、美しかった。
ナイトはすっかり凄い美人を目の前にして
ノアーの時には感じなかったドキマギ感にどうしたら良いか
わからなくなってしまいそうだったが、
とにかく、名前を聞かれたのでノアーがつけた偽名を目一杯言葉遣いに気を付けながら答えた。
「え…っと…『トイナ・カリイ』です…」
「うん。で、名前は?」
あれ?会話が成り立たない?
- 86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:05:49.79 ID:MdbSoFreO
- 『トイナ』が…私の名前です。」
「ううん。私は貴方の名前が聞きたいのよ。」
にこやかにアリアは言った。
…ダメだ。やっぱり会話が成り立たない。
やっぱり初対面だから?
でもマスターともノアーとも普通に話せたから結構いけるかなとか思ったんだが…
あの二人が話を聞くのが上手かっただけなんだよ。
やっぱり俺はダメなんだ。人とコミュニケーションとか、とれないんだ。社会不適応者なんだ。
だから美人と話が続かないんだ。
いや続かないどころか成立してないんだから。
ああ何かもう死んじゃいたい。いや、もう消えちゃったい。
等と言う事をブツブツブツブツ、ナイトは呟いている。
そんなナイトの様子に
アリアは痺れを切らした。
「だからぁ!貴方の『本当の名前』を教えてって言ってるの!」
「……えっ?」
「…大声出しちゃってごめんなさい。」
アリアはさっきとは打って変わって
ナイトの耳元にふっと息を吹き掛けるように囁いた。
「貴方、『男』でしょ?」
「……………!!」
「ふふ。私ね、女の子が大好きなのよ。」
これは…どう言った意味なのであろうか。
- 87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:08:00.80 ID:MdbSoFreO
- 男と指摘されたからか
それとも彼女の囁きのせいか
香りのせいか
それとも『女の子が好き』という発言のせいか
ドキドキドキドキしてしまった。
「…だからね、分かるのよ。女の子か、そうじゃないかって…ね」
もう何だか彼女の囁きがいやらしくて、何だかそれだけで絶頂を向かえてしまいそうだった。
「で…お名前、教えてくれない?」
ダメだダメだダメだ。喋っちゃダメだ。惑わされちゃダメだ。
うっかり喋っちゃったら打ち首…は冗談にしても何かもう大変な事になっちゃいます。
いや、もう大変な事になっちゃってるんですけどネ。
いやでもダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ
「………ナイト・カリイ・ジ・シンドリア…デス」
………あれ?
- 88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:09:10.56 ID:MdbSoFreO
- 「やっぱりね。貴方みたいな旅人
あの娘、時々連れて来ちゃうのよね…」
アリアは大きく溜め息をついた。
どうやら、ノアーは度々
ナイトの様な迷子を助けては泊めてやっていたらしい。
「あの…最初から男だって…」
「さっき言ったでしょう?
一目見ただけで私は分かるのよ。
でも…ま、多分他の娘にはバレてないんじゃない。」
さっきの表情とは打って変わって眉間にシワを寄せている。
「ちなみに…その…もしバレたら…」
ナイトはずっと気になって居たことを聞いた。
「アンタもノアーも村を追放ね。」
「ノアー…まで?」
「そうよ。もし慈悲で村に残れたとしても…一生肩身が狭い思いをするわ。」
自分を助けたことで自分がどうなるか…
彼女は一切ナイトに話さなかった。
「あの娘はそう言う娘なのよ。」
なんだかナイトはノアーを疑ってしまったことを悪く思った。
- 90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:10:40.67 ID:MdbSoFreO
- 「それよりあなた…ノアーに手を出そうとか思ってないでしょうねぇ?」
「そ…そそそんな滅相もない!」
アリアの身体中から怖いオーラ出ていた。
そのオーラにただ圧倒され、キョドってしまった。
「昔、ノアーが助けた男達がねあの娘に媚薬を飲ませて襲おうとしたのよ。
私がめちゃくちゃにしてあげたけど」
あのさっきの凄い『魔法』で『めちゃくちゃ』にされたのか。
それとも『アリア』に色んな意味で『めちゃくちゃ』にされたのか。
後者なら興奮ものではあるが、アリアが先ほど魔法を使っていたことを考えると当然前者の方であろう。
あのもの凄い魔法でめちゃくちゃにされるって事は…だ。
吹っ飛ばされたり、燃やされたり、氷の刃が飛んできたり
…いや、こんな想像がちゃっちな感じなんだろうな。
こええ。超こええ。
- 92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:17:45.49 ID:MdbSoFreO
- 「何よ、そんなビクビクしないで頂戴。
手を出すつもり、ないんでしょ?」
にっこり笑った顔も
…何だか恐ろしく思えてきた。「お待たせしました。混んでまして。」
ノアーがビールが入ったジョッキとワインボトル
それから水が入ったコップを盆に乗せてやって来た。
「はーい、ノアー」
「……アリア、来てたんですか!」
ノアーは今日一番の笑顔を見せた。
アリアも負けじと立ち上がり、ノアーをぎゅーっと抱きしめる。
「ちょっと…いきなり…」
「いいじゃないの。減るもんじゃないしね?」
ポニーテールをゆらゆらさせながら友人に抱き締められ
真っ赤になっているノアーは反則的に可愛かった。
何だか…ドギマギしてしまった。
「アリア、優勝おめでとうございます。凄かったですよ。」
ノアーはそう言うと酒をアリアに勧めたが、彼女はそれを断った。
こう見ると笑っている時のノアーはアリアと負けず劣らず美しかった。
無表情でいることが多かったので…それはそれで可愛かったのだが
- 93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:19:35.98 ID:MdbSoFreO
- やっぱり女の一番の化粧は笑顔だなぁと実感させられる。
「でも何かあんたに褒められても
嬉しいっちゃ嬉しいんだけど悔しいのよねぇ…」
悔しい…?どう言うことだろうか。
そういやノアーの奴、アリアと同じくらい人気があったみたいだが…
「ちょっとアリア…。」
「聞いてよナイト。この娘ね、優勝し過ぎて今年から出場停止になっちゃったのよ。」
「ゆ…優勝し過ぎてって…」
「初出場の時からずっーと優勝しててね。
このままじゃ大会を開く意味がなくなるってな訳で
今年から5回以上優勝した人間は殿堂入りになって
殿堂入りした純潔は出場出来ないってルールが新たに加えられたのよ」
「ノアーってアリアよりも強かったのか…」
「勿論よ。私は万年2位だったし…やっと優勝出来たと思ったらノアーがいないんだからやんなっちゃうわよね。」
だから『出場出来ない』何て言ってたのか。
- 94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:21:23.50 ID:MdbSoFreO
- 「本当にこの娘、強いのよ。
キールの戦いの時、ここを攻めてきた兵士達を
得意の氷魔法使って一人で追い払ったんだから。」
「ちょっと…もう恥ずかしいですから…」
「あら、いいじゃない。どんどん自慢すべきよ!」
酒のせいなのか、アリアのせいなのか
ノアーは顔を真っ赤にしていた。
「それよりアナタの話も聞きたいわ。
私、あんまり森から出ないから外の話を聞きたいの。」
「茶髪娘達に聞きゃあいいんじゃないのか。」
「いやよ。毎晩こっそり抜け出して男に会ってる様なアバズレに聞くのはシャクだもの。」
アバズレってそんな風に言わなくとも…なぁ
「そんなに恋愛したきゃ生け贄の枠を増やして、
しかも申請者の中から優先的に選ぶって
村長が言ってるんだからそれまで待つか
待てなきゃマリアの村から出ていけばいい話なのに
純潔の称号と年金が欲しいからって
純潔でもないのに居座ってるのがもう気に食わないのよ。」
まあ…なんとなくアリアが怒っているのもわからなくはない。
講釈垂らされるのはシャクだろう
とりあえず、ナイトは自分の知っている限りの事を話した。
- 96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:23:19.73 ID:MdbSoFreO
- 「なによ…私達より疎いなんてあなた…」
アリアは素で驚いていた。
「だから最初に言ったろ。」
「全くぅ…授業くらいちゃんと出なさいよ…」
「出てたら底辺騎士になっちゃいない」
そう。残念ながらナイトは世間知らずのボンボンであった。
授業も引きこもっていたので、ろくに出なかったので
アリア達も知っている常識レベルの事も知らなかったのだ。
「でも騎士学院の話はまあまあ面白かったわ。
ガーゴイルを生徒全員で狩りに行くなんて中々冒険チックでロマンチックね!
私も冒険とかしてみたいわぁ…。」
実際はただただ面倒なだけだったのだが
森からあまり出ないアリアやノアー達にしてみればそれは楽しい事の様に映るのであろう。
「あら…もうこんな時間。私、これから森で仕事があるの。」
「今週はアリアの番でしたっけ。」
「そうなのよ。グレム狩りなんて面倒よねぇ。」
- 97 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 15:25:32.12 ID:MdbSoFreO
- 聞けば選ばれた純潔達が交代で
森にいるグレムを政府の依頼で狩りに行っているらしい。
「最近は何か企んでるのか、どこかに集まってるみたいで…4〜5匹の小さな集団でしか見かけないのよ
そんなすぐに数が減るような化け物じゃないんだけどね…。」
アリアは、はぁと溜め息をつく。
「キリがなくてやんなっちゃうわ。
…もう行かなきゃ。じゃね。ノアー。それと…アンダーナイト君!」
アンダーは余計だ。アンダーは。
「とにかく気をつけてくださいね。大集団を見掛けても逃げて下さいね。」
だいじょーぶよ。とアリアは微笑みながらノアーの頭を撫でると
闇の中に溶けていってしまった。
- 103 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:13:28.92 ID:MdbSoFreO
- 酒場ももう閉店の時間が迫っているのか
席が埋まるほどいた客はまばらになり
テーブルの上にあった酒も全て空になっていた。
「じゃ、私達も帰りましょうか。」
酒のせいかノアーの目は潤んでいる。
……可愛い。
外に出ると心地よい風が吹いていた。
隣を歩くノアーはちょっと寂しそうに話し出す。
「私ね、お友達…アリアだけなんです。」
「でもお前、人気あるみたいじゃねえか。」
「キャアキャア言っては貰えるんですけどね、お友達になってくれる人は中々いないんです。」
何年も優勝しまくってるんだからそらあ近づきがたいんだろう。
「それにね、たまに街に行っても怖がられちゃうんです。」
怖がられるって言うか畏れ多いんだろうな。
「最近じゃおんなじくらいの年の子に嫌われちゃってますし…」
ただ単にお前が羨ましいんだろう。
ナイトも友達と呼べる友達はいなかった。
でも、それは邪魔にされ蔑まれ馬鹿にされた結果だ。
ノアーの様に人々から畏れられ、羨ましがられた結果ではない。
- 104 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:16:43.96 ID:MdbSoFreO
- お待たせしました
――――――――――
なんかそんな事を思ったら情けなくなり
同時に悔しくなった。
「でもね、何だかナイトさんとは普通に話せたって言うか…
だからナイトさん…そのよかったら…私とお友達に…」
ノアーはこれ以上ないくらいの可愛らしい笑顔で言った。
「…悪いが、ソレは出来ない。」
「…えっ?」
…あれ。可愛い女の子に『友達になって欲しい』って言われたのに何を言ってるんだ俺は。
「なんで…?」
ノアーはうつ向いて言った。
言い出すのに結構な勇気を振り絞ったのだろう。
「俺は明日にはここを出なきゃ行けない。
それに男の友達なんて作らない方がいいぜ。」
本当は俺も可愛い友達が欲しくて欲しくて仕方なかったが
悔しさの様なものから思ってもいないことを口に出してしまった。
- 106 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:22:58.50 ID:MdbSoFreO
- 沈黙が続いた後
そうですか。と言ってノアーはテクテク歩き出してしまった。
いつもナイトはこうだった。
実習の試合の時、一般枠で来た平民に負けた。
その平民は負けた後…ナイトに『友達になろう』と言ってきたのだが、
ナイトはそれを拒絶し、引きこもった。
その後貴族の息子や、騎士のクラスメートにも何度か声をかけられたが全て断った。
それはナイトが「自分を哀れんで声を掛けてきたんだろう」と勝手に思い込んでいたからだった。
実際は皆、ナイトと仲良くやろうとしていただけだったのだが、思い込みは激しく
しまいには誰もナイトに声を掛けなくなってしまった。
自分のしょうもないプライドが原因でそうなったのに彼は
蔑まれただの、馬鹿にされただのまた勝手に思い込み
また引きこもり、しまいには学院を出ていくハメになってしまった。
その事に薄々は気づいては居たが認めたくなかった。
…また一人女の子を傷付けたかもしれない。
要は馬鹿なのだ。
- 107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:24:49.71 ID:MdbSoFreO
- ノアーの家に戻っても二人に会話は無かった。
気まずい空気が流れる。
ナイトは風呂を借り、明日の支度をし、さっさと寝床についた。
……が、眠れない
何だか自分が物凄く悪いことをした様な気がしたのだ。
今まで極力人を避けてきた。
友達なんてただの馴れ合い。
だから友達なんていらない。
だから俺は悪くない。
ハズなのだが
とにかく何だか分からないがモヤモヤする。
あの時のノアーの顔。卑怯だろう。
なんだか寝付けない。
仕方がないのでナイトは使いもしない剣を研ぎながら
明日からどこへ行こうか、どうしようか考え始めた。
が、全く何も考えつかない。
困った。
『明日には出ていく』なんて言っちゃったが行く宛もない。
なんであんな馬鹿な事を言ってしまったのだろうか。
素直に『友達になろう』って言ってれば良かったんじゃないのか。
いや、行く宛がないから仕方なく友達になるのか?
そうじゃない。ノアーやアリアと話していて俺も久々に楽しかった。
こんなに人と話すのが心地いいなんて思わなかった。
- 112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:27:53.94 ID:MdbSoFreO
- しかもノアーはちょっと変わってるが悪い娘じゃない。
むしろ物凄く良い娘だ。
今日一日でそれがイヤと言うほど良くわかった。
その娘がわざわざ友達になりたいと言って来てくれた。
なのに俺は
今から謝れば許してくれるだろうか?
悪いことをしたのだから謝らなければ騎士の名が、男が廃る。
謝ろう。謝りに行こう。
ナイトは息を深く吸い込み、吐き出した後
剣をベッドの横に置き
ドアノブに手をかけた瞬間
コンコン
とノックする音が聞こえた。
- 113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:29:45.93 ID:MdbSoFreO
- …ノアーだろうか。
丁度いい。あんなに飲んだ後だったし寝てたらどうしようと
ちょっと思っていた所だった。
ナイトがドアを開けるとそこには
…やはりノアーが立っていた
のだが、おかしい。
「ナイトさん…まだ起きてたんですかぁ…。良かったぁ。」
おかしいのだ。
「寝ちゃってたら…私…困っちゃいましたぁ…。」
どこがおかしいって
「ナイトさぁん?」
…彼女は…彼女は…下着姿だったのだ。
- 116 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:32:46.04 ID:MdbSoFreO
- こうして見ると彼女は普段はゆとりのある服を着ているので目立たなかったが
アリアと負けず劣らず…いい身体をしていた。
しかも顔はなんだかトロンとしていて、赤らんでいて…
非常にえっちいのだ。
ナイスバディーが童貞の目の前で下着姿でえっちい顔をして立っている
これは…これは…
「な…なんでお前、そんな格好してるんだよ。」
膨らむ色々なものを抑えつつ、ナイトはノアーに聞いた。
そうだよな。おかしいよな。
第一俺はノアーに酷いことしたんだぜ。
しかも根暗なんだぜ童貞なんだぜ。
期待しちゃいかん。
「…暑いから…じゃ、ダメですか?」
ほら、ノアーは暑いから脱いでるんだよ。
暑けりゃ脱ぐもんな。仕方ないよな。
「でもなんででしょう…胸がドキドキしてきちゃいました」
暑けりゃドキドキくらいするさ。
するよな?
「ほら…」
そう言った瞬間、ノアーはナイトの手を取り、自分の胸に当てた。
むにゅ。
…なんじゃこりゃ
柔らかいだけで心臓の音なんか聞こえてこない
代わりに
頭の中からなんかドクドクドキドキ響いてくる
何この柔らかさ。おかしいんじゃないの。
- 119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:37:07.43 ID:MdbSoFreO
- 姉ちゃんの胸なんてカッチカチだったのに
おっかしいんじゃないの。
「………出来ない。」
「へっ?」
「我慢…出来ない。」
そう言ってノアーは強引に自分の唇をナイトの唇に押し付けた。
なんとも言えない暖かさ。
というか…柔らかい
それとちょっと葡萄の香りがした。
これはキス…なのか?
唇を合わせているだけの単純な行為なハズなのだが
クラクラしてきた。
もうそんな事を実感している間もなく
「意地悪なナイトさんには…こうしちゃいます」
と、舌を入れて来やがった。
不器用な舌の動きがこれまた…
ひひひひ卑猥なぁ…!おかしいぞ!
このぐらいでこんなになっているこの男が女宿なんかに行けただろうか。
いや、現に行けなかった。
ああ、一生懸命なノアーが可愛い。
ピチャピチャクチャクチャこの世のものとは思えない音がしている。
ああ、ここは天国なんだ。
なすがまま、されるがままであった。
- 122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:40:26.31 ID:MdbSoFreO
- 次にノアーは下着のホックを外し始めた。
「な…何してんだよ!服着ろよ!」
たまらずこころにもないことを叫び出してしまった。
「…………暑い…から」
そう言うやいなや
なんか良くわからない兵器が二つくっついてるのがみえた。
これが俗に言う「おっぱい」なのか。
いや、一番最近見た姉貴のおっぱいはこんなんじゃなかった。だからこれはおっぱいじゃない。
たるん!としていた。
二つの物体は彼女が動く度お互いに激しくぶつかり合い
歪み、揺れ、はじける。
多分なんかの貯蓄庫とかタンクとかなのだ。
きっと魔力がいっぱいつまってるのだ。
だから触っても別にやらしくないよな?な?
「下着…とって……さわって…いいよ」
何がいいんだよ。
よくねーよこの女。
純情ぶってたくせに中身はとんだ…。
触るの?触るの?触るの?
自問自答しているうちに
するすると布をどうにかする音が聞こえてきた。
「ナイトさんは…こっちの方が…好き?」
と今度は下着(下)に手をかけ始めた。
「ちょ…ちょ…!お前、無理しなくても…!」
「無理してません…。」
- 123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:43:23.73 ID:MdbSoFreO
- 何、これ。
こんなの本より酷いじゃない。
けしからん。誠にけしからん
「…………して」
抱きついてきた。
女の裸ってこんなにキレイだったのか。
しかも甘い甘いささやき。
もう暴発する。暴発するぞ。
うわぁぁぁぁぁぁん!
いや、冷静になれ。冷静に
美人でナイスバディで才能溢れる女が
会って1日も立ってない底辺騎士しかも童貞と一夜を共にしたい、なんて事があるのか?
でも現にノアーは裸で抱きついて…
いや、これはきっと何かの間違いだ。
そういやぁ酒を飲んでたな。
本当に暑いのかも知れない。
ダメだダメだダメだ。
酒の勢いなんて一番やっちゃダメだ。ダメだ。
据え膳食わぬは何とかって言うがいかん。
でも手が伸びて行く
…入れなきゃいいんじゃねぇか?
ダメだ!それは色んな意味でダメだ!
- 124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:45:42.41 ID:MdbSoFreO
- と、分かっているのだが止まらない。
ヤバい。アリアに殺される。
甘い言葉に惑わされちゃいかん。
どうにか、どうにかしなきゃいけない。
そんなナイトの胸にノアーの柔らかく暖かい胸がむにっと押し付けられる
艶やかな二つの盛り上がり。
この世のものとは思えない柔らかさと張り
「…とか嫌いなの…?」
何が嫌いなんだか…
「しょ…処女とか…嫌いなの?やなの?」
「…………!」
『処女』のひと言でハッとした。
処女は嫌いじゃないし面倒臭くない。
寧ろ男のロマン、夢である。
しかし、俺は一体何をしていたのか。
そうだよ。ノアーは純潔なんだ。
ただの処女じゃない。
その…なんだ、いたせば
力が無くなって心が壊れていく。
ソレは純潔にとっては死を意味するようなものであり…
とくに『誇り』とまで言っていたノアーにとって
それなりの覚悟と理由が必要なのだろう。
ノアーにいたす理由なんてありゃしない。
覚悟の方も感じられない。
- 126 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:47:56.66 ID:MdbSoFreO
- 何だかいつものノアーではなく…
まるで何かに…『させられている』感じであった。
それにな、よく考えれば
やらしいだけで可愛くないのだ。
いや、多少は思ったが、普段のノアーはもっと可愛かったのだ。
それにここで手を出したら
いつぞやの媚薬を使って襲おうとした男達と…
『媚薬』?
ナイトはノアーの顔の辺りをクンクン嗅いでみた。
強烈な葡萄の香り。
てっきりさっき飲んでた葡萄酒の香りかと思っていたが…
もしや…
ナイトは思い出す。
マニアックな授業にはかなり出ていたつもりである。
特に使う機会があるのかもわからないのに媚薬の授業は毎回楽しみに聞いていた。
…思い出せ、思い出せ、思い出せ
- 127 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:49:47.82 ID:MdbSoFreO
- 「…………!」
ふっと頭の片隅に
ある名前が浮かび上がった。
「葡萄の口づけ」
葡萄の口づけ。
媚薬界では『男にしては最強、女にしては最凶の一品。』と呼ばれているらしい。
一滴でも中々の威力を発揮するが垂らせば垂らすほど
女はいやらしく、艶やかになるらしい。
主に酒に混ぜて使用するのだが、普通の媚薬は臭いや味で「バレてしまうケース」があるらしい。
しかしこれのいやらしいところは『酒を更にうまくする』効果があるのだ。
だからバレもせず、逆に女は喜んでグイグイ飲む。
そういやノアー、飲むペース早かったもんなぁ…。
そしてその後、いたす頃には葡萄の香りが女から漂い
男も気分が高まり…それはもう熱い夜が送れるらしい。
きっと全てこの媚薬のせいなのだ。
でなければこんなことは有り得ないのだ。
- 129 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 16:51:26.05 ID:MdbSoFreO
- 危なかった。本当に危なかった。
いや、今も危ない。
そう分かったのはいいが
「早く…して」
だの
「ここ…へんなの…」
とか
マッドノアーは主語のない言葉を発している。
へんなのはお前だっつうの。
とにかく自分自身が変な気を起こす前に何とかしなければ。
こんなのに一晩中いられたら色んな意味で死んでしまう。
なんとか、なんとかしなきゃいけない
…何かが引っ掛かった。
「媚薬」
「…おかしくなる」
「…心身喪失」
- 138 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:10:33.98 ID:MdbSoFreO
- 「どうして私の下着、掴んでるんですか」
なんでって…それは洗濯しようと…
「どうして私、服が違ってるんですか」
それは俺が着せたから…
「どうして私、下着履いてないんですか」
それはお前が脱いだから…
「私に何、したんですか」
何って…
回想する。が、言ったら殺される様な事しか思い浮かばなかった。
と言うか、俺も思い出したくない。
もうなんか恥ずかしくて思い出したくないのだ。
もうだんまりを突き通そう。
突き通せば…
- 140 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:13:14.75 ID:MdbSoFreO
- と、いきなり何か鋭いものが顔をかすった。
「えっ…」
後ろを見ると、氷の刃が壁に突き刺さっている。
前を見ると…
どす黒いオーラに包まれ
怒りとも何とも言えないものを纏ったノアーが何か、ブツブツ呟いている。
「…魔法は今まで通り使えるみたいだから正確には『しようとしたんですね』」
「デラン・ドリ・ライズ…」
呪文?呪文を唱えているんですか?
「理由を言って下さい。言わないと、今度は串刺しにします。」
言われたものは瞬時に凍ってしまいそうな冷たい、冷たい、言葉のアイスブリザードだった。
言っても死ぬ。
黙ってても死ぬ。
どっちにしろ俺は死ぬのだ。
- 141 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:14:48.58 ID:MdbSoFreO
- 結局キスしただけで他は何もしようとしてなかったと言ってもこの状況じゃ信じて貰えない。ああ、でもいいか。昨日の夕方も思った。
美少女に殺されるなら本望だと。
串刺しって痛いんだろうか。
凄く痛いんだろうか。
それだけが心配である。
ああ、さようなら父さん、母さん、姉さん!
そしてこんにちは、地獄(ヘル)!
ナイトは全てを覚悟し、そしてノアーが手加減してくれる事を祈った。
ドォォオオヮァァァァアン!
もの凄い音が轟いた。
ああ、手加減してくれなかったんだ。
ああ、俺死んじゃうんだ。
- 144 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:19:29.94 ID:MdbSoFreO
- 「ナイトさん!ナイトさん!」
ああ、ノアーの声が…
「いつまで目、瞑ってるんですか」
…目を開ける、と、
俺は無傷だった。
腹を触っても頭を触っても
綺麗なもんで、血の一滴もついてなかった。
………なんで?
「…あの音は私じゃないですから。」
「君じゃなきゃ…誰なんだよ」「隣の家みたいなんですけれど…」
そんな会話をしていると
キャアアアアという、
先程聞いた黄色い声援とは違う種類の叫び声が聞こえてきた。
夜中に女が叫んでいる。
…ヤバいんじゃないのか?
「ちょっと見てくる。」
とにかく、傍らにあった剣を持って走り出した。
「ちょ…!まだ下着の件が……」
なんて声が聞こえた気がしたが構わないで走る。
…別に逃げ出したわけじゃないぞ。
- 146 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:23:13.19 ID:MdbSoFreO
- 葡萄の香りが立ち込める。
一目で分かった。
ノアーの家から少し離れた所、つまり右隣の家が音源だったらしい。
なんたってドアが破壊されている。
ここだけじゃない。
そのうち何かを破壊する音、
女の叫び声があちらこちらで聞こえてきた。
とにかく隣の家の様子を見てみよう。
ナイトはドアがあったであろう場所から中を覗く。…良く分からない。
剣を握りしめ、もう少し先に進んでみた。
さっきよりきつい、葡萄の匂いが漂う。
そして…ぶちゅり、ぶちゅり、と奇妙な音が聞こえてくる。
キッチンからだろうか。
柱に隠れ、覗く。…と
ナイトは声にならない叫びをあげた。
- 147 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:24:28.53 ID:MdbSoFreO
- グレム…
昨日見た緑色の化け物、グレム。
そいつが2〜3匹ほど家の中に上がり込んでいる。
いや、驚くのはそっちじゃない。
やつらは…
「ナイトさん?どうしましたか。」
後ろからノアーの声がした。
「ノアー、お前は見ちゃ……!」
注意を促したがもう遅かったようで、バッチリ彼女は俺の目の前の光景を見てしまった様だった。
ノアーは声を失う。
…それはそうだろう。
なんたってグレムがよってたかって隣人を
犯していたんだから。
- 148 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:26:17.32 ID:MdbSoFreO
- 話には聞いていたが、本当に野蛮な連中だった。
しかし不思議な事に当の本人は嫌な顔せず、むしろ光悦の表情である。
嗅ぎ覚えのある葡萄の香り。
多分、媚薬の効果だろう。
媚薬…。
ノアーといい、どこで盛られたんだ。
とにかくどうにかしなけりゃいけない。
と、強く剣を握りしめ中に入ろうとするナイトをノアーは制した。
彼女のオーラが、さっきなんかよりも…いや、比べ物にならないほど
刺々しく、表情には出ていなかったが怒りに燃えていた。
「底辺騎士は下がってて下さい。」
- 150 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:27:48.87 ID:MdbSoFreO
- その後、間髪入れず
「消去魔法(小)」を唱えた。
グレムはナイト達に気がついた様だったが既に時遅し。
光に包まれ、次元の狭間へ消えていった。
消去魔法は時間と体力、精神力をかなり使うが、
相手を根こそぎ殺すことが出来る。
消されたものは転生することもなく、次元の彼方をさ迷い続ける。
野蛮なグレムにはピッタリな魔法と言えよう。
グレムは消えた。
が、女はノアーに感謝するでもなく、安堵するでもなく、泣き始めた。
…葡萄の口づけは、ここまで強力なのか。
- 152 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:29:46.55 ID:MdbSoFreO
- ノアーは女に睡眠魔法を掛けた。
瞬時に女は眠る。
非常に気持ちよさそうだった。
その様子とは対象的にノアーは冷や汗を掻き、怒りに燃え、震えていた。
誰が媚薬を自分や隣人に飲ませたのか。
誰がグレムを村に入れたのか。
いや、今は犯人探しをしている場合じゃない。
今でもドアを破壊する音、女の叫び声が村中に響いている。
ナイト達は女に毛布を掛けてやった後、外に飛び出した。
ドアの外に出るとそこには、
何十人かの…夜にノアーを睨み付けていた少女達と、
そうでない、アリアに声援を送っていた少女達
そして何百匹か…大量のグレムが
二人の前に立ちはだかっていた。
- 155 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:32:09.84 ID:MdbSoFreO
- 意味が分からない。
グレムは自分達より強いものが集まってる場所には来ないんじゃなかったのか。
「そうよ。だから手を組んだの。」
彼女達の一人が、悪びれる様子もなく言った。
「何故ですか?」
ノアーは表情を崩すことなく聞いた。
「この村を潰したかったの。」
「どうして?」
ノアーは表情こそ変えないが
発する言葉は、だんだん刺々しくなっていった。
「別に悪いことをしたわけじゃないのに肩身が狭くなるなんていやだもの。」
少女は邪悪な笑みを浮かべて言った。
「恋愛くらい、いいじゃない。」
- 158 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:34:07.27 ID:MdbSoFreO
- 女って怖いな。
言葉で戦争が出来るんだから。
「力が無くなるって言ったって
昔から、いつもアンタと比べられるだけで良いことなんてなかったもの。」
だからこいつらはノアーを睨んでいたのか。
「アンタは良いわよね。恋愛以外でも自分を見出せるんだから。」
ノアーは彼女達をただ見つめて…だんまりを貫いていた。
「私達は恋愛で初めて自分の価値を見出だせたの!
それをタブーにして、邪魔して、苦しめるものなんて、無くしちゃえばいいのよ!」
彼女達の言いたい事は分かった。
やっと自分を肯定してくれたものを
否定され、邪魔され、苦しみ、肩身が狭い思いをするのはめちゃくちゃ嫌だろう。
分かったが…
「それだけですか。」
ノアーはやっと口を開いた。
- 160 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:36:13.57 ID:MdbSoFreO
- その一言に少女達は…
顔面蒼白となるものも居たし、怒りで顔を真っ赤にさせ、震えだしたものもいた。
「………それだけって…アンタ、私達がどんな思いを」
「『してきたか、分かる』なんて、私は無責任な事は言いません。」
一方ノアーからは怒りのオーラは消え、…むしろ本気で悲しそうだった気がした。
「でも、一つだけ分かることがあります。」
「………」
少女達はただノアーを睨み付けていた。
「あなたがしたことは、ダメなことだと言うことです。」
「でも」
「でも、じゃねーよ!」
ナイトは…
気が付くと声が出てしまっていた。
- 161 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:37:50.66 ID:MdbSoFreO
- 自分は今まで甘ちゃんで、色々たかをくくってたら学院を辞めさせられた。
自分の所為だったのに
皆が俺を馬鹿にしたから
皆が俺を蔑んだから
皆が俺を
皆が
皆が
何も見ないふりして、他人の責任にして、上手い言い訳をして
しまいには父さんを恨んだ。
もし、俺が彼女達と同じ境遇だったら…
そう思うと俺にこんな事言う権利はないのだ。
でも言わなきゃ気がすまない。すまないのだ。
「お前らは正真正銘のクズだ!!」
- 166 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:41:25.90 ID:MdbSoFreO
- クズが他人にクズなんて言う資格なんてどこにもないが、
口が止まらないのだから仕方がない。
「俺だって、そりゃあ学院辞めて悔しかったよ?
でも別に学院の連中とか、父さんを苦しませようなんて考えもしなかったんだよ!」
ノアーは呆れているだろうか。
横を見ないように続ける。
「何が『私達の苦しみ』だよ?
苦しんでるからって他人に同じ苦しみを与える権利なんてあんの?」
「…さい。」
「お前達は『自分で選んで』苦しんでるんじゃねーのかよ」
「……るさい」
「でもさ、襲われたやつらは『無理矢理』苦しむことを選ばせられた訳だよ
お前達が苦しんだ以上の苦しみを与えた訳だよ。」
「うるさい!うるさい!」
「それに、祭りだろ?別の村の女の子も泊まってるかもしれないだろ?
関係ない人間まで巻き込んだ事に対してはどう思ってるの?」
「うるさい!」
「そんなことも考えられない様なおつむだから遊ばれるんだよなー!!」
あっ…
- 168 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:44:48.57 ID:MdbSoFreO
- 言った後で気が付いた。
これは言っちゃいけなかったと。
言ったらまずかったよと。
言い過ぎた。…何てもんじゃない。
確実に相手を刺激したことだろう。
滅多にキレない人間がキレるとやり過ぎちゃうらしいが
あれってキレてたのか。
他人の事でキレちゃってたのか。
とにかくまずい。まずいな。
何か女の子達、ガタガタ震えてるし。
「………かった。」
「わかったわよ。」
「な……何がだよ」
「私達の邪魔さえしなきゃ犯さないで…生かしてあげたのに」
「敵!敵!敵!」
彼女達は俺達を…始末しようとしている様だった。
何てったってあの殺気。
……どうしよう。
- 169 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:46:46.87 ID:MdbSoFreO
- 突然、ノアーが囁いた。
「とにかく、グレムを何とかしなきゃ被害が広がっちゃいます。」
「何とかするって…ここ、村の真ん中だぜ?」
「火や水や氷…風も使えません。
この数ですから一気にカタをつけるとなると皆を巻き込んじゃいますから」
「だから、消去魔法を使うってワケ?」
会話を聞いていたのか、リーダー格の女が悪意たっぷりな言葉使いしかもやたらデカイ声で言った。
「消去魔法なら(最大)じゃないとこの数は消せないわねー
消去魔法最大…一体どのくらい詠唱時間がかかるやらぁ」
そういやノアーも言っていたな。
消去魔法は時間も体力も気力も使う魔法だと。
(小)で30秒くらいだとすれば
(最大)では……
「唱えてる間にやられちゃうわねー。」
- 172 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:48:36.49 ID:MdbSoFreO
- かと言って俺じゃあどうにも…
「5分…あれば十分です。時間を稼いで下さい。」
「………俺に、言っているのか」
「貴方以外に誰がいるんですか?」
5分…か。
まともにグレムと戦ったことがないから分からないが
…多分死ぬな、俺。
「あなたは死にません。」
「………なんで」
「あなたが死にかけたら詠唱を中断して回復呪文をかけます。」
「あはは………。」
「あなたは死にません。私が守りますから。」
だ、そうだ。
男の俺より男らしいなんて立場がねーじゃねえか。
- 174 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:50:33.49 ID:MdbSoFreO
- この女はあれかね。
頑固で意地っ張りなのかね。
ああ、やだな。
ホウレン草のタルトを暖かい部屋で食べたい。
さっきから寒気しかしないなぁ。
ああ何かもう今までの思い出がまたぐるぐる回ってる。
ああ何でこんなことになっちゃったんだろうなぁ。
痛くしないでくれたらいいな。
ここまで来たら…やらなきゃダメだよな?
「…シュミラ・デス・クロイヤ」
ノアーが呪文を唱え始めた。
と、同時に少女達がグレムにGOサインを出した。
このグレムってのは女を犯したうえに食っちまうんだよな。
…容赦ねぇな
と思ったら足がすくむ。
すくむが、何もしなきゃ自分もノアーも殺される
ナイトは剣を握りしめた。
グレム達は一斉に俺達目掛けてやって来る
凶暴な目付き、俺なんかより鍛えてそうな肉体
何体倒せるか計算してみたが
計算できない。
「ジュネアラ・リ・グラード…」
終わるまであと4分くらいか。
- 175 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:51:41.55 ID:MdbSoFreO
- 逃げたくなってきたが逃げられなかったので
どうにかして覚悟を決めて
ナイトはグレムの軍団に向かって走った。
思い出せ。学院で習った剣術を。
思い出せ。神童だった自分を。
普段、デカイ声なんて出さないから雄叫びが裏返った。
恥ずかしがる余裕なんてない。
グレムの軍団まであと十数メイトル
と言うところで突然グレム達はピタッと止まってしまった。
………?
それからグレム達は前に進むどころか後退り始めた。
「何やってんのよあんたたちー!」
痺れを切らした少女が怒鳴った。
- 179 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:54:14.57 ID:MdbSoFreO
- そう言えば森に入った時、何故かグレムに出会わなかった。
しかし装備を外した瞬間、グレムに襲われた。
隣の家はグレムの襲撃を受けたのに俺達は襲われなかった。
そして今、グレム達はピタッと止まってしまっている。
もしかしたら…
ナイトは剣を見つめた。
「いいわ。私達もまだ、ちょっとは力が使えるんだから…!」
リーダー格の少女はそう言って風魔法(小)を唱えた。
風に押されてグレム達がナイトの方へ押し寄せてくる。
そういやマスターも言ってた気がするな。
『グレム達は特殊鉄が苦手なのか…出てきませんから、護身用には良いですが、狩るなら他の剣を持った方が…』
ナイトは笑った。
…勝気。
- 182 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:56:22.10 ID:MdbSoFreO
- 押し寄せてくるグレムを切る。元々軽い剣だ。
振り回すのに力はいらない。
簡単に斬れる。
風で押されてはいるもののグレムは動けないので抵抗出来ない。
授業の的以下だった。
ナイトは次から次へと押し寄せてくる大量のグレムを斬っては捨て、斬っては捨て
血が飛び散り鼻に入り、不愉快だったが気にしない。
ひたすら目の前の化け物を斬り赤い返り血を身体中に浴びる。何だか凄く強くなった気がし、興奮した。
グレムの膝を斬り
胸を突き、抜く。
残酷にもすこし楽しいと思ってしまったがそれも最初の内だけだった。
- 183 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 17:58:01.07 ID:MdbSoFreO
- だんだん筋肉はギシギシと悲鳴をあげ、呼吸は感覚を狭めてきた。
斬っても斬っても押し寄せてくる。
体力が持たなくなって来た。
ただ、少女達やグレムへの怒りだけでどうにかなっているようなもので…
日頃の訓練を怠っていたせいか、
有利な状況にあるのに生かせない。
ナイトは初めて引きこもっていた事を悔やんだ
他の少女達も唱え始めたのか
風は強くなり、バンバン押し寄せて来る。
絶対に食い止めなければいけない事は分かっているが
身体が、持たない。
あと何分だ。何分なんだ。
ナイトの体力も気力も限界に達しようとしていた。
と、グレムが一匹、ナイトの横をすり抜けた。
数十メイトル風に流された後、さっきまでピタッと動かなくなっていたのが嘘だったように
ノアーに向かって走り出した。「ヤバい!」
後ろを向いた瞬間、次々とグレムがすり抜け、ノアーに向かって行く。
爪を剥き出しにし、牙を向く。ナイトは追いかけたが追いつかない。
後ろからまたグレムがやって来る。
食い止めながら追いかけるなんて、無理だ。
- 188 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:01:05.38 ID:MdbSoFreO
- 邪魔されたらまた壱から唱え直し。
でももうナイトには体力も気力もない。
これ以上詠唱時間(キャストタイム)は稼げない。
ノアーが危ない。
危ない事は分かっているが
何も出来ない。
最初にすり抜けたグレムがノアーに襲いかかった。
しかしノアーは動かない。
ただ詠唱を続けている。
グレムの鼻とノアーの鼻が接近し、
彼女には死…と判断したグレムが鋭い爪を彼女に向けた
ナイトは目を瞑った。
美少女がエグい死に方をするのはなるべく見たくない。
- 190 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:02:19.86 ID:MdbSoFreO
- 両者の鼻が極限まで近づき、
グレムの爪がノアーの顔を切り裂こうとした瞬間
ノアーは囁いた。
「消去魔法(最大)」
ノアーの目の前にいたグレムは音もなく、光に包まれ砂のようにさらさらと消えていった。
それに続くように
また一匹 また一匹と消え行く
ナイトが追いかけながら塞き止めていたグレムも。
斬られたグレムも。
後ろで待機していたグレムも。
広場に押し寄せていたグレムは全てを跡形もなく
「最初から居なかった」かのように消えていた。
そこに残っているのは少女達だけ。
- 191 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:03:33.57 ID:MdbSoFreO
- ノアーはさすがに数百ものグレムを消すようなデカイ魔法を使ったからか
膝から崩れ落ちた。
体力も気力も使い果たした様で気絶したのか眠ってしまったのかは分からないが
とにかく相当疲れたようだった。
グレムは消えた。
が、まだ少女達が残っている。
「私たちの勝ちね。」
その目には光はなく、ただ、恨みとかそう言った類いの黒い感情で溢れていた。
「もうこの娘は使い物にならない。アンタももう動けない。」
「焼いちゃおうかしら。割いちゃおうかしら。凍らせちゃおうかしら。」
- 193 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:04:49.25 ID:MdbSoFreO
- 結果いかんに関わらずノアーは良くやった。
…意識がないことが唯一の救いだな。
「今、やっと魔法が使えて良かったって思えたわ。
使えなくなる前にそう思えてホントによかった。」
命拾いが出来る状況じゃないって事は良く分かった。
しかし、せめて
俺はどうだっていいから
頑張ったノアーだけはなるべく痛くない方法にしてやってくれ。
「……火炎魔法(最小)!」
- 195 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:09:13.44 ID:MdbSoFreO
- よりによって焼死かよ。
一番痛そうで苦しそうじゃねぇかよ。
ああ、もう神もマリアもいないんだな。
火の粉が飛んでくる。
ああ、三度目の正直って言うしね。
熱い。なんか熱い。気がするけど痛くないな。
やっぱり神様はいるのかもね。
と、よく見てみると火の粉はもの凄く小規模だった。
じっくり炙りながら…にしても小さすぎる。
むしろ攻撃と言うか威嚇と言った方が………
その後、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた
「はぁーい。生きてたぁ?」
- 197 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:12:55.71 ID:MdbSoFreO
- …そう言いながらこちらに向かって歩いてくる人影は
「間に合ったみたいで良かったわ!」
ナイスバディなむんむん美少女…アリア・マリア・サンライズであった。
「アリア!無事だったのかお前!」
「まあね。森へグレム狩りに行ったらね、おかしなことに一匹も見かけなくって。」
マリアがしっかりしてるのはグレム狩りに行くから酒なんて飲まなかったからか。
- 198 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:14:30.86 ID:MdbSoFreO
- 「それで仕方なしに村に戻ると大量のグレムがいるじゃない!大変!って思って
近くに合同訓練の為に駐留してる部隊がいるって聞いてたから街まで呼びに行ってたのよ。」
もうちょい早く戻ってきて欲しかった気もするが
それでも良いタイミングで来てくれた。
「さて、アナタ達の相手はこの私よ!今年のミス・マリア優勝者が早速相手してあげるんだから喜びなさい?」
アリアが髪をかきあげ
自信たっぷりにそう言うと
さすがに自分達の魔力では
寄せ集めたとしてもアリアには敵わないと判断したのか
悔しいそうに下を打つもの
へたり込むもの
泣き出すものうつむくもの
表現は様々だったが
…とにかく観念したようだった。
- 199 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:15:28.30 ID:MdbSoFreO
- 逃げられない様に少女達に固定魔法を掛けた後
アリアはしゃがみ、地面に伏していたノアーを抱き抱えた。
「この娘、頑張り過ぎちゃうところあるのよね。」
優しく、いとおしそうに抱き締めた。
「ノアーは…」
「大丈夫よ。大きな魔法を使ったからエネルギーが切れちゃっただけ。
一日経てば目を覚ますし、三日もすれば魔力も回復するわ。」
「そうか……良かった。」
アリアは優しくノアーの顔を撫でた後
ナイトの方に向き直した。
「ありがとう。」
「………えっ」
- 201 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:20:28.28 ID:MdbSoFreO
- 「とにかくありがとう。
キャストタイムの間、守ってくれてたんでしょ?」
人に礼を言われるなんて何年振りだろう。
少し、照れ臭くなった。
「そんなことより、まだ建物の中にはグレムが残っているだろうし、助けにいかなきゃな。
アリア、ノアーを…」
「その必要はないわ。もうすぐ、来る頃だから。」
その直後、馬の鳴き声と、足音、男達の雄叫びが聞こえてきた。
「政府直属の騎士隊、天空騎士隊が参上つかまつったぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」
「来たみたいね。良かったわ。政府直属の部隊が駐留しててくれて。」
「王国政府直属」とあらば確実にグレムは殲滅されることであろう。
しかしよりによって駐留していたのが「天空騎士隊」とは。
ナイトは聞き覚えのあるその名前に震え、頭を抱えた。
- 202 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:22:39.14 ID:MdbSoFreO
- 「なに震えてるのよ?もう安心でしょ?」
グレムに関しては安心でも
その他の面に関しては不安要素たっぷりなのである。
…そうか
いきなり俺の部屋に来たのも…
ああ、女宿で童貞を卒業出来なかったのも…
ナイトの思考を遮るように一段とデカく、響く声が村中を包み込んだ。
「隊長、グラニウス・カリイ・ジ・シンドリア、いざ参ったあぁぁあぁぁぁぁ!!」
その声をきっかけに
騎士達は一斉に走っていく。
声の主は…ナイトの父親、グラニウスの声だった。
- 220 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:43:57.57 ID:MdbSoFreO
- ちなみに尋問はノアーの体調も考慮し、彼女の家で行われることになった。
テントでグラニウスとそんな話をした後、
ノアーの目が覚めた、と言うので部屋まで様子を見に行くことにした。
ナイトはノアーの部屋のドアを叩く。
「はい」と言う返事が聞こえてきた。
パジャマ姿のノアーがベッドの背もたれに寄っ掛かりながら
ミルクを飲んでいた。
「さっき目が覚めたの。今夜までに起きれるかなーって心配してたんだけど、良かったわ。」
アリアがホッとした様な顔で言う。
一方ノアーはあまり浮かない表情だった。
- 223 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:47:30.48 ID:MdbSoFreO
- 「どうしたんだ?」
「ナイトさん逮捕、されちゃったんですよね。」
「え…いや…まぁ…」
てっきり昨日の事で…と思ったがまさか俺の事でそんな顔をしていたとは。
「………ごめんなさい」
ノアーは責任を感じていたみたいだったが、
あの時助けてくれなかったら確実に餓死していた。
従ってノアーは悪くない。
「逮捕って言ってもべつに牢屋に入れられてる訳じゃないし…」
「私ね、人を助ければそれでいいと思ってたんです。
でも、何も考えずに助ければ誰かに迷惑を掛けちゃうことも…あるんだなって。」
申し訳なさそうに言う。
- 224 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:48:57.68 ID:MdbSoFreO
- 「だ、としてもだ。他人を見捨てた方がお前も、俺も苦しんでたと思う。」
「でも…」
「でもじゃない。お前は悪くない。今回は運が悪かっただけ。それだけだ。」
「そうよー!それにナイトが居なかったら、媚薬は効いたままだったんだし。
詠唱も間に合わなかっただろうし。今頃村人全員、食べられてたわ。
だからノアー、アナタは謝るより…もっと他に言うべき言葉があるでしょ?」
アリアは微笑みながら言った。
その後、一呼吸置いて
ノアーはナイトに言った。
「…ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとう」
初めて、人と心が通いあったような気がする
そんな瞬間だった。
- 225 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:50:49.36 ID:MdbSoFreO
- 夜になった。
もうじき国王が到着する。
ナイトは手首を縛られていた。
一応国王の前では…と言うことらしい。
『とりあえず、私とノアーが何とかするからアナタはただ相槌うってればいいわ。』
と、何とも頼もしいことをアリアは言っていたが…
本当に何とかなるんだろうか。
そのうち、パッコラパッコラ
馬の蹄の音が聞こえてきた。
キイ!と止まった後
何分か経ち、ドアが開いた。
国王がやって来たようだ。
付き人か何かがミナアレイヤ王国第十九代目国王シャルル2世がどうのこうのと
グラニウスに話していたので間違いなかろう。
国王が、ナイト達の目の前に現れた。
- 227 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:51:54.35 ID:MdbSoFreO
- 「本日は遠いところを…」
「ははっ。堅苦しい挨拶はいいよ。」
と、非常に爽やかな声で受け答えをする国王・シャルル2世は
驚いたことにナイトと幾つも変わらない歳の様だった。
新国王は若い若いと聞いていたが…
しかし若い割には落ち着きもあり、国を担う者の『風格』を漂わせていた。
しかも大層な美少年。
目鼻立ちもよく、均整の取れた身体で…
こんなにも…同じくらいの歳でも自分とは違う人間がいたのか
…と何とも言えない劣等感やら絶望感やら
とにかく惨めな気持ちになってしまった。
- 228 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:53:22.16 ID:MdbSoFreO
- 「天空騎士、グラニウス。君は今回の事件について多大なる功績を残してくれました。
君達の尽力があったからこそ救えた命もありましたし
周りの村の民達も感謝している様でした。」
「そんな…勿体無いお言葉です。」
若干、グラニウスはよく分からない汗を掻いていた。
「素晴らしい父親を持って…羨ましいよ。ナイト・カリイ・ジ・シンドリア君」
シャルルはナイトに微笑みかけながらそう言った。
「僕の父親は…いきなり王座を降りたと思ったらいきなりどこかへ行ってしまった。
連絡もないから寂しくてね。一体どこにいるんだろう。」
「は…はい」
ナイトはガチガチだった。
- 230 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:55:05.21 ID:MdbSoFreO
- 「ところで君、この村に無断で侵入したらしいけど…」
来た。
アリアはナイトに目で合図した
「失礼ながら。その件に感じて我々から一言、よろしいでしょうか。」
アリアは艶っぽい敬語でシャルルに言った。
「どうぞ。」
「彼はこの村に侵入したのではありません。」
「…どう言うことかな?」
ノアーがアリアに代わって説明する。
「私とアリアの二人でお金を出し合い、彼を護衛として雇いました。」
「何で?」
「妙な一部の純潔達の動向に不安を覚えたからです。本当は騎士を雇いたかったのですが、
底辺騎士を雇う程のお金しか持ち合わせておりませんでしたので。」
ノアーとアリアの言い分は
『それだけ』ではどこか無理があった…が
実際、ノアーを正気に戻した事やナイトがグレムを止めた事を考えれば
護衛として、かなり役に立った訳であるから納得出来ない話ではない。
- 232 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:56:14.80 ID:MdbSoFreO
- 「ですから、ナイト・カリイ・ジ・シンドリア…彼を釈放して下さい。」
四人はごくりと息を飲んだ。
沈黙が続く。
それを破るようにシャルルは
笑いだした。
意外な反応に顔を見合わせる。
「君たちも良く考えたねー!」
やはり…ダメだったか。
四人は一斉に肩を落とした。
「僕はね、元々彼を罰しようなんて気はなかったんだよ。」
「………えっ?」
四人はその後、ポカンとしてしまった。
- 233 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:58:04.30 ID:MdbSoFreO
- 「むしろ何で逮捕されてるのか、不思議だったんだよ。」
「しかし、国王は『尋問』にいらっしゃると…」
確かにグラニウスはそんな内容の手紙をフクロウから受け取っていた。
「あれ?僕はただ、『彼に話をしたい』って言っただけで
尋問したいなんて言ってなかったんだけどな。」
と、シャルルは付き人をチラッと見ながら言った。
「まあいいか。手違いがあったみたいでごめんね。ナイト君。
彼の手首の縄、ほどいてやって。」
グラニウスは『悪かったな』
と自分の息子の手首を締め付けていた縄をほどき、
大きく息を吐いた。
- 235 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 18:59:21.73 ID:MdbSoFreO
- 「僕は今回の事件について、君達に謝らなきゃいけない。
もっと早く、こちらが対策をうっていれば…
時代は変わったのにいつまでも君達を縛り付けて置かなければ
こんなことにはならなかったハズだ。ここに、謝罪致します。」
シャルルは深々と頭を下げた。
「それと、君達三人にもお礼を言いたい。ありがとう。」
再度頭を下げるシャルル。
「そんな…頭をお挙げくださいまし。」
ナイトは驚いた。国王が頭を下げるなんて…。
逆に申し訳ない気がしてきた。
- 236 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:01:05.88 ID:MdbSoFreO
- そんな国王にアリアは尋ねた。
「王様、今後この村と被害を受けた娘達はどうなさるおつもりでしょうか。」
「とにかく被害者も加害者も国直轄の病院に入院して貰おうと思っている。
国が全ての治療代を負担するつもりだ。 」
「………村はどうなるんでしょうか。」
「維持自体も難しいので解体することになった。」
やはり、村は無くなり、バラバラになるしかないそうだ。
確かに残った者は少な過ぎた。
ノアーやアリアにとっての居場所がなくなる。
仕方の無いことだし、分かってはいたがやりきれない。
- 237 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:02:28.73 ID:MdbSoFreO
- 「君達は…どうしたい。」
唐突にシャルルは尋ねて来た。
「マリア・アリア、マリア・ノアーの両名の望みは…何か。」
「私達は…」
二人は顔を見合わせた後、答えた。
「これからも国の為、民の為力を使っていきとうございます。」
「…そうか。」
- 238 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:05:17.55 ID:MdbSoFreO
- 「どこか行く宛は…あるの?」
少し国王は考えた後、言った。
「………いえ。」
「じゃあ、ミナアレイヤ軍の養成学院に…入らないかい?
もちろん特待生ってことで。」
ミナアレイヤ軍養成学院とは…
選ばれた才能ある魔法使いや剣士のみが集まる
騎士学院よりも入るのが難しいと言われる
最高峰の学院なのである。
その特待と言えば…もうエリート中のエリートなのである。
「もっとたくさんの魔法が使えるようになるし、知識もつく。
この学校に入ったからと言っても別に国の為だけに働けとも言わない。
だから…どうだい?」
学校。アリアやノアーにとっては新鮮な響きだった。
確かに彼女達は強い。
強いがやはりまだ足りない部分がある。
それは『知識』であった。
しかし何となく他の純潔達に対して、自分達だけ学ぶのは…
「他の残った純潔達も希望があれば受け入れよう。
本当に君達の魔法をもっと『使い物』にしたければ学ばなきゃいけない。」
それは今回、痛感した。
- 240 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:06:08.72 ID:MdbSoFreO
- もしかしたら消去魔法以外でもどうにかなったかもしれない。
そうすればもっと別の結果を生み出せたんじゃないのか。
それなら…
「よろしく、お願いします。」
二人は決めた。
新しい土地へ行き学ぶことを。
「で、君は?」
その様子をボーッとみていたナイトにもシャルルは尋ねた。
「称号は底辺騎士…みたいだけど
騎士になりたいなら称号、あげるよ?」
「…………!」
騎士。
グレムを倒して
民を助けて王様に褒められて騎士になる。
それが現実になった訳だが
なにか…間違ってる様な気がした。
- 241 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:07:47.99 ID:MdbSoFreO
- 結局グレムを倒したのはノアーだったし
アリアが来なければ死んでたし
第一、塞き止めてたのは『剣』そのものだった。
実力もないのに『騎士』になっても仕方がない。
それに…
ナイトは昨晩の父親の言葉を思いだしていた。
『これが戦場と、騎士と言うものだ』
淡々と恐ることもなく斬っていく騎士達。
アレをみて何も思わない人間はいない。
きっと彼らも目を伏せたかったであろう。
しかし、淡々と自分の任務をこなしていた。
あれがプロと言うものだろう。
じゃあそれが自分に出来るのか、と考えたとき。
答えは…
- 242 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:08:54.51 ID:MdbSoFreO
- 「申し訳ありませんが…お断り致します。」
NOだ。
「そうか。」
一瞬、嫌な空気が漂ったが
シャルルは申し出を断られて怒るでも悲しむでもなく、笑っていた。
「そう言うと思ったよ。君は、自分を良く知ってるね。」
「………。」
- 244 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:10:14.65 ID:MdbSoFreO
- 「そういえば…底辺騎士ってことは騎士学院を中退したってことだよね?」
「……はい。」
「もう一度、学ぶ気はない?」
「……えっ?」
「養成学院に編入、する気はない?」
学院にもう一度通える。
チャンスだった。
「養成学院も卒業すれば騎士の称号が貰える。
騎士学院よりもハードだけど実力は付くと思う。」
でも、ついこの間まで引きこもっていた自分に…やれるだろうか?
グラニウスと目が合った。
…やるしかない。
- 246 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:12:21.52 ID:MdbSoFreO
- 「ただ…剣士の生徒については特待がないんだよなぁ…」
その言葉を聞いた途端グラニウスがピクッとなった。
ミナアレイヤ軍養成学院は国直轄の学院にも関わらず
授業料がバカ高いという噂だった。
息子が折角やる気を出してくれたのに
金を持っている…にしても一軍人にしか過ぎない自分に払えるのだろうか…
と不安になってしまったのだった。
「魔法使いだったらよかったんだけどなぁ…」
呟いたシャルルの顔は少しにやついていた。
- 248 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:16:20.45 ID:MdbSoFreO
- ナイトは何かを察したのかガックリしていた。
そんなナイトを見て、シャルルはさらにニヤニヤしながら
こう続けた。
「…じゃあ、そうだこうしよう。
ナイト君をマリアアリア・マリアノアー達の護衛騎士として国が雇う。
その報酬で君は学院に通うってのはどうかな。」
「えっ…」
「今まで通り、雇われ騎士をやってればいいよ。」
「それじゃあ…ナイトさんは…!」
「良かったじゃないナイトー!」
- 251 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:20:25.95 ID:ltoSNwqh0
- グラニウスは『ありがとうございます!ありがとうございます!』
と涙を流しながら何度も地面に頭を擦り付けた。
「一応、二人は国の保護下にあるから君は『軍人』って事になる。
たまにお願いを聞いてもらうことになるけど、いいかな?」
にこやかにシャルルはナイトに言った。
「…………もちろんです。」
こうして、ナイトはもう一度学校へ通う事になった。
正直、不安ではあるが自分で掴んだチャンスでもあり、
ノアー達が与えてくれたチャンスでもある。
国王は話が終わると『公務が明日もありますので』とグラニウスに言い残し、
村を後にしていった。
グラニウスは十年振りにナイトを抱き締め、「良くやったな。」と褒めてやっていた。
ナイトは「やめろよ」と言いつつも嬉しかった。
アリアは「引っ越しの支度をしなきゃ!」と張り切っていて、自分の家へ走って行った。
ノアーは、ただその様子を眺めていた。
- 253 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:22:02.43 ID:ltoSNwqh0
- 夜中。
グラニウスは隊のテントに戻り
アリアはノアーの具合が良くなった様なので自分の家で寝るようだ。
新学期に合わせるため明日には早速村を出なければならないので
今日が家で過ごす最後の日になるからだろう。
ナイトは…ノアーの部屋の隣の部屋のベッドに寝転んでいた。
身体はもの凄く疲れているのでよく寝れそうだ。
…うとうとし始めた
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた
「ナイトさん、起きてますか」
「……!」
「話、しませんか。」
「…………ああ。」
- 254 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:22:46.23 ID:ltoSNwqh0
- 意識が朦朧としていたが、ナイトは飛びあがり、ドアを開けた。
「どうしたんだよ。」
「改めてお礼に来ました。と、言う建前で話を聞いて貰いに来ました。」
「………何だよ。話って。」
「私、これで良かったんでしょうか。」
ノアーのキラキラとした大きな瞳がナイトを見上げる。
まずい。ちょっと好きになりそうだった。
「彼女達のこと、私きっと心の中でバカにしてたんだと思うんです。
もう少し彼女達が居やすい環境を作ってあげるとか…
やろうと思えば何とか出来てたんです。」
「……それは結果論だろ?」
「私は純潔として『正しいこと』以外は全部『悪』だって見なしてたんです。
だから…私にも責任はあるから…。」
ノアーは、やっぱり学院に行くのは、犯人達にも、被害を受けた純潔達に対しても
なんだか申し訳ない様な気がしていたのだ。
- 255 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:24:01.28 ID:ltoSNwqh0
- しかしナイトは何だかそれは
凄くおかしな話に思えてきた。
ノアーは自分を良く見せようとか、そう言う変な目的で言っているのではないと言うことも
本気でそう言っていると言うことも良くわかっていた。
彼女はやけに責任感が強いし
『自分より他人』というか
自分を悪者にしたがるっていうか…
そう言うところがあって
どうしても自分を責めてしまうんだろうな。
でもそんなんじゃきりがないっていうか、
全員が最善の行動をしてハッピーエンド
なんてあり得ないんだよ。
- 256 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:25:00.15 ID:ltoSNwqh0
- 「やっぱり犯人達が全面的に悪いと思うし、ノアーに責任はないよ。」
率直に、ナイトは自分が思った事を言った。
「でも…」
「彼女達はどうなるか…なんて事容易に想像できた訳だし
例えそれが女として正しかったとしてもだ。やっぱり人間としては間違ってる。」
「…………」
「辛いから自分の状況を受け入れられない。
誰も助けてくれない。だからこんな事件を起こすなんて許される訳がない。」
「だけど、ノアーが彼女達を責められない気持ちもわかる。
だからって怒りの矛先を自分に向けなくったっていいだろ?」
「…………!」
「怒るなら彼女達を怒ればいい。
それが出来ないなら…時間を掛けて許せばいい。」
「………そうですね。」
- 257 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:25:43.81 ID:ltoSNwqh0
- 反面教師的な言葉がナイトの口から次々と発せられた。
その言葉は旋回し、その後、自分の胸に突き刺さり
心臓を激しく抉った。
「それに、だ。例え君に責任があったとしても彼女達を止めたんだ。
もう、十分罪滅ぼしはしたんじゃないかなって思う。」
「そう……ですかね?」
「ああ。」
しかし、ノアーの手前こんなことを言ったが
実際ナイトも心の整理がついていなかった。
何となく、彼女達の気持ちも分かるし
それに、頑張った割には犠牲が大きすぎた。
後味の悪い事件だった故に国王から褒められても、手放しには喜べなかったし
多分、ノアーやアリアも同じ気持ちなのだと思う。
- 258 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:27:00.48 ID:ltoSNwqh0
- 「育った村が無くなるっていうのは悲しいですね」
ノアーが唐突に言った。
「…そうだな。」
「でも…本当言うと私はそんなに好きじゃなかったのかもしれません。」
「ああ。」
「でも村の人たちは、あんまり仲良くはなれなかったけど、好きでした。
だから、ちゃんと学院に行って、勉強して、薬を作って、皆を直して…
時々集まったり出来ればいいなって思います。」
ノアーはにこっと笑った。
ぎこちない笑顔だったが
物凄く可愛いかった。
「お話、聞いてくれてありがとうございました。」
ノアーは立ち上がり部屋を出ようとする。
「おやすみなさ…」
「待った!」
戻ろうとしたノアーをナイトは引き留めた。
- 259 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:27:42.12 ID:ltoSNwqh0
- あの日の夜、突っぱねてしまったことを後悔して。
素直になれなくて…
ただ、今はっきり分かった。
ずっと言えなかった一言を言おう。
「友達に、なろう」
「はい。」
ノアーはまた、ぎこちない笑顔で答えた。
…ちなみにそれは
本当はもう少し、違う言葉だったハズなのだが。
fin
- 261 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:30:13.09 ID:ltoSNwqh0
- 終わった。
こんなの書いてる暇があったら勉強しろよと。
ちなみに続編「底辺騎士と悪魔」もあったけど完結してないお・・・。
お付き合いありがとうございました。
- 265 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/11/19(木) 19:32:25.58 ID:ltoSNwqh0
- ちなみに最初の方に出てたけど
ミナアレイヤ=綾波レイ
カリイ・ジ・シンドリア=碇シンジに文字を足した。
あと国王の父親はマスター。